第96話目次第98話
GW最終日の夜。

ある者はGWの出来事が嬉しくて御飯が美味しい人もいれば、
ある者はGWの出来事がショックで布団で涙を流す人もいる。

そんな夜。



トゥルルトゥルル



琴子の家に電話がかかってきた。
琴子が受話器を取る。

「はい、水無月です」
「あっ、私、文月といいますけど……」
「えっ?文月くん?」
「そうだけど?」

かけてきたのは同じ2Fで同じクラス委員の文月 誠だった。

「あら、私のところにかけてくるなんてあなたも暇なのね」
「あははは、そんなわけないだろ。今日はちょっ〜と頼みがあってな」
「えっ?どんなご用なの?」


「今度の日曜日、一緒にショッピング街に行かない?」

「えっ…」

琴子は思わず絶句。
それに驚いて必死に話をつなげる文月。


「あっ、いや。俺、ひびきのってまだ住んで1ヶ月だけだから、街のことがよくわからなくて……」
「……」
「だから、街のこと詳しそうだし、それに同じクラスだからかけたんだけど……」


「ふうっ……いいわよ」

一つため息をつきながらも受け入れる琴子。

「本当?」
「本当よ。まあ同じクラスだし、そのぐらいはいいわよ」
「そうかそうか、じゃあ、来週の午後1時によろしく」
「ええ、わかったわ」

「それじゃあ、また明日教室で!」
「教室ね……ふうっ……それじゃあ……」

琴子は大きくため息をついて電話を切った。

「?」

受話器の向こうはため息の理由がわからずに立ちつくす文月がいた。

太陽の恵み、光の恵

第19部 琴子女王様編 その1

Written by B
そして翌日、月曜日。

「……」

琴子はいつもの時間に学校にやってくる。

「今日も……かしら……」

しかし何か琴子の様子がおかしい。
足取りも重く、ため息ばかりついている。

周りはそんな彼女に気づかず、どんどんと彼女を追い抜いていく。



そして2Fの教室の前。

「ふうっ……」

琴子は扉の前で大きくため息をつく。
そして扉を開ける。



ガラガラッ



「おはよう……」

「「「おはようございま〜す!」」」

琴子の小さい声の挨拶に大きな声で一斉に挨拶をするクラスメイト達。



「ふうっ……」

琴子はそんなクラスメイトに見向きもせず、彼女の席、窓側の一番前の席に座る。
そして一人外を眺める。

そんな琴子にクラスメイトが男女問わず一斉に集まる。


「水無月さん!いったいどうしたんですか?」
「なんか病気ですか?」
「気分が悪いなら保健室に行った方がいいですよ?」
「水無月さん、大丈夫ですか?」


端から見ていれば大げさとしか思えないぐらい必死な表情。
しかし彼らにとっては本気だ。



その中心にいる琴子は周りを見渡す、そして一言。


「大丈夫よ……気にしないで……」


その一言でクラスメイトは一斉に自分の席に戻る。

「おはよ〜う!……ふうっ……今日も間に合ったが……」

そんな光景を、チャイムぎりぎりにやってきた文月が知るわけがなかった。
しかし、琴子が暗いところから何かあったかぐらいは感づいていた。



「……で、あるからして……水無月、この文章の意味を言ってみろ」

古文の時間。
教科担任は2Fの担任でもあった。

「はい……これは……」

琴子は古文は得意な方だ、教師から指定された文章をすらすら説明する。
予習もしてあり、ほぼ正しく答える。


「うむ、ほぼ完璧だな」

「「「おおっ〜〜〜〜〜〜!」」」


教師の言葉にクラスメイトのほとんどが感嘆の声をあげる。

「あははは、水無月は本当にクラスメイトから尊敬されてるな」

「……」

「そんなことはどうでもいいな。それで、さっきの文章の文法だが……」

教師は一言いったあと、普通に授業を進める。



(あれ?水無月さん……)

