第92話目次第94話
GW土曜日の朝。

「ふぁ〜あ、今日もいい天気だなぁ〜」

いつもは目覚ましが鳴らずに寝坊してしまう美幸だが、こういうどうでもいいときは早起きしてしまう。

「あ〜あ、髪の毛ぐちゃぐちゃだ……」

しかしいつものように髪の毛がボサボサになっている。

「シャワー浴びてこよう……」

美幸はシャワーを浴びに自分の部屋を出ようとする。


♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪


そのとき、美幸の携帯電話の着メロがなり出した。

「あ〜あ、タイミングが悪いなぁ……もしもし?」
「美幸ちゃん?美帆ですけど?」

掛けてきたのは美帆だった。

「ねぇ?どうしたの、こんなに朝早くから?」

「あのね、美幸ちゃん……お願い!助けて!」

「へっ?」

太陽の恵み、光の恵

第18部 GW編 その6

Written by B
午後1時

ショッピング街の入り口に美幸は待ち合わせをしている。

「お待たせしました」

しばらくして美帆もその場所にやってきた。

「あっ、美帆ぴょん!今朝はどうしたの〜?」
「す、すいません、気が動転してまして……」
「美幸、美帆ぴょんが襲われたかと思って心配したんだよ〜?」
「ごめんなさい」

朝、美帆の切羽詰まった声に美幸はビックリした。
しかし用件は「お願いだから、買物につき合って」というもの。



「いったい、どうしたの〜?」
「実はですね……」

美帆は美幸に事情を説明した。

明日、美帆はダブルデートに出かける。
そもそも純一郎と楓子のデートのつき合いだと思っていたのが、
自分の相手が匠であることがわかってからというものの、夜も寝られない状態だという。

「それに明日のデートに着る服に自信がもてなくて……」
「それで美幸に?」
「はい、美幸ちゃんに服を選んで欲しいと思って……」
「それだったらまかせてよ〜」
「ありがとうございます。それでは行きましょう」

さっそく二人はブティックに出かけることにした。



ブティックに到着した二人はさっそく服を探すことにする。

「ところで美帆ぴょんはどんな服を買うつもりなの?」
「え〜と、もっと大人っぽくて色気がありそうな服なんですけど……」
「えっ?」

美幸は美帆の着ている服を見てみる。
ピンクを基調としたパステルカラーの服。
ロングスカートで肌の露出がほとんどない。

そもそも美帆の普段着のほとんどがこんな感じの服ばかりのはず。

「ねぇねぇ、いきなりどうしてそんな服を?」
「だ、だって〜、匠さんの好みってこんなだと思って……」
「どうして?」
「匠さんって、いつも年上の女性とデートしているって噂を聞いたので……」
「そういえば……」

匠のモテっぷりは美幸も噂で聞いている。
今はどうだかよくわからないが、少なくとも入学当初は匠の周りには上級生が集まっていた。
バレンタインデーもたくさんチョコをもらっていたような気がする。
上級生だけでなく、同級生も大人っぽい子にはもてていたと思った。

「私って、子供っぽい服しかないから……」
「う〜ん、確かにそうだね……」
「だから、匠さんが好みの服がいいのかなって……」
「なるほどね〜、まあとりあえず見てみましょうか?」
「はい、お願いしますね」

二人はさっそく大人向けの服を探し始める。

(う〜ん、美帆ぴょんに似合うそんな服ってあるのかな〜?)

