第107話目次第109話
体育祭に向けて練習にも力が入る頃。

体育祭の前にある大きなイベントが近づいてくる。

それが抽選会である。
当日組合せを決める綱引きを除いた4種目の組合せをここで決める。

これによって体育祭でのクラスの成績に大きく関わってくる。

運が良ければ準決勝ぐらいまでは計算できる。
逆に運が悪ければ早々に諦めなければいけないということもある。


ある意味、抽選会は前哨戦とも言えるのだ。


それ故に、毎年抽選会では会場となる体育館にはたくさんの人が集まる。

もちろん盛り上がらない訳がない。

そしてくじを引く人も気合いが入る。


「やだよぉ!美幸、絶対に引きたくないよぉ!」

しかし彼女だけはかなり嫌がっていた。

太陽の恵み、光の恵

第21部 体育祭編 その2

Written by B
放課後。
30分後に抽選会が行われようとしている。

しかし美幸は机にしがみついて離れようとしない。
公二が説得しているが美幸は首を横に振るばかり。

「美幸ちゃん。これも仕事なんだから」
「駄目だよぉ!美幸が引いたら絶対に悪い結果になるんだよぉ!」

抽選会でくじを引くのはクラス委員と決まっている。

「大丈夫だって。誰も文句は言わないから」
「そんなことないよぉ!絶対に美幸の事を恨むんだよぉ!」
「誰も思わないって」
「嫌だよぉ……美幸、クラスの迷惑になりたくないよぉ……」

美幸は半泣きの状態になっている。



(まあ、気持ちはわかるけどなぁ……)

公二はため息をつきながらも美幸に同情していた。

美幸は本当に運が悪い。
美幸の話だとおみくじで大凶以外引いたことがないそうだ。
そもそもこのクラス委員だってアミダくじに当たってなったのだから。

そんな美幸が抽選会に出たら?
なんとなく結果がわかってしまう。

(でもなぁ……)

それでもクラスメイトは美幸にクジを引かせることにした。
理由はある。



公二は美幸に優しく声をかける。

「美幸ちゃん?」
「なに?」

「さっき迷惑をかけると言ったけど、じゃあなんでクラスのみんなは何も言わなかったのは何故だかわかる?」
「だって、決まりだから……」

「それもあるけど、やっぱり美幸ちゃんを信頼してるからだよ」
「えっ……」

「みんな言ってるよ『美幸ちゃんだから、クジなんかで文句は言えない』って」
「……」

確かにそう言っていた。
美幸のがんばりはみんなが理解してくれた。
それだけみんなの信頼を得ていた。

「それにクジは美幸ちゃんが引くんじゃなくて、みんなで引くんだ」
「えっ?」
「美幸ちゃんはみんなの力を借りて引くんだ。だから大丈夫だよ」
「ほんとう?」
「本当だって!だから自信持って?」
「ありがとう……美幸、自信が持てそうだよ……うん……」

美幸にようやく笑顔が戻る。

「行くよね?」
「うん……美幸頑張る……ありがとう……」

美幸はようやく立ち上がった。
そして2人は体育館に向かう。



そして抽選会。

抽選会と言っても、各クラスのクラス委員が演台のところでクジを引くことの繰り返し。
大げさな演出は一切無し。
マイクは使っているが校内中に実況するわけでもない。

それでも、ステージの上に張られたトーナメント表にクラス名が埋まるたびに様々な声が挙がる。
こういう緊張感は世界一を決める大会となんら変わりはない。

まずは男子ソフトの抽選から始まる。
3年生から順番に引いていく。

(さてと、俺が良いところを引かないと……)

順番待ちの公二は少し緊張していた。

(責任重大だな……)

確かに美幸を励ましたものの、やっぱり美幸の不幸は計算しておかないと行けない。
まず女子の1回戦負けは覚悟しないと行けないだろう。
そうなると男子が勝ち点を稼がないと上位は望めない。

少なくとも1回戦ぐらいは勝たないとマズイ展開になる。

まさにクジに運命を託すという感じだ。



「次は2Aの番ですのでクジを引いて下さい」

司会の声に反応して公二が立ち上がる。
そして演台に向かう。

演台には12枚の封筒(すでに3年生の分6枚はなくなっている)が置いてある。


公二は深呼吸をする。

そして演台の封筒を眺める。

公二は目についた封筒を手に取る。

そしてその場で封筒を開ける。


公二は後を振り向きトーナメント表を眺める。

(よかった……3年とじゃない……)

