第72話目次第74話
入学式の前日。
ひびきの高校は1学期の始業式がある。

翌日は入学式を盛大に行うため、始業式は前日に行われる。
新学年になっての指導や教科書の購入等やることがたくさんあるからだ。

そんな日に行われる全校注目の毎年恒例の一大イベント。

それが「クラス替え」である。


クラス替えはこれからの1年間の運命を決める大切なイベントである。

そのクラスによって、この1年間がバラ色になるか真っ暗になるか決まるといっても過言ではない。


クラス替えにはみんないろいろな希望がある。


あの子と一緒になりたい、
あの友達とはまた一緒になりたい、
アイツとはもう一緒になりたくない、
頼むから同じ担任になるのだけは勘弁してくれ、
等々……


それが全員かなうとは限らない。

クラス替えの発表の掲示板の前では悲喜こもごもの光景が見られる。

吉と出るか凶と出るか。
答えは掲示板のみが知っている。



「え〜っ!どうして〜!」

どうやら彼女は「凶」らしい。

太陽の恵み、光の恵

第15部 新学年編 その3

Written by B
光は掲示板の前で愕然としていた。
ガックリと膝をつき、悲しい表情で見上げるように掲示板を見ていた。

「どうして〜!どうして公二と同じクラスじゃないの〜!」
「しょうがないだろ。一緒になるのは6分の1の確率なんだから」

愛する旦那様と一緒のクラスになれずに意気消沈している光を公二が慰める。

「でもでも、私たち夫婦でしょ?気を利かせてくれたっていいじゃない!」
「まあなぁ……」
「やだやだぁ!一緒じゃなきゃやだぁ!」
「あのなぁ……わがままは良くないよ」



「やだやだぁ……くぅ〜ん、くぅ〜ん……」

光は公二の胸に頭をつけ、鼻をこするようにして鳴いていた。
その仕草はどう見ても子犬である。

「まったく……」
「あう〜ん……」

最近、光は子犬の仕草をわざとするようになった。
光が子犬の仕草をするのは、「おもいっきり甘えたい」という光の意思表示である。

公二は光の可愛らしい仕草にドキドキしながらも光をなだめる。

「いつから、数十メートル離れるのも嫌になったんだ?ウチの子犬ちゃんは……」
「だってぇ……」

「俺たちは何百キロという距離を耐えてきただろ?大丈夫だって!」
「そうだよね……大丈夫だよね」
「そうそう」

光のわがままもどうやらあっさり収まったようだ。



それでも二人は抱き合ったままなのだが、


「お〜い、もういいかぁ〜」


「えっ!」
「えっ!」

抱き合っている二人の背後から聞き慣れた声がした。
ビックリして振り向くとそこには顔を真っ赤にして頬をぼりぼりかいているほむらがいた。

「あっ、赤井さん」
「お久しぶり!」

顔を真っ赤にしながらも普通に挨拶する二人。
二人のアツアツぶりにほむらは呆れた表情を浮かべる。

「久しぶりじゃないよ……まったく、新学年早々お熱くなってさぁ」
「ごめん……」


「だからお前達、別々のクラスになったってぇのにさぁ」


「ええっ!」
「ええっ!」

ほむらの言葉に驚く二人。



「お前達、3学期のテスト後、えらく派手にお熱くなってたそうだな」
「……」
「……」

確かに2月のテスト後は自分たちも抑えられないほどラブラブパワーを振りまいていた。
ただF組にいたほむらはA組の二人の暴走ぶりはよく見ていなかった。
ほむらはそれ自体はあまり興味がなかった。ほむらが興味があったのは先生達の反応のほうだった。


「先生達、相当参ってたぞ。あの頃の職員室は全員ぐったりしてたからな」
「……」
「……」


「『また同じ事があったら、俺は授業を放棄して爆発しそう』って戦々恐々してるぞ」
「……」
「……」


「そんな事があって、お前達は最優先で別々のクラスという事になったそうだ」
「……」
「……」


「学校全体のためだ。文句はあるか?」
「ありません……」
「同じく……」

今は自業自得という言葉が一番似合う公二と光だった。



諦めがついた公二と光はそれぞれの教室に入っていった。

すでにたくさんの人が新しい教室にいた。

どの生徒も知り合いと歓談したり、
友達と一緒のクラスになったのを喜んだり。
ほぼ初対面の人に自己紹介したり、
それぞれのスタイルでこれから1年間一緒に生活するクラスメイトと接している。



