第87話目次第89話
春も盛りを過ぎて徐々に夏への準備が始まる5月の早朝。
今日はGWの初日で学校はお休み。
しかし今日も可愛い鳴き声がベッドから聞こえてくる。


「あ〜ん♪」



「もっと〜♪もっと可愛がってよ〜♪」



「ごしゅじんさま〜♪」



「あぁ……しあわせ……」



「あう〜ん♪」



「わんわん!」



(まったく……光はどんな夢を見ているんだ?)

少し早く目が覚めた公二は胸の中で光の寝顔を頭をなでながらじっと眺めていた。
光は寝言をつぶやきながらも幸せな寝顔だ。

太陽の恵み、光の恵

第18部 GW編 その1

Written by B
(本当に光の前世の前世は犬じゃないのかなぁ?)

最近公二はそんな事を思うようになった。

(じゃあ、俺の前世の前世はその犬の飼い主なのか?……まあいいや)
(これからは生まれ変わってもずっと一緒にいような、光)

公二光の頭をなでながらは心の中で光に話しかけていた。



♪♪♪♪♪♪♪

突然枕元の公二の携帯電話の着メロが鳴った。

「なんだよ……幸せなひとときを過ごしていたのに……」

公二は不満そうに手を伸ばして携帯を持つ。
そして光が目を覚まさないうちにボタンを押す。

「もしもし?」
「あっ、公二?俺だけど」
「ああ、純か」

電話の相手は純一郎だった。

「朝早いところ悪いな」
「いや、そんなことはないよ」
「すまない、朝早くから部活だから」

本当はすごく迷惑だったのだが、そんな事は絶対に言わない公二。

「実は公二に頼みがあるんだけど……」

電話の向こうの純一郎はちょっと深刻そうだ。

「どうした?」
「……」
「なあに、俺ができることなら協力するから」


「じ、実は……さ、佐倉さんとのきっかけを作って欲しいんだ……」

純一郎はたどたどしい口調だ。



「楓子ちゃんね。純の好みのタイプだって温泉で言ってたな」
「ああ、俺には姉貴がたくさんいるから、逆にああいう可愛い子に興味があるって言ったんだ」

3月の温泉旅行で純一郎が一番気になっているのは楓子だと公二達に教えてくれた。
好きかどうかはわからないが、好みのタイプかも。と言っていた。

「でもクラス替えで望み通りに同じクラスだろ?声はかけたのか?」
「ああ、でも女の子に話しかけたことがなかったから、なんか恥ずかしくて……」
「……」

純一郎は高校に入学するまではずっと赤面症だったから、女の子に話しかけるなんて事はしたことがない。
今は赤面症はそれほどでもないが、自分から話しかけるのはなかなか難しいらしい。

「で、なんとか声をかけても佐倉さんがすぐに消えちゃうし……」
「へぇ……」
「だから、佐倉さんの事が知りたくても知りようがないんだよ」
「なるほどなぁ……」

楓子がなんですぐに消えるのかはわからないが、確かにこれでは進展のきっかけがない。



「つまり、俺に純と楓子ちゃんとのデートをセッティングしろってことか?」
「デ、デート……ま、まあそう言うことだ……」

デートという言葉に言葉が詰まる純一郎。
たぶん電話の向こうの純一郎の顔は真っ赤だろう。

「それでなんだが……公二も付き添ってくれないか?」
「ええっ?」

さらなる頼みに驚く公二。

「俺、デートなんてしたことないから、どうしていいのかわからないんだ……」
「なるほどな、わかる気がする……」
「公二だけじゃなくて陽ノ下さんも一緒だと俺も安心できるのだが……」
「つまりダブルデートって奴か?」
「そ、そうそう。それでなんとかしてくれないか?」

