第75話目次第77話
新入生が入ってくる4月。
それは部活動にとっても重要な時期である。

部活動を続けるためには新入部員の確保がなによりも重要である。
新人が必要数入らないと、通常の部活動にも支障を来す。
何よりも有望な新人を入れないと強くなれない。

中学に比べて高校の部活の数はかなり増えるので、
限られた新入生は奪い合いの状態になる。
中学から既存の部も安泰はできない。

弱肉強食、早い者勝ち。
まさにそんな言葉が似合うかもしれない。

そして今年も各部活ともあれやこれやの手段を使って、
新入生の注目を集める努力をする。

太陽の恵み、光の恵

第15部 新学年編 その6

Written by B
お昼休みの長い時間は部活勧誘のためには十分である。
1年生の教室は部活の勧誘でいっぱいになる。

さっそく一人の男子が二人の女子に声を掛けられている。
いきなり女子が目の前に現れてビックリする男子。

「ねえ、君って中学でバレー部やってたんだよね」
「は、はい……」
「高校でもバレーをやってみない?」
「で、でも。高校は大変だって聞いたから……」

女子の質問に戸惑いながらも答える男子。
その答えに笑顔で対応する女子二人。

「そんなことないわよ。一度練習を見に来てみない?」
「じゃあ、一度だけ……」
「さっそく今日来てね♪」
「は、はい……」

女子が男子を、男子が女子を勧誘するのはセオリーとも言える。
同じ部活で共同戦線を張り、お互いに協力し合うのは当然のことかもしれない。

ここでも男子バレー部と女子バレー部が協力して勧誘している。
この時期の上級生は格段に立派に見える、しかも異性となるとなおさら嫌と言いにくくなる。
しかも花桜梨のような美人に勧誘されて断るにはよほどの信念と理由がないと無理だろう。



個人個人に勧誘するだけが勧誘ではない。

「あれ?美幸ちゃん。お昼休みにその格好は?」
「あっ、ぬしりん。あのね〜、これから部活の勧誘なの〜」

2年A組の教室で、公二はお昼御飯を食べながら美幸と話をしていた。
美幸の格好はテニスウェア。
美幸のテニスウェアはお似合いで可愛らしい。

「へぇ、ポニーテイルなんだ」
「うん!テニスのときはこうしないと髪の毛がぐちゃぐちゃなんだ〜」

美幸の髪型はいつもの髪型ではなくポニーテイルにしていた。

「美幸ちゃんのその格好と髪型。似合ってて可愛いね」
「え、そ、そんな、恥ずかしいよ〜」

美幸は公二の言葉に顔を真っ赤にさせていた。

(やめてよ、ぬしりん。胸がドキドキしちゃってるよ〜)