引いた場所の隣にはまだどのクラスも入ってなかった。
最初に3年生が引いているので、対戦相手は2年か1年になる。

安心した公二はそのままトーナメント表にいる係の人にクジを渡す。

係の人はそれをみてトーナメント表に2Aの文字を書き込む。

ざわざわざわざわ……

その瞬間会場はにわかにざわつく。

その余韻を残したまま次の2Bのクラス委員がクジを引きはじめる。

こうして緊張感の中、抽選会は続く。



男子ソフトと男子バスケが終わったところで休憩が入った。

「おい公二!1枚目で気が抜けたんじゃないのか?」
「そんなことないって」
「おまえはソフトだからいいけど、俺達バスケのほうは大変だぞ」
「本当にすまない!ごめん!」
「寿さんの運が悪い分、男子が頑張ろうって決めたのに、お前がヘマしてどうするんだよ」

体育館の隅で公二はクラスメイトから大顰蹙を買っていた。

実はバスケの抽選で3年生とぶつかることになってしまったのだ。

確かに文句を言いたくなるのも無理はない。

「まあ、いろいろ言っても仕方ないか、さっそく練習に行くか?」
「俺はまだ抽選会があるから残ってないと」
「じゃあ、あとはよろしくな」

それでも気を取り直したクラスメイト達はさっそく練習に行ってしまった。



そして女子の番が始まった。

男子は半分が帰ってしまっているが、まだまだ人は多い。

(美幸だけじゃないんだよね……みんなで引くんだよね……)

美幸はずっと自分に言い聞かせていた。
緊張はしているが、それでも不思議なぐらい落ち着いていた。

「次は2Aの番ですのでクジを引いて下さい」

(よしっ!美幸がんばる!……みんなの力があれば大丈夫!)

美幸は気合いを入れてクジのある演台に向かった。



「うわ〜ん!」

抽選会終了後。

「うわ〜ん!」
「美幸ちゃん、なにも泣かなくたって……」
「そうですよ。いくらなんでも……」

美幸がとにかく泣きまくっていた。

「だってぇ……」
「まあ、気持ちはわかるけど……」
「そうだけど……」
「だって、美幸感激だよぉ〜!」


結論から言うと、「そんなに悪くなかった」

確かに、2種目とも1試合余計に試合をする場所を引いてしまっていた。
しかし、問題はその対戦相手。

バレーは3年生だが、強いという前評判はないクラスだ。
そしてテニスに至っては相手が1年生だったのだ。

おみくじで言えば「凶」または「吉」ぐらいの結果。
それでも予想以上の結果に「もしかしたらいけるかも」という希望がクラスメイト全員に沸いてきていた。

そしてクジを引いた美幸は感激するのも無理はない。



そんな美幸を公二と、会場に来たばっかりの美帆が付き添っていた。

「美幸こんなクジ引いたの初めてだよぉ〜、やっぱりみんなのおかげだよぉ!」
「そんなことないですよ。引いたのは美幸ちゃんなんですから」
「違うよぉ!みんなで引いたから良かったんだよぉ!」

泣いてはいるものの、顔は満面の笑み。
美幸がどれほど嬉しいのかは誰がみてもわかるようだ。

「美幸ちゃん。よかったね」
「うん!ありがと〜」

抽選会に参加していたクラス委員代理の光も美幸を祝福?する。

「でもこれで体育祭は頑張れそうだね」
「うん!美幸頑張るよ!」
「テニスのコーチも頑張ってね」
「よ〜し、がんばるぞ〜!」

抽選会前とはうってかわって元気いっぱいの美幸だった。



そんな美幸を横目に光が公二にささやく。

「ねぇ、そろそろバイトじゃないの?」
「あっ、そうだ。光もバイトだから途中まで一緒に帰るか?」
「うん!」

公二と光はさっそく帰り支度をはじめる。

「美幸ちゃん。じゃあ俺はバイトだからあとはよろしくね」
「うん!」
「じゃあ、また明日!」
「はい、さようなら」

公二と光はがっちりと腕を組んで会場を後にした。

「……」
「……」

(羨ましいですね……私も……)
(なんだろう……このほっとしたような、胸が苦しいような……)