ここで公二は考える。
確かにいきなり1対1だと緊張してしまうかもしれない。
自分の記憶をたどっても楓子もデートの経験があるとは思えない。



純一郎の頼みだ。友達としてなんとかしてあげたい。
去年助けてもらったお礼もまだしていない。
公二には断る考えはまったくなかった。

「ああ、わかった。向こうにも連絡してみるよ」
「そうか!それはありがたい!」

「ダブルデートの日程はゴールデンウィーク中でいいか?」
「ああ、それならいつでもOKだ」

「じゃあ、夕方にでも電話するよ」
「すまない頼むな。それじゃあ、これから部活だから」
「ああ、頑張れよ」

そう言って公二は電話を切る。
最後のほうの純一郎の声は明るかった。



「さて、楓子ちゃんに電話しないといけないな……」

そう言いながら公二は携帯の液晶画面を見る。
画面には今の時刻が表示されている。

「しかし、今は何時だ……げっ!まだ8時!……もう少し寝よ……」

公二は携帯をテーブルに置いてそのまま寝てしまった。



公二が寝息を立ててから10分後。

♪♪♪♪♪♪♪

「ふぁ〜。なんやいったい。せっかくいい夢を見てたのにぃ……」

今度は光の携帯電話の着メロが鳴った。
その音に光が目を覚ました。
光は非常に不満な表情で携帯に手を伸ばす。
そしてボタンを押す。

「は〜い、もしもし」
「あっ、光ちゃん?佐倉ですけど」
「あっ、楓子ちゃん。おはよう」

電話の相手は楓子だった。



「ごめんね。まだ寝てた?」
「そ、そんなことないよ……」
「嘘でしょ?公ちゃんの隣で寝てたんじゃないの?」
「うっ……」

楓子の大正解である。
思わず声を詰まらせる光だった。

「もしかして……光ちゃんと公ちゃんは何も着てなかったり……きゃ〜!光ちゃんのエッチ!」
「そんな事想像する楓子ちゃんの方がエッチでしょ!」

顔を真っ赤にして反論する光。
しかしこれも楓子が大正解だったりする。



こんな話ばかりされてはたまらない。
光はさっそく本題を聞く事にする。

「そんなことより、話はなんなの?」
「……」

「どうしたの?」
「あのね、その〜、え〜と……」

さっきの勢いはどこへやら。
楓子はもじもじした様子でなかなか話さない。

「あの〜……笑わない?」
「笑うわけないじゃない」

「じゃあ、聞いてくれる?」
「いいよ」

電話の向こうで楓子が深呼吸をするのが聞こえてくる。
光はそんな楓子の次の言葉を待つ。


「あのね……実はね……」

「……」

「穂刈君のことが好きになっちゃったの!」



突然の告白にビックリする光。
思わずすぐさま事情聴取に入る。

「えっ?穂刈君ってあの穂刈君?」
「うん……そうなの……」

「どうして?」
「だって、穂刈君って二枚目だし、スポーツも得意でかっこいいし……」
「……」

「前から興味はあったけど、クラスが一緒になってからどんどんと好きになってきて……」
「そうなんだ……」

恥ずかしそうな口調で話す楓子の声を聞きながら光は複雑な表情になっている。



「それで私はどうすればいいの?」

「実は光ちゃんに穂刈君とのデートのセッティングして欲しいの」

「えっ?私に?」
「私より光ちゃんの方が穂刈君と親しいから間を取り持ってくれると思って……」

確かに純一郎は楓子よりも自分の方が親しいと思う。
しかしそれほど差はない、今はむしろ楓子のクラスメイトなのだから楓子の方が親しいのでは?
光はそんなことを考えていた。

「でもクラスメイトでしょ?直接頼まないの?」
「何度かしようと思ったよ。でもいざ穂刈君を前にすると恥ずかしくて……」
「なにも言えなかったと」
「そうなの。だから光ちゃんじゃなくても公ちゃんでもいいから頼んで欲しいの」



