第95話目次第97話
ゴールデンウィークが終わって初めての学校。

それぞれがそれぞれの連休を過ごして再び学校に戻ってきた。

それぞれが色々な楽しみ方をしていたようだ。
部活に励んだ人。
バイトに励んだ人。
とにかく遊んだ人。

たった4日しか無かったのだが、誰もがほんの少しだけ変わった感じがする。

しかし、ほんのどころがまったく表情が変わってしまった人がいる。

あまりにくら〜い表情で学校にやってきた匠と美帆である。
とくに匠は訳を聞かれても答えないほど深刻だった。


「なあ純。昨日いったいなにがあったんだ?」

匠と美帆の暗い表情に心配になった公二は登校してきた純一郎にすぐにデートの状況を聞いてみた。
本当はお昼休みにゆっくりと、と思っていたのだがあの状況だと少し心配になる。

「実は……」

純一郎は昨日の状況を簡単に説明した。

太陽の恵み、光の恵

第18部 GW編 その9

Written by B
純一郎は公二に話したことのまとめはこんな感じ。

匠がデートの間ずっと緊張していたこと。
美帆がそれをみて自分と一緒にいるのがあまり楽しくないと思っている節が見えること。
わかったことは、間違いなく両想いだということ。

「そんなに匠がボロボロだったとは……」
「はっきりいって驚いた……」
「あいつの話だと、普段のデートは気楽にやってるような事を言ってたのなぁ」
「それをみた美帆さんも変な誤解をしちゃってるからまたやっかいで……」

2年B組の教室、自分の机で事情を話す純一郎とその前の机の椅子に座って話を聞く公二。
まだ1時間目に時間があるので話を続けている。

「しかし匠はなんでそんなに……」
「それで後で心配になって電話したんだよ」
「そうしたら?」
「匠、泣いてた」
「ええっ?」



『もしもし』
『……あっ……』
『今日はお疲れ。ところでどうしたんだ?』


『……ぐすん……ぐすん……』


『ん?』
『純……俺どうしよう……』



「匠、泣きながら事情を話してくれたよ」
「どういうことだったの?」

つまりこういう事。

実はデートが気になってなかなか眠れない日々が続いて体調が最悪だったこと。
そしてデートでは美帆ちゃんに「かっこいいところ」を見せようと思ったのだが、
実は普段のデートでは甘えてばっかりで、そんなことはしたことがなかった。

おまけに美帆の姿をみたとたんにドキドキしてアガッてしまった。
そのせいか、最初のジェットコースターでみっともないところを見せてしまって焦ってしまった、

「なんとか挽回しなきゃ」と思ったが体調が悪いことも重なって空回りの連続。
結局最後までそのままだった。



『俺どうしよう……美帆ちゃんに格好悪いところ見せちゃった……』
『……』
『俺嫌われちゃったかなぁ……』



「匠、初めてデートで大失敗したみたいなんだよ。そのショックもあるんじゃないかなぁ?」
「そういえば、『リードしてもらうデートが得意』なんて言ってたなぁ」
「つまり自分でリードしたことがない……というわけか」

「匠のデートの相手って確か年上の大人っぽい子のはずだから、白雪さんのようなタイプは初めてだったかも」
「なんか、白雪さんには大人っぽく見せようとしているのかもしれないな」
「それだけ本気ってことなのかもしれないな」

ようやく匠の真意がわかった二人。
ここで予鈴のチャイムがなったので話を切り上げた。



そしてお昼休み。
授業中も暗い表情のままの匠には近づくに近づけず、仕方なしに2年B組の教室でお昼を食べる公二と純一郎。

「なあ公二、ひとつ聞いていいか?」
「なんだ?」
「匠が言っていたみたいに、夜も眠れないことってあったか?」
「そうだなぁ……確かにあったなぁ」
「ふ〜ん」

「光が好きだって気づいてからだなぁ……頭の中が光のことでいっぱいで眠れなかった日もあったよ」
「ほうほう」
「話だと光も眠れない日があったって言ってた」
「へぇ〜、男も女も同じかぁ」
「まあ、今だからこんな事いってるけど、当時は深刻だったけどね」

