第104話目次第106話
ここはひびきのから車で1時間ほど離れた場所にあるサーキット場

今日はバイクの全日本選手権シリーズの第2戦が行われる。

レース前のピット前は多くのファンがごった返している。

レース直前の各チームの様子を見る人もいるのだが、
やっぱり注目の的はレースクィーン。
レースを飾るサーキットの華である。


(うわぁ、みんな見てるよぅ〜)

そんなサーキット場に真帆がいた。

(そんなにじろじろ見ないでよぉ〜)

みんなが真帆に注目していた。

(わかってはいるけど、やっぱり……)


真帆の格好はオレンジと白のセパレートの衣装。
セパレートの衣装が真帆の胸の豊かさを強調していた。
注目されるのも無理はない。

(そりゃあ、私もそれなりに自信はあるけど……やっぱり恥ずかしいよ〜)



そう、真帆はレースクィーンとしてサーキット場に立っていた。

もちろんバイトで。

太陽の恵み、光の恵

第20部 初夏の学校編 その6

Written by B
きっかけは遊園地でのバイトが終わった後。
仕事を終えた真帆が着替えているときにバイト主任の舞佳と一緒だったことから始まる。

「……」
「あの〜、舞佳さん?」
「う〜ん、胸も良いし、お腹も綺麗だし……」
「舞佳さん!何見てるんですか!」

下着姿の真帆を舞佳は上から下までじっくりと見ていた。
恥ずかしくなった真帆はこれから着替える服で自分の前を隠していた。

「よしっ!大丈夫ね」
「えっ?」


「真帆さん、今度レースクィーンやってみない?」


「レースクィーンって……ええええええっ!」


真帆は突然のことで大声を出してしまう。



「真帆さんのようなナイスバディと爽やかな笑顔なら大丈夫よ」
「で、でもアレってオーディションとか……」
「あんなの大きなチームだけよ。小さいチームなんかはバイト感覚で雇ってるとこもあるわよ」
「そ、そうなんですか?」
「そう。実は私もバイトでやったことがあるのよん♪」
「はぁ……」
「私もレースクィーンをやったとこだから安心よん♪」
「ま、舞佳さんはやらないんですか?」
「残念ながら私はそのチームの道具運搬と炊事のバイトをやるからできないのよ〜」
「そうなんですか……」
「もう一人の娘と二人でやるからそんなに恥ずかしいことはないわよ」
「はぁ……」
「一度だけだから、経験だと思ってやってみたら?こんなの滅多にできないわよ」

確かに全く興味がないと言えば嘘になる。
ああいう華やかな場所に立ってみたいと思うことはないわけでもない。

「確かに……そうですね……」

真帆はやってみたいそぶりを少し舞佳に見せてしまった。
そうなれば舞佳の思うつぼ。

「じゃあ決まりね!日にちはまた連絡するから!」
「あ、あの……行っちゃった……まあいいか」

結局真帆に舞佳にほぼ強引にレースクィーンデビューが決められてしまった。
ちょっと不安だが、舞佳の紹介しているところならと信用することにした。



そしてレース当日。

舞佳と一緒にサーキット場にやってきた真帆は早速衣装に着替える。

「じゃあ、真帆さん。これに着替えて準備よろしくね♪」
「はい!」

着替える場所や一日の仕事内容など事前に舞佳から聞いている。
着替えの場所にはもう一人一緒にレースクィーンをする女性が着替えていた。
背丈は真帆より少し高いぐらい、見た目は大学生ぐらいの女性だ。
さっそく真帆は挨拶する。

「おはようございます。今日はよろしくお願いします!」
「白雪さんだっけ?舞佳さんから聞いてるわ。今日はよろしくね」
「はい!でも、私初めてなのでちょっと不安なんですが……」
「大丈夫。恥ずかしさを吹き飛ばすぐらい元気にやればいいの。女は度胸よ」
「わかりました。今日は頑張ります!」

