第113話目次第115話
準々決勝の直前。
グラウンドの片隅ではちょっとした問題が起こっていた。

「ねぇ、あなたも試合でしょ?」
「ああ、光もだろ?」

公二のソフトも、光のバレーも勝ち抜いていて次が試合なのだ。
時間が重なっているため、お互いが恵の保護者兼応援という訳にはいかなくなっていた。

こうなると問題になるのが恵の世話。
できることなら、目の届く場所にいて欲しい。
恵に注意がいかなかったために、痛い目に遭っている2人としては一番の条件だ。

クラスメイトに預けてもいいのだが、どっちのクラスで預けるかがまた問題。
本当は「自分のクラスで預かる」と言いたいが、それでは今朝の口論の繰り返し。

「どうしよう?」
「どうしよう?」

恵の応援もあり勝ってきた2人だが、そのおかげで恵のことで頭を抱えることになるとは今朝は思ってもいなかっただろう。

太陽の恵み、光の恵

第21部 体育祭編 その8

Written by B
「しかしいきなりかぁ、まあいっちょやってやるかぁ」
「うふふ、私とやりたいと言ったのは赤井さんでしょ?」
「そうなんだけどな。にゃははは!」

一番端のテニスコート。
ネットを挟んでほむらと花桜梨が話をしている。
これから2E−2Dの第1試合、ほむら組と花桜梨組の試合が始まる直前。

いきなりエース組同士の組合せとなった。

こういうときは、エース組同士を避け、確実に1試合取って3試合目で勝負するか、
それとも、エース組対決で勝負させるかのどちらかの戦略をとることになるのだが、
ほむらが「絶対に八重の組とやりたい!」と自分の組どころか相手の2Dにまで主張したのでこうなっている。

「しかし、ちょっと不満があると言えばなぁ……」
「私も期待してたのに……」

2人がコートの外のさらに向こうを眺める。

「ねぇ、ママは?」
「ママはお仕事だから一緒にいられないの。恵ちゃんはママからおとなしくしているように言われたでしょ?」
「うん!そうだよ!」
「じゃあ、お姉ちゃんと一緒にテニスをみようね♪」
「は〜い」

恵はなぜか隣のコートの楓子と一緒にいた。



公二と光は恵の扱いに困っていたところに楓子がたまたま通りがかったのだ。

『あっ、楓子ちゃん!』
『あれ?2人とも試合じゃないの?』
『そうなんだけど、楓子ちゃんにお願いがあるの』
『えっ?』
『2人とも試合だから恵の世話ができないんだよ』
『だから楓子ちゃん世話をお願いできるかなぁ?』
『えっ?えっ?』

焦った表情の公二と光は恵を楓子ちゃんに渡してしまう。
突然の事に驚く楓子。

『ごめん、もう時間がないから!よろしく!』
『ほむらの試合が終わったらほむらに預けていいから!恵、楓子ちゃんと一緒におとなしくしているのよ!』
『は〜い!』
『それじゃあお願いね!』

結局、時間がないらしいのか2人は楓子に世話を頼むと走り去ってしまった。

『私も試合なんだけどなぁ……』

楓子は2人の背中を呆然と見送っていた。
そういうわけで、一方的に頼まれた楓子は断るに断れずに恵を預かってしまっていた。
それでも次の試合は3試合目とあらかじめ決まっていたので、恵を自分で預かることにした。



「まあいいや。とにかく『いい試合』をしようぜ」
「ええ、『いい試合』にしましょうね」

2人とも「いい試合」を強調した言い方をした。
「いい試合」の前提条件に「自分たちが勝つ」ということが入っているような言い方だ。

それぞれコートに散らばり試合の準備を始める。




「それぇ!」



パコン!



「ハイ!」



パコン!



「そりゃ!」



パコン!


