第105話目次第107話
きらめき市にある自動車免許の試験場。
今日は二輪車の免許の試験日。

ちょうど今試験の合格者の番号が発表されたところだ。

「20,22,27,28……」

一人の少女が電光掲示板に表示された番号を追っている。
不安な表情で一つずつ番号を追う。

「30,34……38………あった!」

自分の番号がみつかったようだ。
少女の顔からみるみる喜びの表情が浮かび上がってくる。

「やった……これでとうとう……」

感慨深げに電光掲示板を眺めている少女。

「……長かった……」


八重花桜梨18歳。

念願の大型二輪免許取得の瞬間であった。

太陽の恵み、光の恵

第20部 初夏の学校編 その7

Written by B
花桜梨の家のマンションの駐車場。

綺麗に車が並んでいる駐車場の片隅に大型バイクが置いてある。
古いバイクのようだが、丁寧に手入れがしてあって綺麗に光っている。
バイクのボディの紅が特に綺麗に光っている。

花桜梨はそのバイクの側に座って語りかける。

「いままでこそこそ乗っててごめんね……もうそんな事はないからね」

「こんどは昼間思いっきり乗り回すから、楽しみにしててね」

「これからも長いつき合いになるけど……よろしくね」

実は花桜梨のバイクだったのだ。



次の日曜日の朝。

駐車場には黒のライダースーツに身を包んだ花桜梨が立っていた。

「いよいよね……なんか初めて乗ったときみたいにワクワクしてる……」

花桜梨はこれまた黒のフルフェイスのヘルメットをかぶりバイクにまたがる。

少し震える手でキーを差し込む。
そしてキーを回す。



ブロロ……



エンジンが産声をあげる。

スロットルを回し、エンジンの状態をあげていく。



ブロロロロロ……



エンジンが産声から雄叫びに変わる。
右足でギアをチェンジしバイクは走り出す。

「今日は思いっきり行くわよ!」

花桜梨のバイクは颯爽と走り始めた。



「今日は久々に海沿いを走ろう……」

花桜梨は高速道路に入った。
今日の最初の目的地ははばたき市の海岸。
はばたき市へのインターはバイクでは高速道路を使うと約30分ぐらいかかる。

花桜梨のバイクは快調に動いている。

「バイクもご機嫌なのかしら……」

ライダースーツ越しに感じる空気抵抗がなにか心地よい。

「気持ちいいなぁ……」

花桜梨は気持ちよさそうだ。



ブロロロロロ……



ふと気が付くと花桜梨の後からバイクのエンジン音が聞こえてきた。
最初は小さかったのだが、段々大きくなっていく。

「あら?」

ふと横を見ると一台の大型バイクが追いついて、横を併走していた。

(いいセンスしてる……しかし渋いわね……)

横のバイクはシルバーでまとめられており、それがボディの黒を強調させている。
花桜梨はバイクに乗っている人をみてみる。
服装、体つき、そしてヘルメットからわずかに見える表情。

(えっ?……女……の子?)

花桜梨は驚いた。
体つきは女性だと思っていたのだが、ヘルメットから見える顔はどう見ても若かった。

(えっ?)

ふと気が付くと横の女の子がなにやら手で合図を送っている。
どうやら「一緒に行かない?」と誘っているようだ。

(一緒か……楽しそうね……)

花桜梨は「OK!」という合図を手で送る。
隣の女の子が指でどこかを差す。
指している方向にはサービスエリアが見える。
どうやらそこで休もうということらしい。
花桜梨も承諾する。

2台のバイクは並んでサービスエリアに入っていく。



バイク専用の駐車場にバイクを止める。

二人はバイクを降りる。
そしてヘルメットを脱ぐ。

「ふぅ……」
「ふぅ……」

ヘルメットを脱いだ顔に涼しい風が当たる。
それがとても気持ちいい。

そしてお互いの顔を見る。

「やあ、いきなり誘って悪かったね」
「ううん、別にいいのよ」
「ここら辺で、あんまりバイク乗ってる若い女の子っていないからね。つい誘っちゃったよ」
「私も普段は一人だから、思わず嬉しくて受けちゃったの」
「あははは、あたしも普段は一人で乗ってるからさ」

相手の子は髪型がショートでボーイッシュな顔立ちをしている。
しかし結構美人タイプと言った感じだ。
話し方も男の子っぽい感じの軽い感じだ。

「そういえば、自己紹介してなかったね。あたしは神条芹華、よろしくな」
「私は八重花桜梨。今日はよろしくね」
「じゃあ、さっそく海に行こうか!」
「そうね、行きましょ!」

