第108話目次第110話
「まったく、なさけないわねぇ」
「それは俺の台詞だよ」

抽選会の翌日の登校時。
2Fの教室ではおなじみの言い争いが始まっていた。

「あんなに、大げさな選び方をするからをするからよ」
「あんただって、なんもしなかったからいけないんだぞ」

昨日の抽選会の結果で、琴子と文月が責任のなすりあいをしていた。


「『ど・れ・に・し・よ・う・か・な……』なんて未練がましく選ぶからよ」
「何にも考えずに近くの封筒をとった奴に言われたくないな」

2Fの抽選結果は「そんなによくなかった」
2種目も初戦で3年とぶつかり、他の2種目も2年とぶつかる。

「戦うみんなの気持ちになってみなさいよ」
「うるさい」

もうすこしましな結果を期待していただけに、お互いの期待はずれな結果が腹立たしい。

しかし、クラスメイトの「何と言おうと、お前達の責任だ」と言いたげな視線にさすがの2人も言い争うのをやめる。

「でも、今更文句言っても仕方ないわね」
「そうだな、人のこと言えないしな」

「これからは練習あるのみよ!」
「そうだそうだ!抽選がなんだ!勝てばいいんだ!」

「特攻精神でいくのよ!」
「いや、燃える闘魂だ!」

自分たちの責任はあえて目をつぶり、開き直って燃え上がる2人だった。

太陽の恵み、光の恵

第21部 体育祭編 その3

Written by B
昼休みは放課後は体育祭の練習時間となる。

お弁当を早食いし、グラウンドや体育館に足を運ぶ生徒が後を絶たない。
クラスで一緒になって練習に余念がない。

しかし、ただ練習をしてもそんなに面白くない。
やっぱり試合をしたほうが面白い。

そういうわけで、授業の休み時間に、近くのクラスに練習試合を申し込むことになる。



「ようし、いくぞ!」
「さあこい!」

お昼休み。
グラウンドの片隅で、2Aと2Bの練習試合が始まっていた。

もちろんギャラリーはいない。
練習と遊びを兼ねた試合である。

「おっ、純。おまえキャッチャーか」
「ああ、ここしかできる場所がなくてな」

3番ショートで打席に立った公二は、キャッチャーの純一郎に声をかける。
真剣勝負ではないので、少しぐらい話をしたところで別に問題はない。

「守備が苦手っていってたな?」
「あの横に動くのがどうも苦手で……」
「剣道ではない動きってわけか?」
「まあ、そんなところだ……」

確かに純一郎は守備が下手だった。
この前の話だと、横に動くと足がおぼつかなくてボールに追いつかなったそうだ。
剣道をやる人がみんなそんなわけはないのだが、純一郎はそうらしい。
結局、キャッチャーしか安心してできるポジションがなかった。

「まあ、お手柔らかにたのみますよ」
「こちらこそ」

公二は真剣な表情で打席に立つ。
この打席は公二はセンター前ヒットだった。



その次の回の2Bの攻撃。



カキーン!



5番に座った純一郎が左中間の2塁打を放った。
そして2塁ベースのカバーにはいる公二とご対面になる。
ピッチャーを交代して、投球練習をする間、お話をする時間があった。

「しかし、バッティングはすごいな」
「これこそ剣道のおかげかな。ボールがよく見えるんだ」
「なるほど、それなら多少の守備でははずせないわけか」
「おかげさまでな」

純一郎は野球経験がほとんどない。
それでもバットの振りは鋭いと公二は感じていた。
やはり同じ長い棒を持つ剣道だからかな?と感じていた。

「しかし、公二はショートか」
「中学の時は外野だったんだけど……みんなに推薦されて」
「どうして?」
「いや、どこからか『中学の時、野球部のマネージャーのあのノックを受けたことがある』って噂が流れて」
「それって、佐倉さんの?」
「ああ、本当のことだけどな。それで『それなら守備は完璧だろう』ってことになって」
「お気の毒だな」

中2の途中で野球部を辞めた公二だったが、楓子のノックの洗礼は何十回と受けていた。
それで確かに守備には自信があったが、それは外野だからこそ、と公二は思っていた。
しかしショートの守備もそつなくこなせていた。



