第106話目次第108話
もうすぐ6月。

春の気配がまったなくなり、夏がやってくるのを待つばかりという空。

街も暑さからか半袖の人も多くなってきた。

そんななかひびきの高校では一足早い夏がやってくる。



クラスの半分以上が燃えに燃える数少ない行事。

それが体育祭だ。



クラス対抗というのについつい燃えてしまうのは小学生でも高校生でもなんらかわりはない。

燃えた方が楽しいし、いい想い出にもなる。
結果もクラス一体となって燃えたところが優勝するものだ。
冷めたクラスというのは下級生にも負けて惨憺たる結果となる。

幸いなことにどのクラスも体育祭に向けて張り切っているようだ。


「よおし!今年はぜぇ〜〜ったいに勝つぞぉ!」
「ほむら、ちょっと張り切りすぎだよぉ……」

この人はもちろんのこと、学校中の誰もが張り切っている。

太陽の恵み、光の恵

第21部 体育祭編 その1

Written by B
ひびきの高校の体育祭は、人によっては「球技大会」と呼ぶかもしれない。

種目は5つ。
男子がソフトボールとバスケット
女子が9人制バレーとソフトテニス
そして男女混合の綱引き。

3学年混合のトーナメントで試合に勝つと勝ち点がもらえる。
5種目終わって勝ち点の合計の高いクラスが総合優勝となる。

これとは別に2年生と1年生では学年でトップのクラスは表彰される。



「絶対に優勝して賞金で打ち上げをぱぁ〜とやるぞ!」
「ほむらったら、気が早いよぉ」

なんと、この体育祭は賞金が出るのだ。

「なくてもいいけど、ごほうびがあったほうが燃えるじゃろ」

という校長の考えで、種目優勝には5千円。総合1位には3万円、学年トップには1万円等の賞金が校長のポケットマネーから出ている。

たった1万円というなかれ。

40人のクラスなら1万円でお菓子とジュースでそれなりの打ち上げができる。
しかし、大抵は秋の文化祭のためにストックしておくという事が多い。

「まずは祝勝会に買う物のリストアップだ!」
「だから、それは捕らぬ狸の……って言うでしょう!」

その体育祭の選手を決めるための2Eのホームルーム。
一人で勝手に盛り上がるほむらを光が必死に抑えるのに四苦八苦している。

普通はこういう状況だと白けやすいのだが、このクラスはそうでもなさそう。
どうやら誰もが勝つ気満々と言った感じだ。



「ねぇ、ぬしりんはどっちにでるの?」
「俺は中学で野球やってたからソフトだよ。美幸ちゃんはバレーだよね?」
「そうだよ。でもテニスのコーチを頼まれちゃって……」
「コーチかぁ、大変だろうけど頑張ってね」
「うん!頑張るよ!」

当然のことだが、「本職」である野球部、男子バスケ部、女子バレー部、女子テニス部はその種目に出られない。
しかし、「本職」なのでクラスメイトからコーチや監督役を任されることになる。
もちろん任された方も大抵はよろこんで引き受ける。

「じゃあ、今日の放課後、選手リストを作って生徒会室に提出しようか?」
「そうだよね〜」

休み時間、2Aの教室。
ホームルームで種目を決める会議を終わらせたクラス委員の公二と美幸が打ち合わせをしていた。

「あと、練習はどうするの?」
「うん、お昼休みにやろうかって話だけど」
「でも他のクラスも同じ事考えてるんじゃないの?」
「そうなんだよねぇ、だから放課後に市営の施設を借りてやろうかなぁって」
「それも早いもの勝ちなんだよなぁ」
「もう予約しなくちゃね」

練習も場所の確保からしなければいけないので結構大変だ。



「コーチ、一緒に御飯食べよ♪」
「茜さん!そんな風に呼ばないで……恥ずかしいから……」
「えへへ、ごめんね。でも一回呼んでみたくて」

お昼休み、2年D組の教室。
バレーに参加する茜と、バレーのコーチ役となった花桜梨が一緒にお昼御飯を食べている。

「でも、みんな花桜梨さんのコーチに期待してるよ」
「期待されるのは嬉しいけど……」
「大丈夫だよ。別にプロに育てるわけじゃないんだから」
「そうね。基本を教えればいいんだよね……」
「そうそう。それだったら簡単だと思うよ」

運動神経抜群の花桜梨はバレーのコーチ役にくわえ、テニスではエースとしての扱いをされている。
クラスでも孤立していた去年の花桜梨は補欠扱いでまったく参加しなかったことを考えるとかなりの差である。

