第90話目次第92話
「はい、あなた。あ〜ん♪」

遊園地もお昼時。
公二、光、恵の3人は広場の芝生でお昼御飯。
光の箸にはウィンナー。
どうやら公二に食べさせようとしているらしい。

「お、おい、ここでかよ?」
「え〜、いいでしょ〜?」
「わかったよ。あ〜ん……もぐもぐ……」

照れながらも公二は光からウィンナーを食べさせてもらう。

「おいしい?」
「ああ、美味しいよ」
「よかった……今日のお弁当は気合い入れて作ったからね」
(やっぱりな……昨日から光も頑張っていたからな……)

今日のお弁当は光の愛情のこもったお弁当。
光は光の母に教わって昨日の晩から仕込みをして準備していたまさしく愛情がこもったお弁当だ。
それだけに味も抜群にいい。

「さすが俺の光だな」
「えへへっ、嬉しいな……」
「本当に1年で上達したなぁ」
「あなたの愛情があったから頑張れたんだよ♪」

「じゃあ、光、あ〜ん♪」
「はい、あ〜ん♪」

いろいろ言って照れながらも食べさせっこをしている公二と光。
そんな二人を恵は大きいおにぎりにかぶりつきながら優しく見つめていた。

太陽の恵み、光の恵

第18部 GW編 その4

Written by B
美味しいお昼御飯で充電したところで、次のアトラクションに向かう。

「ねぇ、あなた。次はどこに行く?」

「お化け屋敷」

「えっ……」

平然と言い放つ公二。それを聞いて足が止まってしまう光。

「お化け屋敷も面白いぞ〜」
「やだ、やだぁ……オバケやだよぉ……」

ニヤニヤ笑う公二。
それに対して、公二の服の裾を掴んで動こうとしない光。

「う〜ん?それじゃあ、お母さんとして恥ずかしいぞぉ〜?」
「いいの!怖いものは怖いのぉ!」

首をぶんぶん横に振って嫌がる光。
それをみてさらにニヤニヤする公二。
どうやら光をちょっといじめるつもりだったらしい。



嫌がる光の姿に可愛いと思ってしまいながらも、公二は恵に同意を求める。

「恵、お化け屋敷行くか?」


「……おばけ、こわい……」


恵は光のスカートを掴んで公二から隠れるようにしてしまう。

「恵は光に似てオバケが苦手かぁ……」
「そ、そうだね……」

恵が嫌がることはしたくない。
公二はお化け屋敷は諦めることにする。

「恵が嫌がるならやめよう」
「そうだよね!」

ちょっと残念そうな公二に対して、俄然元気が出てきた光。

「今度二人きりのデートのときに行こうな♪」
「だめ!」

意外と公二も諦めが悪かった。



そういうわけで、入ったところはメルヘンワールド
4人乗りの小さなゴンドラに乗りながらメルヘンの世界を旅するというもの。
オルゴール調の音楽に載せて、機械仕掛けの人形が動き、メルヘンの雰囲気を盛り上げる。


「うわぁ〜、うごいてる!とんでる!すご〜い!」


恵はゴンドラに乗り出さんばかりに体を乗り出し、目を爛々と輝かせている。

「恵ったら、あんなに夢中になっちゃって」
「俺たちそっちのけだな」

恵のあまりのはしゃぎっぷりにおもわず苦笑してしまう二人だった。

そんな二人は、ゆっくりと周りを眺めている。

「あははは!」

「でも、恵って純粋だね……」
「そうだな……」

二人ははしゃいでいる恵を優しい目で見守っている。

「私たち、もう恵みたいに純粋に見られなくなっちゃったもんね……」
「寂しいけどな……仕方ないのかな……」

実はこのアトラクション、公二と光が小さい頃からあったアトラクションなのだ。

何度も模様替えや新しい仕掛けはしてあるのだが、基本的な部分は同じ。
さらにいうと、仕掛けも最先端のハイテクを使っているわけではないので、
大人が見るとこれから起こる仕掛けの予想がついてしまうこともある。

