第78話目次第80話
ひびきの中央公園。

桜が満開のなか、二人の少女が並んで歩いていた。

この春にひびきの高校に入学し、野球部のマネージャーになった牧原友梨子。
彼女の1年年上の従姉妹でひびきのから遠いもえぎの高校で野球部のマネージャーをしている牧原優紀子。

今週末、優紀子が友梨子のところに遊びにきて、今は一緒に中央公園を散歩しているところだ。

「ゆりちゃん。ここの桜ってきれいだね」
「うん、ゆっこのところの桜も綺麗だけどね」

ちなみに先週は友梨子が優紀子のところに遊びに出かけている。

「でも、あの綺麗な桜の下で結ばれたら幸せだろうなぁ……」
「あの伝説?」

「うん!
 『運命のその日、桜の舞い散る中で愛を誓い合った二人は永遠に結ばれる』
 やっぱりいいよねぇ……」

「ゆっこもその伝説にあこがれてる?」
「伝説をかなえてくれる、素敵な男の子ができればの話だけどね」

「あれ?今はいないの?」
「うふふ!ひ・み・つ!」
「ちぇ、つまんないのぉ」
「いくらゆりちゃんにでも、それだけはね♪」

二人は恋の話題で盛り上がっている。

「あのね、この前友達から聞いたんだけど、私の高校でも伝説があるんだって」
「ねぇねぇ、どんな伝説?」

「あのね、高校の中庭に鐘のある時計台があるんだけど、それにまつわる伝説で
 『卒業式の日に告白してうまれたカップルが鐘の祝福を受けると永遠に幸せになれる』
 っていう伝説があるんだって!」

「うわぁ、ロマンチックだね!」
「うん、私もあこがれちゃうなぁ……」

二人がロマンチックになっている雰囲気を一人の女の子が踏みつぶす。

「あっ!牧原さんだぁ!」
「あっ……佐倉先輩!何やってるんですか!」

二人の目の前には巨大な人形を持った楓子がいた。

太陽の恵み、光の恵

第16部 お花見大騒動編 その2

Written by B
「何って?これかわいいでしょ?」
「ど、どこがですか……」

楓子は薬局の前にあるようなカエルの巨大な人形を抱えていた。
しかし、その人形は壊れていた。
片方の耳は取れているし、片方の目はえぐり出されている。
特にお腹は誰かが蹴ったのか、ぽっかりと穴が空いている。

どうやら近くのゴミ置き場から勝手に持ってきたらしい。

「これってゴミじゃないですか?」
「ええ〜?車に轢かれたカエルみたいでかわいいでしょ?」
「それかわいいって言わない気がしますが」

友梨子は気が付くと優紀子がなにやら話したがっているのに気が付いた。
友梨子は楓子に背中を向けて優紀子に話しかける。

「ゆっこ、どうしたの?」
「あの人誰?」
「佐倉先輩は野球部の先輩マネージャーなの」
「あんなに変な人なの?」
「違うわよ!いつもはもっと静かで優しい先輩なのよ」



「ねぇ、もしかして……酔っぱらってるんじゃない?」
「えっ?」

二人は同時に楓子を見る。
よく見ると楓子の顔が紅い。
動きもよろよろしている。

「先輩?……酔ってませんか?」
「ええ〜?酔ってなんか無いよ〜」
「ねぇ、この人やっぱり酔ってるよ〜」

口調は明らかに酔っている。
優紀子は友梨子の後ろで怯えてしまっている。

「ちょっと!先輩なんでお酒飲んでるんですか?」
「いいじゃない!そんなちっぽけなこと」
「よくないですよ!」
「え〜、このカエルちゃんのどこがかわいくないのぉ?」
「話をそらさないで下さい!」