今年は去年の分も含めて頑張ろうと思っている花桜梨だった。

「期待してますよ♪」
「どれだけ期待に応えられるかわからないけど……頑張るね……」
「じゃあお昼を食べたらちょっと教えて?」
「ええ、いいわよ」

お昼を食べ終わった二人はクラスメイトを誘って体育館に練習に出かけた。



どこも順調そうだが、2Fだけちょっと揉めている。
お昼休みでもまだ揉めている。

「だから燃えるような真っ赤なTシャツがいいって言ってるだろ?」
「こういう戦いの場にはやっぱり白の鉢巻きよ」
「別に特攻隊じゃないんだから、鉢巻きにしなくても」
「でも真っ赤なTシャツってなんか変だとおもうわ」

揉めていると言っても、揉めているのはクラス委員の琴子と文月の2人だけ。

「大体鉢巻きって単純でつまんないだろ?それよりもデザインに凝ったTシャツのほうが……」
「鉢巻きの単純さがいいのよ!」
「そうかなぁ?」

実は参加種目は2人がしきったおかげであっさりと決まっている。
問題なのは他のこと。

2Fでユニフォーム的なものを作ろうと文月が提案したことが発端。
この提案には琴子も含めて誰も異論はなかった。

問題はその衣装。

文月は赤のTシャツ。
琴子が白の鉢巻き。

お互いにまったく譲らないのだ。



クラスメイトは別にどっちでもよかったのだが、2人があまりに言い張るので結論を2人に任せてしまっている。

とにかく琴子と文月の意見はまるで合わない。

文月は新しい物や外国の物を好み。
琴子は古い物や日本の物を好む。

これでは意見があわないのも無理はない。


さらに例の事件のあと、琴子が譲らずに主張するようになったことが結論を遅らせている原因にもなっている。

そんなにあわないなら話をしなければいいと思うのだが、この2人は日を追うごとに少しずつ親密になっているのがまたやっかいなところ。

いまでは琴子と文月の口論は2Fの名物になりかけている。


「なぁ、琴子さんもいい加減譲れよ」
「同じ言葉を返してあげるわよ」

「……」
「……」

一通り主張してみたものの、相手がまったく譲る気配がない。

こうなると八方ふさがりになってしまう。



「それで結局どうしたんだ?」

「それが……その……」
「両方……ということになって……」

結局放っておくこともできなくなった、クラスメイトが仲裁に入ることになる。
「それだったら両方にすればいいだろ?」と言う、一番単純で明快な提案を飲むことになる。

「そんなの最初に思いつくんじゃないのか?」

「それが……あたし達が意地張っちゃって……」
「まあ……そんなところだ……」


放課後の生徒会室。

琴子と文月が選手の名簿を提出したときには問題はこのように解決していた。
隣の教室で2人の口論を耳にしたほむらに答える2人はなにか恥ずかしそうだった。


「赤のTシャツに白の鉢巻きね……他のクラスではやってないからいいんじゃないかしら」
「そうね……じゃあうちのクラスはそれできまりね」

生徒会のほうはほむらと橘 吹雪が名簿の受付をしていた。
ちなみにいつもは橘と一緒にいる藤沢 夏海だが、彼女はどうやら2Dのバレーの練習に行ってしまったらしい。

「なぁ、他のクラスってどうなんだ?」
「噂だとTシャツだったり、帽子だったり。サッカーのユニフォームってのもあるわよ」
「サッカー?サッカーは種目にないだろ?」
「ええ、でもユニフォームに決まりはないから。それに上着だけみたいだからどの種目でも使えそうね」
「あれって、結構かっこいいんだよなぁ」

「それってどこのクラスなの?」
「2Dよ。どうやら夏海のアイデアらしいのよ」
「『ユニフォームといったらサッカーのはいいっすよ!』って言って満場一致だったみたいだぜ」

「そうか、俺達もそれにすればよかったかなぁ?」
「あのね、人の意見に流されるんじゃないわよ!」

話を聞いて羨ましがる文月に琴子が突っ込む。



ガラガラッ



「お〜い、名簿持ってきたよ〜♪」
「あれ?水無月さん、もう来てたんだ?」
「ええ、どうやら私たちが一番最初みたい」

生徒会室に公二と美幸がやってきた。
2人も大会の名簿を持ってきたところだ。

「じゃあ、預かっておくわね。ところで2Aって何かつくるの?」
「ああ、黄色のTシャツでも作ろうかと思って」
「そうなの!それで胸に大きな地球儀を描こうって言ったらみんなから止められちゃって」
「そりゃあ、あたりまえだろ。それはあのチャリティー番組のTシャツだよ」
「そうだな、あの何のチャリティーかよくわからない……もがもがもが……」
「こら!そうかもしれないけど、思ってても言わないの!」