ここで文月はあることに気が付いた。

クラスメイトの感嘆の声に琴子が哀しい表情をしたこと。
そして教師の言葉に対して琴子が一瞬だけ鬼のような形相で教師をにらみつけたこと。

たぶん、クラスでは彼しか気づいていなかっただろう。

ただし、これは彼でも最近気が付いたこと。

実は2年になってからずっとこんな感じだったのだから。



そんな授業の終了直前。

「……あら?」

2Fの教室の前を花桜梨が通り過ぎた。
理科教室で行われた物理の授業が早めに終わって教室に帰る途中だった。

教室の扉にはガラスが張ってあり、そこから教室の中がよくみえる。


「「「おおっ〜〜〜〜〜〜!」」」


そんな時に再び感嘆の声があがった。
よくみると琴子がなにか答えたあとらしい。


「……嫌……すごく嫌……」


花桜梨はそうつぶやいて自分の教室に戻って行った。



琴子がクラスで孤立している


花桜梨は最近の2Fのことでこんなことを感じていた。
確かに琴子はクラス委員だし、クラスメイトからも悪く言われていない。

でも何か変。

花桜梨はその変な理由をなんとなく感づいていた。


「クラスメイトは琴子を普通に見ていない」
なにか自分たちとは違う人種みたいな視線。


例えればアイドルやどこかの女王様を見ているような視線。


琴子は美人で頭がよく御嬢様の雰囲気を持つパーフェクトガール。
みんなが勝手にそんな理想の琴子像を作り上げているのだ。



お昼休み。

花桜梨は2Fの教室に入った。

「……」

教室に入った瞬間、花桜梨は教室の雰囲気に嫌悪感を感じた。
その嫌悪感を感じる方向には琴子が一人で外を眺めている姿があった。

「琴子さん、屋上でお弁当にしませんか?」
「えっ……でも、今日は光と……」

琴子は大抵光と一緒にお弁当を食べる、たまにほむらが一緒にいることもあるが。
しかし花桜梨と二人だけで一緒に食べたことはなかった。

「二人きりで話があるの……だから……」

花桜梨の表情は真剣だった。

「わかった……」

琴子は隣の教室にいる光に断りを入れた後、二人で屋上に向かった。



「バレーの方はどうなの?」
「レギュラーにはなれそう。でもまだベンチスタートかな」
「花桜梨さんだったらすぐに先発になれるわよ」

「琴子さん、茶道部で今度老人ホームで茶会をやるんですって?」
「あら?よく知ってるわね」
「だって、私の住んでるマンションの近くだから……」

屋上の隅の方で二人は世間話をしながらお弁当を食べている。
天気は良かったが、今日は何故か人が少ない。

優しく穏やかな風が屋上を駆け抜ける。

そうしているうちに、お弁当も空になる。



「琴子さん……本題に入るわ……」

お弁当も片づけた直後、突然花桜梨の口調が鋭くなる。

「話って……」

いきなりの変化に驚く琴子。
花桜梨は琴子の目をじっと見つめて問いかける。


「あなた、いいの?……あんなクラスで……」


「……」

「勝手に祭り上げられて……嬉しいの?」
「……」

「本当の自分をみてくれない視線を突きつけられて……なにも感じないの?」
「……」

花桜梨の指摘は琴子の心の中を読みとっていた。
琴子はうつむいてなにも語らない。



「私、あのクラスメイトの視線がすごく嫌」
「……」

「私も経験あるからわかる……自分で勝手に相手を決めつけて浴びせる視線……嫌……」
「……」

花桜梨は琴子の目を見ようと顔を動かす。
琴子はその花桜梨の視線をそらそうとする。

「前々から聞こうと思ってたんだけど、いったい何があったの?教えて?」
「……」
「琴子さん?」

「大丈夫よ……心配しないで……」
「琴子さん!」
「……」

琴子は突然立ち上がり花桜梨が止めるのも無視して屋上から去ってしまった。

「琴子さん……」

花桜梨はそこで一人琴子の背中を見つめていた。



いや、もう一人いた。

「水無月さん……どうしたんだろう」
「あれ?あなたは……」
「ああ、俺は水無月さんと同じ2Fの文月っていうけど」

どこからかいつの間にか文月が現れていた。

「私は2Dの八重花桜梨……ところでなぜあなたが?」
「いや、屋上で昼寝をしていて起きたら二人の話が聞こえてきて……」
「ふ〜ん……」
「なんか水無月さんがおかしいんだよ、俺、水無月さんがずっと心配で……」



バンッ!