ほむらと花桜梨達のコートの反対側の端のコートでは2C−2Aの第1試合が始まっていた。
2Cは美帆と吹雪のペアが登場している。

吹雪が後衛で力強く打ちまくり、美帆が前衛で丁寧に打ち返す。
それぞれが特徴を生かしたペアで2回戦も快勝している。


「いいよいいよ〜、その調子!」
「ドンマイ、ドンマイ!気にしない気にしない!」

2Aのベンチでは美幸が盛んに声援を送っている。



しかし、1ゲーム目は2Cが先取した。
コート内で幸先のよい出だしに吹雪と美帆がお互いにたたえ合う。

「いいわよ!この調子で行きましょう!」
「ええ、そうですね!」

「こうなったら、メッタメタにするわよ!」
「そうですね!ボコボコにしてあげましょうね!」

「一気に行くわよ!」
「コテンパンにしましょうね!」

吹雪の気迫が美帆にのりうつったようになっている。



一方最初のゲームを落とした2Aのペアは美幸にアドバイスをもらっている。

「美幸ちゃ〜ん、あのペアなんか怖い……」
「だ、大丈夫だよ〜。声なんかにだまされちゃだめだよ」
「でも、2人とも顔がなんか怖い……何かが取り憑いてるような……」
「だ、大丈夫だよ……たぶん……気にしないことだよ」
「わかった、そうしてみる……」

美幸もとにかく相手に気にしないようにアドバイスを送った。

(美帆ぴょん……妖精さんは使わないっていったけど……怖い……)

実は美幸も2人の気迫に押されていた。



そして再開された第2ゲーム
吹雪のサーブから始まる。

「喰らいなさい!!」



バコン!



いいコースに決まったサーブに相手は返すのが精一杯。


「くたばりなさい!!」



バコン!



そのボールを前衛の美帆が返す。
2人が思わず取りに行ったため、反対側ががら空きになってしまった。


「これでトドメよ!!」



バコン!



それを吹雪が見逃さず、あっさりと1ポイント奪う。



(怖いよぉ……それに強いよぉ〜……勝てないよぉ……)

試合は完全に吹雪、美帆組のペース。
気迫の叫び声に、気迫のショットで2Aは完全に押されている。

(ダメ!……諦めちゃだめ!……そんなんじゃダメだよ!……美幸が諦めちゃだめ……)

「相手コートに返すことを第一に考えて!」
「惜しいよ!次はきっと取れるから!」

美幸は弱気になりかけたが、自分自身を奮い立たせて声援を送る。
しかし、この試合はストレートで吹雪、美帆組の圧勝だった。



「でやぁ!」



パコン!



後衛のほむらが懸命にボールを返す。


「ハイ!」



パコン!



それを花桜梨が逆サイドに打ち返す。


「うわぁ!」



ピピーッ



さすがのほむらも追いつけず花桜梨のショットが決まる。


2E−2Dの第1試合。
ほむら組と花桜梨組の試合は好ゲームになっている。

特にほむらと花桜梨のラリーの応酬が連発している。
それぞれ後衛の2人が懸命にボールを拾って強烈なボールを打ち合う。
しかし、前衛の2人が隙あらば前から強烈に打ち返すため、簡単なボールが打てない状況になっている。

どのショットも緊張感があり、見ている方もじっと試合を見つめている。
プロのテニスの試合を見ているような静寂がこのコートの周辺にはあった。



そして、4ゲーム目の直前。
現在1−2で花桜梨組がリーチをかけたところだ。
ネットを挟んで花桜梨とほむらが話をしている。

「はあ……はあ……おめぇ、平気なのか……」
「ええ、このぐらいバレーでやってるから」
「はあ……いや、バレーでもそんなに走りまくらないだろ……はあ……」
「バレーは持久力は大事なの。最後のセットも全力で動けるようにしないとだから」
「……」

お互いに同じぐらい、いや花桜梨の方が走っているようだったが花桜梨は平然としている。
逆にほむらが息切れしてきている。
ショットは弱くなってはいないのだが、ボールに追いつけない場面がでてきた。

「うふふ、これで終わりかしら?」
「そんなことはねぇ……まだまだいける……」


「じゃあ……期待してるわね」


「!!!」

(な、なんだこの殺気……こんなの初めてだ……)