それから急いでお昼御飯を食べ終えた美幸はおなじテニス部の女の子と生徒玄関で待ち合わせ。
彼女もテニスウェアを着ている。

「お待たせ〜!」
「どうしたの美幸ちゃん。顔真っ赤だよ」
「えっ?えっ?気のせいだよ〜!」

テニス部の同僚の言葉に必死に否定する美幸。
その様子に同僚はそれ以上は聞かなかった。

「それならいいけど。じゃあパンフレットを配るわよ!」
「おお〜っ!」



そして二人は1年生の教室に向かう。
そして開口一番。

「やっほ〜っ!みんな元気〜?」

美幸の甲高い声にクラス全体の注目を浴びる。

「ねぇ、みんなテニスに興味ない〜?」
「今からテニス部のパンフを配るからよかったら読んでよ!」

そう言うと、テニスウェアの女の子二人が教室を回ってパンフを配る。
テニスウェアというものはとても魅力的な衣装だ。
男子女子問わず注目を浴びる。

美幸のような可愛い女の子が配るパンフについつい眼を通してしまう新入生達。
新入生の読む様子からしてどうやら手応えはあったようだ。



運動系の部活に比べて文化系は部員の確保が難しい。
運動系と違ってどうも地味に見られてしまう。
最初の印象からいって不利な状況。

文化系に興味を持ってもらうにはまず実際に見てもらうしかない。

「え〜と、ここの廊下はもう全部張り終わりましたか?」
「うん、全部張ったはずだよ」
「じゃあ、次は向こうの廊下ですね」
「頑張りましょうね」
「そうですね」

演劇部は新入生用に用意した短編劇の上演の告知のポスターを1年生が使う廊下に張っていた。
もちろん張るときも、劇の衣装を着ながら張ることは忘れていない。

「あれ?水無月さん、そんな格好でどうしたんですか?」
「それは私の台詞よ。美帆さんこそその格好でどうしたのよ」

美帆がポスターを貼っているところに偶然琴子と出くわした。
ちなみに琴子は茶会で着るときの和服、美帆は劇で着る黒魔術の魔法使いの衣装。

「……どうやら同じ目的のようね……」
「……そうみたいですね……」

二人の表情は穏やかだが、内心は対抗心でメラメラしているのが他人から見てもよくわかる。
マンガだったら、背景に虎やら竜やら鷹やらのリアルな絵が描かれていることだろう。

「ちなみに劇はいつやるの?」
「明日の放課後ですけど」
「ふ〜ん、実は茶道部も明日の放課後、新入生用に茶会を開くの」

一つ一つの言葉が穏やかなように見えて、非常に刺々しい。

「……」
「……」



ドタドタドタドタ!



そして長い沈黙の後、2つの部活が一斉に動き出した。

「急いで張らないといい場所が全て埋まってしまいます!」
「二手に分かれた方がいいかもね!」

「演劇部が用意していたとは予定外だったわ」
「今はそんな事言っている暇はないわ!張れるところはとにかく張るのよ!」

勧誘ポスター張りも戦争状態だ。
バーゲンセールの比ではない。



部活にも色々あるが、ひびきのには一つだけ特殊な部活がある。
生徒会である。
生徒会の幹部は選挙で選ばれるのではなく、サークル同様に生徒会に入った人がやることになっている。
生徒会運営も生徒の自主性を尊重するということらしい。

