第88話目次第90話
GW初日のお昼前。

公二と光は恵と一緒に家で遊んでいることにする。
二人は今はお金がないので仕方がないところだ。

今は3人で一緒に借りてきたアニメのビデオを見ている。
昔懐かしい「ラブラブスター」のアニメである。



トゥルルル トゥルルル



「あなた、電話とってよ〜」
「はいはい……」

アニメは女の子向けなのでそれほど興味もない公二が電話に出る。

「もしもし、主人ですが」
「あっ……」
「あれ?その声はメイさん?」
「そ、そうなのだ……」

電話の相手はメイだった。

「ところで何の用なの?」
「メ、メイも、しょ、庶民の生活が知りたいので、きょ、今日、き、貴様が案内するのだ」

たどたどしい声、どうかんがえても照れている口調にしか聞こえない。

「それって……まさか、デートのお誘い?」
「うっ……」

太陽の恵み、光の恵

第18部 GW編 その2

Written by B
公二の言葉に言葉が止まってしまうメイ。
メイの言葉を待っている公二は裏で色々話し声が聞こえているのがわかった。

『おやおや、メイったら顔を真っ赤にして』
『ハハハハ、メイも可愛いところがあるではないか』
『いつもの態度はどこにいったのかしら?』

どうやらメイの家族の声らしい。

『う、うるさいのだ!』

どうやらメイは後の家族に怒鳴りつけているらしい。

(そうか、メイさんは個人の電話を持っていなかったのか……)

あの事件以来、メイは個人の電話を取り上げられている。
従って、メイは家族の前でデートの誘いをしなくてはいけなかったのだ。

さらに普段は威張りっぱなしのメイが顔を真っ赤にして話すものだから、からかわれて当然かもしれない。



デートとは言っても街案内に近いものになりそうだから、特に問題はないだろう。
それに相手はメイだから浮気とかそんなことはないだろう。相手もわかっているから。
そう思った公二はOKの返事をだす。

「メイさん、俺だったら今日は暇だから大丈夫だよ」
「お、おおそうか。それはよかった……」
「午後1時にひびきの駅前でいいかい?」
「そ、それでいいのだが……」

いつの間にか公二が主導権を持ってしまっている。
それでもメイがなにか言いたいようだ。

「ん?どうしたの?」
「できれば……恵ちゃんを連れてきて欲しいのだ……」
「ああ、恵?ちょっと待って」

そう言って、公二は電話機から離れる。



公二はちょうどアニメを見終わった光に声をかける。

「なあ、光、ちょっと聞いていいか?」
「な〜に?」

ビデオを片づけている光は背中越しに返事をする。

「メイさんが今日恵と一緒に街案内してくれって電話が来たんだけど」
「えっ?今日?恵は別に予定もないからいいよ」
「どうする?光も一緒に行くか?」

「う〜ん、私は遠慮しておくね」
「えっ?」
「午後は私は洗濯物のアイロンがけをおかんから教わるから、そんな暇がないの」

光は背中越しに明るい声で返事をしている。

「そうか……ごめんな、他の女の子と約束しちゃって……」
「今のご時世に旦那のデートを認める可愛い奥さんなんていないよ♪」
「ごめん……埋め合わせは絶対にするから」
「期待してるね♪」

それを聞いた公二は電話のところに戻って言った。
どうやらOKの返事をしているらしい。



「……」

それからもビデオの片づけと整理をしたまま光は無言だった。

「わかってると思うけど……恵と一緒だからOKしたんだからね……」

光はひとりつぶやいていた。

「いくらメイさんでも、2人だけならOKしないよ……」

光の表情は寂しそうだった。

「ほんと公二はもてるから……心配だよ……」

光はそれでも元の表情に戻そうとしていた。

「今度の遊園地……その分思いっきり甘えてやるんだから……」

光の視線は壁越しに電話に出ている公二に向けられていた。



そして約束の午後1時。

公二は恵と一緒にひびきの駅前にいた。

「メイおねぇちゃんおそいね〜」
「パパと恵が早かったのかな?」
「う〜ん……あっ、きた!」

恵が指差す方向を見るとメイが歩いてきていた。
白い帽子にピンクの洋服にミニスカート、それに黒タイツと普通の女の子らしい衣装だ。
しかし薄い紫のマントが他の人とは違った威厳を示しているようだった。

「お、遅くなったのだ……」
「えっ、ちょ、ちょっと……」
「どうしたのですか?」
「あ、あの、三原さんも?」

なんとメイと一緒に咲之進が来ていたのだ。
ちょっとビックリの公二。

「当然です、私は常にメイ様の安全を守るよう大旦那様に言われてますので」
「こ、こういうのって付き人がいないから楽しいのでは……」
「私もそう思います」
「へっ?」

公二の指摘に素直に認める咲之進に変な声を出してしまう公二。

「私も大旦那様に先程のようにしつこく言われたので仕方なしに来たのです……」
「そうだったんですか……」
「私は近くで時間をつぶしますので皆様で出かけて下さい」
「すいませんね……」
「また時間になったら近くに停めてある車でお出迎えしますので」

