第110話目次第112話
ひびきの高校の第2体育館。

こちらではバレーボールの試合が行われる。
ソフトから少し遅れてこちらも競技開始である。

最初の試合は2B−2Eと2A−3Bの2試合。

(うわぁ〜、緊張するよ〜)

バレーとして参加する美幸は選手としてコートの中にいた。
クラスでお揃いの黄色のTシャツ姿がよく似合っている。

「美幸のせいで迷惑かけちゃうから」と最初は控えのつもりだったのだが、
「美幸ちゃんだから、選手でいて欲しいの」というみんなの説得で選手となった。

(本当はテニスを見に行きたかったんだけど……ああ、美幸は不幸だぁ……)

美幸がコーチとして頑張ったソフトテニスも同時刻の第1試合になっている。
従って、試合中にアドバイスができない。

試合前に美幸なりに激励したのだが、やっぱり不安だ。
美幸のくじ引きでは奇跡的に相手が1年だったのだが、それも不安だ。

(でも……このお守りが助けてくれるよね……そうだよね、すみれちゃん……)

美幸のポケットの中にはすみれが送ってくれた幸運のお守りが入っていた。

(すみれちゃん、美幸頑張るよ……すみれちゃんに負けないように……)

美幸はポケットの中のお守りを握りしめながら、遠い空の下にいるはずのすみれに健闘を誓っていた。

太陽の恵み、光の恵

第21部 体育祭編 その5

Written by B
2Aのバレーの相手は3年生。
しかし、試合前の練習を見る限り特段に強いというわけではない。

「美幸ちゃん?緊張してない?」
「う〜ん、ちょっと緊張してる……」

コートの中でちょっと緊張している美幸にクラスメイトが声をかける。

「今さら緊張してどうするのよ!もう開き直ってやりましょ!」
「そうかなぁ?」
「そうでしょ?美幸ちゃんだって、バレーとテニスの指導で頑張ったんだから、きっと神様も見てくれるわよ」
「本当?」
「本当よ。自分を信じなきゃ!」

クラスメイトの暖かい言葉に美幸も緊張が少しほぐれていた。

「こんなに応援団もいるし、頑張らないとね!」
「そうだよね!」



コートの外では2Aのクラスの半分が応援をすべく待機している。
ちなみにもう半分はソフトテニスの応援に行っている。
クラスメイトがふとその応援団を見てふと気が付いた。

「あれ?ところでさっきまで主人くんがいたはずだけど、今いないね?」
「ああ、ぬしりんなら隣のコートに行ったよ」
「えっ?自分たちのクラスを放っておいて?」
「うん『ごめん、俺も男なんだ』って言って行っちゃった。でもすぐに戻るらしいよ」
「???」
「隣のコートでひか……ぬしりんのお嫁さんが出てるから」
「ああ、なるほど……主人くんらしいわね……」
「ほんと……そうだよね……」

クラスメイトは呆れ顔で、美幸は寂しそうな顔をして隣のコートを見つめていた。



その隣のコートでは2Eと2Bの試合が始まろうとしていた。
公二は恵を抱きかかえながら、試合前の光と話をしていた。
にこにこの公二と恵に対して、光は困った顔をしている。

「ママ〜、がんばって〜」
「めぐみ〜」
「ほら、恵もいるんだから、良いところ見せないと」
「ねぇ〜、緊張させないでよぉ〜」

光は2人の声援に緊張していた。
とくに恵の応援にはプレッシャーを感じていた。

「俺は自分のクラスがあるから、赤井さんに頼んで恵にどんどん応援してもらうからな」
「だ〜か〜ら〜、そんなこと言われたら余計に緊張しちゃうよぉ〜」
「女は度胸!母親のパワーを見せつけなよ」
「まあ、そうするね……ああ、緊張する〜」

光は緊張しながらコートの中に入っていく。



試合前のウォーミングをしているところを見ている公二の背中を誰かがつついた。

「あれ?楓子ちゃん」
「あ〜あ、公ちゃんは愛しい奥様の応援ですか〜、いいなぁ〜」

2Eの対戦相手である2Bの楓子だった。
楓子はわざとらしいふくれっ面をしている。
公二はコートの真ん中のすぐ外にいるので、2Bの人に声をかけられる場所にいたのだ。

「俺だって、自分のクラスの応援があるから、すぐに戻らないと。ところで純は?」
「純くんは今ソフトの試合なの」
「どう?勝ってる?」
「う〜ん……3−0で負けてる……」
「いいのかい?こっちを応援してて?」
「みんな『俺達は良いからバレーを応援しなよ』って言われたから来たけど……」
「そうか、なるほど。ソフトは男子だけが残ってるわけだな」
「うん。でもやっぱり……」

