第80話目次第82話
大騒ぎの花見の次の週。

生徒会室の花見に参加したメンバーが集まっていた。
無理矢理参加させられたメイも一緒にいる。

招集を掛けたのは楓子。
なにか言いたいことがあるらしい。

「……で、話って何だ?」

楓子は壇上に立っている。
全員が楓子に視線が集中する。


「あのぅ、そのぅ……ごめんなさい!」


いきなり楓子が深々と頭をさげる。

「おいおい、どうしたんだよ?」

ほむらが壇上に近寄って頭をあげさせる。

「あのね、そのね……これっ!」

楓子が再び頭を下げて、両手を頭上にあげた。
両手にはデジタルカメラが握られていた。

太陽の恵み、光の恵

第16部 お花見大騒動編 その4

Written by B
「デジカメじゃねぇか。これがどうしたんだ?」
「実は先週のお花見のときに、これを持ってきたの」
「ええっ?」
「そのときは、何も撮ってないと思ったんだけど、月曜日の部活のときに……」



野球部女子用部室。
楓子と後輩の友梨子が朝練に来ていた。
笑顔の楓子に対して、友梨子はなにか複雑な表情をしている。

「あっ、牧原さん。おはよう」
「おはようございます、先輩!……ところで、土曜日ですが……」
「土曜日?」

「先輩……ひどく酔っぱらってましたね……」
「ううっ……」

友梨子の言葉に硬直してしまう楓子。

「私だって、酔っぱらいは見たことありますが、あれはひどすぎますよ……」
「うぐぅ……」

なにも反論できない楓子。

「先輩はいつもあんな感じなんですか?」
「いや、私あの日初めてのお酒だったから……」
「なぁんだ。そうだったんですか。ちょっとほっとしました」
「はぁ……」

いつもの事ではないことに安心した友梨子。
それに対して楓子は酔ったところを見られたことに少しショックを隠せない。



「ところで先輩」
「な、なに?」

「あの写真は印刷したんですか?」
「ええっ?」

「酔っぱらった先輩、デジカメで写真をバシャバシャ撮ってましたけど」
「え゛っ……」



再び生徒会室。

「……で、家に帰ってデジカメを見ていたら……」
「どうだったんだ?」



「メモリーカードいっぱいに写真が撮ってあったの……」
「「「えっ!」」」



「それも予備で用意したメモリーカードにもいっぱい……」
「「「えっ!」」」



「律儀に枚数が多く撮れるように設定してあったから、全部で300枚ぐらいかな……」
「「「えええええっ!」」」

楓子の言葉の一つ一つに驚嘆の声をあげる。



「さ、さんびゃく枚って……」
「か、かなりの数じゃない……」

「ね、ねぇ、それじゃあ……」
「ということは……」
「まさか、楓子ちゃん……」
「も、もしかして……」

全員の顔に冷や汗がタラタラと流れ始める。



「ごめんなさい……印刷しちゃったの……」

「「「うげげげぇぇぇ!」」」



驚きの声をあげ硬直してしまうメンバー。

「ちょ、ちょっと待て、じゃあ、今日あたし達を呼んだのは……」
「うわぁ……」
「う、嘘でしょ……」
「い、いやだぁ……」
「たのむ、冗談だと言ってくれぇ……」



「全部持って来ちゃった……」



「「「ひぇぇぇぇぇぇ!」」」



「私一人だけ嫌な思いをするなんて嫌だモン!」



「「「や、やめてくれ……」」」



「みんなにも嫌な思いをしてもらうんだモン」

楓子は壇上から降りて、一番大きなテーブルにたくさんの写真をばらまく。

そこには、花見での全員の暴走ぶりが綺麗な写真で残されていた。
どれもこれも酔って記憶がない間のものである。
誰が撮ったかわからないが楓子の暴走もバッチリ写っている。

「私だってあのときの事は思い出したくなかったけど、見ちゃったからには……」

「「「……」」」

「私は全部見たからね。みんなも見てくれなきゃ嫌だよ……」

楓子の表情は真剣だった。
こうなると、目の前の現実から目を背けることはできなくなっていた。



「「「……」」」

全員が震える手で目の前の写真を手に取る。

「「「……」」」

恐る恐る写真を見てみる。

「「「!!!」」」

即座に全員顔面蒼白になる。


「「「……」」」

震える手でさらに別の写真を取る。

「「「!!!」」」

またもや顔面蒼白になる。

まるで禁断症状が出たかのように次々に写真を見るメンバー。
見るたびに冷や汗がだらだらと垂れてくる。



それから1時間が経過した。

「「「……」」」

全員テーブルでぐったりとしていた。
「燃え尽きた」と言った表現が似合うかもしれないが、
実際は「魂が吸い取られた」といった表現がもっと似合うだろう。

「みっともねぇ……」
「恥ずかしい……」
「むなしい……」
「私ってこんなにひどかったの……」
「い、いやだぁ……」
「ああ、美幸って不幸……」
「妖精さ〜ん、時間をもどしてぇ〜……」
「ボク、もうだめ……」
「最悪……」
「うわぁぁぁぁぁぁ……」
「こ、こんなのはメイではないのだ……」