なるほどと言いたげな表情の純一郎。
それをみて苦笑しながら答える公二。

「ところで匠はどうする?」
「う〜ん、俺達が慰めても効果ないような気がするなぁ」
「やっぱり白雪さんに言ってもらうしかないか……」
「確か、美幸ちゃんと一緒に俺の教室で食べてるから行ってみるか?」
「そうだな」



その2年A組の教室では美幸と美帆がお弁当を食べていた。

「……」
「だから、そんなことないってぇ〜!」
「でも、匠さん楽しそうじゃなかったし……」
「それはなんか別の理由があるんだよ〜」
「そうですか……」

元気がない美帆を美幸が励まそうとするのだが美帆は元気がでない。

「あっ、白雪さん。こんちわ〜」
「こんにちは……」

そんな二人に公二と純一郎がやってきて美帆に話しかける。
美帆の返事もあまり元気がない。

「そんなに昨日は悪かったの?」
「……」

「でも白雪さん緊張してたんでしょ?」
「はい……」

「匠本人から聞いたけど、匠も緊張してたみたいだぞ」
「そうなんですか?」

純一郎の言葉に驚く美帆。

「えっ?そう思わなかったの?」
「ええ、てっきり私とだと楽しくないのかと……」

それでも不安でいっぱいの様子を隠せない美帆。

「そんなことないよ。あいつ柄にもなく緊張してたんだよ」
「へぇ〜、なんか意外だなぁ」
「本当ですか?」
「本当だって、そうでなかったら今日あんなに元気がないのはどういうわけだい?」
「確かに……」

美帆も今日の匠の元気のなさぶりは驚いたし心配した。
でも理由はよくわからなかったのだ。



「匠、デートで白雪さんに嫌われたかと思ってあんなに元気がなかったんだよ」
「ええっ!私はそんなこと……」
「少なくとも匠はそう思ってるぞ」
「じゃあ、どうしたら……」

美帆にとっては予想もしていなかったこと。
驚くのも無理はない。

「早めに匠に昨日のお礼をした方がいいよ」
「そうだよ、それが一番だよ〜!」
「そうすれば匠も元気出すよ」
「……わかりました、そうします……」

自分のやることがわかり早速やるべくお弁当を片づけて立ち上がる美帆。



そんな美帆を公二が呼び止める。

「あっ、白雪さん。そのついでにこう言うと匠が喜ぶから」
「えっ?それはどういう事を?」

意味がわからない美帆に対して公二が耳元でささやく。

「それは……ごにょごにょ……」
「はい……はい……ええっ!」

公二の言葉に美帆の顔はみるみる真っ赤になる。

「で、でもそれって……」
「そうして欲しいんでしょ?」
「ええ、まあ……」
「じゃあ、決まりだね」
「はあ、わかりました……放課後言ってみます……」

顔を真っ赤にしながら美帆はA組の教室を出てしまう。



「なあ公二。いったい白雪さんに何をアドバイスしたんだ?」
「美幸も知りた〜い」
「なに大したことないよ、実は……ごにょごにょ……」

公二は小さな声で純一郎と美幸にさっきのアドバイスを教えた。

「そんなことなんでわざわざ耳元でささやいたんだ?」
「そのほうがインパクトがあるだろ?」
「へぇ〜、そうなんだぁ〜」
「そうか?……まあいいや……」
「たぶん、明日からは匠も普通の匠に戻るんじゃないか?」
「これなら大丈夫かもな」