さっそく真帆はその女性と仲良くなる。
誰とでも仲良くなれるのが真帆の最大の魅力である。



真帆はその先輩レースクィーンに衣装の綺麗な着こなし方を教えてもらい早速衣装に着替える。
着替え終わった真帆をみてその女性は改めて真帆をみて嘆息をあげる。

「白雪さんってまだ16歳なんでしょ?16でその胸は反則よ……」
「そんなことないですよ……先輩こそ足が長くて綺麗で……」

どちらも一般的にナイスバディと呼ばれる程のスタイルの良さだ。
お互いに羨ましくなるのも無理はない。

「さて、さっそく私たちの晴れ舞台の時間よ。気合い入れていくわよ!」
「はい!」

二人はさっそくピットに向かう。



(こんなにカメラを向けられるとは……)

基本的にレースクィーンとはチームに注目してもらうためにいるもの。
注目されれば、チームを応援する人が増える等メリットは多い。
それに、女の子に注目してもらうことで、レーサーやスタッフへの注目度が薄れ、
直前のレースへ集中することもできる。

もちろん本人もうまくいけば他の芸能関係をはじめとした仕事が増えるのだが。

真帆はパラソルを差し、二人で笑顔を振りまいている。

(笑顔って作ろうと思うとこんなに難しいとは……)

真帆は笑顔を振りまいているのだがどうも違和感を感じている。
笑顔を作ろうとしているのだが、どうも作った感じが自分でも否定できないでいる。
そんななか、となりの先輩が真帆に声をかける。

「白雪さん」
「はい?」

先輩は自然な笑顔を見せていた。
それをみた真帆もなんか嬉しくなってしまう。

「そう、その顔よ」
「えっ?」
「楽しんでもらうのが仕事だけど、自分も楽しまなきゃ。そうすれば笑顔は自然にでるわよ」

先輩は耳元でそっとささやく。

(なるほどね、楽しむことが大切か……)

真帆は改めて、周りを見る。

インタビューに答えるレーサー。
それを囲む記者やカメラマン。
その隣にいる美人のレースクィーン。
それを囲むカメラをもったファン。
そしてその中心に燦然と輝くバイク。

独特の雰囲気がピット周辺にあった。

(レース前ってこんな感じなんだ……ホント、おもしろいね)

リラックスできたのか、真帆の表情は自然な笑顔になっていた。

(やっぱり自分も楽しまなきゃね!……って、どんなバイトでも一緒か)

真帆は衣装の恥ずかしさも薄れ、自然に笑顔を振りまきポーズをとっていた。
自分がいるからなのか、このチームだからなのか、自分たちの周りの人だかりは他の同じくらいのチームの周りよりも多い気がしていた。



カメラのフラッシュにも慣れ、真帆もレースクィーンを楽しんでいたのだが、
ふと見るとどこかで見たような人の姿がいたような気がした。

(あれ?あの人は……いや、まさかね……)

その人はこちらへと近づいてくる。
だんだんとその人の姿がはっきりしてくる。
そして真帆の目の前に来てお互いが驚く。

「ま、真帆さん!」
「花桜梨さん!」

真帆の目の前にはカメラをもった花桜梨がいた。

「ど、どうして真帆さんが……」
「い、いや知り合いに頼まれて……」
「そうなんだ、でもとってもお似合いよ」
「えへへ、ありがと♪」

「ところで、花桜梨さんはなんでここに……まさかレースクィーンマニア……」
「そ、そんなわけないでしょ。私はバイクが好きで来たの」
「へぇ〜、意外だなぁ。でも花桜梨さんならバイクに乗った姿ってかっこいいでしょうね」
「ありがとう。じゃあ、これからもう少し回ってから観客席に戻るから」
「じゃあ、またね」

そう言って花桜梨は別のチームのところに行ってしまった。

(ああ、バレちゃったよ〜……まあ花桜梨さんだからいいか)

ちなみにこのバイトについての詳細はほとんど誰にも話していなかった。
バイトを頼まれた遊園地の帰りに同じバイトだった和泉恭子に言ったぐらい。
彼女もどうやら誰にも話していないらしいので、他に知っている人はいないだろう。