「あっ、あそこに可愛い落書きが!それじゃあねぇ♪」

楓子は勝手に後ろにある壁に向かって走っていった。
カエルはほったらかしで。



「酔っぱらいって怖いね……」
「私もお酒には気を付けよう……」

走り去る楓子を二人は呆れながら見つめていた。

「ここも結構な時間いたから、駅前でお買い物しようよ」
「うん、そうだね。じゃあ案内よろしくね♪」

友梨子と優紀子はさっきの事は忘れるかのように公園を後にした。
もちろん、楓子が捨てた壊れたカエルをゴミ置き場に戻すことは忘れてはいない。



一方、琴子達の宴会場では。

「ひどいわひどいわ!みんなでか弱い女の子をいじめるなんて!」
「あら〜?私はそんなつもりはないわよ」
「ひどいひどい!ほむら泣いちゃう!」

ほむらは両手を握ってそれを口を押さえつけている。
いつもの男っぽい口調はまったくない。
口調も弱々しい。

「あらら?いつもの強気な赤井さんはどうしたの?」
「いやだぁ!ほむらはいつもか弱いのよぉ!」
「まあ、口がお上手なこと」
「みんなでひどいわ、もうほむら泣いちゃうから!」

周りの言葉にほむらはおろおろしている。
目頭に手を当てている、どうやら本当に泣き出しそうだ。



「駄目だよ。泣いちゃあ可愛い顔が台無しだよ」
「あっ……」

こんなとき絶妙なタイミングで美幸がやってくる。
美幸はほむらの横に座り、横から肩を抱く。

「こういうときは意地っ張りなんだね」
「違う違う!ほむらそんなコじゃないもん!」
「でも、そういうほむらも素敵だよ」
「えっ……」

美幸はほむらに向かってにこっと微笑む。
その微笑みにほむらが一瞬固まる。

「さあ、勇気を出して……もっと素直になるんだ……」
「素直って……」
「心を裸にしてボクと向き合うんだ……」
「きゃぁぁぁ!」

美幸はほむらの真正面に立ち、ほむらを抱きしめようした。
ところが、ほむらはそれを逃れた。

「どうしたんだい?」
「不潔です!いきなりそんな事をするなんて……」
「女の子同士が嫌なのかい?」
「嫌よ」

美幸はほむらに近づくが、ほむらは美幸の歩調にあわせて後ろに下がる。

「しょうがないなあ……こういう女の子は……」
「?」


「押し倒すに限る♪」


「えっ?えっ?きゃぁぁぁ!」

美幸はすばやくほむらを捕まえると、そのまま押し倒してしまう。



そしてほむらの腰の上に座ってほむらが逃げられない体勢を作る。

「いやぁ!なにするの!」
「意地っ張りな女の子は強引なのが弱いんだなぁ、これが」

「いったいどうするのよ……」
「決まってるだろ?君をボクのものにするんだ♪」

「そ、それって……」
「当然さ、君みたいな女の子は落ちたら簡単におとなしくなるからね♪」

美幸はニヒルな表情を浮かべながら、自分の体を倒し両手をほむらの顔の左右に置く。
美幸とほむらは見つめ合っている。
一方ほむらは完全に怯えている。

「い、いやよ……初体験は新婚初夜って決めてるのにぃ……」
「馬鹿だなぁ、今の時代にそんなことをいう子はいないよ」
「そ、そんなことないよぉ……」

「う〜ん、でもそういう身持ちの堅い女の子を手に入れるのも悪くないなぁ」
「や、やめて……」
「では頂くとするかな♪」

美幸は右手をほむらの胸に持っていこうとしたとき、



ボコッ



美幸は後頭部に強い衝撃を受けた。

「いたっ!」
「いったい何をしているんですか?」

振り向くと美帆と真帆が仁王立ちしている。

「ボクはアバンチュールを楽しんでいるだけさ」
「えっ〜、他の女の子にも手をだしてるなんて、サイテ〜!」
