第71話目次第73話
「はぁ、はぁ、はぁ……」
「はぁ、はぁ、はぁ……」

朝日がまだ完全に現れていない早朝。
公二と光が二人で汗を流していた。


「はぁ、はぁ……」
「はぁ、はぁ……」

公二と光は息を合わせ一生懸命に体を動かす。
顔を流れる汗が朝日に照らされてきらりと輝く。


「……もう……だめ……」
「……もうすぐだから……一緒に最後まで……」
「うん……一緒に最後まで……いこうね……」

二人は何も考えず、二人のゴールに向かって一心不乱に体を動かす。
リズミカルに、全身を使って、愛する人の動きにあわせて。


「はぁぁぁ!!」
「あぁぁぁぁ!!」


そして二人は同時にゴールにたどり着く。
ゴールにたどり着いた二人の体はふわっと動きが止まる。
二人はそのゴールの感覚をゆっくりと感じている。

「はぁ……はぁ……一緒にゴールできたね……」
「はぁ……はぁ……あなたと一緒だね……」


そして二人の体は動きを沈める。
二人は息をゆっくりと吐きながらお互いを見つめ合う。

「よかったかい、光?」
「うん、気持ちよかった……」
「そうか、それはよかった……」



「やっぱりランニングは気持ちいいね♪」

太陽の恵み、光の恵

第15部 新学年編 その2

Written by B
4月1日
公二と光はきらめき中央公園まで早朝ランニングをしていた。

二人とも運動は大好きだけど、色々あってする機会が無かった。
しかし、二年生になるのを機にランニングを始めた。
もちろん毎日というわけにはいかないが、やるときは二人一緒と決めている。


二人はお揃いのデザインのTシャツと短パンに身を包み、今はベンチで休んでいた。

「しかし、いきなりきらめき公園って無茶だったね」
「そうだよ、光が『ゆっくり歩くから先にいってよ〜』って何度言ったか」
「ごめん……」
「俺と光が一緒に走るから意味があるんだろ?」
「そうだね」
「今度は中央公園を何周かするコースに変えよう」
「そうだね、帰りも楽だしね」