それぐらいこのバイトが恥ずかしかったからだ。
でも今はそうではなくなっている。

真帆は思う存分レースクィーンを楽しんだ。



そしてレースが始まった。

真帆がいるチームは小さなプライベートチームだが実力は中位ぐらい。
さすがに優勝経験はないが、入賞は何度かしている。

今日最大の仕事を終えた真帆はピットの後にあるチームの控え室にいた。

「先輩、今日の調子はどうですか?」
「今日は結構いい位置にいるわよ。うまくいけば久々に入賞できるかも」

真帆は控え室に入る前にピット内のモニターでレースの状況を確認していた。
でもモニターだけでは状況がわからなかったので聞いたのだ。

「は〜い、お二人ともお疲れ様。腕を振るったからたくさん食べてね♪」
「あっ、舞佳さんありがとうございます」
「うわぁ、美味しそう!」

そんな二人に舞佳が差し入れを持ってきた。
舞佳お手製の焼きそばとジュースだ。

舞佳はチームスタッフへの料理の準備を始め、道具の運搬や掃除など、チームの雑用を一手に引き受けている。
これがバイトかと真帆が舞佳に聞いたところ、本当にバイトらしい。
本来雑用をスタッフの家族に頼んでいるのだが、誰も都合がつかない場合はよく舞佳が頼まれるいうことだ。
舞佳がやったレースクィーンのバイトも雑用のバイトで来たときに、レースクィーンの一人が急病で急遽頼まれたのがそもそもの経緯だ。

「しかし、舞佳さんって何でもやれるのね」
「自分で『アルバイトのプロ』って言ってますからね」
「でも、仕事に対する姿勢は舞佳さんから色々教わったわ、本当尊敬しちゃう」
「私もです」

二人は舞佳の焼きそばに舌鼓をうちながら世間話に盛り上がる。



「劇団員?」
「そう、それが私の本職。私もこれはバイトなの」
「どうしてレースクィーンなんか?」
「う〜ん、生活費を稼がないといけないし、それに人前に立つ度胸をつけるためかな」
「そうなんですか」
「実はこのチームに私の伯父がいて、そのツテでやらせてもらってるの」

話は自分たちの身の上話、特に先輩の話になっていた。
先輩は年齢はまだ二十歳。
高校卒業後上京してバイトをしながら演技の練習に励んでいるそうだ。

「好きなことが仕事になるってどうなんですか?」
「う〜ん、本当は最高に幸せなんだろうけど、そうでもないんだよね」
「えっ?」
「極めるとなると大変だし、辛いことだってたくさんあるわよ。そんなときは演劇が嫌になることだってあるのよ」
「……」
「でも演劇が好きだから、辛くても続けられるんだけどね」
「へぇ〜」
「どんなに辛くても、仕事を好きになって楽しむことが大切。本当にそう思う」
「確かにそうですよね……」

確かに真帆から見た先輩の表情は生き生きとしている。
あんな生き生きとしながら仕事できたらどれだけ楽しいだろうか。
真帆はそんなことを感じた。
感心している真帆をみて先輩は照れくさそうに話を続けた。

「でも、これって舞佳さんの受け売りなんだけどね」
「えっ?」
「初めてのレースクィーンのとき一緒だったのが舞佳さんでそのときに教えてもらったの」
「先輩も舞佳さんから……」
「あの人って、普段はおちゃらけているように見えるけど、本当は凄く真面目なような気がするの」
「私もそう思いますよ」
「本当にプロだなって。とても勉強になったなぁ」