文月の口を琴子が慌ててふさぐ。

「おや?あなたもそう思ってるわけ?」
「そ、それは……」
「あらあら。2人揃って毒舌家とは仲がよろしいようで」

「……」
「……」

「なあ……吹雪も人のこと言えないぞ……」

吹雪の言葉に顔を真っ赤にする琴子と文月。
それを冷ややかな目で突っ込むほむら。
それはそれで和やかな風景だったりする。



2Aと2Fのクラス委員が立ち去り、再び2人きりになった生徒会室。

「なあ、ところで吹雪の2Cはまだなのか?」
「今決めているところよ」
「お前はいなくて良いのか?」
「どうせあたしは戦力にならないから補欠にしているはずよ」
「ふ〜ん」

吹雪もちゃんと選手扱いされているとはこのときは全く知るよしもなかった。

「ところで2Eはどうなの?あなたがクラス委員でしょ?」
「ああ、今、陽ノ下に名簿を作らせているから」
「それって仕事を押しつけているんじゃないの?」
「しょうがないだろ!あたしはここで受付しなくちゃいけないんだから」
「まあそうね……」



ガラガラッ



今度は光が入ってきた。
すこしだけ頬をふくらませながら名簿を渡す。

「もぅ〜、一人で作るのは大変だったんだからぁ〜」
「いやぁ、ごめんごめん」
「じゃあ、これからバイトだからもう帰るね」
「ああ、忙しいところすまなかったな」
「別に良いよ。バイトで練習にそんなに参加できそうもないから、このぐらいやらないと。それじゃあね♪」

そういって、光は生徒会室から走っていった。



それから次々と名簿を持っていく人が現れ、全部の名簿が到着したのはそれから1時間後の事。

「これで全部そろったわね」
「ああ、あたしはこれから体育祭に向けてトレーニングに……」
「待ちなさい!まだ仕事があるわよ!」

こっそり抜け出そうとしたほむらの首根っこを吹雪ががっしりとつかむ。

「待てよ!体育祭の仕事はこれだけだろ?」
「体育祭の仕事はこれだけよ。でも生徒会の仕事がたまってるのよ!」
「誰のせいなんだよ?」
「あなたのせいでしょ!」
「わりぃ、今日だけは勘弁……」
「その台詞毎日言ってるわよ!今日は絶対に逃がさないからね!」
「……」

結局ほむらは夜遅くまで吹雪の監視の元に生徒会の仕事をたっぷりとやらされることとなった。



そしてその日の深夜。

公二と光はひとつベッドの下で抱き合って眠る直前。
ちなみに、2人とも体育祭に向けた朝練があるということで、今日は新婚夫婦がよく夜にヤルことはしていない。
この夫婦は暴走したらとまらないが、そうでないときは後先を考えてしっかり行動している。

「ねぇ、今度の体育祭はお互いに頑張ろうね♪」
「そうだな、お互いに活躍できたらいいな」
「去年は3年生にボコボコにやられちゃったからねぇ」
「今年はまず勝ちたいよな」

2人ともやる気満々といった感じだ。

「本当なら同じクラスだったらよかったのになぁ……」
「まだいうか……それはもう言わない約束だろ?」
「うん、でももし組合せで当たったら敵同士になるわけだし……」
「そこは我慢だよ。割り切らないと余計に辛くなるよ……俺だってそうだし……」
「そうだよね……ごめんね、こんなこと言っちゃって」
「いいよ、俺もそう思うから」

そんなことを言っているうちに2人に眠気が襲ってきた。

「さて、明日も早いし寝ますか」
「そうだね、じゃあおやすみ……」
「おやすみ……」

さっきはあんなことを言っているが、いざ本番が近くなるとライバル心メラメラになるとは本人達はまったく知るよしもなかった。
To be continued
後書き 兼 言い訳
第21部はおまちかねの体育祭編です。
最初から最後まで体育祭です。

ところで、体育祭ですが、運動会形式ではなく球技大会形式にしました。
どうしてかって?
私の高校の体育祭が球技大会形式だったから(笑)
だから高校での運動会ってイメージが全然湧かないんですよ。

燃えるような光景が書ければとおもってます。

次回はまだ大会前です。
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