「これがボクの生き方さ!」

「そんなことを言っている暇があったら飲みませんか?」
「飲むよりも目の前の美味しそうな子猫ちゃんを……いたっ!」
「浮気はいけないよ〜、さぁ!飲むわよ!」

結局美幸は二人に強引に連れ去られてしまった。

「くすん……くすん……ひどい……ほむらショック……」

残されたほむらはおろおろと泣いていた。



場所を変えてみるとメイと琴子がちょっとした口論になっていた。

「どうしてメイを叱ってくれないのだ!」
「知らないわよ!私はすぐに怒る下劣な女じゃないわよ!」

「ひどいのだ!メイは未成年で酒を飲んだのだ!なぜ叱らないのだ!」
「そんなの関係ないわよ!」

「じゃあいいのだ!メイを叱ってもらえるように頑張るのだ!」
「ちょ、ちょっと!どこに行くのよ!」

メイはトコトコとどこかに行ってしまった。



「うわぁ〜、可愛い〜」

メイが向かったのは楓子のところ。
楓子は公園の壁の落書きを見てウットリとしていた。

「いったいどうしたのだ?」
「見て見て〜!これ可愛い〜!」

楓子が指差したのは今見た落書き。
どこかの暴走族らしき人が書いたと思われる落書きだ。

「ど、どこが可愛いのだ?」
「え〜、この『俺はかっこいいだろ?』というつもりだけど、ただの馬鹿丸出しの字体が可愛いの〜」
「……」

メイは楓子の毒舌に一瞬黙ってしまう。
しかし、何かを思いついたのか、楓子に話しかける。

「これはメイのせいなのだ、だからメイを叱って欲しいのだ!」
「ええっ〜!」
「なんでもいいから叱ってほしいのだぁ!」
「なんでもいいの?」
「そんなに嫌ならこうするのだ」



ボカッ!ボカッ!ボカッ!ボカッ!



メイはいきなり楓子の頭を叩いた

「いった〜い!」
「これでメイは叱られるのだ」
「こうなったら、叱ってやるわよ!」
「やった〜!メイは叱られるのだ……」

楓子はメイの手を取って宴会場に戻ってきた。
連れられているメイはウットリとした表情を浮かべている。



「じゃあここで立っていてね♪」
「これでメイは叱られるのか?」
「うん!で、これをこうしてああして……」
「な、何をしてるのだ?」

楓子はメイを大きな桜の樹の前に立たせ、
どこからか持ってきたロープでメイを樹ごと縛り付けた。

「どうしてなのだ、メイを叱ってくれないのか?」
「えっ?叱るといえばこういうシチュエーションでしょ?」

「えっ?そうなのか?」
「そうそう!きゃぁ〜、拷問みたいでかわいい〜!」

「メイは今叱られているのか?」
「そうそう、悪いことをした罰よ!きゃぁ〜かわいい!」
「ああ……メイは叱られているのだ……」

縛られたメイをきゃあきゃあ言いながらデジカメでパシャパシャとる楓子
大樹に縛られたままさっきよりもさらにウットリとした表情を浮かべるメイ。
端から見ていれば青少年には見せられない雑誌のグラビア撮影みたいだが、
周辺はそんなことにまったく気づかない。



「きゃぁ〜!あぶないよ〜!」

ほむらは桜の樹の上を見上げておろおろしている。

「みゃ〜……」

樹の上には花桜梨が歩き回っていた。
もちろんネコの仕草で。

「やだ、やだぁ!どうしよ、どうしよ〜!」

ほむらは両手のこぶしを口に当てて右往左往している。

「樹の上って見晴らしが良くていいんだろうな……」

その隣で静かに樹に語っている匠がいた。

「ねぇねぇ、どうしてだまってるの?だってあぶないよ!」
「きっといいんだろうな……君は樹に登らないのかい?」
「いやだぁ、そんなのほむら恥ずかしくてできな〜い!」

