ボールを掴む。
花桜梨はじっと相手のコートをにらむ。
そしてゆっくりとボールを高く上げる。
花桜梨は体をしならせ、サーブの体制に入る。
腕を振り、すべての力をボールに送り込む
バシッ!
シュパッ!
ボールは相手のコートに突き刺さる。
相手は何もできない。
ピピーッ!
「ナイスサーブ!」
「ありがとう」
「さすが花桜梨さん。なにやってもすごいなぁ」
「そんなことないよ。たまたま決まっただけ」
とは言っているが、花桜梨はすでに3本サービスエースを決めている。
とにかく花桜梨は絶好調だ。
太陽の恵み、光の恵
第21部 体育祭編 その6
第112話〜高速攻撃〜
Written by B
花桜梨の2Dはソフトテニスだけが午前中、あとの3種目は午後の最初の試合になっている。
従って、テニスコートの回りにはクラスメイトが集まっているが、それほど大きな声援はない。
最初は声援があったが、あまりに花桜梨の組が強いので余裕の観戦となっている。
「お疲れさま」
「ありがとう。でもこれだけうまくいくと後が怖くなっちゃう」
「うふふふ。私もそう思う」
「それにしても、花桜梨さんが上手だから、こっちも思い切ってできるから楽だよ」
「それは違う、私のミスをフォローしてくれたじゃない」
うまい人とペアを組むとうまい人に任せっきりになる危険もあるのだが、
このペアは相手のフォローを期待できるからこそ、ミスを恐れずにプレーできる。
それが良い結果となっている。
そのため、花桜梨ペアは3ゲーム連取して、簡単に勝ってしまっていた。
落としたポイントは片手で数えられるぐらい。とにかく圧勝だった。
最初の試合だった花桜梨ペアはベンチに腰掛けて次のペアの試合を観戦する。
「ねぇ、あそこ見て?」
「えっ?」
「あれって、次の相手の3年生じゃない?」
「そうなの?」
「絶対そうよ。だって隣のコートは確か2年と1年の試合だから」
パートナーが指差す方向には確かに3年生っぽい生徒2人が試合をじっくり観戦していた。
時折、ぼそぼそと話をしているのが見える。
「あれって偵察よ、絶対に」
「じゃあ、思い切ってやったのまずかったんじゃ……」
「その逆よ、たぶん相手は困ったんじゃないの」
「えっ?」
「私たちがあれだけ完勝したから、要注意するはずよ」
「そうかな……」
「だから、次は私たちの試合は3試合目にしようと思うの」
「えっ?」
「他のペアだって結構強いし、2試合とらないと、私たちが控えてるんだから」
「そうね、うちのクラスはみんな上手だからね」
「この調子だと、2試合で終わりでしょ?だからあと1組にも試合をさせてあげなきゃね」
「なるほどね」
確かに3ペアともなかなかコンビネーションもよく上手なほうだ。
そのなかでも花桜梨の実力はぬきんでていた。
エース格のペアがいると他の2組は非常に気楽にプレーできるというものだ。
「なんか、ギャラリーも減ってきちゃったね」
「一方的だもん。応援しなくても勝てるって思ったんじゃない?他は午後最初だからその準備もしないと」
「う〜ん、そうかもしれないね」
「ところで、午後からは私たちはみんなバレーの応援にいっていいの?」
「それでいいって。男子は『応援が無くても勝てる!』って言ってたみたいだから」
「わかった、じゃあ試合が終わったらみんなでゆっくりお昼にしましょ?」
「そうね、そうしましょう」
こんな会話ができるほど、次の試合も余裕の展開。
あっさりとこの試合も取って2Dは完勝。2回戦進出となった。
そして午後。
さっそく次の試合が始まる。
2Dは3種目が同じ時間帯で始まるため、応援はソフトテニスの人だけ。
その応援団は全員バレーの応援に行っている。
「じゃあ、とにかくボールを拾っていきましょう。そうすれば相手がミスするはずだから」
「とにかく負けないようにするんだね」
「ええ、相手のアタック1本で気にしないこと。1点ぐらいで気にしないことが大切だと思う」
「わっかりました〜!」
「じゃあ頑張ってね」
試合前、ベンチの中央に座っている花桜梨の回りにバレーの選手が集まっている。
ちなみに花桜梨自身は「選手じゃないから」とベンチの端にいるつもりだったが、「コーチだから」と選手にせかされて中央に座らされている。
「う〜ん……やっぱり……」
バレー会場の体育館の裏。
美帆がこっそりとトランプ占いをやっていた。
占いの内容は今始まる2C−2Dのバレーの試合の結果。
何度占っても、占い結果は「負け」
当然クラスメイトには占っている事すら言っていない。
「妖精さんにも止められましたし……」
妖精さんになんとかしてもらおうと思ったのだが、妖精さんに「やってもいいけど、そんなことをしたら後悔するよ」と言われてしまい、頼むに頼めなくなってしまっていた。
「それでも信じて応援するしかないんですね……占わなきゃよかった……」
美帆は既に後悔の気持ちいっぱいで応援することになるはめとなった。
試合は占いの通りに展開が進む。
「とりゃぁぁ!」
バシッ!