「ところで楓子ちゃんは練習に付き添ってないのか?」
「公二、俺達は素人だぞ。俺達を殺す気か?」
「楓子ちゃんは殺すことはしないよ。半殺しにはするけどな」
「……」
「それは冗談として、技術ぐらいなら教えてもらうことはできると思うぞ」
「ほうほう」
「純、そういうのはお前から頼むんだよ。楓子ちゃんも協力したいと思ってるはずだから」
「なるほど!」
「楓子ちゃんと親しくなる絶好の機会だろ?」
「ありがとう、今度やってみるよ」

投球練習も終わり、試合再開となる。
2人は真剣な表情で試合に臨んでいた。



「ほら、カバーを早く!」
「周りあまりボールに近づかない!」
「いいわよ!その調子!」

一方、体育館。

こちらでは2Dと2Fの練習試合が組まれている。

2Dのバレーのコーチの花桜梨もベンチで懸命に声を出していた。


「花桜梨さん、練習試合なんだから、なにもそこまでしなくても……」
「うん、でもついつい真剣になっちゃって……」
「気持ちはわかるけどね」

今回は控えでベンチに座っていた琴子が花桜梨に話しかける。

琴子が指摘したくなるほど花桜梨は真剣にコーチをしていた。
素人のクラスメイトに怒るのだから、その程度はよくわかる。

それでも、2Dのバレーは茜と夏海がエースとして期待できるから教えがいもあった。

花桜梨の指導のおかげが、試合のほうは2Dの一方的な結果となった。



「しかし、花桜梨さんのクラスってすごいわね。とても太刀打ちできないわ」
「そんなことないよ。琴子さんとこもレシーブが上手だからきっと強くなるよ」
「そう言って頂ければうれしいわね」

「でも今日は試合をしてくれてありがとう」
「こちらこそ、いい練習になったから」

「本番でも試合したいですね」
「それはご遠慮するわ。このままじゃ勝てないもの」

最後は社交辞令とライバル意識が混じり合った会話になっていた。
もちろんこんな会話で琴子と花桜梨の友情にひびが入るわけではない。



「花桜梨さん。今日も勝っちゃったね」
「いやあ、勝つって気持ち良いッス」

試合が終わって、クラスメイトが花桜梨のいるベンチに戻ってきた。
真っ先に声をかけたのが茜と夏海。
今の試合も大活躍だった。

「みんなもお疲れさま。この調子なら結構いけるかもね」
「ねぇ、このあとちょっと練習する?」
「ううん、午後の授業があるから、クールダウンして終わりにしましょう」
「ええ〜、まだ時間はあるッス」
「クールダウンって大切よ。丁寧にしないと後で怪我する場合ってあるんだから」
「そうなんだ、じゃあそうするね」

結局、2Dは花桜梨の指導のもとクールダウンを行って、お昼の練習は終わりにした。

「放課後はどうするの?」
「う〜ん、私は部活があるから、任せるわ」
「わかった!みんなで練習するね」
「うん、じゃあお願いね」
「ボクも手伝うから大丈夫だよ」
「くれぐれも怪我だけには気を付けてね」

2Dの放課後の練習も熱が入りそうな予感だ。



パコン!



「楓子ちゃん!ナイスショット!」
「テヘヘ、ありがと♪」
「本当にテニスのたぐいは初めてなの?」
「うん。そうなんだ」

お昼休みのテニスコート

その中の1面では2Bがソフトテニスの練習に使っていた。
テニスの選手の楓子はさきほどからなかなかのショットを見せていた。
基本的なことはすでに習っているので、今は試合形式の練習に励んでいる。

「やっぱり、バットとラケットと似てるの?」
「う〜ん、どうなんだろう?私はわからないなぁ」
「でも、似てるかもしれないわよ。だって打っている姿が様になってるからねぇ」
「……」

(そうなのかなぁ……でも……やっぱり……)

クラスメイトは褒めているのだが、楓子は素直に喜べない。
楓子がやっているのは、自分の意志とは無関係でやっている地獄のノックだから。
そのおかげでうまくなってもちっとも嬉しくない。

クラスメイトは楓子の少し悲しそうな顔に気づく。

「そんなに悲しい顔しないでよ。悲しいことはボールを打ってストレス解消したら?」
「そうだね!そうするね!」
「じゃあ、さっそく再開するね」

楓子はすぐに明るい笑顔をみせて自分の場所に戻る。
今度は楓子がサーブの晩だ。

「うん!じゃあ、いくよ〜……えい!」



ポカン!