とりあえず一安心という事になった3人はこの話題を打ち切ることにした。



そして放課後。

「ふうっ……」

クラスの半分以上が部活でいなくなり、ほとんど人のいない2年C組の教室。
窓際の自分の机で匠は一人ため息をついていた。

「……」

よほど昨日の失敗がショックのようで今日の授業もまったく耳に入っていなかった。
訳は言うまでもない。



ガラガラッ



扉が開く音がする。
匠はなにげなく音の方向を見る。

「匠さん……」
「あっ……」

入ってきたのは美帆だった。
美帆は一直線に匠の机に向かう。



美帆は匠の机の横に立ち、座っている匠を見つめる。

「あっ……」
「匠さん、昨日はありがとうございました……」
「えっ……」

頭を軽く下げる美帆。
お礼を言われて驚く匠。

「昨日はごめんなさい、ずっと緊張したままで……」
「い、いや、僕のほうこそ……」

「……」
「……」

お互いに謝ったもののなにか気まずい雰囲気が漂う。
いつの間にか教室には二人っきり。



「あのぅ……匠さん……」
「……なんだい?」

匠は改めて美帆の顔を見る。
美帆の顔は真っ赤に見える。
夕焼けの赤が写っているのかもしれないが、とにかく真っ赤だった。


「また……誘って……くれませんか?」


「えっ……」

美帆の言葉に驚く匠。
誘いがくるとは、まったく予想外の事だったのだ。


「こんどは……二人だけで……」


「それって……」

二人の顔がさらに真っ赤になる。



公二が美帆にアドバイスしたことは単純明快。
「美帆が次のデートに誘ってもらうように頼む」
言いたくても言い出せない美帆の背中を公二はポンと押しただけ。

お互いが望んでいる事、しかし今の二人では恥ずかしくて言えない事。

「は、恥ずかしい……」



ガラガラッ



ドタドタドタ……



案の定、美帆は恥ずかしくなって教室を走り去ってしまう。



「美帆ちゃんが……誘ってくれた……」

教室にたった一人、匠は呆然としていた。

「信じられない……」

今まで暗かった顔がみるみる明るくなる。


「いやっほぅ〜〜〜〜〜!」


匠は教室でひとり雄叫びに近い喜びの声をあげていた。



(匠……大声だしすぎ……まあ元気になったみたいでよかったな……)

純一郎は部活の休憩時間、体育館の外で休んでいるときに匠の声を聞いた。
そんな純一郎に聞き慣れた声が耳に入ってくる。

「あっ、純く〜ん♪」
「えっ?」

ふと顔をあげるといつの間にか目の前には楓子が立っていた。
ジャージ姿のところを見ると部活の最中らしい。

「あれ?どうしたの?」
「うん、今部活は休憩タイムだから」
「偶然だね、俺も休憩時間だったんだ」

匠や美帆達とは違って、今日の楓子はずっとニコニコ顔だった。
よほど昨日のデートが楽しかったのだろう。

「あのね、お願いがあるんだけどぉ?」
「なんだい?」


「今度……遊園地に行かない?」


突然のお誘いに驚く純一郎。

「えっ?だって昨日……」
「あのね。さっき一緒に行ってくれる人が見つかったから……」
「で、俺に一緒に行く男を捜せと?」
「そうそう!……また純くんと遊びたいなぁ……」

もじもじと恥ずかしがりながら誘う楓子。

(し、仕草が、か、可愛いぞぉぉぉぉぉぉ!)

純一郎の心のなかはもうヒート状態だった。
こうなると返事は一つしかない。

「わ、わかった……なんとかするよ」
「やったぁ〜!じゃあお願いね♪それじゃ!」

にっこりと微笑みながら楓子はグラウンドに帰って行く。

(な、なんか俺、佐倉さんに振り回されそう……)

期待半分、不安半分ながら今度暇そうな友達を頭の中でリストアップしている純一郎だった。

ちなみにこの日の楓子のノックはいつもより余計に気絶者が出るほど絶好調だったようだ。



ゴールデンウィークも終わり、もうすぐ梅雨がやってくる。
それを越えればいよいよ夏。

しかし、夏はまだまだ先。
夏までにいろいろな事が待っているのは間違いない。

純一郎と楓子、匠と美帆。

どちらもまだまだ始まったばかり。
To be continued
後書き 兼 言い訳
やぁ〜っと、第18部完結です。

匠の緊張の原因。
美帆にゾッコンのあまりに寝不足で体調不良。
おまけにやったことがない「かっこよくみせる」ということをしようとしたためにアガッてしまったのです。
まさに「下手にかっこつけるとろくな事がない」という典型的な例でした。

しかし、周りのフォローで二人も一歩前進したようです。次からが本番ですかね。
まあ二組ともぼちぼちといくのではないでしょうか?

次は第19部ですか。
初夏の学校編ということで1話完結型の話をいくつか書きたいなと。
ああ、はやく内容を考えないと(汗
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