第74話目次第76話
入学式も終わり、ようやく本格的に新学年がスタートする。

クラス替えによる新しいクラスもようやくスタートする。
しかしそのスタートの前に決めなければいけない事がある。

1年間クラスを取りまとめ、全体をまとめる大切な役目。
クラスのリーダーとして常にクラスの中心にいる役目。

それがクラス委員。級長とも言う。

とても大切な仕事なのだが、なぜか人気がない。
高校生のクラスをまとめるのが大変で面倒くさいというのが理由として真っ先にあげられるだろう。
他にもクラスのリーダーになるのが恥ずかしいという人もいたりする。

何はともあれ、クラス委員がリーダーシップを発揮できないクラスは絶対に良くならない。

だからこそクラス委員の選出は大切である。

太陽の恵み、光の恵

第15部 新学年編 その5

Written by B
入学式の後、さっそく各教室でクラス委員を初めとする各委員を選ぶ会議が開かれる。

2年A組ももちろん開かれている。
まず最初に決めるのはもちろんクラス委員。
そのクラス委員がそれからの会議の議長を務めることにもなる。

クラス委員は1名もしくは男女2名と決まっている。
クラスの人数はそれぞれクラスが決める。
しかし大抵は2名になる。
それは仕事の負担を減らすためでもある。



最初だけは担任が司会をする。

「え〜、まずは男子のクラス委員を決めるが誰か立候補する人はいないか?」

「はい!俺がやります!」

立候補したのは公二。
行事には積極的にかかわる事にしていた公二としては当然のことだろう。

(さすが本物の優等生は違うなぁ……)
(妻子持ちって凄いなぁ……)
(まあ、主人に任せれば大丈夫だろう)

そんな公二に対してクラスメイトは色々な感想を持つ。
もちろん誰も異論はない。

そういうわけで、男子のクラス委員はあっさりと公二に決まった。



ここで司会が担任から公二へと変わる。

「次は女子のクラス委員ですが、だれか立候補する人はいますか?」

しかし誰も立候補はいない。
まあこれはこれでよくある光景である。

「ではクラス委員に推薦するひとはいませんか?」

これまた誰も推薦がでない。
なにか推薦するのもためらってしまっているようだ。

「まいったなぁ、これでは何も決まらないぞ……」



困っている公二に席が前の男子からツッコミが入る。

「主人、よく考えろ。お前と一緒にやりたいなんて自分からいう女子がいるか?」
「えっ?」

「おまえ妻子持ちだろ?」

「あっ!」

だれも女子の候補が出ない理由。
それは男子のクラス委員が公二になってしまったからだ。

公二は嫌われるような男ではない。
成績優秀でスポーツもそこそこできる。
顔は二枚目というわけではないが、凛々しく同年代からみたら大人の顔をしている。
普通だったらかなりモテルはずである。

ところが公二は妻子持ち。
このことは学校全体に知れ渡っている。

そんな公二と一緒にクラス委員をやりたいと言ったらどうなるか?
それは「公二と不倫したい」という意味に捉えられてもおかしくない。
そうでなくてもクラス委員になって必要以上にくっつくとそれはそれで疑われる。

クラス委員という仕事はやってみたいが、そんな無関係なことで気を遣いたくない。

そんな思いが女子全員にあるため、候補も推薦もでてこないのだ。



とにかく委員を決める必要があるので、その方法に困ってしまった公二。
前の席の人と相談をする。

「主人どうする?お前が決めないと、クラス委員が決まらないぞ」
「そうだな……じゃあ、こういうのはどう?」
「どういうこと?」
「くじ引き!女子全員に公平にくじ引きというのはどうだい?」
「おおっ、それなら恨みっこなしだな」
「当たった人には申し訳ないけど、そう言うことにしてくれないかなぁ?」

これには女子からはなにも異論がでなかった。

自分から立候補したのではなく、クラス全体から推されたという理由はいい言い訳になる。
それにくじ引きなら、例え当たってもあきらめがつく。
他人が当たっても、推薦したわけではないのでそれは自分の責任にはならない。