二人は再びヘルメットを被るとバイクに乗り込んだ。
そして軽快なエンジン音を響かせてサービスエリアを飛び出した。



「うわぁ、やっぱり気持ちいいなぁ!」
「本当、風が気持ちいい……」

インターチェンジを降り、そのまま臨海公園にバイクを走らせる。

駐車場に着いた二人は、臨海公園の中心にある煉瓦道を歩いていた。
海風が気持ちよく、また景色も綺麗で心が和むようだ。

「しかし人が多いなぁ……人気あるのか?」
「そうみたいね。でもそうかもしれないわね」

ここは最近開発がすすんでおり、新しい施設が続々と建設されている。
最近、注目のスポットとしてTVや雑誌で有名な場所だ。

しかし、流行とかはあまり興味がない花桜梨はそう言うことはあまり知らない。
芹華も同様らしい。

「なあ、折角だからどっか寄ってかないか?」
「そうね、どこがいいかしら」
「あそこに水族館があるから行ってみないか?」
「水族館かぁ……いいわね、そうしましょう」

二人はさっそく水族館に向かう。



「すごいなぁ、魚がたくさんだな」
「そうね……」

この水族館は最近できたばかりらしい。
大きな水槽が幾つもあるのがウリで、世界中の海の生物を生態系ごとに見ることができる。

「あ……」
「ん?」
「すごい……魚がこんなに……綺麗だな……」
「……」

花桜梨は水槽のなかの魚たちに見とれていた。
水槽の中の魚たちは綺麗な舞を舞っているように見えた。

そんな花桜梨を芹華がじっと見ていた。
花桜梨はそんな芹華に気づく。

「あら?どうしたんですか?」
「いや、何だか知らないけど、綺麗な顔しているなって……」
「あっ、やだ、恥ずかしい……」

正直に言ってしまった芹華と、ストレートに綺麗と言われてしまった花桜梨。
それぞれが恥ずかしくなってしまう。



見る水槽を変えた二人。
今度の水槽はウミガメが何匹も泳いでいた。
芹華が何かをみつけたようだ。

「なあ、ウミガメの親子が並んで泳いでたな」
「そうね、なんか微笑ましいわね」
「羨ましいな……」
「えっ……」

花桜梨は隣の芹華を見る。
彼女の表情はとても寂しそうだった。

(芹華さん……)

もちろん、花桜梨はどうして寂しいのか聞くことはしなかった。



水族館を出るころには、太陽が真上に来ていた。

「さて、これからお昼だけどどうする?」
「そうね、まずはガソリンを入れなきゃ」
「あたしもちょっとヤバイかも。じゃあまずは近くのスタンドに行くか」

さっそくバイクに乗った二人は近くのガソリンスタンドに向かう。

「『スタリオン石油』……凄い名前ね……」
「でも、結構車が入っているから、案外いいスタンドじゃないか?」
「そうね、さっそく入りましょうか」

二人はバイクをスタンドの中に止める。
建物の中から若い男性が出てくる。

「いらっしゃいませ!」
「両方とも満タンで」
「はい、かしこまりました!」

威勢の良い声がスタンドに響く。
二人はバイクから降り、建物の中に張ってある地図を見ている。

「なあ、昼を食べたら山道を行かないか?」
「そうね、山道のカーブってスリルあるわよね」
「あたしはそんなにスピードを出すつもりは無いけど、いいかい?」
「ええ、私も事故に遭いたくないから」

午後のルートは海から一転山に行くことになった。



予定も決まったところでバイクのところに戻ってみる。

「えっ?」
「えっ?」

バイクにガソリンは入れ終わったようだ。

「うわぁ、このバイクはええなぁ、手入れもしっかりしとって綺麗やなぁ……」


ところがさっきの店員がバイクをじっくりと眺めている。
関西弁で二人のバイクを褒めまくっていた。

二人は恐る恐る声をかけてみる。

「あのぅ……」
「ガソリンは……」
「おおっ!これは失礼しました。いやぁ、お二人さんのバイクがごっついいバイクだったから思わず見とれてもうたんや」

店員は慌てて謝る。
どうやら悪気はまったくなかったようだ。

「へぇ、あんたもバイク好きなんだ」
「そりゃ、オレはとにかくバイクが大好きや!三度の飯より……ってわけやないけどな」
「は、はぁ……」

バイクの話で店員のテンションがあがっている。

「ほぅ、よくみると、お二人さんともごっつぅべっぴんさんやなぁ。折角だからお昼でも一緒にどう?」
「はぁ?」
「はぁ?」

いきなり店員に誘われて二人は思わず変な声を出してしまう。

「おおそうや、お付き合いの前に名前を名乗らないといけないな」
「えっ?」
「オレの名前は姫条まどか。女みたいな名前だけど、実はこう見えて女やねん」

「……」
「……」

「あかん……はずしてもうた……」

3人の間につめた〜い雰囲気がただよう。



「まあ、それはともかく、さっそくお昼に……痛っ!」
「ちょっと!仕事サボって何やってるのよ!」

店員がいきなり悲鳴をあげた。
よくみると店員の後に女の子が仁王立ちで立っていた。
服装はファーストフードの店員の格好をしている。

「こいつ、なに人のケツを蹴るんや」
「あんたこそバイト中になにナンパしてるのよ!」
「これは、店員としての接客サービス……」
「お昼に誘う接客なんて聞いたこと無いわよ!」
「ところでいったい何の用なんだよ?」
「何よ。あんたが今日もバイトしてるって聞いて、折角差し入れ持ってきたのに……」

