第73話目次第75話
今日はひびきの高校入学式。
上級生は早めに登校して、新入生がやってくるのを待つ。

そういうことで、公二と光も早めに登校。
何故か恵も一緒に連れてきている。

もちろん言い出したのは、晴れて光と同じクラスになったほむら。

「入学式でのかっこいいところを恵ちゃんに見せてやるから連れて来てくれ」

ということだ。


1月半ぶりの3人での登校。

恵は学校の制服に合わせて緑色の服に黄色のスカートを着せている。

学校の近くまで仲良く歩いてきたのだが、どうも学校の様子がおかしい。
どうやら、なにか騒がしい物音がする。

「なんだ?グラウンドの方が随分騒がしいな……」
「そうだね、人も結構集まってるみたいだね」
「ちょっと俺見に行ってみるよ」
「じゃあ私も」
「光は恵と教室にでも行ってな、なにか危険な事だったら恵がアブナイから」
「う〜ん……恵がいるから仕方ないね。じゃあ教室から恵と様子をみてるね」
「すまないな、じゃあ恵を頼むよ」
「うん」

そうして、公二はグラウンドに向かって走り出した。


そのグラウンドには1機のヘリコプターが降りていた。

その下には小さな女の子とタキシード姿の男性の姿がいた。
そしてその二人は遠くまで聞こえるような声で会話をしていた。

「ずいぶんと下賤な学校なのだ」
「申し訳ございません、メイ様」
「まあよい」

太陽の恵み、光の恵

第15部 新学年編 その4

Written by B
大きな会話のあと、二人は小さな声でぼそぼそ話し合っていた。

「非常にむなしいのだ……」
「仕方ありません、お父様のいいつけですから」
「まあ、そうだが……主人殿や陽ノ下殿はいないか?」
「見たところ、まだいなそうですが」
「それなら安心なのだ……」

ヘリの周りにはたくさんの上級生がいるが、彼らにはヘリの音がうるさくて
二人の会話が聞き取れていない。

「さっ、メイ様。次のいいつけをやりましょう」
「……やるのか?」
「伊集院家の威光を示すためですから……」
「仕方ないのだ……」

そう言うと女の子は周りの上級生のところに歩き出した。



一方、公二はやっとグラウンドに到着した。

「げげっ、ヘリで登校?」

公二はグラウンドのヘリに驚いた。
そしてそのヘリについている紋章をみてさらに驚いた。
それはひびきのに住んでいる人なら大半が知っている紋章。

「あ、あれは伊集院家の紋章……まさか!」

まぎれもなく伊集院家の紋章だった。

公二は人垣をかき分けてヘリの主の姿を見ようとする。

「まさか……何で、ひびきの高校に……」




そして人垣をかき分けて公二が見たのは、

「あっ……」
「あっ……」

目の前にはひびきの高校の制服。しかしなにか違っている制服を着た伊集院メイがいた。
そしてメイの後ろには三原咲之進がいる。

(やっぱりメイさんだったのか……)
(うわ〜ん!こんなところで出会うとは、最悪なのだ……)

メイは後ろの咲之進に眼で合図をする。

(咲之進、どうしてもやらなければいけないのか?)
(仕方ありません、知らない人よりはマシです)
(お兄ちゃんにでもか?)
(我慢してください、主人さんならわかってくれます)