従って、自分たちで事務員を勧誘しないと仕事に影響を与えることになる。


ほむらは同学年で風紀委員の橘 吹雪と藤沢 夏海と1年生の教室の廊下を歩いている。

「さあて、新人勧誘でもするかぁ!」
「そんなこと言ってもなにも準備してないですよ!」
「そうっす!なんにもしてないっす!」

確かに生徒会はなにも準備をしていない。
正確に言うと、生徒会長のほむらがなにもしていない、というのが正しい。

「まあまあ、勧誘なんて簡単だよ」
「どうやるんですか!
「スカウトだよ、スーカーウート!」

「スカウト?」
「まあ、こうやるんだ、見てな」

そういうとほむらは側にいた新入生の男子に声を掛ける。
見た目はいたって普通の男子だ。



ほむらはそんな男子にいきなり声をかける。

「おっす!部活は決まったか?」
「い、いや……」

「それはいかんな。部活に入らないと青春は謳歌できんぞ」
「そ、そうですか……」

「じゃあ、折角だから生徒会に入らないか?」
「せ、生徒会?」

「そうだ、生徒会も楽しいぞ。今から説明してやるから来い!」
「い、今からですか?」
「そうだ。お〜い、橘、藤沢。生徒会室に連れてって説明しておいてくれ」

ほむらは新入生の腕をがっちりつかんで逃げられないようにする。
それを見た後ろの二人はひそひそ話を始める。

「夏海、どうするのよ!」
「誰も入らないよりはマシっス!ここは勧誘するっス!」
「そうね、ここは仲間を増やすに限るわね」

話し終わった後、二人は新入生の前にニコニコしながらやってくる。

「さあ、これからお姉さんが生徒会の楽しさをた〜っぷりと教えてあげるわね!」
「生徒会はハマったら止められないっス!」
「た、助けてぇ〜……」

哀れ新入生は生徒会室に拉致されてしまった。
結局この生徒は3人の説得?により生徒会に入部したのはいうまでもない。



部活というのは全部が全部昔からあるものではない。
新しく誕生する部、長い歴史を閉じて廃止になる部。

そんななか、科学部の部室ではちょっとした騒動が起きていた。

科学部部室の前にはメイとたまたま通りかかったほむらがいた。
そのほむらはメイの説明に呆れている様子だ。

「はぁ?科学部に入部するんじゃないのかよ?」
「何度言ったらわかるのだ。入部などと勘違いするでないのだ。今からこの部は電脳部なのだ」
「だからそれがわかんねぇって言ってるんだろ!」

「実行した方が早いのだ。咲之進!用意するのだ!」
「かしこまりました」

メイに命令された咲之進はなにやら作業員に指示を出している。

「だから用意って……ああっ、なんだってぇ!」

ほむらの目の前では凄い人数が作業を開始し始めた。
次々に科学部の道具が部室から運び出され、代わりになにやら大きい段ボール箱が次々と科学部部室に運び込まれる。
箱からはなにやらコードみたいなのが次々と出されるのが部室の外からよく見える。

「てめぇ、なに考えてるんだ!」
「いいから見てるのだ」
「……」

さすがのほむらも何十人も作業しているところを邪魔することはできず、ただじっと見ているしかない。



それから30分後。
実験道具だらけだった科学部室は、その形跡がまったく残っていない。
実験道具の代わりにずらりとならんであるのは最新のコンピュータ。

「今からここは電脳部部室なのだ」

誰がどうみても科学部部室ではなく、電脳部部室である。
さすがのほむらも唖然としている。
メイは勝ち誇ったような表情を見せている。

しばらくして我に返ったほむらはメイに詰め寄る。

「て、てめぇ、和美ちゃんは認めてたのかよ!」
「別にかまわんと言っていたのだ」

この前とはうってかわって強気なメイ。

「いつ?」
「入学式の日なのだ。貴様とあった後に校長に許可をもらったのだ」
「なにぃ……」

実は入学式の日に電脳部の創部許可を校長からしっかりもらっていたのだ。

「そんな訳で、科学部の代わりに電脳部が誕生するのだ。何か問題があるか?」
「ま、まぁ……和美ちゃんが認めたのなら仕方ねぇなぁ」

校長のお墨付きとなれば、さすがのほむらも渋々認めるしかなかった。

実際のところ、科学部は実質休止状態だったので部活の変更にはなんにも問題はなかったそうだ。
部員も科学部の幽霊部員がそのまま電脳部員になったので部員の確保もなんにも問題はなかったみたいだ。



どの部活も部員確保に一所懸命だが、人気がある部活はそれほど苦労しなくてもすむ。
その代表格が野球部だ。

ある程度の有力校なら甲子園を目指すという大きな目標を抱いて入学する生徒も多い。
だからある程度の人数は常に確保できる。

それでもさらに有望な新人を確保するのには他の部と同様の努力が必要な訳なのだが。

「は〜い!入部希望者はここにクラスと名前と希望ポジションを書いて、グラウンドに行ってね!」

楓子はマネージャーとして入部希望者の対応に忙しかった。
あまりに忙しくてノックをする暇も無い。
おかげで部員も命拾いしているし、なにより地獄のノックを見て入部を止める人がでるのを防げる。
まさに一石二鳥といっても過言ではない。