親友からの切なるお願い。
今年は去年の恩返しをすると決めている。
まさしくうってつけのお願いだった。

「わかった。公二に頼んでなんとかしてみるね」
「ありがとう!」
「それは決まってからでいいからでいいよ」

「じゃあ、私は今日は部活だから夕方にでも連絡して?」
「いいよ、それまでには何とかするから」
「じゃあお願いね!」

光と楓子の電話はそこで終わった。



「……」

携帯をテーブルに置いて、ベッドに寝たまま光はつぶやいていた。

「……なんか、複雑だなぁ……」

去年の楓子はずっと公二に夢中だった。

「あれだけ公二にお熱だったのに……」

光から見ると楓子はまだ公二の事が好きなのかと思っていた。
しかし今は純一郎に夢中。

「公二の方がかっこいいと思うけどなぁ……」

公二は自分だけの公二。
そう思ってはいるものの、なぜか素直に喜べない光だった。



午前10時。
公二と光は恵と一緒に遅い朝食をとっている。
ちなみに公二の両親は早めに朝食を済ませてしまっている。

「えっ?じゃあ、あいつら両想いってことか……」
「そういうことになるね……」

今はお互いに今朝の電話について話し合っていた。

「でもお互い第一印象がいいというだけだからなぁ」
「折角だから、いいカップルになって欲しいよね」
「それを助けるのが俺たちの恩返しだろうな」
「そうだね」

パンにかじりつきながら2人はそんな事を話し合っていた。

「でもあなた。私たちが付き添う意味があるのかなぁ?」
「どういうこと?」

「ダブルデートって、2対2のデートでしょ?私たちじゃ意味ないような気がするんだけど」
「確かに……俺たちがでるとただのお見合いの仲介人かぁ」

「それだったら1対1と変わりないような気がするの」
「確かになぁ……」

2人は考え込む。



ふと2人の目が合う。

「そうだ!」
「そうだ!」

目が合った瞬間、お互いに同じアイデアが浮かんできた。

「こういうときにピッタリな2人がいた!」
「あっちもなんとかしないとね♪」

「温泉のアレがあってから、2人ともずっとぎこちないからなぁ」
「酔っていたとはいえ、私たちの責任だからね」

「せっかくの機会だ。あいつらに頼むか?」
「そうだね、それがいいね」



朝食を食べ終わった2人はさっそくそれぞれの携帯で電話をする。
恵は居間にいる両親に預かってもらっている。

「もしもし」
「あっ、匠か?公二だけど」

公二が呼び出したのは匠だった。

「ああ、どうした?公二も女の子の情報が欲しいのか?」
「そんなわけないだろ。それよりも匠に頼みがある」
「なんだい?」

匠も純のことはある程度わかってるので背景はなしで本題に入る。

「実は純が楓子ちゃんとデートがしたいそうだ」
「おおっ!純もとうとうデートするのか」
「でも、慣れてないからダブルデートにしてくれないかと俺が頼まれたんだ」

電話の向こうは興味津々といった口調のようだ。

「ほうほう。で、公二は行かないのか?」
「俺と光だとお見合いの仲介人だろ?」
「あははは!なるほどね」

公二の言葉に大笑いする匠。

「そこで匠に代わりに行ってほしいんだ」
「OK!僕にまかせとけば大丈夫だよ!」
「それはありがたい」

匠の口調は自信たっぷりといった様子だ。
それを聞いた公二はニヤリとする。

「お礼はクリームソーダ1杯でいいから」
「はいはい」

いつもならここで「友人にでもお礼をねだるのか?」と文句を言うのだが我慢した。
ここで機嫌を損ねると計画が台無しだからだ。



「じゃあ日曜日の10時に遊園地前で待ち合わせということで」
「OK。あっ、それで女の子は楓子ちゃんと誰なの?」

匠の質問に、公二はまたニヤリと笑う。


「ああ、美帆さんに頼んだから」


「えっ……」


匠の声が止まった。

「そういうことで匠は美帆さんをお願いね」
「ちょっ、ちょっと待て……」

「じゃあねぇ〜♪」
「お、おい、公二……」



ピッ



公二は匠の声を無視して電話を切ってしまう。
さらにリダイヤルを防ぐために電源まで切ってしまう。



「いるかなぁ?」

一方、光は携帯で相手が出るのを待っていた。

「はい、白雪ですが」
「あっ、その声は美帆さん?」
「そうですけど、どちらさまでしょうか?」
「陽ノ下ですけど」
「あっ、光さんですか。こんにちは」

光がかけた相手は美帆だった。
受話器を取ったのが美帆で少し安心した光。

「ところで今度の日曜日って暇?」
「ええ、特に予定はございませんけど、なにかあるですか?」
「実は美帆さんにお願いがあって……」

光は簡単に先程の楓子との電話の内容を話した。

「……でも、いきなり1対1だと慣れないから大変でしょ?」
「それが私とどういうことで?」
「だからダブルデートにしようと思うの。美帆さんには楓子さんに付き添ってもらおうと思って」