ほむらは花桜梨の笑顔とは裏腹に自分に突き刺さった気迫に驚いていた。



「ほらっ!もっとしっかりしなさい!」
「そんなこと言っても、相手は3年だぞ」

「試合に2年も3年も関係ないわよ」
「関係ないけど体力的に違うんだよ。琴子さんもわかってるだろ?」

「わかってるわよ!だから気迫で補うのよ!」
「気迫で勝てれば簡単だよ!」

バスケットの一番端のコートでは3C−2Fの試合の前半がもうすぐ終わろうとしている。
スコアは30−28。ほとんど同点といっていいだろう。

そのタイムアウトで琴子と文月が口論になっている。
2人ともクラスで揃えた「闘魂」の鉢巻きをしているためか、その2人の口論の姿はなにか可笑しいものがある。
回りのクラスメイトも、半ば2人の口論を楽しんでいる雰囲気がある。

「あら?もう時間ね」
「まあ、気迫だけは負けないようにするよ」

「頑張ってね」
「頑張るよ」

結局最後は笑顔になっている2人だった。



「あれ?赤井さんどうしたの?」
「おねえちゃんどうしたの?」

3B−2Bのテニスの試合のコート。
ベンチで座っている楓子の隣に暗い顔のほむらがやってきた。

「恵ちゃ〜ん、あたしをなぐさめてくれぇ〜」
「???」

ほむらは楓子が抱きかかえていた恵を強引に奪って抱きしめた。

「ど、どうしたの?」
「八重に負けた……」

結局第4ゲームは花桜梨組が奪って第1試合は2Dがものにした。
終わってみれば花桜梨組が圧勝だった。

「花桜梨さんに?」
「完敗だったよ……あいつすげぇよ、ただもんじゃないぜ……」
「私もそう思うけど……」

ほむらの表情はかなり暗かった。
さっきの試合がよほど悔しかったのだろうか?

「そうだろ?だから恵ちゃん、なぐさめてくれぇ〜」
「???」

ほむらは恵を抱きしめる。
恵はなにがなんだかわからずにきょとんとしている。

「あっ、光ちゃんが恵ちゃんを赤井さんに預けていいって言ってたから、あとはヨロシクね」
「ああ、たしかこれから試合なんだろ?もちろん預かるよ」
「お願いね♪」

楓子はほむらに恵を預けると自分のクラスの応援を再開した。

「じゃあ、恵ちゃん。いっしょに応援しような」
「うん!」

ほむらは恵を自分たちの試合が行われている隣のコートのベンチに連れて行った。



「さてと……私も準備体操でもしようかな……」

ほむらと恵を見送った楓子はベンチから立ち上がった。

先程第1試合が終わり、自分たち2Bが取った。
2試合目を落とした場合、第3試合に楓子の番が回ってくる。
出番に備えて準備体操を始める。

「勝てば花桜梨さんと試合できるかな……頑張らないとね♪」

相手は強敵だが花桜梨との対戦を夢見て張り切る楓子だった。



ピピーッ!



