第103話目次第105話
日曜日の午後。

ショッピング街前の広場に匠がいた。

「今日こそは……絶対に成功させる……」

今日は2度目となる美帆とのデート。
付き添いはいない。
1対1の文字通りのデートである。

「この前の失敗は絶対に帳消しに……」

GWの初デートは夜大泣きしてしまうほどの大失敗だった。
あまりのみっともなさぶりに、美帆に嫌われてしまったかと思った。

しかし、美帆は自分に失望していなかった。
それどころか、美帆からデートの誘いをしてくれたのだ。

「もう失敗できない……」

匠にとっては汚名返上の大チャンス。
だからこそ1対1のデートにした。

「緊張しすぎだな……気楽にいかないとな……」

今日は自分を冷静に見つめているだけ期待が持てるかもしれない。

太陽の恵み、光の恵

第20部 初夏の学校編 その5

Written by B
待ち合わせの場所に美帆がやってきた。

「お待たせしました……待ちました?」
「い、いや、ちょうどいま来たところだよ」

お互いにいくらか緊張している様子。

「じゃあ、さっそく行こうか。どこに行きたい?」
「あ、あのぅ、ファンシーショップに行きたいんですけど」
「ああ、いいよ。さっそく行こうか?」
「はい!」

ぎこちないが笑顔が見える二人。
最初はほどほどの滑り出しのようだ。



ファンシーショップは待ち合わせの場所から歩いてすぐの場所になる。

「へぇ、今日は『ケロちゃんフェア』かぁ……」
「うわ〜!ケロちゃんコーナーだ〜!ケロちゃん!ケロちゃん!」

比較的落ち着いてる匠に対して美帆は興奮しきってる。
どうやらお目当てはその「ケロちゃんフェア」らしい。
さっそく二人は特設コーナーに向かう。

「うわぁ!ケロちゃんがたくさん!アイテムもたくさん!」

ケロちゃんとは正式名称がケロケロでべそちゃん。
蛙を可愛く?デフォルメしたキャラクターだ。

「ほんとうに美帆ちゃんってケロちゃんがすきだね」
「ええ。最近では一部の女の子の間で、すごく流行っているんですよ!」
「そうみたいだね。最近もあのキーホルダーをぶら下げた女の子を何度か見た事があるよ」
「私、小さい頃からファンなんですよ!そこら辺の女の子には負けません!」
「そ、そう……」

美帆はこのケロちゃんが本当に大好きだ。
学校でもキーホルダーを鞄にぶら下げている。
そのキーホルダーも頻繁に変わってるところから、結構な数を持っているのだろう。

「匠さん。ケロちゃんって本当にかわいいでしょ?」
「う、うん……」
「ですよねー。あっ、あのタオルが可愛い!」
「……」

美帆は目を爛々と輝かせてケロちゃんグッズの品定めをしていた。

(美帆ちゃんって本当に好きなのはわかるけど……)

あまりの熱中ぶりに匠もただ見ているしかない。

(でも、次はどこに行こうかな……)

ところが美帆を待っている間、匠が冷静さを取り戻していた。
100%とはいかないが普段の匠を取り戻しつつあった。

(おや?……あれは……)

匠は店のショーウィンドウ越しに向かいのブティックが目についた。



(そういえば……)

