第82話目次第84話
「「いちに!いちに!いちに!いちに!」」

学校の周りを威勢のいい声が聞こえてくる。

「「いちに!いちに!いちに!いちに!」」

部活でランニングをしているようだ。
しかし体型からいってどうも運動系の部活とは思えない人ばかり。

「「いちに!いちに!いちに!いちに!」」

威勢のいいのは声だけで、体はフラフラで走っている。


「はぁ〜、なんでうちらがこんなことしなくてはいけないんだ?」
「うるさい!生徒会も体力がないと1年間もたないわよ!」
「どうしてだよ?」
「会長が仕事をしないからですよ!」



ベシッ!



ふらふらで悲鳴をあげるほむら。
自転車に乗りながら、竹刀を振りかざす吹雪。

どうやら生徒会のランニングだったようだ。

太陽の恵み、光の恵

第17部 春の学校編 その2

Written by B
「これから体力増強のためのランニングをするわよ!」

生徒会のランニングは吹雪が言い出したこと。
それも突然生徒会室に竹刀を持って乱入して言ったのだ。

「どうしていきなりなんだ?」
「そうですよ。私もびっくりっスよ」
「予告したら会長が逃げるでしょ!」
「納得ッス」
「……」


「とにかくつべこべ言わずに走る!」



ベシッ!



竹刀を床に叩き付けて脅す吹雪。

さすがのほむらも嫌々ながらに走ることにした。



しばらく嫌々走っていたほむら。
そんなほむらに夏海が声を掛ける。

「会長、いい加減に走らないとヤバイッス!」
「なんでだよ?」
「吹雪の表情を見て下さいよ。あれはヤバイッスよ!」
「どこが?」


「こらっ!もっとしっかり走る!」



ベシッ!



竹刀を叩き付ける吹雪。そこまでは最初と同じだったのだが。


「ああっ……いい響き……」


違うのは竹刀の音を聞いた後にうっとりとしている吹雪の姿があった。

「見て下さいよ。あれは目覚める寸前っすよ!」
「なにが?」

「だから、SですよS!」
「S?あたしの服はSサイズだけど?」

「えっ?わからないっすか?」
「ああそうだが、Sってなんだ?」

そういう話題は全く無縁のほむら。
夏海は少し驚いたが、ほむらならありえると思い、恥を忍んでストレートに言うことにした。

「だから、サドですよサド!」
「サドって……あ、あ、あの、い、い、苛めて楽しいって奴か?」
「ま、まあ、そういうことッス」

お互い顔を真っ赤にするほむらと夏海。
とにかく、話は通じたようだ。

「会長、毎日吹雪に苛められたいっスか?」
「嫌だぁ……絶対に嫌だぁ……」
「じゃあ、今日は真面目に走るッス!」
「そうするか……」

その後、ほむらは無言で真面目に走ったそうだ。
結局吹雪も禁断の世界に目覚めることはなく、普通に満足したそうだ。



「「「あ!え!い!う!え!お!あ!お!」」」
「「「か!け!き!く!け!こ!か!こ!」」」

生徒会がランニングをしているとき、屋上では演劇部が発声練習をしていた。

発声は演劇の基本。
大きな舞台では観客の隅から隅まで声が届かなければいけない。
大きく、通る声が演劇には必要である。

これは新入生も上級生も同じ。
従って、部員全員で発声練習をしていた。

(これはいつやっても苦手ですね……)

美帆は発声練習が好きではない。
発声練習は同じ言葉の繰り返しなので退屈になりかねないところもあるが、
そもそも美帆は声が大きい方ではないのが原因である。
普段大きな声を出さない美帆は、大きな声を出すのがちょっと恥ずかしいと思っているのもある。



「あれ?白雪さん、大きな声がでてるわね」

(えっ?)