そんななか美幸はこんな根本的な問題を考えていた。



ブティックの大人向けの売り場に二人はいる。

「う〜ん、なかなか見つからないねぇ〜」
「そうですね……」

1時間ほど探してみたが美帆に似合いそうな服がなかなか見つからない。

「サイズもなかなかないね」
「そうですね、大抵大きめのものばかりで……」

美帆の身長は156cmでそれほど大きいわけではない。
でも大人向けの服というのは身長が大きめのものが多い。
もちろん美帆ぐらいの身長の服もあるのだが、美帆に似合う服というのがなかなかない。

「これも似合わないねぇ……」
「う〜ん……」

そもそも今の美帆に大人っぽい服が似合っていないのだ。
なんか、服だけが目立っているような印象を美幸は受けている。



「やっぱりやめたほうがいいんじゃない?」
「やっぱりダメですか〜」

結局なにも見つからずガックリしている美帆。

「ねぇ、いつもの服じゃだめなの?」
「だって……あんな子供っぽい服だと匠さんが……」

どうやら本気で子供っぽい服だとダメだと思っているようだ。
そんな事は思っていない美幸はそのことを告げる。

「ねぇ、美帆ぴょん。美帆ぴょんの服でも大丈夫だと思うけどなぁ?」
「えっ?」

「だって、匠くんは美帆ぴょんの服を見にくるんじゃないでしょ?」
「ええ……」

「クラスメイトなんだから、美帆ぴょんの好みはわかってるはずだし、それは承知で来るんじゃないの?」
「たしかに……」

「大丈夫だって!いつもの美帆ぴょんをみせればいいんだよ〜!」
「そうですね……そうですよね!」

美幸の励ましに美帆の表情も明るくなった。



最初のショッピング街の入り口に戻った二人。

「ごめんなさい。今日は迷惑ばかりかけて……」
「いいよ、気にすることないよ〜!それよりも明日は頑張ってよ〜!」
「頑張るというわけではないのですが……頑張りますね!」

「大丈夫!きっといいことがあるよ〜」
「ありがとうございます。それでは今日はここで……」
「うん、バイバ〜イ!」

そこで美帆と美幸は別れた。

(しかし、美帆ぴょんはあんなに匠くんのことが好きなんだぁ〜)