「……」

突然の花桜梨の平手打ち。
文月は何も言えない。
花桜梨の表情は冷たく、鋭い視線を文月に突きつける。



「『ずっと』なんてよくそんなこと言えるわね……」
「そんなことって……」

「琴子さん、私が憶えている限りでは半月前からずっとああだったわよ。気が付いていた?」
「まあな……」

「だったら、なんでなにもしないの!琴子さん、教室でずっとひとりぼっちだったはずよ!」
「う〜ん……」

文月には花桜梨の言っていることがよくわかっていないらしく、複雑な表情で花桜梨の話を聞く。


「じゃあ聞くわ。2Fのクラスメイトで『琴子』なんて呼ぶ人がいる?」
「!!!」

「みんな『水無月さん』とか言って、話し方も友達とは思えない言葉遣いじゃないの?」
「!!!」

確かにその通りだった。
このクラスには隣のクラスの赤毛の女の子のように「ことこ〜」なんて気軽に呼ぶ人は確かにいない。


「そんなに心配だったら、なにかしてるはず……でもあなたは何かしてるようにみえない……」
「……」

「『心配している』なんて軽々しく言わないでよ……ふざけないで」
「……ごめん……」

花桜梨にはクラスメイトのよそよそしい態度が許せなかった。
それは2年前、自分が体験したことだから。

それ以上に「心配している」とか言って何もしていない目の前の人が許せなかった。
花桜梨はなによりも嘘や偽善が嫌いだから。



「なんか変なのは薄々気づいてた……半月前じゃない、2年の最初からだ……」
「そんなに前から……」

まだ痛む左頬をさすりながら文月がようやく反論する。

「俺だってなんとかしたいけど、水無月さんって何もしないから……」
「えっ……」

「反論したっていいのに、何も言わずにただ一人で教室にいるんだ……」
「……」

「最初は人付き合いが苦手なのかな?って思ってたけど、そうじゃないんだな」
「……」

「もしかしたら一人だけで悩みを抱え込んでる……そんな気がする……」
「やっぱり……」

自分には言いたいことがたくさんある。
でも周りに迷惑を掛けたくない。
だから一人で抱え込む。

花桜梨は琴子が悩みを抱え込んでしまう性格なのはわかっていた。
去年、琴子が光との友情で悩んでいたときもそうだったから。



「やっぱり、強引な方法で琴子さんの本音を導きだすしかないわね」
「俺もそれには同意するな」

そんな琴子に対してどうしたらいいのか?
花桜梨には一つの考えがあった。

「文月くんだっけ?琴子さんのことを心配するなら頼みがあるの」
「えっ?俺?水無月さんのためならなんでもやるよ」

「私の予想だとかなりの痛みが伴うはず……それでもいい?」
「ああ……痛みっていうのがよくわからないがいいけど」

花桜梨は小さな声で文月に秘策を伝える。

「あのね……ごにょごにょ……」
「ええっ!……それってまずいんじゃ……う〜ん……わかった、やってみる」
「お願いね、これは水無月さんのためだから」

文月も驚きながらもそれを受け入れる。

決行は2日後の水曜日になった。
花桜梨はとにかく2日後の自分の作戦が成功するのを祈るのみだった。
To be continued
後書き 兼 言い訳
お待たせしました、第19部です。

初夏の学校編は構成上この次に回しました。
今回は3話構成です。間違いないです。
そうしないと記念の第100話がこの話になるから(汗

73、81、83話でみられた琴子の2Fでのおかしな立場。
今回はこれにケリを付けてしまいます。

琴子が変に祭り上げられています。
きら高でいう藤崎詩織状態になっています。
詩織と違うのは琴子は本当はパーフェクトではないことです。

こんなクラスはろくなクラスではありません。
いいクラスにするにはこの状況が変わらない限り無理。

ただ花桜梨はクラスうんぬんよりも、一人ぼっちの琴子を心配しているのですが。

次回は詳しく掛けません。
だってもうヤマ場だから(汗
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