突然部長から思わぬ事を言われて驚く美帆

「去年は蚊の泣くような声だったけど、今ではすっかり声がでてるわ」
「そ、そうですか?」
「そうよ、日頃の練習の成果だと思うわ」

(そうですね……練習すれば結果は出るんですね)

美帆はすっかり上機嫌で発声練習を続ける。

(私も少しずつですが自信がついてきましたね……)

入学当時は美帆の辞書には自信という言葉がなかった。
しかし、去年の冬に立ち直ってからは徐々に自分を取り戻してきた。
そして本当の自信というものも取り戻した。

今年の美帆は一段と飛躍できるかもしれない。
少なくとも、美帆の周りはそう思っているはずである。

「「「は!へ!ひ!ふ!へ!ほ!は!ほ!」」」
「「「ま!め!み!む!め!も!ま!も!」」」

その証拠に発声練習をしている美帆は自信にあふれているのが誰の目からみてもわかる。



声が響き渡る屋上とは違い、茶道部室は静かである。

「じゃあ、これから始めるわね」

これから新入部員を対象に茶会を行う。
茶会といっても、作法とか細かいことはナシ。
茶会の進め方、基本的な動作は教えているが、細かいことは今日は気にしない。

とりあえず最初は細かい作法は抜きにして、茶道に触れてみるのが今回の目的。
だから、新入部員は正座をしていない。全員楽な姿勢で座っている。

「それじゃあ、静かにしていてね」

そう言って琴子は茶筅を持つ。
そして、静かにお茶を点てる。



シャカシャカシャカシャカ……



竹の静かな音が、茶室に響く。



シャカシャカシャカシャカ……



全員静かにその音を聞く。
音を楽しむ。
日本の美には欠かせない要素だ。



しかし、ずっと静かに出来ない人もいる。
茶筅の音に混じって、こそこそと話し声が聞こえてくる。

本来なら注意するのだが、今日は細かいことは注意しないということにしている。
だから琴子も黙ってお茶を点てる。


しかし、琴子の耳にこんな会話が入ってきたのだ。
女の子同士の会話だった。

聞こえてくるのは自分の事。

「ねえねえ、水無月先輩って綺麗だよね」
「うん。それにビシッと部活をまとめてるから、信頼できるんだよね」
「クラスでも人気もあるんでしょうね」




「噂だと『2Fの女王様』って呼ばれてるみたいだよ」



ガタッ!



琴子は思わず、茶筅の持つ手に力が入って、茶筅が手からこぼれてしまった。

「こらっ!静かにしなさい!」

「「す、すいません!」」

思わず怒鳴る琴子。
それに驚き謝る1年生。

一瞬で凍り付く茶室。

「あのね、茶室では気持ちを落ち着かせて、静かに時が流れるのを感じるの。いいわね?」
「はい……」

再びお茶を点てる琴子。



しかし……



シャカジャカジャジャシャカ……



さっきとは音が違う。音も大きいしリズムも悪い。
どうやら琴子の手が安定していないようだ。

(落ち着かなきゃ、落ち着かなきゃ……)

琴子のさっきの言葉は実は自分自身に語りかけていた言葉だったのだ。
1年生の言葉に明らかに動揺していた。

結局、その日の茶会の琴子の出来は散々な結果となってしまった。
幸いだったのは、茶会の客がまだ初心者で琴子の乱れに気づいていないということだった。



「さて、今日は好きな事をするのだ。それぞれが興味があることを調べるのだ」

今年から作られた電脳部。
元々は科学部だったのだが、今年入学の伊集院メイが強引に改部したのだ。

科学部だったので、コンピュータには強い人もいるのだが、
ここの科学部は化学に重点が置かれていたので、あまりコンピュータを使っていない人も中にはいる。

そこで、メイはコンピュータに慣れることから始めた。
慣れればそこは若い理系集団。すぐに使いこなせるはず。

そもそも電脳部のやることはまだ決まっていない。
プログラムを作成することを目的にするのか。
高性能のネット環境を利用して、ネット上で活動するのか。
それとも、どこかの学校のように裏でハッキング等のアブナイ道を進むのか。