誰も文句のでないいい方法であった。



そもそもくじ引きというのが公平な決め方である。
誰にでも同じ当選確率で決まるのだから。


しかし、それは一般論。


実は公二の提案は現実は『不公平』な提案だったのだ。

その理由は、くじ引きの結果をみれば一目瞭然。



「うえ〜ん!当たっちゃったよ〜!」



案の定、貧乏くじを引いたのは美幸だった。

「美幸ちゃん、あみだくじでも当たるんだ……」
「最初に女子が名前書いて、次にみんなでたくさん線を引いて、最後に主人君が当たりを書いたのに……」
「それでも当たっちゃうんだ……」
「美幸ちゃん、さっきはどうして反対しなかったの?」
「だってぇ〜、こういうくじだからたぶん外れると思ったんだよ〜」

美幸がいた時点で、くじ引きという決め方は美幸になると決めたも同然になっていたのだ。



半べそ状態の美幸にクラスメイトからの優しくも冷たい言葉が浴びせられる。

「美幸ちゃん。残酷だけど、当たったからにはクラス委員お願いね」
「えっ〜〜〜〜!」
「美幸ちゃんには悪いと思うけど、これは誰かがやらないといけないのよ」
「う〜ん……」
「恩は絶対に返すから!お願い!」

女子のクラスメイトからお願いされた美幸。
本当は嫌なのだが、ここまで言われると迷ってしまう。

「美幸ちゃん、俺からも頼むよ。やってくれないかなぁ?」

公二も美幸に手を合わせて拝むようにお願いをする。
公二にまでお願いされたら、もう美幸は引くに引けなくなってしまった。

「しょうがないね〜。当たったものは仕方ないね。美幸、クラス委員をやるよ」

結局美幸はクラス委員を引き受けた。



「へぇ〜、美幸さんも災難ねぇ」
「うん、でもくじに反対しなかった美幸も悪いわけだから仕方ないよ」
「でも少し張り切ってるみたいね」
「……なったからには、頑張らないとね!」

その日の放課後。
生徒会室で、さっそくクラス委員による会議が開かれた。
1年生から3年生までのクラス委員が全員揃っての会議。
最初なので顔合わせという意味合いが非常に強い。

会議前に美幸の話を聞いているのは琴子。
琴子もクラス委員だ。

「しかし水無月さんがクラス委員とは意外だな」
「私だってそう思うわ」

「じゃあなんでなったの?」
「いきなり速攻で推薦されて、すぐに満場一致で委員にされられたのよ!」
「すご〜い!」

驚く美幸。
しかし琴子はちっとも嬉しそうではない。

「すごくないわよ!満場一致で決まったからかえって気持ち悪いわよ」
「そうか?それだけ信頼されてるならいいんじゃないの?」
「だって新しいクラスになってまだ2日目よ。信頼できるかなんてわかるわけないじゃない!」
「確かに……」



琴子の不満はまだまだ続く

「仕方ないから私が仕切ったら、誰も私の言うことに反対しないのよ?」
「えっ?」
「私が言うことにみんなが『さんせ〜!』ってすぐに追従するのよ」

「それがなんで悪いの〜?」
「私の考えが完璧なんて全然思ってないわ」
「うんうん」
「なのに、だれも反論しないから、欠点がわからないのよ」
「全員賛成っていうのもそんなにあるわけないしな」
「だから不安なのよ……私の考えが本当にいいのかわからなくて……」

琴子は本当に戸惑っているようだった。
あまりに持ち上げられているので、自分でも違和感を感じているのだろう。



「ところでクラス委員は水無月さんだけ?」
「違うわ、もう一人いるわよ」
「どこにいるの?」
「今、赤井さんに挨拶してるわよ」

よく見ると、スポーツマンタイプの男子がほむらに挨拶していた。
丁寧にお辞儀をしてから挨拶をしていた。
ほむらもニコニコしながら対応している。

「えらく礼儀正しいな……」
「しかし、普通あいさつするのかなぁ?」

その通り。
こんな高校生の会議で会長に挨拶する人は普通いない。

「あの人、変わってるのよ」
「どこが?」
「クラス替えの日もあんな風に挨拶回りしたのよ」
「確かに、それは変わってる……」

3人は琴子のクラスメイトの姿を見た後、視線を元に戻す。

「あの人、今年からここに編入したんだって」
「へぇ〜、そういえば見たことない顔だね」
「私が委員に決まった後、すぐに委員に立候補したから、それからが大変で……」
「どうして?」
「みんなはクラス委員は私だけでいいと思っていたから、顰蹙の嵐よ」
「はぁ……」
「彼が『水無月さんを助けたいと思ってるのがなぜ悪い?』って言ったからすぐに収まったけどね」