「ふぅ……これで今日の入部希望者はおしまいね」

どうやら今日の新入部員の対応も終わったようだ。

「今年はたくさん入部して嬉しいな♪」

今年は去年以上に入部者がたくさんいて、マネージャーの楓子も思わず嬉しくなってしまう。



「あっ、いっけな〜い!まだやることがあったんだ!」

そう、マネージャーの楓子にはもう一つ重要な仕事があった。
楓子はグラウンドに待たせている女の子に声を掛ける。

「ごめんなさい。待たせちゃって」
「いえ、大丈夫です」

「え〜と、あなたがマネージャー希望者ね」
「はい!」

マネージャーの勧誘も楓子の大切な仕事だ。
こればかりは部員に頼れない。楓子が頑張らないといけない。
特に3年生のマネージャーがいないので、後輩の確保は至上命題だった。

しかし、運がいいことに今年はマネージャー志望の子がいた。
楓子と同じぐらいの背丈でショートカットの可愛い女の子が楓子を待っていた。

「野球部のマネージャーってずっとあこがれだったんです!」

「でもマネージャーって、イメージに比べるととても大変だよ?」
「それはマネージャーをしている従姉妹がいて、話はしっかりと聞きました!」

「結構力仕事よ?」
「大丈夫です!中学では陸上部で鍛えてましたから!」

「えっ!陸上部には入らないの?」
「私高校は絶対マネージャーって決めてました!陸上はその準備みたいなものです!」

(格好は全然違うけど、なんか私にそっくりだね……)

楓子は中学でバレー部に入っていた頃を思い出していた。
マネージャー職がなかったために入ったバレー部。
でもまだ1年生なので下積みばかり。
それでも楓子は『将来マネージャーになったときにきっと役に立つ』と自分に言い聞かせて頑張ってきた。

(それに私よりしっかりしてるみたいだから、きっと大丈夫だよね)

楓子は目の前の女の子がほほえましく思えた。

「それだけわかっていれば大丈夫ね!」
「えっ、いいんですか?」
「大歓迎だよ♪」

「本当ですか!」
「本当だよ♪」
「やった〜!」

大喜びする後輩。それを見ていた楓子も嬉しくなってしまう。

「じゃあ、これから詳しい仕事を教えるからついてきて」
「はい!先輩!」

(先輩だって……やっぱり照れちゃうな……でも頑張らないとね)

楓子は可愛い後輩を持って、先輩としての自分を再確認していた。



色々な部が様々な勧誘をしているのだが、なにも派手なだけが勧誘ではない。

剣道部は派手な勧誘をしない。
部員は出来るだけ練習に集中するように、必要最小限の事しかしていない。

ポスター貼り、中学での経験者への呼びかけ。部活見学会の開催。
それも1日だけしか行わない。


それだけでもいつもの人数が集まるのは、それだけ部活見学会での練習がしっかりしているからだろう。
小手先の手段を一切使わず、ありのままを見せる。
よほど普段の部活動がしっかりしてないと出来ないだろう。

「先輩、今年も結構人が集まりましたね」
「そうだな、穂刈。多すぎず少なすぎずちょうどいい人数だな」

「しかし、これだけの勧誘で大丈夫か不安だったのですが、びっくりしました」
「剣道部は伝統的に派手な勧誘はしないんだよ」
「そうだったんですか」

「他の部が派手に勧誘するから逆に新鮮に映るんだよ」
「なるほど」

派手に動かない分、真面目な部活というイメージを与えるようだ。
これもある意味高度な部活勧誘の作戦のといってもいいかもしれない。



それぞれがそれぞれに新しい一歩を踏み出そうとしている。
それぞれの部にそれぞれのメンバーが揃い、いよいよ新しくスタートすることになる。
To be continued
後書き 兼 言い訳
今回は部活動、特に新人勧誘について書いてみました。

部員勧誘も学校行事のようなものです。
ある程度部活動が活発な学校ならこの時期は大騒ぎだと思われます。

部活が盛んなひびきの高校も例外ではないと思います。
そういうわけでできたのがこの話。
部活については今後もちょこちょこと書ければと思ってます。

次回はたぶん短い話になると思われます。
目次へ
第75話へ戻る  < ページ先頭に戻る  > 第77話へ進む