そしてメイは再び公二の方を向き威厳のある声で公二に話しかけた。

「き、貴様……き、聞こえんのか?」
「??……お、俺?」

どうやら自分が呼ばれているらしいということに気が付いた公二は一瞬とまどう。
メイは顔が引きつりながらも、偉そうな口調で話を続ける。

「そ、そ、そうなのだ。ち、ちょうどよい。こ、校長室に案内するのだ」
「ちょ、ちょうどって?」

結構時間が経っているはずなのにちょうどいいもあったものではないと思う公二。
メイの話はまだまだつづく。

「つ、ついでにメイの鞄を持つのだ。メイの鞄を持てるとは光栄な奴なのだ」
「なんで、俺が……??」

なにがついでなのかよくわからないが、素直に持っていいのかさっぱりわからない。
公二が考え込んでいると公二の前からなにか音がした。



カチャ



見ると咲之進が自分に銃を向けていた。
そうなると例え公二といえでも浮かんでくる台詞はただ一つ。

「も、持たせていただきます!」

こうして公二はメイの鞄を持って、メイと咲之進と一緒に校長室に向かうことになった。



メイを先頭に、後ろにメイの鞄を持った公二、そして咲之進。
3人が校舎内に入っていく様子は校舎からも見えた。

そして、

「……許せねぇ……」

一人の女の子がそうつぶやいて教室からどこかへ出て行った。



一方校舎内に入った3人。

メイは辺りを見回す。
辺りは誰もいない。
それを確認するといきなりメイは公二の持っている鞄をつかんだ。

「……持つのだ……」
「えっ?」
「いいから、メイが持つのだ!」

そしてメイは公二からメイの鞄と公二の鞄を奪い取り自分で持って歩き出した。

さっきまでは公二が従者だったのだが、今はメイが従者の格好になっている。

「……さっきはごめんなのだ……」

校長室に向いながら、ぽつりとつぶやくメイ。


「別にいいよ、なにか事情があるんだろ?」
「そうなのだ、伊集院家の威厳を見せるようにと、お父様のご命令で……」
「なるほどね……」

「メイは学校ではあんな風にしなければいけないのだ、弱みを見せてはいけないのだ」
「大財閥も大変だね……」

「だからこれからは、お兄ちゃんにもひどい言葉を言うかもしれないけど許して欲しいのだ……」
「わかったよ、光にも言っておくよ」

「……本当にごめんなのだ……」

そう言うメイの姿はさっきのわがままなお嬢様みたいな雰囲気はまったくなく普通の女の子だった。



そして、一行は校長室の前にたどり着く。
メイは公二に2つの鞄を渡す。

「すまないが、また持っていて欲しいのだ」
「わかったよ」

メイの行動が何を意味するのか理解した公二は素直に2つの鞄を受け取った。
そしてさっきの表情に変わったメイは校長室の扉をノックする。



こんこん!



「失礼するのだ」
「どうぞ」

(あれ?この声は……)

公二が気づいて行動する隙も与えず、メイは扉を開ける。



がちゃ!



「失礼するのだ……あれ?」
「校長は所用でもうしばらくかかるぞ」

校長室には校長はいなかった。
その代わりに校長の机にはメイと同じぐらいの背丈の女の子が座っていた。
彼女のメイを見つめる視線は冷たく鋭いものだった。
あまりの視線にメイもびびってしまう。

「だ、誰なのだ?」
「あたしは2年E組、正義の生徒会長、赤井ほむらだ」
「い、伊集院メイというのだ……」
「ああ、知ってるよ。あんたがどんな奴だか、去年どんなことをしでかしたのか」
「うっ……」

メイが去年しでかしたこと。
それは恵との誘拐事件以外ない。

「それがよくしゃあしゃあとここに入学してきたもんだな」
「うっ……」
「それも立派な鞄持ちを連れてなぁ!」

ほむらは声を荒げた。
ほむらは明らかに怒っていた。



ほむらは校長の机から飛び降りる。
そしてメイのところに詰め寄っていく。

メイはほむらの気迫に動くことができない。
そして扉の近くにいた、公二と咲之進も下手に動くとマズイと見たのか動かない。

「お前、主人達にどんなひどい仕打ちをしたのかわかってるのか?」
「……」

「あの事件以降、主人達がどれだけ苦労したのかわかってるのか?」
「……」

「学校では先生達にイジメられてたんだぞ、授業はいつも追い出されてな」
「……」

「おまけに退学を掛けた苦しい勝負に主人と陽ノ下で二人で挑んで、やっと勝ったんだぞ」
「……」

「苦しんで、苦しんで……必死に頑張ってやっとのことで勝ったんだ」
「……」

ほむらは既にメイの目の前に立っていた。
メイは何も言えずうつむいたままだった。



そしてほむらはメイの胸ぐらをつかんで叫んだ。

「それなのに、お前の態度は何だ?いきなり主人に鞄持たせやがって!」
「……」
「主人はお前の命の恩人じゃなかったのかよ!その恩人に命令とはいい根性してるじゃねぇか!」
「……」
「さんざ傷つけて苦労させて、それでいてあの態度かよ!」

