第70話目次第72話
温泉旅館が朝を迎えた。

旅の朝は早く眼を覚ましてしまう事が良くある。
それだけ旅館の布団の寝心地がいいというのがある。

「ふぁ〜あ……」

匠は朝早くに目を覚ました。

「あれ?いつの間に……」

匠は昨日の宴会で酒を飲み過ぎて、いつの間にか眠ってしまったらしい。



「ふぁ〜あ……」

美帆もやはり朝早くに目を覚ました。

「あれれ?いつの間に……」

美帆も昨日の宴会で酒を飲み過ぎて、いつの間にか眠ってしまったらしい。


そして匠も美帆も起きているお互いの姿を見つける。。

「あっ、美帆ちゃん……おはよう〜」
「あっ、匠さん……おはようございます〜」

「?」
「?」

「……」
「……」

「!」
「!」

「うわぁぁぁぁぁ!」
「きゃぁぁぁぁぁ!」

そりゃそうだ。

知らない間に一枚の布団に異性と一緒に寝ていたら誰だって驚くだろう。

太陽の恵み、光の恵

第15部 新学年編 その1

Written by B
「な、な、な、なんで美帆ちゃんが……」
「ど、ど、ど、どうして匠さんが……」

布団から起きあがり、お互いを見てびっくりしている匠と美帆。

「いや、俺はいつの間にか寝て、気が付いたらここに……」
「わ、私も昨日いつの間にか寝ていて気が付いたらここに……」

開いた口がふさがらないという状態の二人。

「美帆ちゃんが、隣でぐっすりで、起きててそのあの……」
「匠さんが、起きたら隣で、寝ていて起きてて……」

かなり動揺しているのか、言葉が支離滅裂になっている。



がらがらっ



部屋の扉が開く。

「うわぁ!」
「きゃっ!」

突然の物音におどろく二人。

「あら?二人ともお目覚めのようね」
「あっ、水無月さん……」
「あっ、水無月さんですか……」

扉から現れたのは琴子だった。
起きて間もないのかまだ浴衣姿のままだ。

「一枚の布団に一緒とは、とても仲がよろしいようね」
「いや、あの、その、これは……」
「そ、それは、よ、妖精さんかも……」

琴子の鋭い一言に再び動揺する匠と美帆



「うふふふふ!」

二人が動揺するのをみて琴子が笑い出した。

「ど、どうしたの?」
「な、なにがおかしいのですか?」

匠と美帆にとっては何がなんだかわからない。
不思議そうに二人を見つめている。

「バカねぇ、犯人は妖精さんでも何でもないのよ」
「えっ?」
「犯人はあそこでぐっすり眠ってるわ」
「えっ?」

琴子が指差した先には一枚の布団。
そこで今でもぐっすり眠っている二人。

「犯人はあの馬鹿夫婦よ」

そう、公二と光のご両人である。

「あの夫婦が寝ているお二人さんを布団に運んだのよ」



話は昨日の宴会の後にまでさかのぼる。

酒もほとんどなくなり、琴子達も酔いも醒めてきていた。

「しかし、酔いが醒めたあとってむなしいわね……」
「俺もそう思う……」
「自分の酔っているときの行動を知るっていやだよねぇ……」

琴子、純一郎、真帆の3人は飲み散らかされたテーブルを前に意気消沈していた。

「穂刈君は酔ってるあいだずっと腕立て、腹筋、背筋ばっかりやってたね」
「ステージでずっと美空ひばりメドレーを歌っていた水無月さんよりはマシだとおもうよ」
「なによ、ずっと美帆さんの腕にずっとしがみついてた真帆さんよりはまともだと思うわ」

お互いに酔っぱらっている時の醜態をなじり合っているが五十歩百歩と言った感じだ。




「しかしなぁ」


ドタドタドタ……


「一番ひどいのは」


ドタドタドタ……


「やっぱり」


ドタドタドタ……



「こうじちゃん、まてぇ〜」
「や〜い、おいつけるならおいついてみろ〜」
「いったなぁ〜、まてぇ〜」



3人のテーブルの周りを酔った公二と光が走り回っていた。


「あいつらまだ酔っぱらってるぞ」
「あの二人って酔っぱらうと幼児化するんだ、初めて知った」
「だいたいがあの二人、初めてのお酒なのに飲み過ぎなのよね」
「飲み方を知らないんだよね」

自分たちを棚に上げて、二人を呆れて見ている二人。



そんななかで光は公二に追いついたようだ。

「つかまえた〜」
「ああ〜、つかまっちゃった〜」
「あ〜、つかれちゃったね、こうじちゃん♪」
「そうだね、のどがカラカラだよ、ひかりちゃん♪」
「じゃあ、ひかりがのませてあげるね♪」

テーブルの前に座ってニコニコしている二人。

「なあ、もしかして……」
「また……」
「そうかもね……」

その二人をみて、何故か呆れた表情を見せる3人。



「そこにおさけがあるね」
「うん、でもちょっとつめたいかな?」
「じゃあ、ひかりがひとはだのおんどにしてあげるね♪」

そう言って光はお酒の入った徳利を持つ。
そして徳利から直接お酒を飲み込む。
そして光の顔が公二の顔に近づき……



チュッ!