そういうと咲之進は近くの喫茶店に入ってしまった。



一方、恵とメイは再会を喜んでいた。

「メイおねえちゃん、こんにちは!」
「恵ちゃん、会いたかったのだ」
「メイおねえちゃんはげんきだった?」
「ああ、メイはとっても元気なのだ」
「おねぇちゃんもげんき、めぐみもげんきげんき!」

公二が見た感じでは恵よりもメイの方が喜んでいる。

「じゃあ、さっそくだけど行こうか?」
「うん!いこういこう!」
「どこに行くのだ?」
「とりあえずショッピング街にでも行こうか?」
「どこでもいいのだ、さっそく連れて行って欲しいのだ」

そういうわけで、さっそくショッピング街に行くことにする。
公二が先導し、メイは恵と手をつなぎながらついて行く。



「うわぁ、きれい……」
「そうだね、きれいな服ばっかりなのだ」

最初に寄ったのはブティック。
女の子ならお洒落は興味があるだろうということで寄ってみた。

「メイさんは服はどう買ってるの?」
「メイの服はオーダーメイドなのでお店には行かないのだ」

「でもデザインとか色とかはあるだろう?」
「そういうの大体のことは最初にリクエストするからいいのだ」
「へぇ〜」

「学校の制服もそうしたのだ」
「なるほどね……」

確かにメイの制服は他人とは全く違う。

制服なのにコルセットがついていて、さらに胸のリボンも小さく真ん中にはブローチがついている。
そでも短くていつも長袖の黒のタートルネックを身につけている。

いくらひびきの高校の制服の制限がアバウトとはいうものの、ここまでは想定していないだろう。
そう思うほどメイの制服は個性的だったのだ。



そんな会話に恵が割り込む

「おねえちゃん、お〜だ〜め〜どってな〜に?」
「えっ?」
「おしえて〜?」
「そ、それは……あの〜……」
「ねぇ〜?」

2歳目前の子供にオーダーメイドを説明するのはかなり難しい。
メイもなんとかわかりやすく簡単に説明しようとする。

「オーダーメイドとは……要は好きな服を作ってもらうことなのだ」
「すきなふくって?」
「う〜ん……恵ちゃんが着てみたい服のことなのだ」
「へぇ〜……」

わかったかわからないのか本当のところは謎だが恵は納得したみたいだ。
それを見たメイはほっとした表情を浮かべる。
そんなメイの姿をみて、公二は思わず微笑んでしまう。



結局、公二もメイも何も買わずにブティックを出た。

「いいのかい?何も買わなくて」
「別に買物が目的でないのでいいのだ。それに今はお金が……」

お互いに今は金銭のやりくりに苦労しているみたいだ。

「恵ちゃんに『これ買って〜』って言われたらどうしようかと……」
「大丈夫だよ。この前買ったばかりだし。それに恵はそんなにおねだりはしないよ」
「それは良かったのだ……」

メイは誘拐事件以後、お小遣いを大幅に減らされて大変らしい。
もちろん公二とはその大変という金額のレベルは違うのだろうけど。



「さて次はどこにいくの……ん?」

次の行き先を聞こうとしたメイは何か見つけたようだ。

「おおっ、あれは!よし、恵ちゃん、一緒に行くのだ!」
「は〜い!」

メイは突然恵を抱えて走り出した言った。

「へっ?……お〜い、待ってよ!」

公二は慌てて追いかける。



「どこかのブランド品の店か発見したのかと思ったら……」

ついたところはショッピング街のはずれのジャンクショップ。
マニアの間では有名な激安店なのだそうだが、売っているものがものだけにあまり普通の人は行かない店だ。

「うわ〜、すご〜い!」
「どうだい?すごいでしょ?」
「あくのひみつきちみたい!」
「ま、まあ、そんな感じかもしれないのだ……」

午前中に見たアニメの世界とだぶらせる恵に、そんなこととは知らないちょっと戸惑い気味のメイ。
そんな会話を見ている公二はもっと戸惑い気味だった。

「恵ちゃん、ちょっと見てみようか?」
「わ〜い!たんけん、たんけ〜ん!」
「そうなのだ、探検するのだ」
「やっほ〜!」

さっそくメイは売り物の電子部品をじっくりと漁っている。

「う〜ん、ここはいい部品がとっても安いのだ」
「あの〜、メイさん?」

「それに品揃えもなかなか良い店なのだ」
「おねぇちゃん?」

「よし、これからはこの店をひいきの店にするのだ!」

(まあ、喜んでいるみたいだからいいけど……)