それは先週のこと。

匠が2Aの教室で公二と純一郎とお昼を食べていたときのこと。

「なぁ、公二、純。聞きたいことがあるんだけど……」
「なんだ?」

匠が二人に尋ねたことがある。


「お前達のお勧めのデートスポットってどこだ?」


「はぁ?」
「んっ?」

予想外の質問だったのか、公二も純一郎も箸をくわえたまま固まってしまう。

「今度美帆ちゃんをデートに誘おうと思うんだけど……」

「はぁ……」
「はぁ……」

「なんだよ。俺が真剣に悩んでるのに」

匠の真剣な表情とは裏腹に公二と純一郎は呆れたようなため息をつく。


「匠……おまえ、悩みすぎ」
「えっ?」


公二の一言に匠ははっとする。

「考えてみろ、俺達が匠より知ってるわけないだろ?」
「う、う〜ん……」

確かにそうだ。
去年までは匠が公二達におすすめのスポットを教えていたのだから。



公二と純一郎はお弁当を食べながら匠にアドバイスする。

「匠、別にかっこつけなくていいんだぞ」
「そうそう、この前はそれで失敗したんじゃないのか?」
「……」

確かに純一郎の言うとおりだ。

「まあ、匠の気持ちもわかるけど、普段の自分を出すのが一番だと思うけどなぁ」
「俺も人のことは言えないけど、下手な事はしないほうがいいと思うぞ」
「とは言っても、普段通りというのが一番難しいんだけどな」
「そうそう、俺も光相手でもついついカッコつけたくなるんだよなぁ」
「そうか……」

二人の言葉に匠も納得しているようだ。

「まあ、気楽にやってみたら?たぶんうまくいくよ」
「俺もそう思う」
「ああ、そうしてみる……」

気は楽になったものの、それでも不安そうな匠。
それに気づいた公二は匠に言う。

「そう言えば美幸ちゃんが言ってたけど、白雪さん、この前のデートで服に悩んでたみたいだぞ」
「えっ?それ本当か?」
「ああ、かなり悩んでて美幸ちゃんも困ったらしいよ」
「そ、そうなのか?」
「匠!食べ終わってから話せ!食べかけが飛んでくる!」
「あっ……ごめん……」

あまりの食らいつきのよさに、公二は思わず匠を落ち着かせる。

「折角だから匠が服やアクセサリーなんか選んであげたら?きっと喜ぶと思うけど」
「おお!それはいいアイデアだなぁ」
「なるほど!サンキュー!じゃあさっそくそれでいってみるよ!」
「お、おい!匠……いっちまったよ」
「気の早い奴……」

そのお昼休みに匠が美帆をデートに誘ったのは言うまでもない。



(すっかり忘れてたよ……次はあそこにしようか)

匠はまだケロちゃんグッズを物色中の美帆に話しかける。

「ねぇ美帆ちゃん。そろそろ次に行かない?」
「あれっ?ええっ?私、こんな長い時間ここにいましたか?」

美帆が時計を見ると、ここのコーナーに30分近くいた事に気がついて驚いていた。

「そんなこと気にしてないよ。どう?なにか見つかった?」
「ええ、良いのが見つかりました♪さっそく買ってきますね♪」
「じゃあ、俺はそとで待ってくるから」
「すぐに買ってきますね」

ご機嫌な美帆はケロちゃんグッズをいくつか買ったようだ。



「お待たせしました」
「じゃあ、向かいの店に行ってみない?」
「えっ?」

美帆は驚いていた。
向かいの店はこのまえのダブルデートの前日に美幸と服を探しに来て結局見つからなかったあのブティックだからだ。

「さっそく行ってみようよ」
「えっ、でも、ここって……」
「大丈夫だって!きっと良いのがあると思うよ……」
「あっ、待ってください!」

匠は足早に店の中に入っていく。
美帆も慌てて店の中に入る。

「ふ〜ん、女性の服の店ってあまり来たことないけど、結構いろいろあるんだ……」
「そうですね……」
「女の子って、買わなくてもこういう店を歩くのって楽しいんでしょ?」
「え、ええ……」

(ダメ……この店には私向きの服なんて……)