捕まれたメイは怯えていた。
言うことが正論なので文句も言えない。


さすがに公二も止めに入った。
とはいっても後ろから声を掛けただけなのだが。

「なあ、赤井さん。それぐらいにしたら……」
「お前はこれでいいのかよ?
「えっ?」

「さんざん苦労して、再会したのに鞄持ちさせられて満足なのかよ?」
「それは……」
「あたしは絶対に許せねぇ」
「……」

「あたしはお前達が苦労しているのをずっと側で見ていたんだ……だからこいつが絶対に許せねぇ!」



「……うるさい……」

「えっ?」

「うるさい!うるさい!うるさい!うるさ〜い!」

とうとうメイがキレた。
今度はメイがほむらの胸ぐらをつかんで叫びだした。

「主人殿のことはずっと心配していたのだ」
「……」

「でも、メイが会いたくても会えなかったのだ」
「……」

「ここの高校だって、入るかどうかずっと迷ったのだ。でもやっぱり会いたくて入ったのだ」
「……」

「メイにはメイの事情があるのだ、貴様になんぞとやかく言われたくないのだ!」



メイの言葉をじっと聞いていたほむらが言葉を返す。

「事情がなんだよ。主人に鞄を持たせたのは事実じゃねぇか!」
「それが事情なのだ!」

「まさか家の威厳か?そんなもん知るか!」
「うるさい!メイはお父様に迷惑掛けたくないのだ!」

「お父様?高校生にもなってまだお父様かよ!」
「去年は迷惑かけっぱなしだったのだ。だからこれ以上迷惑掛けたくないのだ!」

「それなら主人に迷惑を掛けてもいいのかよ!」
「よくないなのだ!だからメイは悩んでいるのだ!」

「そんなもん答えは一つだろ!」
「そんなわけないのだ!」

お互いに胸ぐらをつかんで怒鳴り合いの状態になっている。



メイとほむらが言い合っているのを見ながら、公二は咲之進にこっそり聞いてみた。

「ところで三原さん」
「なんでしょう、主人さん」
「どうしてメイさんはひびきのに来たの?」
「それなんですが……少し言いにくいのですが、実は主人さんたちと関係があるんです」
「ええっ?」



つまりこういうこと。

メイは去年の恵の誘拐事件を起こした責任をとって伊集院家内で処罰されていた。
それも本来咲之進がとる責任まで自分でとってしまった。

その処罰はかなりのものだった。
公二が退院してから一切メイと逢えなかったのはメイが処罰により外出禁止だったからだ。

そして処罰のなかでも特に大きかったのが「入試特権の廃止」
本来メイは伊集院家が直営しているきらめき高校に自動的に入学できるはずだったのだが、
今回の処罰でその特権がなくなってしまい、自力で試験に合格しなければならなくなった。

ところがメイの実力だと国語社会の文系が少しだけ合格ラインに足りなかった。
結局、迷いに迷ってきらめきよりもランクが下で伊集院家に縁のあるひびきの高校を受けることになった。

咲之進の話をまとめるとこうなる。



「そうだったのか……」

「本当の事を言いますと、校庭でのメイ様が普段のメイ様なんです」
「へっ?」

「でもメイ様は主人さんの前だとしおらしくなるんです」
「はぁ……」

「今朝も『普段のメイがバレたらどうしよう』なんておろおろしてましたから」
「……」

「私から見ると、さっきのメイ様を御主人様がみたらひっくり返るぐらい驚くと思いますが」
「……」

公二はメイが自分と接していたときの顔が、実は裏の顔だったことに少し驚いていた。
しかし、どちらのメイも本当のメイのような気がして少し混乱していた。



がちゃ!



「あれ?あなた何してるの?」

そんななか、 扉からいきなり入ってきたのは光だった。
それも恵を抱きかかえながら。

「なんで光がここに?」
「いや、赤井さんを捜そうと思ったら校長室にいるって聞いて来てみたら……」
「怒鳴り声が聞こえてきたと」
「そういうことなんだけど……あれ?」

ふと気が付くと、ほむらとメイの怒鳴りあいが止まっていた。
二人の視線は一カ所に注がれていた。

「あっ……」
「恵ちゃん……」


「あっ、おねぇちゃんだ!」

恵が二人を見つけて喜ぶ。
その声を聞いた二人は一緒に恵のところに一直線に駆け寄る。

「おお、恵ちゃん!元気にしていたか?」
「恵ちゃん、久しぶりなのだ」

二人は一斉に恵ににっこり微笑みかける。



そしてふと気が付いて横を向きお互いの顔を見つめ合う。

「てめぇ、いまなんて言った?」
「貴様こそなんと言ったのだ?」

「恵ちゃんはあたしに声を掛けたのだ」
「いや、恵ちゃんはメイに声を掛けたのだ」

「恵ちゃんはお前のような恩知らずには声は掛けん!」
「恵ちゃんは貴様のような乱暴者に声は掛けないのだ!」

「恵のお姉ちゃんはあたしだ!」
「いや、恵のお姉ちゃんはメイのことなのだ!」

「あたしだ!」
「メイなのだ!」

お互いにらみ合ったまま言い争っている。

「ねぇ、なんか話が変な方向に行ってない?」
「そんな気がする……」

公二も光も呆れて何も言えない。
恵は二人が言い合っているのを面白そうに見つめている。
咲之進はただ黙って見ているだけ。



がちゃ!