楓子はソフトの試合がどうしても気になってしまうようで、落ち着きがない様子だった。

「まあ気にするなって。純達を信じて楓子ちゃんはこっちを応援……いや、俺は光を応援しないとだからあまり応援して欲しくないな……」
「うふふふ!公ちゃんったら、変なの!」
「……」

笑顔が見えるから楓子はソフトの結果を信じているのだろう。
公二はそう感じた。



そして2B−2Eの試合が始まる。

最初は2Eのサーブから。
しかも一番手は光。

コートから外に出て、バレーボールをバウンドさせる。

(一番最初だから確実に決めないと……)

さっきよりは落ち着いた光は相手のコートを見つめ、サーブの体勢に入る。


「ママ〜!がんばって〜!」


そのときコートいっぱいに恵の声が響き渡る。
回りの視線が一斉に光に集まる。

(め、め、めぐみぃ〜!……緊張させないでよ〜)

光は恵の声のする方を向くと、公二が恵の手を掴んで振っていた。
恵はとにかくニコニコ顔だ。
公二も恵と一緒にニコニコ顔。
その表情から、さっきの恵の声援は公二が言わせたのを確信する。

(あなた〜、あなたの試合の時は憶えてなさいよ〜)



光は一回深呼吸をして落ち着かせる。

(ま、まあ、と、とにかく、気楽に打たなきゃね……)

光は再びサーブの体勢に入る。
そして思いっきりボールを打つ。



ボンッ!



「あれ?」


ボールは明後日の方向に飛んでいく。



ボコッ!



「はにゃ〜……」


そしてそのボールは隣のコートの美幸の顔面に思いっきりクリーンヒットしていた。


「「「あはははははは!」」」

あまりの珍プレー?に相手からも隣のコートからも笑い声が沸く。
しかし、当の光は恥ずかしくて顔を真っ赤にして、うつむいてしまう。

「もう〜、公二のばかぁ〜〜〜!」

あまりに恥ずかしくて公二に向かって思わず叫んでしまった光だった。
しかし、これによって光の体から緊張感がほどよいぐらいまでに無くなっていた。



「大丈夫?」
「う〜ん、これぐらい慣れてるから……」
「試合前から大変だねぇ……」

一方2Aのほうは試合前。
試合開始直前に隣からボールが飛んできたために少し中断している。

「いいよいいよ。どうせ試合中もぶつかるから」
「そんなこと言われても……」
「美幸のことは気にしないでいいよ。それよりもボールを繋げていこう!」
「そうだね、じゃあ気にしないでいくよ」
「うん!」

そしてようやく試合が始まる。



試合は2Aのサーブで始まる。

「「「そ〜れっ!」」」

お決まりのかけ声で試合が始まる。

相手は綺麗にレシーブする。
レシーブされたボールは綺麗に前衛のところに飛んでいく。
前衛の選手は上手にトスを上げる。

「みんな!ボールを見て!」

そのボールの動きを見ながら2Aの選手がブロックやレシーブの構えをはじめる。

相手がジャンプをしてアタックを決めようとする。
それに大して2人がジャンプしてブロックをする。



バシッ!



ボールはブロックの間を抜けて飛んでいく。

「はにゃ〜!」



ボコッ!



そしてそのアタックは後衛の美幸の顔面を直撃した。
美幸はその衝撃で倒れてしまう。



思わず隣のクラスメイトが近づこうとする。

「美幸ちゃん!」
「ボール!」
「えっ!」

美幸が大声で止める。
美幸はふらふらながらも手を動かし上を指を差す。

「は、はやくトス……」
「あっ!」

美幸の指す方向にはボールがふわふわと落ちようとしていた。
クラスメイトはすぐにトスをすべく移動する。
さらに前衛の選手が後に回って助走をつける。

「はい!」
「えい!」



バシッ!



トスを上げると同時に走り込んできた前衛の選手がバックアタックを繰り出す。

ボールは相手コートに突き刺さる。



ピピーッ!



2Aが幸先よく1点を取った。
アタックを決めたクラスメイトの回りに選手が集まる。

「まず1点ね!」
「この調子でいくわよ!」

「美幸ちゃん、大丈夫?」
「うん、大丈夫。じゃあ、もう1点とろうね!」

こうして美幸の体の張ったプレーはしばらく続くことになる。
美幸は相手のアタックをなぜか顔面で受けてしまう。
それでも美幸はなんとか次のプレーに繋げようと必死だった。



一方隣のコートでは、

「そ〜れ、かっ飛ばせ〜!かっ飛ばせ〜!」
「かっとばせ〜!かっとばせ〜!」
(ほむらぁ〜、野球じゃないんだからぁ……)

コートの端にどっかりと座り込み、恵を膝の上に載せたほむらがメガホンで声援を送っていた。

「ここで大きいのを頼むぞ〜!」
「おおきいの〜!」
(だから、大きすぎるとアウトになるんだって!)