何はともあれ、走り終えた二人の表情はとても爽やかだ。



ほむらはお昼前に眼を覚ました。

「なんだ、もうこんな時間か……」

ほむらはベッドからカレンダーを見つめる。

「四月一日、あたしも二年生かぁ……」

ほむらはベッドから起きあがる。
そして机に向かう。

ほむらの部屋は女の子の部屋とは思えないぐらい散らかっているが、
机の上だけは綺麗に整理されていた。

その机の中央に燦然と輝いているもの。
それは生徒会長の腕章だった。

「こいつとも2年目か……これからもよろしくな」

ほむらは腕章ににっこりと微笑んでいた。



花桜梨は中央公園をランニングしていた。

「あっ……咲いてる……」

花桜梨は一本の桜の樹の前で立ち止まった。
その樹は去年は花は咲いていなかった。
まるで自分のようだった。

しかし今は去年の私ではない。
あのころ捨ててしまったバレーも取り戻した。

この樹も去年の樹ではない。
今は綺麗な桜の花が咲いていた。
その花は他の樹以上に綺麗だった。

「私も……咲かせるように頑張らないとね……」



楓子はグラウンドで野球部の練習をしていた。

「またやっちゃった……」

楓子は今ホームベース上。
視界には半殺し状態の野球部員の山。

「どうしても、やめられない……」

ノックの時はとても気持ちいい。
しかし我に返ったとき、目の前の惨事に後悔してしまう。

本当はこんなことはしたくない。
でも、バットとボールと部員がいれば体がうずいてしまっている。

「私、一生このままなのかなぁ……」



純一郎は家の庭で剣道の素振りをしていた。

「いち、にぃ、さん、しぃ……」

子供の頃から毎日続けている習慣。
しかし最近物足りない。

それに最近剣道が壁にぶつかっている気がしている。
何かを変えないと前に進めない。

それには気づいているのだが、どうしていいのかわからない。

「俺に何が必要なんだろう……」



匠は自宅でシステム手帳の整理をしていた

「これでデータチェックは完璧……なんだけど……」

手帳には男子女子問わず、高校の生徒の秘密情報が入っている。
この情報を友達に提供して恋の手助けをしている。

この春休み中も自宅に情報提供の電話がかかってきた。
質問されれば気軽に答えるし、話のなかのちいさな情報も聞き逃さない。

しかし最近それがむなしくなってきた。

最近一人の女性の姿が頭から離れない。

人にはいろいろアドバイスしているのに、自分の事となると足がすくんでしまう。
そんな自分が情けなくなっていた。

「俺……どうなっちゃうんだろう……」



美帆は河川敷公園の花壇にやってきた。

「今年もお花が綺麗に咲いてますね、妖精さん♪」

美帆は子供の頃から河川敷公園に来ていた。
美帆が見ている花壇は昔美帆が花を植えたのがきっかけに増えたものだ。

そのときは美帆は一緒ではなかった。
一人の男の子と一緒だったのをおぼろげに憶えている。

しかしはっきりと憶えていることがある。
それはその男の子が美帆にとって白馬の王子様だということ。

しかしその王子様はあれから姿を現さない。
去年そうだと思った人には素敵なお姫様がいた。

「今年こそ王子様が現れるといいですね……」



真帆は本屋で立ち読みをしている。

「う〜ん、いろいろあってどれがいいのか迷うなぁ」

読んでいるのは、マンガでもファッション雑誌でもない。
アルバイト雑誌である。
真帆はどの雑誌がいいのか選んでいるところである。

真帆は部活に入っていない。
放課後はずっと遊んでばっかりだった。

でも今年は何かを自分を変えたい。
そう思って新学期からバイトを始めることにした。

バイトにも様々な種類があって、見ているだけでわくわくしてくる。

「私も独り立ちしなくちゃね……いろんな意味で」



美幸は部屋の掃除をしていた。

「美幸、すぐに散らかしちゃうからしっかり掃除しないと……あれ?」

掃除をしていたら、一枚のチケットを見つけた。

それは1ヶ月前にみたサーカスのチケット。
サーカスの女の子ととても仲良くなった。

しかし彼女は再び旅生活。
今はどこにいるのかわからない。

あの女の子はどんなに辛くても笑顔を絶やさなかった。
自分の夢に向かって一生懸命だった。

「美幸も負けずに頑張らないといけないな……」



茜は「響野食堂」で料理の仕込みを手伝っていた。

「昨日で送別会も終わりだね……」

昨日までは会社の送別会で夜は大忙しだった。
いろいろな送別会があった。

定年退職、寿退社、転勤、転職等々。

そこには色々な別れがあった。
茜はそれを幾つも見てきた。

これからは歓迎会で大忙しだろう。
色々な出会いがそこで待っているのだろう。

「ボクにはどんな出会いが待ってるのかなぁ……」



琴子は茶道部室で一人お茶を点てていた。

「だめだわ……」

何度やってもうまくいかない。

理由は琴子自身もわかってる、それは自分の気持ちが揺れているから。
気持ちを抑えようとお茶を点てるが抑えられない。

琴子にとってこんなことは初めてだった。

忘れたくても、忘れられない。
泣きたくても、泣いたら一生止まらなくなりそうで泣けない。
友達に頼りたくても、友達の幸せな顔を見ると惨めになってしまいそうで怖い。

「ねぇ、私どうしたらいいの……助けて……」



再びきらめき中央公園

「いててて……」
「やっぱり無茶だったんだよ」
「まさか足をつるなんて……」

光は芝生の上で足をさすっていた。

「あははは、長い距離走ってクールダウンしないからだよ」
「そうだよ、光は中学のとき陸上部だろ?」
「そうだけど、ゴールして大喜びですっかり……」
「あははは、その気持ち、あたしもわかるなぁ」

笑いながら光のつった足を伸ばしているのは、たまたま近くを走っていた女の子。
光が足をつって痛がっているのを偶然見かけたらしい。

ランニング姿がよく似合うショートカットの女の子。
バランスの良いスタイルから相当運動が得意そうなのがわかる。
実際、光の足は彼女のおかげで最小限の被害で住んでいる。

「じゃあ、これで大丈夫だね」
「すいません、ありがとうございます」
「いいっていいって、困ったときはお互い様だから」
「ありがとうございます」
「それじゃあ!」

女の子はそう言って颯爽と走り去っていった。
その走っていく姿はとても綺麗だった。



「綺麗なフォームしてたね」
「俺もそんな気がしていた」
「なんか、風の精みたいな人だったね」
「白雪さんじゃないから、妖精さんを見たことはないけど、いたらあんな感じかもね」

女の子の姿が見えなくなっても、その方向をじっと見ている二人。

「あれ?そういえば、彼女どこかで見たような……」
「私も、最近どっかでみたような……」
「あれ?先週テレビで見なかったか?」
「先週は見たのは、アニメにニュースに水泳……ああっ」


「「きらめき高校の清川 望だ!」」


お互い顔を見合わせて女の子の正体に驚く。

「中学の頃から注目されてて、今度の五輪のメダル候補!」
「テレビで見たのは日本選手権だよ。それで確か日本記録を破ったんだよ!」
「そうそう!間違いない」
「俺たち、凄い人と会ったんだよなぁ」
「ホントだね」



「でも、普通の女の子だったね」
「うん、別に成績を鼻に掛けるように見えないしね」

「もしかしたら光と似たようなものかもな」
「えっ?」

「日本記録出してもやっぱり普通の女の子、15歳で子供を産んでもやっぱり普通の女の子ってこと」

「うん、この年の女の子はどんな女の子でもやっぱり誰でも普通の女の子だよね」
「そうだな、さっきの彼女の姿をみてつくづくそう思うな」
「そうだね」



「光、そろそろ帰ろうか?」
「そうだね、早くしないと恵が起きちゃうね」
「帰りは電車にしようか?」
「うん!」

それぞれにそれぞれの想いを抱きながら彼らはもうすぐ高校2年生になる。
彼らの物語はまたそこから動き出す。
To be continued
後書き 兼 言い訳
四月の一日です。
二年生になった公二達のそれぞれを書いてみました。

まあ、ネタ振りと言えばそれまでですが、それぞれにいろいろあるわけで。

そして久々のゲストキャラ。1の清川さんです。
前々から出そう出そうとは思っていたのですが、話の流れのタイミングがつかめず、結局こんな形になりました。

次回はいよいよ皆様お待ちかねのクラス替えです。

P.S.最初の文章は定番ですが、ソレっぽく書けてるかなぁ?(汗
目次へ
第71話へ戻る  < ページ先頭に戻る  > 第73話へ進む