2年A組

公二は教室に入るなり、自分の机を探して早速座る。
そんな彼にクラス中の注目が浴びせられる。

公二は学校でも有名人だからだ、その理由は言わずもがな。

あまりに特別な存在なので気軽に声を掛けられない。
公二も誰かと話したいのだが、誰に声を掛けようか迷っている。
公二の机の周りには微妙な距離ができている。

そんな少し気まずい雰囲気を大きな女の声が壊してしまう。


「お〜い!ぬしり〜ん!」


(ぬ、ぬしりん?そんな呼び名初めてだぞ)

そんな変わった呼び方をする子は学校中探しても一人しかいない。


「ぬしりんは美幸と同じクラスなんだよね、ラッキ〜!」

その声は美幸だった。
美幸は気軽に公二の机の横に立つ。


「そういえば、美幸ちゃんとはあまり話をしたことがないね」
「うん!ひかりんとはよく話をするけどね」
「じゃあ、これから1年間一緒にがんばろうな」
「うん!美幸がんばるぞ〜!」

公二と美幸が楽しく話しているうちに公二の机の周りにはこれから1年間一緒に過ごす仲間が集まっていた。
早くも公二はクラスの中心になりそうである。

(美幸ちゃんとかぁ、1年間楽しくなりそうだな)
(ぬしりんって素敵だなぁ……だ、駄目だよ!ぬしりんは旦那さまなんだから!)



2年B組

「またBか……まあいいけどな……」

純一郎は1年と同じB組になった。
別に同じクラスであってもメンバーが替わっているのだが、
やっぱり去年と同じという感情を持ってしまう。

「あ、あの……」

少し物足りなさを感じていた純一郎の耳に自分をよぶ声が聞こえてくる。

「あ、佐倉さんじゃないか」
「こ、こんにちは……」

振り向くと楓子が立っていた。


「佐倉さんもB組なんだ」
「う、うん、よろしくね……」
「ああ、こちらこそよろしく」
「そ、そうだね……」

軽い挨拶をする純一郎。
それを返す楓子だが、楓子はうつむいたままもじもじとして、何か恥ずかしがっている様子だ。


「は、恥ずかしい……」


突如楓子はそう言うと教室の隅に走り去ってしまった。

「なんだろう、佐倉さんは……」

そう呆れる純一郎だが、純一郎の顔はずっと真っ赤だったのは本人は気づいているのだろうか。



2年C組

「あっ……」
「あっ……」

匠と美帆はお互いの姿をみて息を呑んだ。
二人が出会うのは、あの温泉旅行以来。
お互い制服を着ているのに、なにか服が透けて見えるようでドキドキしてしまう。


「お、おなじクラスなんだ……」
「そ、そうみたいですね……」

「よ、よ、よろしくな……」
「え、ええ……」

お互い顔を真っ赤にしながらたどたどしい挨拶を交わす。
しかしお互いの顔は恥ずかしくて直視できなかった。
すぐに二人とも自分の席に戻ってしまう。


それぞれの席にもどった二人の周りにはすぐに人が集まる。
匠の席には匠の情報通の事を知っている男子が集まっている。

「おお、坂城じゃないか!よかったら女の子の情報教えてくれよ!」
「いいけど、その代わりに女の子の情報を教えてよ」

「えっ、タダじゃないの?」
「世の中ギブアンドテイクだよ。僕もボランティアじゃないんだからな」

「まあいいさ、とっておきの情報仕入れてくるから待ってろよ」
「OK!」


一方美帆の席の周りには、美帆が占いの名人だというのを知っている女の子が集まっていた。

「白雪さん、占いがよくあたるんだって?」
「さすがに100%は無理ですけどね」

「じゃあ、今度占ってよ」
「いいですよ、今日は道具を持ってきてないので、また持ってきますね」

「やったぁ!白雪さんに一度占って欲しかったんだ」
「クラスメイトですから一度と言わず2度3度でもいいですよ」

二人とも普段通りの顔に戻っていたが、時折お互いの席を無意識にちらっと見ていた。



2年D組

茜も去年と同じD組になった。

「同じクラスでも、人が変わると雰囲気が違うんだぁ……」

茜は自分の席で少し雰囲気の変わったクラスをまじまじと眺めていた。


「茜さん」


「えっ?」
「こんにちは」

茜の席に花桜梨がやってきた。
花桜梨は茜の机に腰掛けて茜に話しかけた。

「あっ、花桜梨さんはボクと一緒なんだ」
「そうなの。私って友達少ないから、茜さんが一緒で安心してる……」
「ボクも部活入ってないから同じようなモンだよ。だからボクもほっとしてる」