そう言う琴子の表情が何故か暗い。



「どうしたの、みなぽん?」
「いやね、彼がクラス委員になった理由がねぇ……」
「なんなの?」
「後で直接聞いたら『水無月さんと友達になりたかったから』だって……」
「すご〜い!みなぽんを気に入った男の子が現れたんだぁ〜!」

また驚く美幸。
それとは裏腹に机に肘をついて深くため息をつく琴子。

「呆れちゃうわよ……」
「いいじゃない、これを機会に恋人にでも……」


「私はそんな気分じゃないのよ!」


琴子が大声で叫ぶ。
その声で一瞬生徒会室が静まりかえる。
それに琴子が気づき、恥ずかしそうに身を小さくしてしまう。
それを見てまた何事も無かったかのようにざわめき出す。

公二と美幸は琴子の様子に驚いていた。



「み、みなぽん、どうしたの?」
「い、いやなんでもないの……」
「ごめん、冗談のつもりだったけど気を悪くさせちゃったかな……」
「ううん、私が悪いの。ごめんなさい……」

琴子は頭を下げて謝る。

「でも、水無月さんがどう思ってるか知らないけど、友達ぐらいならいいんじゃないの?」
「……」
「彼も編入したばかりだろ?ある程度友達が出来るまではいいんじゃない?」
「それもそうね……」

「みなぽんも何か変わるかもしれないよ〜?」
「そう?」
「そうだよ〜。美幸も委員になってなにか変わるかもしれないって思ってるんだ〜」
「二人の言うとおりね」

琴子はどうやら落ち着いたようだ。



「ところで2Eの委員はだれもいないようだけど?」

よく見ると2Eの生徒がだれもいない。

「さっき光から聞いたら2Eはいないって」
「いない?」
「ああ、正確に言うと赤井さんが委員を兼ねるって」

よくよくほむらの席を見たら、『生徒会長(兼2E代表)』というネームプレートが置いてある。
ちなみに『(兼2E代表)』は横にほむらが書いたと思われる紙が貼り付けてある

「でもどうして?」
「赤井さん曰く『あたしがいるのにクラスの代表をまた増やす必要はない!』って」
「確かに……」
「まあ、クラスメイトも納得したみたいだから、いいんじゃないの?」

「でもクラス委員の仕事って単純に人手が必要なのもあるって聞いたわよ?」
「そのときは光が駆り出される」
「光が?」
「赤井さん曰く『こういう仕事は部活に入ってない奴の方がいいから』ということらしい」

「つまり赤井さんの御指名?」
「そういうこと。光は喜んで引き受けたから問題はないけどね」



それからしばらくして、クラス委員会議はあっという間に終わった。
会議は自己紹介の後プリントが配られ、

「やることはそれを読めばわかる!」

というほむらの一言で会議が終わってしまったからだ。

「なんか拍子抜けしたな」
「うん。でも堅苦しいのよりはマシだよ〜」
「そうだな」

2Aの教室に戻った公二と美幸はさっきの会議を振り返っていた。

教室には公二と美幸の二人っきり。
ちなみに光は会議には出席はしておらず、すでに家に帰っている。

「まあ1年間いろいろありそうだなぁ」
「でもがんばろうね!」
「ああ、一緒にがんばろうね」
(うっ……)

公二が笑顔で美幸に答える。
しかし美幸の反応が少しおかしい。
一瞬動きが止まったように見えた。

「どうしたの?」
「い、いや何でもないよ……」

公二が聞いてみるが、美幸の返事からして別になんでもなさそうだ。

「そうか。じゃあ、俺はバイトがあるからお先に!」
「う、うん、じゃあまた明日ね〜」
「また明日!」

公二は颯爽と教室から出て行った。



「美幸、どうしちゃったんだろ……」

たった一人残された教室で美幸は呆然としていた。

美幸は自分の胸に手を当ててみる。

「まだドキドキしてる……」

美幸は胸に当てた手をじっとみつめる。

「なんで?どうしてなの?美幸わかんない……」

美幸の問いに答える人は教室には誰もいない。
美幸は戸惑いを隠しきれなかった。
To be continued
後書き 兼 言い訳
今回はいたって盛り上がりのない話でしたね(汗
まあ後々の話につながるようにはしてますけど。

クラス委員を決める話です。
結局、公二と美幸と琴子がクラス委員。ほむらが兼任。光が人手が必要なときの代理。
ということで他の連中はクラス委員とは関係ありません。

今回はそれだけです、たぶん。

次回は部活にでも焦点を当てようかと。
当然アレもありますよ。
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