第94話目次第96話
純一郎、楓子、匠、美帆のダブルデートは順調?に進んでいる。

(なんか自分でもびっくりするぐらいうまく行ってるな……)

本来は純一郎と楓子に匠、美帆がつき合うはずだったのが、
この二人が緊張しているために、純一郎と楓子が付き添っている格好になってしまっている。

しかし、そっちに気が行っているおかげで自分たちの緊張感がちょうどいい具合になっている。
おかげで純一郎と楓子はいい感じで進んでいる。

(しかし、あの二人がちょっとな……)

逆に匠と美帆は大きなトラブルはないものの、なんかぎこちない。
お互いに恥ずかしがっているのか、会話も長くは続かない。

特に匠は異常だ。

なぜかよく転ぶ。
なぜかよく柱とか壁にぶつかる。
普段は平気なアトラクションがダメだったりする。

(本当に匠らしくないなぁ……)

自分のことのように心配になってしまう。

(でも、もうすぐ終わりだからなんとかなるか……仕方がない)

「さて、最後は観覧車ということになるな」
「やっぱりそうだよね」

最後はやっぱり観覧車。

「じゃあ、俺は白雪さんと乗るから、佐倉さんは匠と一緒にね」

「えっ?」
「えっ?」
「えっ?」

太陽の恵み、光の恵

第18部 GW編 その8

Written by B
最後の最後で突然の組み合わせチェンジ。
純一郎以外の3人が驚くのも無理はない。

「ねぇ!どういうつもりなの?」

楓子が純一郎に耳打ちする。
純一郎は匠達に気づかれないようにこそこそ話をする。

「佐倉さん、わかってるだろ?あの二人がぎこちないのが」
「う、うん……」

「あの二人を一緒に乗せてみろ。気まずくなるだけだろ?」
「たしかにね……」

「あの二人緊張しっぱなしだから、最後ぐらいリラックスさせないと」
「う〜ん、しかたないね……」

純一郎の考えは楓子に理解できたようで、納得したみたいだ。

そういうわけで、純一郎と美帆、匠と楓子で乗ることになった。



純一郎と美帆のゴンドラが先にあがる。

「うわぁ、綺麗ですねぇ……」
「そうだな、なかなかの景色だな」

ゴンドラからの景色は最高の景色だ。
純一郎も美帆もその景色に見とれている。

堪能しきった純一郎は美帆に聞いてみる。

「白雪さん。今日はどうだった?」
「えっ?」

「なんかずっとぎこちなかったけど」
「あの、その、え〜と……匠さんと……」

「匠が?」
「匠さんといると……恥ずかしくて……」

純一郎の質問に美帆は顔を真っ赤にしてしまった。

「どうして?」
「だって……その……え〜と……」

「匠の事が好きなのか?」



コクリ



美帆は黙ってうなずくだけだった。

(やっぱりな、どおりでぎこちないわけだ……)

純一郎は美帆の態度でようやく確信できた。
匠も美帆もお互いが好きだから緊張してしまったのだと。



「ところで匠とはうまくいきそうなのか?」
「それは……私が……」
「白雪さんが?」

美帆はうつむきながら答える。

「私って子供っぽいから……匠さんの好みじゃないし……」

「それに、前に妖精さんを使って匠さんにひどいことしたんです……そんな私が……」

「匠さんの彼女なんて……たぶん無理です……」

(あちゃ〜、これはどうしようもないな……)

純一郎はこの二人はかなりやっかいであることを再認識した。

匠は普段とは違い恥ずかしくてアプローチできない。
美帆は匠の好みではないと思って、半ば諦めも入っている。

(匠が告白しないかぎり無理だな、これは……)



しかし、自分が匠が美帆のことが好きだと言うのは余計なお世話だ。
そこは二人の問題であり、自分が踏み込んではいけない。
自分だったら絶対に嫌だ。
そう思った純一郎は美帆を励ますことにする。

「でも、諦めないでみたら?」
「えっ?」

「匠にはまだ彼女はいないから、白雪さんもチャンスはあると思うよ」
「でも……」

「なに、匠に自分の良さをアピールすれば大丈夫だよ」
「どうやって……」

「う〜ん、俺もアピールはよくわからないけど、まずは普段から接触してみたら?」
「えっ?」

「挨拶だけでもいいから、してみたら?まずはそこからだよ」
「そうですか」
「俺もそうやってるけど、なかなかだけどね……」

これは純一郎が楓子に対してやっていることだった。
しかし楓子が恥ずかしがって逃げてしまうので、純一郎は効果が薄いと思いこんでいる。
それでも自分がアプローチしていることが1年前に比べると大進歩であることに気づいているから言えることかもしれない。

「がんばってみたら?」
「そうですね、やってみます!」

ようやく美帆も緊張がほぐれたようだ。
それから純一郎と美帆は世間話で盛り上がりながら景色を堪能した。



変わって、匠と楓子のゴンドラはというと。

「今日はお疲れさま」
「どうもどうも」

こちらも景色を堪能しながら世間話に盛り上がっている。

「ねぇ、なんか今日は変だったけど大丈夫?」
「だ、大丈夫だよ」

「本当?美帆ちゃんの前でぎこちなかったけど」
「……」

匠の言葉がすぐに止まってしまう。
楓子が気が付いた時には匠は顔を赤くしてうつむいていた。

「もしかして、緊張しちゃったの?」



コクリ



匠は黙って頷くだけだ。

「それは美帆ちゃんだから?」



コクリ



「もしかして……好きなの?」



コクリコクリコクリコクリ



匠は頭をぶんぶん振り回す

(へぇ〜そうだったんだ〜)