「それぇ!」
バシッ!
「おりゃぁぁぁ!」
バシィィィン!
コートの中は茜と夏海の声が響きわたる。
右に茜、左に夏海を配置した前衛は強力だった。
強力といっても、とにかく力任せにスパイクするだけ。
それでもパワーがある2人だけに効果は抜群だった。
2人にまわせば何とかなるのがわかっているだけに中衛後衛も気楽にプレーできる。
スパイクが面白いように決まって第1セットはあっさりとものにする。
コートチェンジのときにも2Dは集まって打ち合わせを行う。
自然に花桜梨の回りに集まってアドバイスをもらっている。
「お疲れさま、次も気を抜かないようにね」
「まかせといて!」
「早めに決めるのが一番っす!」
「そうね、でも早く決まらないからって焦らないようにね、普通はすぐには終わらないはずだから」
「うん、わかったよ」
これだけ気を引き締めていれば、気を抜けるということはまずない。
結局第2セットも簡単に取った2Dがあっさりと勝利をものにした。
「今度は花桜梨さんの番だね♪」
「期待してるっす」
「そんなこと言わないで……緊張しちゃうじゃない……」
「全然そんなふうに見えないけどなぁ?」
試合後、快勝で笑顔の茜と夏海に対して、花桜梨はほんのちょっぴりのプレッシャーを受けていた。
その花桜梨の2回戦。
「なんか、相手、変に緊張してない?」
「私もそう思う。変に勝たないとって感じで力が入りすぎのような……」
作戦通り、花桜梨達のペアは3試合目となった。
相手は3年生。しかし、偵察で花桜梨ペアの実力を生半可に知ってしまっていたので、相手はなにか最初から焦っているようだった。
そのせいなのか、相手はショットはいいのだが、変にミスが多かった。
「なんか、今回は花桜梨さんのプレーが見られないのかなぁ?」
「そんなこと言わないの。2つで終われば楽なのよ」
「でもなぁ……」
ちょっとつまらなそうな茜に花桜梨は余裕の表情で対処する。
「それよりも隣のコートでもみたら?あっちのほうが面白そう……」
「えっ?あれ……あ……ほむらの馬鹿……」
隣のコートをみた茜は頭を抱えてしまった。
「ドラゴンサーブ!」
ボンッ!
「ドラゴンアターック!」
ボンッ!
隣のコートではほむらが3年生相手に一人で大暴れしていた。
自称必殺技の名前を叫んで、強いショットを放つ。
しかし、ソフトテニスはボールのスピードがそんなにでないので、名前ほどすごいショットではない。
それでも相手コートに決まるのだから、ほむらは面白くてしょうがない。
(あ〜あ、恵ちゃんに、あたしの勇姿をみてもらいたかったなぁ……)
ほむらのお目当ての恵はちょうど裏で母である光のバレーの応援に行っている。
強引に連れてこようかと思ったが、光が強硬に反対するのでやめた。
(まあいいか、勝てば次は応援に来てくれるだろうしな♪)
来たからにはとにかく恵にかっこいいところを見てもらいたいというほむらは見てもらうまで勝つつもりでいるらしい。
(よおし!こんどはドラゴンボレーだ!)