気軽に話しかける匠に対して、この前の事が強く頭に残っている美帆は軽い返事しかできない。



「あれ?これなんか良いかもしれないな」
「えっ?」


匠の声に美帆は驚いてしまう。

「ねぇ、これなんか似合うんじゃない?」
「そ、そんな、私にはとても……」

顔をうつむいたまま首をぶんぶん横に振る美帆。
そんな美帆に匠は不思議そうな顔をする。

「美帆ちゃん。何言ってるの?これがとてもって?」
「えっ?……あっ」

美帆は顔をゆっくり上げてみる。

匠が持っていたのは白のヘアバンドだった。

「きっと似合うと思うんだけど……」

美帆の頭にヘアバンドをかける匠の顔はかなり真っ赤になっていた。
しかし美帆はそんなことに気づく余裕もなかった。



「やっぱり似合うなぁ、美帆ちゃん、鏡を見てみなよ」
「そうですか、じゃあ……あっ……」

美帆は鏡を見てみる。
美帆の頭のエアバンドはとても美帆に似合っていた。
店の明かりで白のヘアバンドが光っており、それはまるでティアラのようでもあった。

「どう?」
「素敵です!」
「そう、それはよかった」

喜んでいる美帆に対して匠は軽く微笑んでいたのだが、

(やったぁ!美帆ちゃんが喜んでくれた!いやっほぅ!)

匠の心中は小躍りするぐらいに大喜びだった。



「じゃあ、俺がプレゼントするよ」
「えっ、でもそんな、これ結構高いですよ」
「いいっていいって!このぐらい大丈夫だよ!」

そう言いながら匠はエアバンドを持ってレジに向かう。

(あれ?)

レジに並んで匠はふと気が付いた。

(俺……デートで先にプレゼントしたことない……)

匠のデートでは先にプレゼントをもらってから、相手にプレゼントをしていた。
うまく甘えて、うまくプレゼントをもらう。
自分が先にプレゼントとか奢るとかしたことがない。

そんな現金な匠が自分から先にプレゼントしている。

(あははは……自分でも驚きだな……)

自分で自分を笑いながら匠は買物を済ませた。



「本当にいいんですか?」
「いいっていいって!」
「ありがとうございます。大切にしますね」

ヘアバンドの入った包みを匠から受け取った美帆はとても嬉しそうだ。
その嬉しそうな顔をみた匠も嬉しくなってしまう。

「じゃあ、次はどこ行こうか?」
「それではCDショップに行きませんか?ちょっと見てみたい物があるので」
「OK!じゃあ、さっそく行こうか」
「はい!」

上機嫌の二人は足取りも軽くCDショップに向かった。

「ところで美帆ちゃんはどんな音楽に興味があるの?」
「そうですね、最近はクラシックを聴きますね」
「クラシック?」
「ええ、劇のシナリオを考えるときにBGMで流すんですよ」
「へぇ〜、それでうまくいってるの?」
「とっても!イメージがどんどん湧いてきます!」

(へぇ、クラシックかぁ……俺も勉強しないとな……)

話が弾んでいる間にすぐに店についてしまう。
さっそく美帆はクラシックコーナーに行ってCDを見ている。
匠も付き添って見ている。

「ところで、匠さんはどんな音楽を?」
「俺かぁ、俺は流行歌かな」
「匠さんらしいですね」
「そうかなぁ、もっぱらカラオケ対策なんだけどね」
「カラオケは得意ですか?」
「う〜ん、まあまあってところかな」

(カラオケですか……一緒に行ってみたいですね……)

なにげない会話でもとても楽しい。
二人は本当にデートを満喫していた。



「今日はありがとうございました」
「俺もとても楽しかったよ」

夕方、デートもお開きの時間。
待ち合わせをした場所に戻った二人はお別れの挨拶をしていた。

「あのぅ、匠さん?」
「ん?なんだい?」

そんなときに美帆が突然恥ずかしそうな表情を見せる。
匠が返事をしたときには美帆はバックからなにやら探していた。

「今日買ったものなんですけど……」
「えっ?ええっ!」

美帆が匠に手渡したのはケロちゃんのキーホルダー。

「素敵な物も頂いたから……お礼に……」
「いいのかい?」

匠が驚くのも無理はない。
なぜから、美帆がケロちゃんコーナーで真っ先に買物カゴに入れた物だったからだ。

「もらった物に比べれば幼稚ですが……」
「そんなことないって!喜んでもらうよ!」
「本当ですか?……嬉しいです……」

匠がキーホルダーを受け取ったところでデートは終わりとなった。



その夜。

「姉さん、いいかげん外したら?」
「えっ?でも……」
「明日からでもつけられるでしょ?」
「まあそうですが……」

(でも、姉さん本当に嬉しそうだなぁ……)