大きくない遊園地の小さなアトラクションだから仕方ないのだが、
それでも恵は本物のような感動を受けている。

「あの純粋さを守ってあげたいね……」
「そうだな……」

公二と光の目は娘を見守る親の目をしていた。



「ふぅ、結構歩いたねね……」
「恵も疲れるだろうし、休むか?」
「うん!」

メルヘンランドの後、コーヒーカップに乗った3人は、遊園地内の喫茶店で一休みすることにする。
光と恵が並んで、公二が光と反対の席に座る。

注文したのはオレンジジュース3つ。

「おい、光。どうしたんだ?」
「えへへへ……」

コップに冷たいオレンジジュースとストローを前に光はニヤニヤしている。

「あのさぁ……ここでやってみたいことがあるんだぁ……」

甘ったるい声で公二に誘いかける光。

「ま、まさか、ここで口移しか……」
「それもいいけど、今日は別なの……」

光の真意が読みとれない公二に対して、光は照れくさそうにもじもじしている。

「光、いったい何がやりたいんだ?」
「あのね……これ!」

そう言うと、光は公二のコップのなかからストローを抜き取り、
それを自分のコップに差した。

「こ、これって……」
「そうなの……一回やってみたかったの……」

1個のコップに2本のストロー。

ここまでやれば、公二だって光のやりたいことがよくわかる。

「ねぇ〜、いいでしょ〜、ねぇったらぁ〜♪」

光は甘えた声でだだをこねる。

「しょうがないなぁ……」
「わ〜い♪」

実は公二もやってみたくなったが、恥ずかしいので堂々とは言わなかった。



「じゃあ、やるぞ……」
「うん……」

公二がコップを光とちょうど真ん中に置く。

公二がストローを持ち口に含む。

それをみて光がもう1本のストローをもち口に含む。

そしてお互いに見つめ合いながらジュースを飲み始める。

間近でジュースを飲んでいる顔をお互いに見合う。

その顔がなにか可愛くてお互いに微笑んでしまう。

(なんか、これって結構幸せだなぁ……)
(ほんと、幸せって気分になれる……)

そんなウットリと見つめ合う二人は幸せそのもの。
その恵はジュースを飲みながら、相変わらずラブラブの両親をきょとんとした表情で見つめていた。



少し休んだあと、3人は自然公園にいた。
ひびきの遊園地はアトラクションだけではない。
ピクニック気分で楽しめる公園もある。

川で遊んだり、小さな林の中を追いかけっこしたり。
芝生の上に寝転がったり。
みんな思い思いに過ごしている。

そもそもひびきの遊園地は入場料が安いので、ここだけ来てもあまり割高にはならない。
だから結構人も多い。

「あ〜、こんなに広いとのびのびできるねぇ〜♪」
「本当だな」
「ごろごろごろ〜♪」

そういうわけで、3人は芝生の上に川の字に並んで寝転がっている。

「ごろごろごろ〜♪」
「ごろごろごろ〜♪」

特に光と恵は右にごろごろ、左にごろごろ。
芝生の上にごろごろ転がっている。

「あのなぁ、そんなに転がってどうするんだよ?」
「だって気持ちがいいもんね〜♪」
「うん♪」

母娘そろっての子供っぷりに思わず苦笑いの公二だった。



カシャ!



そんな3人の耳いきなり機械音が入り込んできた。

「えっ?」
「あっ」

公二と光が上を向くと、そこにはカメラを持っている女性が立っていた。

「Sorry. ごめんなさい。思わず撮っちゃったの」

女性と言うよりも自分たちと同年代ぐらいの女の子だった。
長い髪を頭の上で結んでいる特徴的な髪型が印象的だ。
しかも持っているのがデジカメとはではなく、若い子には非常に不釣り合いな大きな機械のカメラを構えている。

「ねぇ、折角だから、私のモデルになってくれない?」

「えっ?」
「えっ?」

その女の子の突然の頼みに驚いてしまう二人。

「あなたたちを見ていたら、私のartな心を刺激しちゃったのよ」

「はぁ」
「はぁ」

頼む理由も単純でただ返事をするしかない。

「別になにもしなくて、そこで自然にしていればいいから」

「それだったら……」
「いいですけど……」

「Thank you! じゃあそこでのんびりしていて」

いつの間にか彼女のペースに乗せられた二人はOKしてしまった。



カシャ!



とりあえず、恵と3人でごろごろしていることにする。

「パパ、ママ。あのひとだ〜れ?」
「う〜ん、わからない」



カシャ!



「え〜〜〜?」



カシャ!



「でも、悪い人じゃないみたいだよ」
「そうなんだぁ〜」



カシャ!



3人で話している間、女の子は場所を変え、カメラの向きを変え、3人の写真を撮っていた。



「いきなり写真を撮られるなんて、たしか去年もあったな」
「そうだね、去年の夏休みの神戸……プロポーズ……してくれたんだよね」
「あ、ああ……」

思わずあのころを思い出してしまった二人は思わず顔を赤くしてしまう。



カシャ!



そんな二人の顔も女の子は見逃さずにカメラに納めていく。

「琴子に……キスの写真撮られたんだよね……あれは、恥ずかしかったな……」
「俺も……」
「琴子、あれまだ持ってるんだって……」
「焼き増ししてもらったのか?」
「馬鹿……して欲しいけど、言えるわけないじゃない……」



カシャ!



「あ〜あ、パパもママも、かおがまっかっか〜!」

「……」
「……」

「きゃははははは!」



カシャ!