しばらくしてから、やることを決めようとメイは思っている。



ということで今日はネットでそれぞれ好きなことをしている。
ネットでのマナーとか注意とかは最初にメイが講義しているので、
トラブルに巻き込まれる心配はそんなにはないだろう。

「おっす!君たちは元気にやってるかな?」

そんな、科学部室に突然ほむらがやってきた。
メイは突然の来訪者に怒り出す。

「なんだ貴様は!なんのようなのだ?」
「ん?見回りだ見回り」
「貴様に見てもらわなくてもちゃんとしてるのだ!」
「ほぅ〜。この前のタキシードの兄ちゃんに頼らないでか?」
「うっ……」

ほむらの言葉に返す言葉がないメイ。


実はコンピュータの搬入の後、従者の三原咲之進にもソフトのインストールなどを手伝ってもらっていたのだが、
それを見ていたほむらの強烈な一言。

「ん?お前はあのタキシードの兄ちゃんがいなければ、一人で何も出来ないのか?」

確かに咲之進に手伝ってもらってばかりのメイ。
嫌いなほむらに言われてよほど悔しかったのか、それ以降咲之進には手伝ってもらっていない。


「メイは一人でもできるのだ!」
「そうかそうか、それは感心感心」
「……」

腕を組んでうんうん頷いているほむらとは対照的にメイは嫌な顔をしている。



ほむらは部室内を見回し、メイに尋ねる。

「ところで今日は何しているんだ?」
「ネットで自由に好きなことを調べてもらっているのだ」

「ほう〜『いんたぁねっと』って奴か?」
「……貴様、わざと変な発音で言っているのか?」
「よくわかったな」
「当たり前なのだ……しかし本当に知らないのか?」
「知ってるよ。最近では常識だからな、でもあたしはやったことがない」


「ほう、まあ貴様には必要ないからって……貴様!何しているのだ!」

いつの間にかほむらは部室内のパソコンの前に座っていた。

「ん?学校の備品が粗悪品ではないか確認作業だ」
「嘘つけ!ただやりたいだけではないのか?」
「う〜ん、バレちゃあ仕方がないなぁ」
「それならやめるのだ!」

ちなみに、ほむらがいじくっているパソコンはさっきまでメイが使っていたものだ。

「まあまあ、そう言わずに……」
「よくないのだ!」
「これがホームページって奴だな、ほうほう……」
「……」

勝手にいじくるほむら。
諦めて見守るメイ。

ほむらがあちこちにクリックして、画面には次々とブラウザのウィンドウが立ち上がる。



そんなほむらの動きが止まる。

「ん?なんだこれは?」

あるページを開けたとたんに音楽が流れたきた。

「ああ、たぶんこのページを開けると流れるようになっているのだ」
「へぇ〜」
「しかしピアノ曲とは珍しいのだ」


しばしパソコンから流れる音楽を聴く二人。

「ところで何でこのページを開けたのだ?」
「あたしが勝手にいじくってきたらでてきたぞ」
「たぶん検索ページをいじくってでたのだ?」
「検索って何検索してたんだ?」
「『音楽』って言葉で検索したのだ」

「お前が音楽とは似合わないな」
「うるさい!」



また音楽を聴いている二人。

「ほうほう『初めて自分の曲を公開してみました』ってか?」
「素人が作曲したとは思えないのだ」
「え〜となになに『ご意見ご感想どんどんメールください』って書いてあるな」
「どこでも書いてあるものだ」

画面をじっと見つめるほむら。
そして不意にほむらの方を向く。

「メイ、こいつにメール出せ」
「はぁ?」

「これも何かの縁だ。だして損はないだろ」
「しかし……」

「生徒会長命令だ」
「わかったのだ……」

諦めたメイはほむらからマウスをぶんどり、メールソフトを立ち上げる。



そんな訳でこのホームページ「月の雫」の管理人の「月夜見」にメールを送ることにする。

「さて、貴様は名前はどうするのだ?」
「名前?『赤井ほむら』だが?」
「違うのだ。ネットでは別の名前を名乗るのが主流なのだ」
「なんでだ?」
「ネットは全世界から見られるのだ。下手にプライベートを見せると危険なのだ」