「あっ!」

楓子はサーブをしたがボールは明後日の方向。



ボカッ!



「はにゃぁ〜〜〜!」
「ああっ!ごめんなさ〜い!」

そのボールは別コートにいた美幸の後頭部にクリーンヒットした。



「美幸ちゃん、大丈夫?」
「いてててて……このぐらいいつものことだから平気だよ〜」
「そう……ならいいけど」

別コートではその美幸の指導で2Aが練習していた。
ボールをぶつけられてしばらく倒れていた美幸をクラスメイトが囲む。

「ねぇ、美幸ちゃん。今のはどうしてあんなサーブになったの?」
「う〜ん、たぶん足の位置が悪かったのかなぁ?」

美幸は先程の衝撃でふらふらながらもサーブの場所に立つ。

「あのね、足のつま先が横とは変な方向にいくと、ボールもそうなりやすいんだよ」
「へぇ〜、それって普通のテニスでもそうなの?」
「うん、そうなんだぁ〜」
「なるほどね、やっぱり美幸ちゃん、詳しいんだね」
「いやぁ、美幸が去年、同じ事を何度も言われちゃったからねぇ。結構やりやすい失敗なんだぁ」

美幸はテニス部の中でテニスが下手だ。
だから、練習中で基本的なミスをなんども注意された。
その経験が美幸がクラスメイトに指導するときに役に立っている。

「これから試合でもする?」
「やってみたい!」
「じゃあ、試合中に美幸が気が付いたことがあったら、そのときに言うからね」
「うん、お願いね」

それから2Aは試合形式の練習が始まった。
失敗があるごとに、美幸の丁寧な指導が入る。
美幸も最初は指導も下手だったが、徐々に指導も慣れてきた感じだ。

(なんか、美幸が指導されてるみたいだなぁ……)

指導しながらも、部活で自分が指導されているところがフィードバックされていて、
思わず笑みがこぼれそうな美幸だった。



その夜。

「いやぁ、お風呂って疲れが取れるねぇ〜」
「ほんとほんと」

主人家の風呂では公二と光がゆっくりとお風呂に浸かっていた。
恵は公二の母に入れてもらったので、自分たちは娘の事を気にせずに入っていた。
今日はいつも以上に長い時間をかけてお風呂に入っている。

「しかし、みんな練習に力が入って、俺も思わず燃えちゃったよ」
「私も。でも気持ちいいんだよね」

「まあ、本番までもうすぐだから、体を整えていかないとね」
「練習で怪我なんてしたら、もったいないよ」
「しかし、ちょっと今筋肉痛気味なんだよな」
「ええ〜っ!駄目じゃない!気を付けなきゃあ」
「ごめん。でも無理はしないようにしてるから」
「それだったらいいけど、怪我だけは気を付けてね」

「大丈夫だって!だから、こうして疲れをとるためにお風呂もゆっくりと入ってるんだろ」
「あっ、そうか。そうだよね。あはははは!」
「あはははは!」

新婚?夫婦が風呂場で二人っきり。
しかし、色気が全くない会話。
新婚なのにそんな会話ができるのが、この2人の良いところでもある。



「ところで、体育祭は俺のところがが学年1位をとるからな」
「あ〜、言ったなぁ〜。ウチのクラスが1番なんだよ〜」
「クジも思ったほど悪くなかったし、いける気がするんだ」
「こっちはほむらがいるんだよぉ。絶対に負けないなぁ」

いつの間にか湯船のなかは2人の優勝宣言の争いになっている。

「そこまで言うのなら、なんか賭けない?」
「賭け?」
「うん、順位が低い方が来月の恵のおやつのお金を出すの」
「ああいいよ。どうせ、光のお財布が苦しくなるだけだから」
「そんなこと言って、後でお金がないって泣きついても知らないからねぇ〜」
「ああ、言わないよ〜だ」
「べ〜だ」