全員うわごとのようにつぶやいていた。



そんなメンバーを悲しそうに見つめる楓子。

「ごめんなさい……話はまだあるの……」
「「「ふぇ?」」」

楓子の言葉にもはや返事すらまともに出来ないメンバー

「実はそれ、この近くの写真屋に現像してもらったんだけど」
「「「うんうん」」」

「取りに行ったとき、写真を地面に落としちゃって」
「「「ふむふむ」」」

「後輩のマネージャーと一緒に拾ってたら」
「「「うんうん」」」

「親切なおじさんが手伝ってくれて……」
「「「ふむふむ」」」

楓子の話にただ相づちを打つしかないメンバー。
ただ首を縦に振って返事をするだけ。

はっきり言って、楓子の話が非常に重要であるか理解してないのだろう。

「で、そのおじさんっていうのが……」
「「「うんうん」」」

「儂がその親切なおじさん じゃぁ」
「「「うわぁぁ!」」」

楓子も含めて全員が驚く。
扉のほうを見ると校長が仁王立ちしていた。



全員が生徒会室の隅に逃げ固まる。
そして怯えるような目で校長を見つめる。

「いや、隣を歩いていたら、儂の話が聞こえてきてな」
「「「……」」」

「あの写真は全部拝見させてもらったぞ」
「「「!!!」」」

「いやあ、すごい酔いっぷりじゃねぇ」
「「「……」」」

このばかもぉぉぉん!
「「「ひぃぃぃぃぃ!」」」

校長の怒鳴り声に全員が怯え声をあげる。



「未成年で酒を飲むとはなんたることじゃ!」
「「「ひぃぃ!」」」

「それも公衆の面前でみっともないまねを!」
「「「ひぃぃ!」」」

「あの行為は高校生らしからぬ行為じゃぞ!」
「「「ひぃぃ!」」」

「儂が知った以上どうなるか、わかっておるな!」
「「「ひぃぃぃぃぃぃぃぃ!」」」

全員捨てられた子猫のように怯えている。



「まあ、儂も若い頃は結構飲んでいたから、君らのことはとやかく言えないがな」
「「「ほっ……」」」

「おおごとにしたら君たちがかわいそうじゃな」
「「「ほっ……」」」

すこし安心した表情をみせるメンバー


「しかし、儂も校長という立場があるのでな」
「「「!!!」」」

「ここはリーダー一人が責任を取ってもらうことで許そう」

校長は温情の採決を下してくれたようだ。


「「「……」」」
「ちょ、ちょっとみんなでなに見つめてるのよ」

全員が一斉に琴子を見つめる。

「「「……」」」
「きゃあぁぁぁぁ!」

メンバーが突然琴子に襲いかかったのだ。



結局琴子は何とか襲来から逃げ出した。

「ちょっと!なんで、襲ってくるのよ!」
「それは責任を取ってもらうからだよ」
「こういう場合は、もちろん人身提供ですよね、妖精さん♪」
「大丈夫!最初は痛いけど、終わればたいしたことはないよ!」
「ひ、光、それは言い過ぎ……」

口々に好き勝手なことを言うメンバー。


「そんなの言われなくても大丈夫よ!それに最初から責任はとるつもりよ!」

「「「えっ……」」」


琴子の発言に全員の声が止まる。



琴子は校長の前に立つ。

「校長先生」
「水無月君。君が発起人か?」
「はい。私が発起人です。他の人は私に誘われただけです」

校長と琴子の会話に全員が息を呑む。

「そうなのか?」
「はい。だから他の人には責任はありません」
「「「!!!」」」


「私が一人で責任を取ります」
「「「!!!」」」


落ち着いた表情をみせる琴子。
他の全員は驚きの表情を見せる。
一同声も出ない。

「よし、その潔さに免じて他の人はお咎めなしじゃ」
「ありがとうございます」
「「「!!!」」」

深々と頭をさげる琴子。
他のメンバーはまったく動けない。
結局、解散してからも他のメンバーはまったく声が出せなかった。



最終的に琴子に出された処罰は、
「男子女子問わず、放課後学校中のトイレ掃除1週間」
という罰だった。

これは職員会議などは通しておらず、あくまで校長が独断で裁定したもの。
掲示板に張り出すこともなく、内々の処罰になった。

学校内では
「琴子が校長に頼まれて、琴子が受けた」
ということになっている。



ところが、どこからかその事を知った2年F組の教室は大騒ぎになった。

「そんなの水無月さんがすることじゃないわよ!」
「そうだよ、水無月さんには似合わないよ!」
「水無月さんにはトイレ掃除は似合わない!」
「水無月さんはもっと清楚であって欲しいのよ!」
「水無月さんがそんな事をするなんて信じられない!」