親をからかって喜ぶ恵とさらに照れて顔を真っ赤にする二人。
その顔は写真を撮られているということに関係のない、本当に自然な親子の顔だった。



「OK! ありがとう。Greatな写真がとれたわ」

女の子はようやく写真を撮り終えたようだ。

「こんなんでよかったんですか?」

「No problem! とっても良かったわ、特にその娘さんの顔が」

「えっ!」
「娘って……」

「あら?その子、パパママっていってるから、二人の娘さんでしょ?」

まったく驚いた様子もなく平然と言う女の子にさらに二人は驚いてしまう。

「驚かなかったんですか……?」
「最初聞いたときは Unbelievable だったけど、写真を撮っているうちに納得したわ」

「どうして?」
「だって、あなたたちの表情がとっても Heartful だったからなの」

なんか褒められたようでちょっと照れてしまう二人。
結局その女の子とはそれからすぐに別れた。



思わぬ出来事もあったが、そろそろ帰る時間だ。

「最後はやっぱり」
「観覧車だよね♪」
「やった〜!」

最後のアトラクションはもちろん観覧車だ。
公二と光にとっては一番想い出のあるアトラクションだ。
さっそく3人でゴンドラに乗り込むことにする。

「ほらほら、あそこに私たちのおうちがあるんだよ」
「うわぁ〜、ちいさ〜い!」

公二が一人で座って反対側には光と恵。

恵は初めて見る広大な景色にもう夢中になっている。

「本当に綺麗だよね……」
「ああ、昔に比べると色々変わったけど綺麗なのは変わらないな……」

公二も光も広大な景色に見とれていた。



「しかし、思い出すよなぁ……」
「そうだね……」

二人は景色から目を離してそっと目を閉じる。

「あれから2年半か……」
「なつかしいね……」

二人のまぶたの裏には2年半前の観覧車の中のお互いの姿が映っている。

5年半、積もりに積もった想いを抱えて再会した二人。

最後に選んだのも観覧車だった。

ゴンドラのなかでの熱い告白。

そしてファーストキス。

絶対に忘れられない淡い想い出が二人のまぶたの裏を駆けめぐった。



そして公二と光は同時に目を開ける。
そして二人の目が合う。
二人は2年半前にタイムスリップしていた。

「光……」
「公二……」

二人の顔が引きつけられるように近づく。
そして二人は目を閉じる。


チュッ


唇を軽く重ねるキスは、まるでファーストキスを思い出させるようなキスだった。

「……」
「……」

二人は目を開ける。
二人とも目が潤んでウットリとしている。
そして再び目が閉じられる。


チュッ……チュッ……


何度も離れてはくっつく唇。

その唇はいつしかまったく離れなくなる。


「……んっ……」
「……んっ……」

軽いキスから、激しく絡ませあうディープキスに変わっている。
二人の口からは甘い吐息も聞こえている。

その変わっていく過程はまるで、二人の恋が愛に変わっていく過程を表しているようでもある。
また、小さい頃から積み重ねてきた二人の絆の強さを表しているようでもあった。




「あ〜っ!まためぐみをすてて、ラブラブしてるぅ〜!」


「うわぁ!」
「きゃぁ!」

そんな甘い時間もゴンドラが下降した頃。
恵の一言で幕を閉じる。

「パパもママもひど〜い!」
「……」
「……」

「ねぇ、めぐみとあそんでよ〜」
「……」
「……」

「ごめんなさいは〜?」
「ごめんなさい……」
「ごめんなさい……」

恵の言葉に反論がまったくできない二人。
実のところ、娘の恵に自分たちのキスを見られてしまったことへの恥ずかしさが爆発していたのもある。

ただ、恵も広い景色に大満足していたようで、怒っている口調ではなかった。

観覧車も元の場所に戻り、3人は大満足で家に帰った。



そしてその夜。

「す〜……す〜……」

「寝ちゃったね」
「かなりはしゃいでいたからな、疲れちゃったんだよ」

いつもよりも早い時間に恵は寝てしまっていた。
恵のベッドの横で公二と光は恵の寝顔を眺めていた。

「でも、幸せそうな寝顔だね」
「ああ、これだけ恵が喜んでいた証拠だよ」

「今日は本当によかったね♪」
「ああ、俺も楽しかった」
「私も♪」

恵は本当に幸せそうに眠っている。
そんな恵を見ていると自分たちまで幸せになってくる。

「ふぁ〜あ、今日は俺たちもはしゃぎすぎちゃったかな?」
「ふぁ〜あ、そうかもしれないね」

「俺たちも寝ますか?」
「そうだね」

二人は自分たちのベッドに入る。
そしてお互いに抱きしめあう格好をとる。
二人のいつもの寝るときの格好だ。

「それじゃあ、あなた。おやすみ……」
「おやすみ……」

公二も光もすぐに眠りについてしまう。

二人の寝顔も本当に幸せそうだった。
To be continued
後書き 兼 言い訳
今回は公二・光・恵の遊園地後半です。

う〜ん、甘くなっているだろうか?
相変わらずのラブラブぶりを感じ取って頂ければ嬉しいです。

さて、ゲストキャラの片桐さん。
絵を描くアーティスト片桐さんは結構出ているので、
アートはアートでもカメラマン片桐さんにしてみました。

さて、次回は予告通りにヒーローショーの裏側です。
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