「んんっ……」
「んっ……ごくごくごく……」

二人は日本酒を口移しで飲みはじめていた。

「……」
「これで何度目なの?」
「もう10回は口移しやってるんじゃないの?」
「今でも酔っぱらうわけね……」

ここまでラブラブだと放っておくしか方法は無かった。



「しかし、この二人は楽よねぇ〜」
「寝たもん勝ちかもしれないな」
「しかしぐっすりと寝ているわね」

3人は宴会場の隅で寝ている二人を見る。

「ぐわぁ〜……」
「すー……すー……」

匠と美帆である。
二人はさんざ酔っぱらった後、いつの間にか寝てしまっていたのだ。

「しかし、どうする?そろそろ寝る時間だから部屋に移動しないと」
「でもぐっすり眠ってるからねぇ」
「あの二人もなんとかしないと……お〜い、光!そろそろ寝るわよ!」

とりあえず琴子はまだ走り回っている公二と光を呼ぶことにする。



「は〜い!こうじちゃん、もうおねんねのじかんだって!」
「じゃあ、みんなといっしょにいこうね♪」
「うん!」

二人は琴子達のところに戻ってきた。
そして寝ている匠と美帆を見つける。

「あれ?ねているね?」
「そうだね、おふとんにねないとカゼひいちゃうね」
「じゃあ、いっしょのおふとんにねかせてあげようね♪」
「そうだね、ぼくたちといっしょだね♪」
「うん♪」

そういうと公二は匠を、光は美帆を抱え上げて、宴会場から出て行ってしまった。

「なんだあいつら?」
「わかんないわよ」
「でも、さっきの二人の表情、なんか悪戯っ子の表情だったよ」
「なにか企んでるのか?」
「しらないわ」

残された3人はそれぞれ自分の部屋に戻って寝てしまった。
で、その結果が今朝の状況というわけである。



「公二と光ちゃんが……」
「へぇ〜……」

琴子から簡単な事情を聞いた二人はそれなりに事情を把握して少し納得の表情を浮かべている。

その琴子だが、なにか言いたそうな顔をしている。

「あれ?」
「どうしたんですか?水無月さん」

琴子は何も気づいていない二人を呆れていた。


「あなた達……浴衣着なさいよ」


「えっ?」
「えっ?」


匠と美帆は下を向き自分の格好を見る。

よく見ると浴衣の帯がない。
さらに浴衣がはだけて、もはや着ているとは言えない。

自分の格好を見て顔をゆっくりとあげる。

「……」
「……」

二人は硬直する。
お互いに異性の下着姿が二人の脳を直撃する。
二人のあられもない姿に視線をはずせなくなってしまっている。

そして数秒後、やっと我に返る。

「うわぁぁぁぁぁぁ!」
「きゃぁぁぁぁぁぁ!」



ドタドタドタドタ……



二人は思わず浴衣もまともに着ないまま部屋を飛び出して自分の部屋に戻ってしまった。



バタン!



匠は男子用の部屋に飛び込んできた。

「おお、匠。おはよう」

そこには純一郎が私服に着替え終わっていた。

「ああ、純……おはよう……」

戻ってきた匠は正座の格好で顔を真っ赤にして息をハアハアさせていた。
なにか興奮冷めあらぬ様子だった。

「どうした?」
「……白かった……」
「はぁ?」
「美帆ちゃんの肌……雪のようで……綺麗だった……」
「……」

匠はしばらくぼうっ〜と遠くを見ていた。



バタン!



美帆も女子用の部屋に飛び込んできた。

「あっ、姉さんおはよう」

そこでは真帆が私服に着替えている途中だった。

「あっ、真帆、おはよう……」

戻ってきた美帆は顔も真っ赤にしてぼぅ〜っと外を見ていた。
なにか興奮が冷めない様子。

「姉さんどうしたの?」
「……すごかった……」
「へっ?」
「匠さん……筋肉質で、たくましくて……すごかった……」
「……」

美帆もしばらくはぼぅ〜としていた。



そして公二と光の部屋

まだ公二と光は布団でぐっすり眠っている。
その布団を見下ろすように琴子が立っている。

「まったく、帯を外して寝かせるなんて、ひどい悪戯を考えるわよね」
「光達の子供の頃って、そんなに悪戯っ子だったのかしら?」
「まあ、いいわ、しかしねぇ……」

そう言いながら琴子は二人が寝ている掛け布団をまくし上げる。

「まさか外した帯をこんな使い方をするとはわね……」

二人の格好とは、
浴衣姿で抱き合った状態なのはいつもと同じ。
ただ、二人の体を2本の帯でがっちりと縛ってあった。

よく耳を澄ますと二人の寝言が聞こえてくる。

「もう離さないで……」
「ずっと離さないよ……」

琴子はその寝言をじっくりと聞いていた。



その琴子の頬にはいつの間にか一筋の光る線が見えていた。

「あなたたち……幸せすぎるわよ……」

琴子のつぶやきは幸せそうな二人には聞こえるはずもなかった。



高校2年。
本当に自由に過ごすことができる1年間。

いったい彼らにはどんな1年間が待っているのだろうか。
それは誰にもわからない。

しかし今日の出来事からみて平穏な1年でないことは間違いないだろう。
To be continued
後書き 兼 言い訳
2年生編いよいよスタートです。

今までとは展開ががらっと変わるはずです。
一番違うのは、部ごとで話が完結しません。気長に話を見て下さい。
いくつもの話が同時並行の予定ですので。

で、最初は温泉旅館のお話。
なにやら最初から異様な展開に(汗

まあ今回はあまりいろいろと書きません。

次回は新学年になった彼らの姿を追います。
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