楓子はようやく匠の異常ぶりの原因を知ることになる。



「ところで、告白はしたの?」
「ば、ばかっ!そ、そんなの……」

ストレートな質問に慌てる匠

「そんなのがどうしたの?」
「で、できるわけないだろ……」

「どうして?」
「だって……恥ずかしいし……」

「でも、言わないと始まらないよ?」
「そんなこと言われても……」

(なんか、人ごとじゃないよね……)

まったく前に進めない匠に楓子はいつの間にか昔の自分を重ねていた。



「あのね、私、中学の時に好きな人がいたんだ」
「えっ?」

「頭が良くて、ちょっと格好良くて……私の初恋だった……」
「……」

楓子は自分の過去を打ち明け始めた。
匠は黙って聞いていた。

「本当に好きだったの……でも、告白できなかった……」

「告白しないまま卒業……本当に後悔した」

「駄目かもしれない、それでもいいから告白すれば良かった……しばらくは後悔ばかりしてた」

「その後の同窓会に彼と偶然再会して、その日に告白したの、『好き』って」

「でも、振られちゃった。でも後悔してない。ちょっと悔しいけどね。えへっ」

笑顔で昔話を語る楓子。
それを呆然と聞いている匠。

「坂城くん。黙っていては後悔するだけだと思うよ」
「ああ……」

「駄目でもいいから、告白してみたら?その方が後々よくなると思うの」
「そうかなぁ……」

「大丈夫だって!勇気をだせばきっといいことがあるよ……たぶん……」
「勇気かぁ……そうかもしれないな……」

ここで恋愛話はフェードアウトしていく。
ゴンドラが下がり終わるころには再び世間話で盛り上がっていた。



夕日がまぶしい夕方。
遊園地の入場門に4人は戻ってきた。

「今日はお疲れさま」
「今日は楽しかったね」
「そ、そうだな……」
「そ、そうですね……」

ようやくダブルデートも終わった。
今日はここで解散の予定である。

「それじゃあ、ここでかいさ……」

「今日は楽しかった!じゃあ!」
「今日は楽しかったです、それでは!」

純一郎が解散しようと言うやいなや、匠と美帆は慌てて帰ってしまった。
その顔は真っ赤で、「恥ずかしくてたまらない」という感じだった。

「いっちゃったね……」
「早いな……」

純一郎と楓子はそれを呆然と見送るしかなかった。



そしてふとお互いの姿を見合う。

「あっ……」
「あっ……」

思わず二人の息が止まる。

二人は今二人っきりなのだ。
前や後に匠達がいない、まさしく二人っきり。

遊園地にいるときはアトラクションを楽しんだり、
またはぎこちない匠達を心配していたので、気が紛れていたのだが、
今は目の前の相手しか注目する物がない。

「……」
「……」

お互いにほんのり顔が赤い。
二人っきりという状況が恥ずかしいのだろう。

「きょ、今日はありがとうな……」
「わ、私も楽しかった……」

ぎこちないものの、挨拶を始める二人。

「あ、あの……ま、また……いいかな?」
「えっ?」
「また……一緒に遊びに行きたいんだけどぉ……」

もじもじしながらも次回のお誘いをする楓子。
それをじっくりと聞く純一郎。



もちろん楓子のお願いを拒否する理由などない。

「俺で良かったら大歓迎だよ」
「本当?」
「ああ、でも匠達とはもう勘弁。今度はクラスの連中を誘うか?」
「そうだね!みんなでパーッ!っと遊ぼう!」

次回の計画が持ち上がった。
どうやら今日のデートは次回に繋がりそうだ。

「じゃあ今日はお疲れさま」
「お疲れさま!それじゃあね!」

楓子は笑顔を見せながら走って帰って行った。



純一郎は最後に歩きながら家路に向かう。

「今日は俺にとっては大成功だったな……」

楓子のことを少し知ることもできた。
近くでみると楓子は本当に可愛らしい、仕草もまたいい。
純一郎はもっと彼女の事を知りたくなった。

楓子の方も自分のことを悪くは思っていなさそうだ。
第一次回のお誘いもしてくれたのだ、期待しない方がおかしい。

「うまくいきすぎて、次からが怖いけどな……」

あまりにうまくいきすぎ。
自分でも信じられないぐらいだ。

「でも匠がなぁ……」

そうなると、匠の事がとても心配になってくる。

「帰ったら電話でフォローしておくかなぁ……」

純一郎は家で行う最後の仕事を考えながら夕暮れの街を歩いて行く。

こうしてそれぞれの思いが交差しあうダブルデートは幕を閉じた。
To be continued
後書き 兼 言い訳
ダブルデート後半です。
とはいっても観覧車だけですが(汗

う〜ん、ここでこれ以上波乱を起こすと収集がつかなくなりそうだったのでシンプルにまとめました。
これがシンプルか?と言う質問はなしね♪(爆)

純と楓子は順調なスタートを切ったのではないでしょうか?
一方、匠と美帆はボロボロという印象が強いですな(汗

次回は第18部最終回
あの匠がデートでボロボロだった原因が明かされます。
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