真面目にやっているのかわからないが、とにかくほむらの組は完勝。
次の試合は落としたが3試合目を接戦の末勝利した。
「おおっ!次の相手は2Dか、まあお手柔らかにたのむぜ」
「こちらこそよろしく」
「ほむら〜、みっともないからやめてよ〜」
「そうか?あたしは格好良くきまってると思ったけど」
「う〜ん……微妙っす」
「一人だけ騒いでて変だったよ!」
「そうかなぁ?」
試合後、お互いに勝って一旦教室に帰るところ、ほむらと花桜梨と茜と夏海の4人で話ながら歩いていた。
結局2回戦では花桜梨ペアは出場することはなく、2試合連取で勝っていた。
「ところで、2Eはどうなってるの?」
「ああ、女子は勝ってるけど、男子はさっさと負けちまって。情けないなぁ」
「私たちはまだ3つ残ってるわ」
「なぜかわからないけど調子いいっす」
「すっげぇなぁ!あたしも負けられないな」
「じゃあ次はいい試合をしましょうね」
「ああ、おもしれぇ試合をしような」
ほむらと花桜梨はにこにこ顔で話している。
(ねぇ、2人とも目が笑ってないよ……)
(なんか怖いっす……)
隣で聞いていた茜と夏海には2人の後に炎がメラメラと燃え上がるのが見えたのかもしれない。
そんななか、4人の向こうから小さな女の子が松葉杖で歩いてきた。
「あれ?伊集院じゃないか?」
「ああ、貴様か……」
メイはどうも元気がない。
いつもなら憎まれ口の一つや二つも叩くのだが今日はそれがない。
松葉杖姿がなにか痛々しい。
「どうしたんですか?」
「いや、おととい捻挫してしまったのだ……」
「それはお気の毒に……」
どうやら練習中に捻挫してしまい、本番は応援するだけになってしまったようだ。
「いいのだ、どうせメイは運動は苦手だったからクラスに迷惑をかけずに済んだのだ」
「そういうものか?」
「そうなのだ、別にプレーしなくてもクラスに伊集院家の施設を貸したり、メイなりにやっていたのだ」
「やっぱり、家任せか」
「うるさい!どうせメイはそんなことしかできないのだ。でもしないよりはましなのだ」
「そうか。で、伊集院のところはどうなんだ?」
「もう全部負けてしまったのだ。これから伊集院家の施設で明日にそなえて練習なのだ」
「そうか、じゃあ頑張ってくれ」
「……ありがとうなのだ……」
こうしてほむらたちとメイはすれ違った。
「なんか寂しそうだったね……」
「なあに、あいつのことだ。クラスでは意地張ってるんじゃないか?」
「……そんな必要ないのにね……」
「ほ〜んと、素直が一番なのになぁ……」
4人は振り返って、一人で歩いているメイの背中を見つめていた。
「会長!それに夏海!ここで何やってるのよ!」
「あれ?吹雪、どうしたの?」
そのとき突然後から吹雪の声が聞こえてきた。
「なんだ、吹雪か。いったい何のようだよ」
「今、本部にだれもいないのよ!会長は本部席に来てよ!」
「でもあたしは次試合だぞ」
「私も次は試合よ!」
「あたしも次は試合っす」
武闘派?の生徒会幹部は全員まだ勝ち残っていた。
従って生徒会の人がいるべき大会本部には人があまりいない状態だった。
「暇な1年生にでも頼んだら?どうせ今頃は負けてる頃だし、そんなに仕事は無いんだろ?」
「試合結果のチェックとか、怪我人の把握とかあるんだけど……」
「大丈夫だって!そんなの1年にもできるんだし、今は自分たちの試合でも考えたらどうだ?」
「……そうするわ。あたしも負けたくないし……」
吹雪はほむらの言葉を受け入れ、さっさと走り去ってしまった。
これから暇な1年生を捕まえるのだろう。
「みんな、大変だね……」
「みんな大変だけど、それが楽しいんだよ。体育祭って」
「確かにそうっす」
「そうね、楽しいよね……」
それぞれがそれぞれに体育祭を楽しんでいる。
それが体育祭の良さかもしれない。
To be continued
後書き 兼 言い訳
本番3話目です。
今回は花桜梨が中心であと茜、ほむら、おまけに夏海が中心でした。
花桜梨、ほむらはテニス、茜、夏海はバレーとなっております。
メイ様ですが、どうも活躍しそうになかったので、こんな感じにしてしまいました(汗
しかし、まだ出番は用意してますので、一応。
やっぱりこういうところでは、全員見せ場は用意しないと(汗
次回もこんな感じです(笑)