「そうなんだ、じゃあこれからもよろしく」
「ボクのほうこそよろしくね」

学校にそれほど友達のいない二人は一安心と言った表情。

ところが二人は自分たちの事を男女問わずクラスメイトからなりげに注目されているのに気づいていない。

茜は可愛いルックスに一流グラビアアイドルに負けないナイスバディの持ち主。
花桜梨は高校生離れした美貌に芸能人やモデル顔負けのスタイルの持ち主。

そんな「2Dのセクシーコンビ」はそんな異名が既についているとは知らず二人で楽しく話をしていた。

「今度茜さんの家に遊びにいってもいいかしら?」
「うん、いいよ!でも……」

「お兄さんのこと?」
「そう、妹のボクがいうのもなんだけど、あんなお兄ちゃんだから……」
「別に気にしないから、それにお兄さんに会ってみたいから」

「辞めた方がいいと思うよ、後悔するから」
「うふふふ、お兄さんもかわいそうにね」

「あははは!そうだね!」
「うふふふ!」

(あれ?花桜梨さん、いつの間にお兄ちゃんのこと知ってたんだろう?)



2年E組

「あ〜あ、公二と別のクラスかぁ。でも同じクラスの人もたくさんいるからいいか」

光は相変わらず公二と別のクラスなのが不満だが、同じクラスのメンバーを見て悪くはないなと思っていた。

「お〜い、陽ノ下!」

「あれ?あ、赤井さん!」

いつの間にか光の前にはほむらが立っていた。


「いやあ、陽ノ下と一緒とは嬉しいなぁ」
「私もうれしいな♪」


「これで恵ちゃんと気軽に仲良くできるな」

「えっ?」


「陽ノ下、週に最低1回は恵ちゃん連れてきてよ、一緒に遊んでやるからさぁ」
「……」

ニコニコと話すほむらをみて光はある疑惑が浮かんできた。


光はほむらに耳打ちをする。

「赤井さん、まさか裏工作した?」
「んん?」
「裏で私と赤井さんが同じクラスになるように細工しなかった?」
「さぁねぇ♪」

(赤井さん、絶対にやってる……)

大はしゃぎのほむらを見て呆れていた。

(まあいいか!)

しかし、ほむらの良さはある程度わかっているつもりの光は一緒でもいいと思っていた。
公二と一緒の時と違って、また新しい学校生活が楽しめるかな?
光はそう考えていた。



2年F組

「私ってどうしてこうなのかしら……」

琴子は一人で校庭を眺めていた。

琴子は仲の良い仲間と誰一人一緒になれなかった。
それはそれでいいとは思ってるけど、なんとなく寂しい。

「まあ、一人でいるっていうのもいいかもね……」

琴子はクラスメイトに挨拶をしていない。
人付き合いが嫌いという訳ではない。
別に媚びを売るのが嫌いという訳でもない。
ただ、そんな楽しい気分にまだなれなかっただけ。

「今年は適当にやるとしますか……」


こう一人つぶやく琴子を見ながら、クラスメイトはこんな話をしていた。

「なあ、あそこの水無月さんって綺麗だよなぁ」
「スタイルも良さそうだけど、なんと言っても美人だよなぁ」
「でも、水無月さんみたいな人に命令されたら言うこと聞いちゃいそうだな」
「おいおい、おまえ変態かよ」
「おまえは、そうおもわないのか?」
「いや、思ってる……」


「ねぇねぇ、あそこの水無月さんって綺麗だよねぇ」
「なんかお姉さまって感じがいいよねぇ……」
「お姉さまって……あんたそんな趣味だったの?」
「違うわよ!でも水無月さんに色気たっぷりに迫られたら拒否できる?」
「ううん、拒否できない」
「なによ。同じじゃない!」
「私はあんたみたいじゃないわよ!でも『頼れるお姉さん』というのは間違いないわね」


どうやら、今年の琴子は色々な意味で適当にさせてもらえないらしい。



こうして各クラスでは新しい出会いが繰り広げられていた。

そして明日はまた新しい出会いが待っている。
ひびきの高校入学式である。
To be continued
後書き 兼 言い訳
お待ちかねのクラス替えです。
結果ですが

公二
純一郎
琴子
美幸
楓子
美帆
花桜梨
ほむら

という結果でした。

事前に頂いた予想ですが、ほとんどあってませんでした。
まあ、こんな組み合わせを今までの72話で予測できた方がすごいとおもうけど(汗

このコンビでこの1年間どうなっていくのか?
想像してみるのも面白いとおもいますよ。

次回は入学式ですが、その前に事件が起こります。
そうです、あの方が久々の登場となります。
そして、あの方があの方と……お楽しみに
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