羨望の眼差しで2人の背中を見つめる美帆。
複雑な気持ちで2人の背中を見つめる美幸。

2人ともお互いの顔をみることはなかった。



そして2人の姿が見えなくなり、ふと美幸が気が付いたように美帆に聞く。

「ねぇ?美帆ぴょんはなんでここに来たの?」
「えっ?抽選会を見に行きたかったのですが、部活の関係で間に合いませんでした」
「な〜んだ、それは残念だったね〜」
「ええ、折角妖精さんに……いや、あの、その……」

美幸のつめた〜い視線が美帆に突き刺さる。

「ねぇ、もしかして……」
「さぁ、なんでしょう?」
「美帆ぴょんって、そんなことするんだ……」
「いや、私運動苦手だから、クラスに協力したと、その、あはははは……」

なんとかごまかそうとする美帆だが「妖精さん」という言葉がでた以上裏工作を企んでいたのはバレバレである。

「ねぇ、まさか去年も……」
「去年は考えつかなくて、今年は是非やろうと……いや、その、あの。ああ、妖精さんがぁ……」
「美帆ぴょん!逃げちゃだめだよ!」

そそくさと逃げようとする美帆を美幸が追いかける。
しかし美幸の顔は本気で怒っていない。
それだけご機嫌なのだろう。



一方、バイト先に向かう公二と光は今日の抽選会の話題で盛り上がっていた。

「ねぇねぇ、私たちのクラスって決勝まで当たらないんだよ!」
「そういえばそうだったなぁ」

公二の2Aと光の2E。
どの種目も決勝まで当たらない場所になった。

「やっぱり神様が私たちを敵同士にしなかったんだよ」
「そういうものか?」
「愛の力だよね♪」
「こんなので、俺達の愛を使うのはもったいない気がするけどな」
「まあ、そういわないでよ〜」

公二は冷めた返事をしているが、表情からすればほっとしているのがよくわかる。
やっぱり公二も光と敵になりたくなかったのだ。

「あなた、今日からスタミナのつく夕食を作って待ってるからね♪」
「それは嬉しいな。これからは体育祭の練習で疲れるからな」
「楽しみにしててね♪」
「楽しみにしてるよ」

とにかく明るい表情の2人。
体育祭とか晩御飯とか関係なく、ただ愛する人が側にいるだけで明るくなる2人だった。



その日の夕方

「ただいまぁ〜!」

美幸が部屋に戻ってきた。

美幸はとにかくご機嫌だった。
抽選会も奇跡的に良い結果だったのがその理由だ。
その勢いで、バレーの練習にも力が入って頑張れた。
とにかく、久しぶりに最高の一日だった。

「あれ?」

美幸は机に小さな包みがあることに気づく。
どうやら郵便物らしい。

「あっ……すみれちゃんからだ……なんだろう……」

差出人はすみれだった。
美幸はさっそく包みを開けてみる。

「これは……」

中にはお守りが一つ。
そして便せんに書かれた手紙があった。

「美幸さんへ
 
 お元気ですか?
 私は元気にサーカスをやってます。
 最近はお客さんも多くきてくださってます。

 ところで、前に手紙で
 「美幸、くじ運悪いから不安なんだ」
 って悩んでましたね?

 サーカスのある場所の近くに有名なお寺があって、
 そこで幸運のお守りが売ってあったので送りますね。

 これを持っていれば美幸さんにきっといいことがあるような気がします。
 そろそろ体育祭なんですね。
 このお守りで頑張って下さいね。」



「すみれちゃん、もういいことはあったんだよ……」

美幸は手紙に向かって優しい笑顔を見せていた。

「すみれちゃんのお守りのおかげだよ……」

美幸はこの手紙を読んで、なんとなくそんなことを感じていた。

「体育祭ではすみれちゃんのお守りを身につけて頑張るからね!」

体育祭に向かって決意を新たにする美幸だった。
To be continued
後書き 兼 言い訳
打メモ2に集中していましたが、またこっちも再開します。

まあこんなに大げさな抽選会はまず普通ではないのでしょうけど、
やっぱり抽選会ってドキドキしますよね。

クラス委員は何人かいますが、今回は美幸ちゃんを中心にしました。
しかし美幸ちゃんはすみれちゃんに励まされてばっかり(汗
すみれちゃんが美幸ちゃんに励まされる話も書いてみたいものです。

次回もまだ大会前です。
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