琴子の席の周りをクラスメイトが囲む。
その言葉は琴子にとって心外なものばかりだった。

琴子に苦悩の表情が浮かぶ。


「みんな、水無月さんにいいすぎだぞ!」



一人の男子の大声が聞こえた。

それは琴子と一緒になったクラス委員、文月 誠の声だった。

「文月君……」

思わず彼の名を呼ぶ琴子。

「みんなどう思ってるかわからないけど、水無月さんがやりたいことを止める資格なんてあるのか?」
「「「……」」」

「俺も言いたいことはあるけど、水無月さんがやりたいならそれを見守ってもいいんじゃないのか?」
「「「……」」」

「わかったなら、もうすぐ授業だから、席についたついた」
「「「……」」」

結局誰も彼に反論できず、すごすごと席に戻ってしまう。



席に戻る間に彼は琴子に耳打ちする。


「水無月さんも大変だな」
「えっ?」


「もし大変なら俺も手伝うからな」
「えっ……」


彼はそうささやくと、さっさと席に戻ってしまった。

「文月君……」

琴子は彼を見ているしかなかった。



その日の放課後。
琴子は一人で学校中のトイレ掃除をやった。

若い女の子が男子トイレの掃除をする。
これほど屈辱的なものは少ない。

でも琴子は夜遅くまでかかって一人でやり遂げた。


他のメンバーにはやらせなかった。

「これは私がやりたくてやったの。あなたたちにはやらせないわよ」
「みんながやったら大事になるでしょ?それは避けたいの?」
「みんなは私の我が儘につき合ってくれただけ。なんの罪もないわ」

琴子にそこまで言われたら、メンバーは誰も手出しが出来なかった。
無理矢理手を出すと琴子に迷惑を掛けるだけだと思ったからだ。



しかし、4日目の放課後。
用具置き場前で琴子が驚く。

「ちょっと!あなたたちはやらなくていいのよ!」

花見メンバーが全員トイレ掃除をやろうとしていたのだ。

「私があれだけ言ったのに、なんでやるのよ!」

琴子が怒る。
しかし誰もそれに従うことなく、準備を始める。

準備をしながら光が口を開く。

「ごめん琴子……でも、私たちもう我慢できないの!」
「水無月さん一人だけ罪をかぶせるわけにはいかないよ……」
「えっ……」

琴子の言葉が止まる。

「あのときは水無月さんを責めたけど……半分冗談だったんだよ……」
「まさか、琴子さんが自分から名乗り出るなんて思わなかったから……」
「……」

琴子は呆然と立ちつくす。

「みんな水無月さんの言葉を守ってたけど……無理だよ……」
「自分がこんなことしていいのかなって……」
「ボク、琴子さんが一人で掃除しているの、もう見てられないよ……」
「ただ見ている自分が許せなくなって……」
「だからみんなで話し合って、水無月がどう言おうが手伝おうって決めたわけだ!」
「みんな……」

琴子の瞳は微かに潤んでいた。

「みんなことぽんの友達だから、遠慮しなくてもいいんだよ〜!」
「メイだってみんなだって恥ずかしいのだ。でも水無月殿の事を思えばなんてことないのだ」
「みんな……ありがとう……」

琴子はお礼をいうのが精一杯だった。

「私、出しゃばってたかしら……」
「そんなことないよ、琴子」
「そうそう、水無月さんのおかげで、みんなが助かったんだから」
「ありがとう……」

結局それから4日間はみんなで仲良くトイレ掃除に励むことになる。



あとでほむらが聞いた話だと、校長はこうなることを狙っていたそうだ。

「本当の仲間だったら、一人だけ罰を受けるのを黙って見ていられるわけがないじゃろ」

そう語る校長はとても笑顔だったということだそうだ。



今年の花見は色々とあったけど、みんなの友情がとても深まった楽しい花見だった。
あとで振り返ったとき、みんなそう思うに違いないだろう。
To be continued
後書き 兼 言い訳
第16部酔いどれ話はこれにておしまいですが……

……おかしい……絶対におかしい

なんで馬鹿話がこんな終わり方になってるんだぁ?

最後まで馬鹿話で終わるつもりが友情物語に(汗
自分でも不思議なぐらいです(汗

しかもフルネームオリキャラ2号の文月(ふづき)君も登場して、どうなってるんだ?(汗
彼は皆様の予測通りに琴子がらみで登場します。
どう絡むかは秘密。

えっ?真帆はどうなったかって?
真帆に関しては次部ですこし触れますので頭の片隅に入れといて下さい。

次回から第17部。
4月中旬ごろの学校の様子を中心に書こうと思ってます。
例えば、授業の様子だとかが書ければと思ってます。
あと、真帆初主演のお話とか、花桜梨の謎についての話も入れる予定です。

とりあえず、次回は部活のお話。
話の中心はたぶん皆様のご想像通りだと思います(汗
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