「ああ、そうなんですか。それならいいですよ」
「本当?」
「ええ、みんなで一緒だと楽しいではありませんか」
「うわぁ〜、助かった。ありがとう!」

「いえいえ、ところで時間と場所は?」
「10時に遊園地前なんだけど」
「遊園地ですか。とても楽しくなりそうですね」

美帆の返事から推測するに美帆は「デートの付き添いで一緒に楽しく遊ぶ」という感覚らしい。
光は公二同様ニヤリと微笑む。



「じゃあ、頼むけどお願いね」
「ええ。あっ、ところで相手は穂刈さんと誰なんですか?」

光はまたニヤリと微笑む。


「うん、坂城くんに頼んだから」


「えっ……」


美帆の声が止まった。

「じゃあ、日曜日坂城くんとお願いね」
「えっ、えっ、匠さんって、光さん!」

「じゃあねぇ〜♪」
「あ、あの光さ……」



ピッ



光は美帆の声を無視して電話を切ってしまう。
さらにリダイヤルを防ぐために電源まで切ってしまう。



「やったね♪」
「うまくいったな」

企みが成功したころで喜ぶ二人。
二人の笑顔は悪戯っ子でもあった子供の頃と同じだった。

「さて、夕方になったら二人に電話しないとね」
「うん、二人とも結果を待っているだからね」

今から二人の反応が楽しみな公二と光だった。



「ところで私たちのゴールデンウィークの予定はどうするの?」
「そうだなぁ、この前恵と俺たちの服を買ったからお金がないんだよなぁ」
「うっ、それは辛い……」

二人は金銭のやりくりにいつも苦労している。
特に先月は携帯電話も買ったのでそんなにお金が残ってない。

「でも1日ぐらい3人でどこかに出かけたいなぁ」
「どこにする?」

「土曜日に行ってみるか?……遊園地に」
「本当!」
「ああ。想い出の遊園地に3人で行こうか?」
「そうだね、あそこには想い出がいっぱい詰まってるからね」

「恵は初めての遊園地だな?」
「そうそう!きっと恵も大喜びだと思うよ」

「光、俺たちも思いっきり遊ぼうな」
「わん!」

「光、昼間に犬真似はよせって言っただろ!」
「えへへ、だって嬉しいんだもん♪」

結局、日は違うけど自分たちも遊園地に出かけることになった。

自分たちにとっては特別な遊園地。
2年半ぶりの遊園地に公二と光は胸を躍らせていた。



「……」
「……」

一方、この二人は受話器を持ったまま胸がドキドキしている。

「美帆ちゃんとデート……」
「匠さんとデート……」

4月はずっとぎこちなかった二人。
そんな二人に突然降って湧いたダブルデート。
しかし組み合わせが決まっているダブルデート。

「どうしよう……」
「どうしよう……」

二人は期待と不安がごちゃごちゃなのだろう。
もしかしたらデートの日まで二人は眠れない日が続くかもしれない。
To be continued
後書き 兼 言い訳
第18部ようやくスタートです。
今回はGWのお話。
ダブルデートが中心のお話です。

本編のダブルデートは主人公、純、光、純の相手という組み合わせなのですが、ここでは公二と光は夫婦です。
従って、このままだとダブルデートというよりもお見合いになりそうな気がします。

そこで組み合わせ変更。
匠と美帆に登場してもらいました。

でも公二と光のお話も用意しますので心配なさらずに。

少なくとも次回はいきなりダブルデートにはなりません。
さてどうしようかな?(苦笑)
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