メイは家でもインターネットをやっているので、ネットでの問題はよくわかっている。
親からもプライベートに関しては厳しくしつけられている。

「そんなにプライベートって危険なのか?」
「下手に個人情報を出すと全世界に知られてしまうのだ。怖いだろ?」
「まあ、そうだな」
「朝から晩まで誰かに行動を見られるのは嫌だろ?」
「たしかに嫌だな」

すこし顔が引きつっているほむら。
ほむらもプライベートの大切さが少しはわかったようだ。

「ここはメイの言うことを聞いた方が得なのだ」
「まあ、じゃあそうするか」
「え、えらく素直なのだ」

あっさりというほむらにおどろくメイ。

「あたしはいつも素直だ」
「……」

しかしそっけなく言うほむらにメイは閉口するばかりだった。



その後、返事のメール作りがなされてたのだが……

「メイ、『失礼な言葉』ってなんだよ?」
「どう考えてもこの感想は失礼なのだ」
「しょうがないだろ、あたしの素直な感想なんだから」
「……」

「しかし、いつもとは違う言葉遣いだな」
「文章だとこうなってしまうのだ」
「話し言葉もこう素直だといいんだがな」
「うるさい!」

言い合いが何度も何度も続いてやっと返事が作成された。



その日の夜。
とある場所のとある家。

一人の女の子が机に座ってパソコンを打っている。
画面上にはメールソフトが立ち上っていた。

「今日も感想きてないのかしら……」

彼女は「月の雫」というホームページを立ち上げたばかりだ。
ちなみにネットでは「月夜見」と名乗っている。

「あら?」

月夜見用のメールの到着を調べたら今日は1件あった。

「来た!」

ホームページを立ち上げて初めてきたメールだ。
女の子は思わず喜びの声をあげてしまう。

「初めてだから緊張する……」

どんな感想なのか。
期待と不安が混じりあったまま、到着したメールを開く。



メールにはこう書いてあった。

「月夜見様
 
 初めて「月の雫」を訪問した「木星人」と申します。
 月夜見さんの曲を聴かせてもらいました。
 とても静かな曲で良いと思いました。
 
 普通の人が作った曲とは最初気づきませんでした。
 
 これからも素晴らしい曲を楽しみにしています。
 簡単ですがこれにて失礼させていただきます。

 P.S.
  最後に私の知り合いの「ゴットリラー」の感想を書いておきます。
  彼女の言った言葉をそのまま書きます。
  失礼な言葉がありましたらごめんなさい。
  『初めて聞いたけど、静かな曲だな。
   あたしはこういう静かな曲って聞かないけど、この曲は悪くないな
   今度は元気な曲を頼むよ。それじゃあ頑張ってな』         」



「元気ね……」

メールを読み終わって、そのままそのメールをしばらく眺めていた女の子。

「私に元気をくれる人なんて……」

さっきの嬉しい表情とは一変して寂しい表情を浮かべる女の子。

「でも、折角頂いたのですから返事を書きましょう……」

女の子はメールソフトの「返信」ボタンを押し、返信メールを書き始めた。
To be continued
後書き 兼 言い訳
第17部第2話は新人指導のお話文化部編です。

文化部の場合はほむらと琴子が目立っています。
美帆ぴょんはあんまり立場がないですな(汗

そして出してしまいました……「月の雫」
わかっている人はわかっていると思いますが、最後の女の子は彼女です。
ちなみに彼女はほむらと同学年です。

しかし、メイ様ってどんなドメインネームを使うんでしょ?
ここでは「木星人」にしましたが、何かいいのがあったら教えて?
よかったらそっちに差し替える可能性大(爆)

さて、これどうしよう(汗
このまま1話限りにするか、メイほむらルートに載せるか?
まだ迷っている状態です。これから考えます。

次回は普通の授業の様子でも書こうかなと思ってます。
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