のれんに腕押しの匠の言葉にさらにおろおろするほむら。

「ふみゃ〜……」

そんな下界のことはお構いなしに花桜梨は樹の枝の上で寝てしまう。



「お前はいったい何をやってお〜る!」

メイは楓子にほおって置かれて縛られたままだった。
そこに腕立て伏せを300回やり終えた純一郎が通りかかった。

「メイは叱られているのだ……」
「誰が叱ってるのだ?」
「そんなの誰でもいいのだ」
「そんな軟弱なことではいか〜ん!」

純一郎はメイに向かって怒鳴りだした

「貴様は精神がなっとらん!」
「メイは貴様みたいに変な精神ではないのだ」

「俺は特訓で漢の精神を磨いてお〜る!」
「メイは女だから、貴様の精神はよくわからないのだ」

「女も漢の精神は知る必要はあ〜る!」
「そんなもの脳みその無駄なのだ」

メイの返事のたびに純一郎の顔が怒りの表情が見える。

「こうなったら、徹底的に漢の精神を教えてやる!」

そういうと純一郎は「漢とは?」について蕩々と説き始めた。

「ああ……これでメイは長時間叱られるのだ……」

メイは純一郎の話などまったく聞いていなかった。
ただ、叱られている自分にウットリ酔っていた。

どうやらメイが叱られるために誘導尋問をしたらしい。



「ねぇ、やめたほうがいいよ〜」
「そうだよ〜、こうじちゃんのいうとおりだよ〜」

光と公二が楓子の腕を掴んでいる。

「え〜!だってかわいいでしょ〜?」
「どこがなの〜?」

「この人なんか『国のために頑張ります!』ってあるけど『賄賂大好き!』みたいな顔していてかわいい〜!」
「そうなの〜?」

「これなんか『平和のために!』ってあるけど『具体策は考えてない!』って顔していてかわいい〜!」
「だからやめようよ〜!」

「え〜!こんなにかわいいコレクションを持ち帰らないなんてもったいないよ〜」

楓子がしがみついて離れないのは、選挙のポスター掲示板。
どうやら持って帰るつもりらしい。
それが法律上イケナイ事かわかっているのかは知らないが、光と公二が必死に止めている。

「そんなのどうするの〜?」
「わかんな〜い!」
「じゃあやめようよ〜!」
「でも〜?う〜ん?どうしようかな〜?」

3人の押し問答はまだまだ続くらしい。


時刻はまだ午後の真っ盛り。
悪魔の競演はまだまだ続く……
To be continued
後書き 兼 言い訳
酔いどれ花見の続きです。

なんだこりゃ(汗
書いた自分が言うのもなんだけど、ひどい話だ(汗

ここでは、新酔いどれ3人の解説でも。

楓子は「かわいい魔」とでも言いましょうか。
収集壁、暴言癖、奇行癖、写真癖、いろいろのミックスですが、
どれでもなんでもかんでも「かわいい!」の一言で済ませてしまいます(汗
しかもかわいいの基準が滅茶苦茶(汗

ほむらは単純明快「普通の女の子」(笑)
1の美樹原を上回る女の子っぷりです(汗
女の子っぷりより、シラフとのギャップを楽しんで頂ければと(汗

メイは「叱られ魔」です。
単なるマ○ではありません(汗
なぜなら叱られるためなら手段を選ばないからです(汗


どさくさに紛れてゲストキャラのゆっこたん。
しかしひどい話で登場したものだ(汗

ゆっこたんはオリキャラ初のフルネームがついた従姉妹との兼ね合いでちょこちょこ出そうかと思ってます。


ところでオリキャラの牧原友梨子。
性格的にはゆっこと秋穂みのりの中間という感じでよろしいかと思います。
身長は楓子とほぼ同じ、髪の毛は光ぐらいのショートカットです。


なんと彼女、今回とても重要な事を言ってます。

第79話にして初めて伝説の鐘の話が登場しました!(爆)

メモ2長編SSなのにいいのか、こんなことで?(もう手遅れ)


あっ、茜ちんだけが登場してない(汗
次回とっておきを用意したのでそれでご勘弁を。

次回もやっぱり酔いどれです(汗
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