今日は美帆の意外な一面が見られて新鮮な気分の美幸だった。



「ただいま〜」

美幸は自分の部屋に戻ってきた。

「あれ?」

机の上には一枚のはがきが置いてあった。

「ああっ!すみれちゃんからだ!」

すみれからの手紙だった。

「なんて書いてあるかなぁ〜」

美幸はわくわくしながら手紙を読み始めた。



「美幸さん、お元気ですか?」

「うん、美幸は元気だよ〜」

「何年も日本中を旅してますけど、だいぶ景色も変わっていますね」

「そうだね〜、美幸はずっとひびきのにいるけど、美幸でもそう思うからねぇ〜」

「昔はあんまりなかったような気がしますが、今はどこにでもコンビニがありますね」

「へぇ〜、すみれちゃんもそういうところに気が付くんだ〜」

特別な出来事が書かれていない、ごく普通の手紙。
日常が書かれている普通の手紙でも美幸はとてもうれしかった。

すみれとの手紙は学校での雑談に似ていると美幸は思っている。
なんでもないけど、それだけで楽しい。
すみれもそう思ってくれればいいなというのが最近の美幸の思いだ。



「私も休みの日にたまにはコンビニに寄ってるんですよ」

「へぇ〜、なんか意外なような気がする」

「コンビニの雑誌を立ち読みなんかもしちゃってます」

「うわぁ〜、もっと意外〜」

「漫画なんか立ち読みしちゃって……おかしいですか?」

「別に、美幸もやってるから大丈夫だよ!」

今日の手紙はすみれの意外な一面が見られて美幸もとても嬉しい。



「最近は恋愛漫画をよく読んでます」

「へぇ〜」

「漫画を読んでると、恋愛っていいなって思うんですよ」

「そうだね〜」

「私も恋してみたいけど、周りにはそんな人はいないし……」

「う〜ん、周りは大人の人ばっかりだもんね〜」



「美幸さんは今、恋してますか?」



「えっ……」



「もしよかったら教えていただけませんか?」



「……」


「お返事待ってますね」

それですみれの手紙は終わっていた。



「言えないよ……」

美幸はすみれの手紙を持ったまま固まっていた。

「恋してるなんて……言えないよ……」

「それに、美幸にもわからない……本当に好きなのかどうか……」

「すみれちゃん、ごめん……今は言えないけど……時期がきたら話すね……」

結局、美幸の返事には「今は恋していない」と書いた。
その文章を書いたとき、美幸の胸が痛んだのはいうまでもない。



「う〜ん、どれにしたらいいのかしら……」

その日の深夜。
美帆は自分の部屋で明日の服を選んでいた。

「姉さ〜ん、決まった?」

美帆の部屋に真帆が入ってくる。
真帆は明日の美帆のデートのことを知っているので気になっていたのだ。

「あっ、真帆。実はまだなんです」

「姉さん、自分が一番気に入っている服を着て行ったら?」
「えっ?」
「知っている人が相手なんだから、変に飾らなくてもいいと思うけど」

「そうですか、じゃあそうしますね……」
「えっ?」

真帆のアドバイスをあっさりと受け入れる美帆。
あまりにあっさりだったので真帆も驚いてしまう。

「そ、それに、姉さん。得意の占いで決めるってことは考えなかったの?」
「それも考えたんですけど……」
「けど?」

「もし『何着てもダメ』って結果がでたらと思うと怖くて……」
「……」
「だから明日については何も占ってないんです……」

今までの美帆の占いでも「何やってもダメ」という結果はまったくない。
なのにそんな万が一でも起こらなそうな結果を気にしている。

そこまで明日のデートを気にしているのかと真帆は驚いている。



そんな心配性の姉を真帆は励ますことにする。

「大丈夫。姉さんだったら大丈夫よ」
「そうですか?」
「私もデートはしたことないから、これぐらいしか言えないけどね」

実は真帆は1回もデートをしたことがない。
だからアドバイスもこれぐらいしかできない。

「えっ、真帆ってデートしたことないんですか!」
「うん、男友達と遊んだことはあるけど、デートじゃなくて、グループで遊んだだけ」
「私はてっきり、結構しているかと……」

美帆はすっかりと驚いている。

「悔しいけど、初デートは姉さんの方が先だったみたいね」
「そうですか……」

確かに悔しいが、姉の初デートは絶対に成功して欲しい。
真帆は本気でそう思っている。

「服も決まったし、明日に備えて寝たら?」
「そうですか?」
「寝不足の顔でデートなんか行けないでしょ?」
「そ、そうですよね。じゃあさっそく寝ます!」

美帆は服を片づけると急いでベッドに潜り込んだ。
真帆はそれを見て部屋を出る。

「姉さん」
「なんですか?」
「がんばってね」
「ありがとう」

真帆は美帆のお礼の言葉を背に扉を閉めた。



「は〜あ、姉さんもいいなぁ……」

自分の部屋に戻った真帆。
すでにベッドに入っている。

「姉さんが羨ましいなぁ〜」

美帆は明日は初デート。
一方自分は明日は一日ファーストフードのバイト。

「私もデートしたいなぁ……でも相手もいないし……」

真帆は瞳を閉じて寝る体勢に入る。

「まあいいか、今は自分を磨こう……恋はそれからでもいいかな……」

「姉さんは姉さん、私は私、明日はお互いに頑張ろうっと!」

真帆はすぐに眠ってしまった。



「す〜……す〜……」

明日は美帆にとって初デート。
どうなるのか不安いっぱいだが、楽しみもいっぱい。

今の美帆の寝顔はそんなデートを心待ちにしているようだった。
To be continued
後書き 兼 言い訳
今回はダブルデート前日のお話。

初デートを前にうろたえる美帆の様子を中心に書いてみました。

初デートを前に緊張しない人ってあまりいないような気がします。
何かしらの緊張があると思います。

しかしココの美帆ぴょんは緊張しまくりの様子です(笑)
そんなところが読みとってくれたら嬉しいです。

お待たせしました。
次回はダブルデートのお話です。
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