夢中で電子部品を見ているメイにちょっと困っていた。



「……ごめんなのだ」
「別にいいよ、気に入ってくれたならそれでいいから」

それから30分後。
ようやく我に返ったメイはあまりに集中していたのが恥ずかしくてなってしまっていた。

「メイおねぇちゃんのかおがあかい〜!」
「恥ずかしいのだ……」

手をつないでいる恵にもからかわれてメイは顔をうつむき加減にしている。

「しかし、メイさんは結構機械に詳しいんだ……」
「……そんな女の子は嫌いか?」
「別に、そんなこと全然思ったこともないよ」
「そうか……それなら嬉しいのだ……」

公二の優しい言葉にさらに顔を真っ赤にしてしまうメイだった。

「うわぁ〜、おねぇちゃんのかおがもっとまっか〜」
「……」

さらに恵の一言でもっと真っ赤にしてしまった。



(しかし結構歩いたな……)

それからも3人はショッピング街を中心にあちこちお店を回った。
本屋に雑貨屋に骨董品屋等、変わったお店を選んで寄ってみた。

(メイさんも楽しそうだなぁ……)

メイも普段行かないお店に入ってとても満足そうだ。

でも知らない世界に触れてみることよりも恵と一緒にいることの方が嬉しそうだ。

「恵ちゃん、次はどこに行こうか?」
「あそこがいい!」
「じゃあ、お姉ちゃんと一緒に行こうか?」
「うん!」

(メイさんもお姉さんらしくやっているな……しかし、なんか今日は子供二人と相手してるみたいだな)

メイは恵と一緒に行動していた。
恵もメイになついていて、それがまたメイにとって嬉しいようだ。

(俺としては、メイさんが俺よりも恵とくっついていたのが安心したけどな)

公二としてはメイが自分に色目を使わなかったのが一番ほっとしていた。
もしそうだったら、メイに悪いし、なによりも光に申し訳がない。
もう恋愛は光だけで十分すぎるから。



「メイさん、そろそろ時間だから帰ろうか?」
「もうそんな時間か……残念だけど戻るのだ……」

そしていつの間にか3時になっていた。
ちょっと早いがメイの予定もあって、今日はこれでおしまいということになった。

3人は最初の駅前に戻ってきた。
そこには既に咲之進が待っていた。

「お疲れ様でした」
「いや、楽しかったから全然疲れなかったよ」
「そうですか、それは良かった」

公二は咲之進に今までの様子を簡単に話していた。

一方メイは恵とお別れの挨拶をしていた。

「じゃあ、恵ちゃん。また遊ぼぶのだ」
「うん、またあそぼう」
「約束なのだ」
「うん!やくそく!」

「じゃあ、指切りするのだ」
「うん!」

メイは恵の小指に自分の小指を絡ませた。
そして二人で一緒に唱える。

「「指切りげんまん、嘘ついたら針千本の〜ます!」」

二人の表情はとっても爽やかだった。



「それじゃあ、また遊んで欲しいのだ……」
「ああ、今度は光と一緒でいいかい?」
「そうだった、今度は光殿とも一緒に遊びたいのだ……」
「今度はそうしような」

メイは咲之進が用意していた車に乗り込む。
メイは窓ガラスを開ける。
公二は恵を抱えてメイに恵を近づける。

「それじゃあ、またなのだ……」
「またね〜」



ブロロロロロ……



それから車は颯爽と走り去った。
車の中からはメイがこちらを名残惜しそうに見つめていた。



車が小さくなるまで見送った公二も家に帰ることにする。

「さて……恵、帰ろうか?」
「パパ。めぐみ、つかれたよ〜……」

見ると恵は地面に座ってだだをこねている。

「仕方ないな、ほらパパがおぶっていくから」
「わ〜い……」

「しっかり捕まるんだぞ」
「うん……」

恵は眠いながらもしゃがんでいる公二の背中に乗り、手を公二の顔の前に持っていく。

「じゃあ、帰るぞ」
「うん……」

恵が公二に背負われながら眠ってしまったのはそれからまもなくのことだった。

(恵も結構はしゃいでいたな)

背中でぐっすり寝ている恵の寝顔を見て思わず微笑んでしまう公二。

(今度の遊園地も思う存分はしゃいでほしいな……)



「メイ様、今日はどうでしたか?」

車を運転している咲之進は今日の感想を聞いてみる。

「メイ様?」
「……」

しかし後部座席のメイの返事はない?

「メイ様?」
「ス〜……ス〜……」
「寝てましたか……」

いつのまにかメイはぐっすりと眠っていた。

「しかし今日のメイ様はとても幸せそうに寝ておられる……」
「ス〜……ス〜……」

もしかしたら今はとってもいい夢をみているのかもしれない。
To be continued
後書き 兼 言い訳
今回はメイの初デート?のお話です。
いきなりメイ様が誘ってきました。
ここでのメイ様はときめき状態に近いのでこうなります。

しかしメイ様の目当ては公二よりも恵のほうです。
こうなると公二は保護者になってます。

まあ最初のデート?はこんなかんじではないでしょうか。
今後もメイ様と恵のお出かけはありそうです。

次回は18部の裏のメインの親子3人の遊園地です。
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