美帆は真帆の部屋で楽しいおしゃべり。
美帆の頭には白いヘアバンド。
家に帰ってから風呂のとき以外はずっと身につけていたのだ。

「せっかくのプレゼントでしょ?大切にしなきゃ」
「そうですね。大切にしないといけませんよね」

真帆に言われて渋々ヘアバンドを外す美帆。

「……姉さん、明日はちょっと早いから今日はもう寝るね」
「そうですか、それではお休みなさい」
「ごめんね、じゃあお休み……」

美帆は真帆の部屋を出て行く。



「……」

真帆は部屋の明かりを消し布団に潜る。

「姉さん、ごめん……」

明日の朝に真帆は用事はない。

「嫉妬しちゃった……」

ヘアバンドを付けて嬉しそうな姉をみて真帆は羨ましいのと同時に何か負の感情が湧きあがったのを感じた。
真帆はそんな自分が嫌になって話を切り上げたのだ。

「あ〜あ、私もデートしたいなぁ……」

真帆はなんとも言えない気持ちのまま眠りについた。



翌日。

公二と光はいつものように一緒に登校していた。
途中、公二は一人で歩いている匠を見つけた。

「お〜い、匠。おはよう!」
「ああ、おはよう……」

匠はどうも元気がない。
よく見ると恥ずかしそうに見える。

公二は匠の鞄にある物を見つけた。

「匠、おまえの鞄のケロちゃん……」
「あっ!俺急ぎだから!じゃあ!」

尋ねようとしたとたんに、匠は話を遮り走ってしまった。



なにがなんだかわからない公二。
その隣にいた光は美帆が近づいてくるのが見えた。

「あっ、美帆さん。おはよう」
「おはようございます!」

美帆はとても上機嫌のようだ。
その美帆がいつもとは違うことに光は気が付いた。

「あのう、美帆さん。そのヘアバンド……」
「これですか?似合ってるでしょ♪」

ハイテンションな美帆に光は押されてしまっている。

「う、うん、とっても」
「そうですよね♪じゃあ、また!」
「ま、また……」

美帆はステップを踏んで行ってしまう。



なんか変な匠と美帆。
少し呆れてしまい立ちつくす公二と光。

「なんなんだ、匠と白雪さんは……」
「美帆さんなんか『るんるん気分』って言葉がピッタリかも……」
「でも匠のケロちゃんのキーホルダーに、美帆さんのヘアバンドか……」
「たぶん、デートでプレゼントされたんだろうね」

昨日が匠と美帆がデートをしていたということは二人はもちろん知っている。

「どうやらうまくいったみたいだな」
「そうみたいだね」

デートは成功したことがなんとなくわかり、ほっとする二人。



「しかし、匠は思い切ったなぁ」
「どうして、せっかくのプレゼントだから、付けたくなるんじゃないの?」

「でも、あれだぞ?匠のイメージとは全然違うぞ、それってどういう事かわかるか?」
「?」

「その場合って、よほど物が気にいっているか、送り主に特別な思いがあるかのどっちかだろ?」
「なるほど」

「ケロちゃんがとても好きな子なんて数えるほどしかいないから、送り主はだいたいわかるだろ?」
「うんうん」

「見る人からみれば『白雪さんが好き』って気づかれるんじゃないか?」
「!!!」

「きっと噂になるぞ、そうなったら二人はどうするんだろう?」
「う〜ん……」

二人の間が進展したことを喜びつつも、この先が少し不安な二人だった。
To be continued
後書き 兼 言い訳
匠と美帆のデート第2弾です。
今回はうまくいったようです。

大きな事はないけど、確実な一歩かもしれません。

う〜ん、今回はあんまり書くことがない(汗

さて、この部もあと2話になると思います。
間違いなくGW明けです(笑)
目次へ
第103話へ戻る  < ページ先頭に戻る  > 第105話へ進む