ほむららしい適当な応援でも、コート中に響き渡ればそれなりに応援になる。
しかも恵も一緒に応援するから、余計にコートに響き渡る。

しかし、恵のほむらと一緒の応援に光は気が気でない。

(ああ、恵が変な言葉を覚えなければいいけど……)

ついバレーとは関係ないことを気にしてしまう。
そんなときに急に声がかかる。

「光ちゃん!」
「えっ?」

振り向くとボールが目の前に。

「うわぁ!」



ボンッ!



「あっ!」

驚いた光は慌ててレシーブしたのだが、勢い余って相手コートにまでボールが飛んでしまった。

「ごめん!」
「ドンマイ!次よ次!」

すぐに謝る光。クラスメイトもそれに答えながら、相手の攻撃を受ける体勢に入っていく。



相手は軽くボールをあげる。
長身の選手がアタックをすべくジャンプする。

(来るっ!)

体の向き、腕の方向。
狙いは光の場所の近く。



バンッ!



(今度はちゃんととる!)

ボールは光の右へ飛ぶ。
光は右に回り込んで強力なアタックをレシーブする。

「よしっ!」

そのボールは見事に繋がり、1点を取ることができた。

すかさず恵の声が挙がる。

「ママ〜、かっこいい〜!」
「ありがと〜!」
(えへへ、恵にほめられちゃうとなんか照れちゃうな……)

光も恵に手を振って返事をする。
恵はほむらと一緒に手を振っている。

恵の声援が効果があるのかわからないがこちらは2Eが優勢である。



バレーの試合も第1セットも終わり、第2セットも中盤に入っている。

(もうフラフラ……でも、頑張らなきゃ……)

第1セットを接戦の末に落としてしまった2A。
第2セットも5−8と若干不利な情勢。

そんななか、美幸はフラフラで立っている。
試合開始から美幸の体に相手のアタックがなぜか直撃する。

(あんなにぶつかったの久しぶりだよ……)

そんなボールを必死にレシーブしようとするのだが、さすがに何発も喰らえば体力は落ちてくる。
試合にずっと集中しているから、精神的にも疲労してくる。
しかし弱音を吐かずに懸命にプレイする美幸だった。

(こんなことでへこたれちゃったら、笑われちゃうよ……)

そんな時に相手のサーブが美幸の隣のクラスメイトに向かっていく。

「あっ!」

サーブが強烈だったのか、レシーブをミスしてしまい、ボールはコートの遙か後に飛んで行く。
美幸は懸命に追いかける。

(絶対に繋げる!……でも……)

美幸が追いかけるもののボールはゆっくりと落ちようとしている。
それでも

(諦めない!……でも、届かない……んっ?)


「うわぁ!」


美幸は突然バランスを崩す。
前のめりに倒れ、美幸は前方に飛び込む形になってしまう。



ボンッ!



それでも、必死に前に出した腕にボールが当たった。



ゴンッ!



(レ、レシーブできた……のかな……)

その直後、美幸は頭に強い衝撃を受け、意識を失ってしまった。



「……美幸ちゃん!」
「……んっ?」

「美幸ちゃん……起きて!」
「……あれ?」

気が付くと回りにクラスメイトが心配そうな顔をして集まっていた。
ここで美幸はようやく意識を失っていたことに気づく。

「あっ……試合!」
「美幸ちゃん、落ち着いて!」

美幸が起きようとしたのをクラスメイトが落ち着かせる。

「ねぇ、試合は?」
「たった今終わったよ」
「えっ?」

何が何だかわからない美幸に対してクラスメイトは全員ニコニコ顔。

「勝ったよ!」
「えっ……勝ったの?……本当なの?」

「本当よ!それも美幸ちゃんのおかげで!」
「えっ?」



「まずは、これを返しておかなきゃね」
「返してって……ああっ!」

キャプテン格のクラスメイトから渡されたものは、すみれからもらった幸運のお守りだった。
確か自分のポケットにしまったはずのお守り。
なぜ他人が持っているのか不思議そうな表情を美幸はしていた。

「あのとき、美幸ちゃんのポケットから落ちたお守りを美幸ちゃんが踏んづけたのよ」
「ええっ!」
「それがブレーキになって、美幸ちゃんのダイビングレシーブになったの」
「そうだったんだ……それで美幸が倒れて……」