「おお、遅れてすまなかった」

校長室の後ろの扉から校長が現れた。
後ろの扉は職員室に直接繋がっていて、どうやら職員会議かなにかが終わったようだ。

校長室に戻ってきた校長は見かけない顔を見つける。

「おお、君が伊集院君かね?」
「そ、そうなのだ、私が伊集院メイなのだ」

「そうかそうか、さっそくほむらと仲良くなったのか。それは結構結構」

「ちがう!」
「ちがうのだ!」

校長の勘違いに同時に声をあげるほむらとメイ。
そんな二人に思わずくすくすと声を殺して笑ってしまう公二と光と咲之進だった。

その後、メイと校長は簡単な話をしてから1年の教室に戻っていった。
ほむらは二人の話している様子を苦々しく見ながら先に校長室からでていった。



公二と光はほむらが校長室から出て行った少しあとに校長室を出た。
教室へ行く途中、公二は光にさっきまでの出来事を話した。

「そうなんだ、メイさんは……」
「メイさんも色々大変みたいなんだ」
「知らなかった……」
「俺たちの知らないところでメイさんも色々あったんだよ」
「そうだったんだね……」


「しかし、赤井さんとメイさんの関係は最悪だな」
「しかも私たちが関係しているからね……」
「それに、なんか恵の取り合いの様相もミエミエだし……」
「なんかこれから苦労しそう……」

「はぁ……」
「はぁ……」

おもわず深いためいきをついてしまう公二と光だった。



そしてしばらくしてから入学式が始まった。

入学式は変わったことはしない。
普通に歓迎の言葉を新入生に贈り、新入生はその言葉を深く胸に刻む。

新入生はこれからの高校生活にむけて決意を新たにする。
そんな重要な儀式だから、おちゃらけたものは一切無い。

だから生徒会長の挨拶もおちゃらけはない。

「おっす!アタシがここの生徒会長の赤井ほむらだ!」

「ここは本当にいいぞ〜。なんといっても自由で楽しいからな!」

「みんなも自由に楽しく悔いのない学校生活を凄そうな」

「あと、見栄はったり意地張ってもなんにもいいことはないぞ。人間素直が一番だ」

「それじゃあこれから1年間頑張れよ」

「以上!」

ほむらの挨拶はそれで終わってしまう。
会場の体育館がざわめく。
特に在校生のほうでざわめいている。
それはもちろん、あの生徒会長が短いながらもまともな挨拶をしたからだ。

ほむらはしてやったりの顔で壇上から降りていく。
もちろん、在校席に光に抱きかかえられた恵の姿を見るのは忘れてはいない。



そして最後はいよいよ校長のお話が待っている。

「新入生の諸君!入学おめでとう!」

次の瞬間在校生は一斉に耳をふさぐ。
新入生はそんな在校生の行動にはまったく気づいていない。

「ワシがこの高校の校長、爆・裂・山である!」

校長が大声で自己紹介する。
挨拶に慣れていない新入生は突然の出来事で唖然呆然としている。

一方、在校生は何事もないような態度を取る。
ただし、恵の耳をふさいで自分の耳をふさいでいなかった光だけはふらふら状態になっている。


校長はそんな会場の様子など目もくれず話を続ける。


「我が高校のモットーは『自由』!生徒の自主性を尊重し、その手助けをする事こそが使命!」
「諸君等も、勉強にスポーツに遊びに恋愛に後悔の無い高校生活を送って欲しい!」

「以上!」


去年とまったく同じ挨拶。



「……と言いたいところじゃが、今日はもう少し話がある」



今年は話に続きがあるようだ。
そのことに在校生が一斉にざわめく。

(ちょっと待てよ!和美ちゃん、今日も話は短いって言ったからあたしも話を短くしたのに!)

特に ほむらは少しだけ顔が青くなっていた。



「諸君。『自由』には『責任』が一緒についてくる、というのは知っておるかね?」
「『自由』ということは、その行動の『責任』は全て自分にあるということじゃ」
「『〜が言ったから』『みんながやってたから』とか言う言い訳は『自由』では一切通用しない」

「どんな状況でもあくまで自分で考え決断した行動なのだから、その責任は当然自分にある」
「君たちにはこの3年間で『自由』と『責任』を体感して欲しい」

「それに君たちはまだ若い。失敗しても許されるぐらい若い。だから失敗を恐れてはいけない」
「だからどんどんとチャレンジして欲しい」

「以上!」


校長の含蓄のある言葉に新入生はともかく、在校生もじっと耳を傾けていた。



こうして入学式は無事?に終わった。
明日からいよいよ本格的に新学年がスタートする。
To be continued
後書き 兼 言い訳
入学式のお話です。
しかしその前に、メイ様が久しぶりに登場しました。

メイ様に関しては素朴な疑問があると思います。

「どうしてひびきのに入学したのか?」
「どうしてほむらとあんなに仲が悪いのか?」

今回はここでの理由を挙げてみました。

ほむらとメイ様の争いですが、これからちびちびと書ければいいなと思ってます。
しかし……どうみてもメイ様のほうが分が悪すぎ(汗

次回は短いお話です、たぶん(汗
目次へ
第73話へ戻る  < ページ先頭に戻る  > 第75話へ進む