2人のバイト代は最後は一括で管理しているので、
結局はどっちが勝っても同じなのだが、やっぱり負けたくないのにはかわりはない。

「なあ……なんかのぼせてきたんだけど」
「私も……」
「なんか熱くなりすぎた……」
「出ようか?」
「そうしよう」

しかし、この2人は熱くなりすぎのようだ。



また、別の家では。

「どう、姉さん?」
「まだちょっと痛いですね……」
「まったく、大会前に筋肉痛になってどうするのよ」
「私、運動が苦手ですから……」
「それだったら、なおさら気を付けなきゃいけないのに」
「は、はい……」

ベッドにうつぶせに寝ている美帆の足を真帆がマッサージしていた。
テニスの練習で美帆は筋肉痛になってしまっていた。
真帆が美帆の足をほぐしながら話は続く。

「真帆は体育祭はどうなんですか?」
「きらめきは運動会だから、事前の練習って特にないんだ」
「そうでしたね。う〜ん、私はそっちのほうが向いていたかも」
「確かに、私も球技大会で燃えてみたいのはあるけどねぇ」

「しかし、こればっかりは『入れ替わって』とは言えませんよね」
「だめだめ。姉さんと体育祭の日が同じなんだから……それに……」
「それに?」
「坂城くんの前でいいところ見せたいんじゃないの?」
「……」

真帆の言葉に美帆は黙ってしまう。
たぶん顔は真っ赤なのは容易に想像できる。
そうしているうちに、マッサージも終わる。

「じゃあ、これでおしまい。あとは姉さん自身が気を付けないとね」
「ありがとう、真帆」
「いいっていいって。じゃあ、もう遅いから寝るね」
「ええ、じゃあおやすみなさい」
「おやすみ〜」

真帆は美帆の部屋を出て行った。



「は〜あ、なんか自分で言ってて、嫌になっちゃった……」

真帆はベッドに潜り込んでつぶやいていた。

「いいなぁ、姉さんは恋してて……」

真帆が気にしていたのはさっき美帆を匠のことでからかったこと。
顔を真っ赤にする美帆をみて、ほほえましく思ったと同時に、なにか羨ましかった。

「体育祭はフォークダンスがあるから、そこで素敵な男子との出会いが……あればいいなぁ」

きらめき高校は、伝統的にフォークダンスがある。
もちろん男子と女子がクラス学年関係なしに一緒に踊るので出会いのチャンスはある。

「でも……難しいだろうなぁ……」

しかし、自分でもそれは難しいのはわかってる。

「でもわずかの可能性にかけてみるか……」

それでもプラス思考に切り替えた真帆はそのまま眠りについた。



そして眠れない人がここにもいた。
匠である。

「う〜ん、どうも眠れないなぁ……」

匠はベッドから身を起こす。
そして、近くに置いてあったバスケットボールを抱える。

「まだ体育祭まで日にちはあるのに……眠れない」

匠はバスケットボールを回しながら考える。
どうも、最近また眠れない。

「今から緊張してもしょうがないのになぁ……」

かっこいいところを見せたくてバスケットを選択したものの、どうも練習がうまくいってないようだ。
それはそうだ。背が低い匠の場合、活躍の場が限られてしまうからだ。

「こればっかりは、みんなに迷惑はかけられないからなぁ……」

こんな緊張はGW中のデート以来だ。
ただし、デートの時は回りにはそんなに迷惑をかけていないが、
体育祭はクラス対抗。無様な結果はクラスメイトに迷惑をかけてしまう。

「まあ、どうせ駄目で元々なんだから、気楽にやるか……」

ボールを床に転がせた匠は、再びベッドに潜り込む。
今度はすぐに寝てしまったようだ。



こんな大変ながらも楽しい練習が続き、いよいよ本番へと突入するのであった。
To be continued
後書き 兼 言い訳
大会前のそれぞれの様子です。

毎度毎度の多数登場のパターンです。
それぞれがそれぞれ自分なりの努力をしているところを書いてみました。

こういう練習って楽しいですよね。
やはり練習は真剣だけど楽しいと上達しますよね。

次回はいよいよ体育祭当日です。
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