「結局、あのボールは相手コートまで戻せなくて……おまけに、美幸ちゃんは勢いで壁に頭ぶつけちゃうし」
「起こそうとは思ったんだけど、これ以上美幸ちゃんばかりに痛い目に遭わせるわけにはいかなくて……」
「折角だから、お守りは預かって、あとは美幸ちゃんの分まで頑張ろうってみんなできめたんだけど……」
「だけど?」

「それからラッキープレーの連続であれよあれよというまに勝っちゃったのよ」
「ええっ!」
「ライン際は全てインだし、サーブは選手のちょうど中間で受けにくい場所に決まるし、お守りのおかげかしら」
「そんなにこれって効き目あったんだ……」

美幸はお守りをしげしげと眺めていた。



「でも、美幸ちゃんのプレーに負けないように守備を頑張ったのが一番の勝因かもね」
「それも含めて、勝てたのは美幸ちゃんのおかげ、本当にありがとう」
「そんな……美幸はなにもしてないよ」

美幸は回りの声に謙遜していた。
たしかに自分がプレーしている間は不利な情勢だったのだ。
そこから逆転している間は美幸は意識を失ったまま。
そう思うのは当然だろう。

「そんなことないよ。美幸ちゃん」
「あれ?……みんな……」

気が付くと、試合中のはずのテニスの選手達が美幸の目の前にいた。

「こっちも勝ちました!」
「美幸ちゃんの指導のおかげで楽勝だったよ!」

テニスの選手達はVサインを出してニコニコ顔をしている。
本当に、1年生相手に危なげなく勝っていた。
短時間で終わってしまったので、バレーの応援にも間に合ったのだ。

「勝ったのはみんなの努力の結果で、美幸はなにも……」
「何言ってるのよ。素人の私たちが簡単に勝てたのは、美幸ちゃんの指導のおかげなんだから」
「そうそう。だからもっと自信をもっていいのよ……」
「……」
「どうしたの?」



「う、う、う……うわ〜ん!」



美幸は突然泣き出してしまった。

「みんなから『美幸のおかげ』だって言われて美幸最高にしあわせだよ〜!」
「な、なにも泣かなくても……」

「美幸は不幸だからみんなにずっと迷惑かけてばっかりだったのに、こんなに言われて、もう感激だよ〜!」
「そんなに大げさにしなくても……」

「もう、美幸、頭に隕石が落ちて死んでも悔いはないよぉ〜!」
「美幸ちゃん……」

あまりにうれし泣きをする美幸に回りは困り果てているものの、美幸の気持ちもなんとなくわかるクラスメイト達だった。



「そうなんだ……残念だったね」
「ああ、折角佐倉さんにアドバイスをもらったのに……」
「相手は3年だから、しょうがないよ」

光は試合直後に体育館にやってきた純一郎と話していた。
ちなみに恵はほむらと一緒に先に教室に戻っている。

ちなみにこちらは2Eが2セット連取して勝利を収めた。
各セットとも序盤は接戦だったが、最後は2Eの完勝という展開だった。

少し早めに終わってしまったので、2Bのソフトの選手はちょっと間に合わなかったのだ。
ついたときにはどちらのクラスも帰り支度をしていた。

「ところで佐倉さんは?」
「楓子ちゃんなら、あそこに座っているけど……」
「……」



(やっぱり私がいれば……なんでこんなことに……)

楓子はベンチに悲しそうに座っていた。
バレーが負けたこともあるが、それ以上にソフトが負けてしまったことを悔やんでいた。

(ごめんね……)

マネージャーの自分が何もせずに終わってしまったのが非常に悔しかったし悲しかったのだ。

「佐倉さん、こっちのことが気になってたのか……」
「早く行ってあげたら?それだったら余計に落ち込んでるはずだよ」
「そうだな、佐倉さんに謝ってくるよ」
「それがいいかもね」
「じゃあ、午後からもお互いに頑張ろう。それじゃあ!」

純一郎はベンチの楓子に向かって走り出した。



勝ったり負けたり。
悲喜こもごもの体育祭。
しかしまだまだ初日の午前中なのだ。
ドラマはまだまだ終わらない。
To be continued
後書き 兼 言い訳
本番2話目です。

今回は美幸と光が中心でした。
こういう総花的なイベントを書くときに総花的だと読む人はわからなくなるのでいろいろ苦労します。

しばらくはこんな調子かもしれません。
気楽にお付き合いできればと思います。

次回もこんな感じです(笑)

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