女の子は右手に持った袋を店員に見せる。
ファーストフードの大きな袋だ。

「おおそうか、それはすまなかった!じゃあさっそく……」
「こら!その前に言うことがあるでしょ?」
「はぁ?」
「可愛い女の子に奢ってもらってお礼は無しなの?」

「すまんすまん……いつも、ありがとうな、ホンマ感謝しとるで」
「……はい……バイト頑張ってね」

女の子は照れくさそうに両手でハンバーガーの袋を店員に渡す。
店員はもらった袋を早速開ける。

「あれ?二人分あるぞ」
「いやぁ、一緒に食べたいなぁって……」
「ほなちょっとまて、この仕事が終わったら休むから」
「早くしてね、アタシも休み時間使ってるんだから」

「OK……それじゃあお勘定お願いします!」
「はぁ……」
「はぁ……」

完璧に無視されていた二人はようやくお金が払えるということでほっとしていた。

結局二人はファーストフードでお昼にすることにした。



「それでは山道へといくか!」
「じゃあ行きましょ!」

昼色を食べた二人はいよいよ山道に入っていく。

芹華のバイクが先頭で花桜梨のバイクが後からついていく。



ブロロロロロ……



車がめったに通らない山道。
その山道を2台のバイクが颯爽と駆け抜ける。



ブロロロロロ……



カーブはバイクを体と一緒に倒して曲がりきる。
まっすぐな道ではスピードを上げて走り抜ける。

二人ともこの道は慣れているのだが、何度走ってもスリルがある。

(やっぱり楽しいなぁ)
(本当に楽しいわね……)

太陽に照らされて綺麗に輝くバイクに乗っている二人は本当に楽しんでいるようだ。



そして二人は山の頂上にある展望台にたどり着く。
二人はベンチに腰掛けている。

「何度見てもここからの景色は綺麗だよな……」
「私もそう思うな……」

山から見下ろす景色はとにかく綺麗だった。
特に今日は天気が良かったので、下の町並みがはっきりと見える。

しばらくはその景色を楽しんでいた。



ふと芹華が時計をちらっとみると不意に立ち上がった。

「さてと……あたしは用事があるからここでお別れだな」
「えっ?もう帰るの?」
「ああ……ちょっと遅刻したらまずい用事でね……」
「そうなんだ、気を付けてね……」
「ありがとう。あっ、ちょっと待って……え〜と、どこだ……」

芹華がポケットを探って何かを探している。

「あっ、あった!え〜と……なぁ、よかったらこれ受け取ってよ」

芹華が見つけたのはメモ帳と小さなペン。
芹華がメモ帳になにやら書き込むとそれを破って花桜梨に渡した。
花桜梨が見たのは10桁の数字だった。

「えっ?これは……電話番号?」
「ああ、あたしの家の番号。また良かったら誘ってよ」
「ありがとう。じゃあ、私の家の電話番号も……ちょっと貸して」
「えっ?……ああいいよ」

花桜梨は芹華からペンを借りるとメモ帳に自分の家の電話番号を書いた。

「なあ……あたしから誘ってもいいのかい?」
「ええ……大歓迎するわ」
「本当かい?嬉しいな……」

感慨深げにメモ帳の番号を見ていた芹華。
そのメモ帳を大事にしまう。

「じゃあ、今日はありがとう!じゃあな!」
「ええ、またよろしくね!」

二人ともツーリング仲間ができてとても嬉しいようだ。
お互いに笑顔でお別れとなった。



花桜梨はしばらくその場で休んでいたが、時計を見て自分も立ち上がった。

「さてと……私も帰りますか」

花桜梨は駐車場に戻り、ヘルメットを被りバイクにまたがる。



ブロロロロロ……



バイクはエンジン音を響かせ出発する。
バイクのエンジン音は花桜梨の気持ちを代弁しているかのように快調だった。
To be continued
後書き 兼 言い訳
第20部は今回で終わりです。
花桜梨のバイク話です。

こんな話を書いて何ですが、私はバイクは乗ったことがありません(汗
4輪車も長期休暇のときに田舎に帰って乗る程度です。
従って表現が変なところがあるかもしれませんが、そこは大目に見て下さい(汗

今回のゲストキャラは3人。

まずは花桜梨のバイク仲間となった神条芹華。
3キャラでは5人目ですが、台詞数は一番多い気がします(笑)
花桜梨と芹華の繋がりは今後も書く予定です。

あとは、ようやくGSキャラが出せました。
おわかりの通り、姫条まどか&藤井奈津実です。
こいつらはまだ友達以上恋人未満レベルを想定してます。
他のGSキャラも出せれば良いのですが、出し方が難しく現在思案中です。

次回からは第21部。
お待ちかねの体育祭です。
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