話を聞いていた真帆は舞佳が本当にすごい人だなとつくづく感じていた。



「あれ?なにかあったのかしら?」
「確かに……」

なにかピットが慌ただしい。
二人は話に盛り上がっていてレースの展開を見ていなかった。

「ちょっと様子をみて見るわね」
「私も一緒に行きます」

二人は自分のチームのピットに足を運ぶ。
ピット内はかなりテンションがあがっているようだ。
そこには舞佳もいた。

「舞佳さん。今どうなってるんですか?」
「それがいま8位にいるのよ!」
「ええっ!それって過去最高じゃないですか!」
「そうそう!上もまだ狙えるし、これはいけるかもよ」
「うわぁ〜、なんか楽しみだぁ」
「折角だからここで見てなさいよ」
「はい、邪魔にならないように見ます」

二人はピットの中でレースを観戦することにした。



レースは終盤に突入していた。

チームの監督が戦況を見つめながらピットインのタイミングを思案する。
スタッフはどんな状況でも対処できるよう万全の準備を整える。
ピット内に緊張感が走る。

順位は上がったり下がったり。

一瞬たりとも気が抜けない展開。

(うわぁ、すごくどきどきしてる……)

レースというものを初めて見る真帆もレースの醍醐味を感じ、レースに夢中になっていた。



しかし、それも最後まで続かなかった。

それは終了まであと少しというところ。

「「「「あっ!」」」」

突然チームのスタッフが一斉に声をあげる。

「急げ!状況を確認しろ!」
「はい!」

スタッフが一斉に動き出す。
先程の顔とは違う、焦りの表情が見ている。

しかし大半を締めていたのは落胆の表情。

そう、バイクが転倒しコースアウトしてしまったのだ。
どうやらカーブで先のバイクを抜き去ろうとしたときに転倒してしまったようだ。

「……レースって怖いですね」
「そうね……本当に最後の最後まで何があるかわからない、それがレースなのよね」
「……」
「だから私を含めてみんな夢中になっちゃうんだよね」

幸いレーサーに怪我はなくバイクも無事だった。

結局リタイヤとなったが、今後が期待できるレースとなった。



片づけも終わり、真帆は舞佳の車で帰ることとなった。
本当は打ち上げもあるのだが、明日学校がある真帆は出るわけにはいかず、早く帰ることとなった。

「今日はありがとうございました」
「お疲れ様。また機会があったら来てね、歓迎するから」
「ええ、機会があったらよろしくおねがいします」
「それとこれ、私の劇団の公演があるんだけど、良かったら来て」

真帆に渡されたのは2枚のチケット。
演劇のチケットだった。

「うわぁ、ありがとうございます!絶対に見に行きますから」
「うん。じゃあ学校頑張ってね」
「はい!演劇も頑張って下さい。応援してますから」
「ありがとう。じゃあお疲れ様」
「お疲れ様でした!」

真帆は先輩に丁寧に頭に下げてから舞佳の車に乗り込んだ。



舞佳の車は高速を走っている。
舞佳は車を軽快に運転しており、その助手席に真帆が座っている

「真帆さん。今日はお疲れ様」
「……」
「慣れない仕事で大変だったでしょ?」
「……」
「でもいい経験には……あれ?」
「すー……すー……すー……」

舞佳が話しかけても真帆は返事をしない。
変に思った舞佳がちらっと横を見ると真帆は眠っていた。

「よほど疲れたのね……」

舞佳はくすっと笑うと顔を前に向けた。

「お姉さんにまたバイト紹介させて欲しいな……次もいい経験させてあげるから……」

運転している舞佳の表情は普段見せない大人の表情をしていた。
そしてそれはとても優しい表情だった。
To be continued
後書き 兼 言い訳
真帆のアルバイト第3弾です。
92話の終わりでちらっと書きましたがレースクィーン真帆ちゃんの話です。

本文中にタラタラ書いてあるうんちくはHP等での受け売りです(汗

しかも、バイクレースはTVでも見たことがありません(こら
GTレースはTVで見たことはあるんですが。

さて真帆ちゃんに次はどんなバイトをさせようかなぁ。
ファーストフードが基本ですが、他のバイトもさせようかと思ってはいるもののアイデアはまったく思い浮かばない(汗

次回は第20部最終話の予定です。
今回前振りもなく現れた花桜梨さんのお話です。
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