「勝った……勝っちゃった……」

美幸は呆然としていた。
2Aが2Cを1−2で勝利した瞬間だった。

最初の第1試合は落としたものの、第2,第3試合は接戦の末でものにしたのだ。

ベンチで呆然としている美幸の回りにクラスメイトの選手が集まってきた。

「美幸ちゃん!やったよ!勝ったよ!」
「嘘みたい……」

「嘘じゃないって!夢じゃないんだよ!」
「みんなすごいよ……美幸びっくりだよ」

「私たちは凄くないよ。それもこれも美幸ちゃんの指導のおかげ!」
「そうそう!ここ1週間でビックリするぐらいにうまくなったんだから!」
「……」

「明日も頑張るから、応援よろしくね!」
「うん……ありがとう……」

笑顔を振りまく美幸の瞳は少し潤んでいた。



「悔しいわね……」
「私もです……こんなに悔しいのは久しぶりです」

隣のベンチでは吹雪と美帆がじっくりと話し合っていた。

「私だけ勝って試合に負けるのはやりきれないわよね」
「本当にそうですね……」

自分たちは快勝したが、他のペアが惜しくも負けてしまったのが悔しくてしょうがない。
自分たちとしては納得がいかない負けだった。

「あ〜あ、明日は大会本部の仕事が……ユウウツね」
「午後の綱引きまで暇……まだ応援がありますからね」
「そうだけど、できれば明日も試合がしたかったわね」

準々決勝で負けるとそこでその競技はおしまい。
2日目は午後の綱引きしかすることが無くなってしまう。

「……」
「……」

2人とも明日をどう過ごすか思い悩んでいるようだ。

「あっ〜、むしゃくしゃする!ねぇ、放課後、ゲーセンでストレス解消しない?」
「ええ、いいですわよ」

しかし、今日の過ごし方は決まったようだ。



「あと1分よ!なにだらけてるのよ!」
「あと1分からがしんどいんだよ!」

「そこを乗り越えるのが男でしょ!」
「そんな簡単に言うなよ!」

バスケットのコート。
3C−2Fは依然接戦が続いている。
残り1分の最後のタイムアウト。
現在1点勝っている状態。
それなのに琴子と文月はまた口論している。


「気合いが足りないわよ!」
「だったら、俺に気合いを入れてくれよ!」
「えっ……」


「前みたいに……頼む……」
「わかったわ……」
「……」


文月が琴子の前にたつ。
琴子が一度深呼吸をしたあと、右腕を振り上げる



パチン!



文月の左頬に強烈な平手打ちが炸裂する。

「ううっ……こりゃあ気合いがはいるぜ……」
「人前でこんなことさせて……負けたら承知しないわよ……」
「言われなくてもわかってるよ」
「……」

ここで時間終了。
選手はコートの中に散らばっていった。

琴子の平手打ちが効いたかどうかはわからないが、2Fは1点差で勝利。準決勝に進むこととなった。


(なに?……ぶったときのこの心苦しさ……やっぱり……)

しかし、試合終了までの間、琴子は呆然とコートを見つめいていた。



「あなたも負けちゃったの?」
「ああ、俺は2安打1打点だったんだけど……」
「私も強烈なスパイクを幾つもレシーブしたんだよ」

公二と光が2Eの教室の前で歓談していた。
実は2人とも先程の準々決勝で負けてしまった。
2人とも試合で活躍はしていたのだが、負けてしまった。

「やっぱり……」
「恵がいないからかなぁ?」
「そうかもね。恵がいるとなぜか勝てたからね」
「確かにそうだよな」

今更ながら恵を連れておけば良かったと後悔している2人。


「お〜い!」


そんな2人に聞き慣れた大声が聞こえてきた。

「あっ?ほむらに楓子ちゃん……あれ?恵も一緒だ!」
「どうやら恵を赤井さんが預かったみたいだな」

ほむらが廊下の真ん中をのっしのっしと歩いてくる。
その隣で楓子が恵の手を取って歩いてる。



「あっ、楓子ちゃん!ごめんね。試合だとは気づかなくて……」
「ううん、いいよ。私も楽しかったし」

楓子が光に恵を渡す。

「ところで赤井さんはどうだったの?」
「その〜、え〜と……あたしたちが勝ったんだけど……」
「えっ!勝ったの?凄いじゃない!」

試合は2Eが勝ったのだ。
しかしほむらはなにか複雑な表情。

「それが……」
「赤井さん、八重さんに負けちゃったから」
「えっ?ほむら負けたの?」
「ああ……」

ほむらの顔はつれない。
その表情からみれば、ほむらがよほど悔しかったのがわかる。

「負けた後なんか、恵ちゃんに泣きついてきたんだから」
「うわぁ〜〜!言うなぁ〜〜〜!」
「『なぐさめてくれぇ〜』って抱きついたんだよ♪」

楓子が茶々を入れると、すぐにほむらが反応した。
ほむらは楓子の口をふさごうとするが楓子は逃げてしまってとめられない。

「えっ?ほむら、恵に泣きついたの?」
「だから、そのぉ、いや、あの、その……うわぁぁ!とにかく勝ったからいいだろぉ!」

照れ隠しで大声を上げて暴れるほむら。
それをみて光達は思わず笑うのをこらえている。



「楓子ちゃんもまけちゃったんだ」
「うん、折角頑張ったのに……でも仕方ないよね」

楓子のテニスは結局負けてしまった。
2試合目を落とし、出番が回ってきた楓子の3試合目も負けてしまったのだ。
そんな話をしている公二と楓子を横目に、光とほむらは自分たちのクラスの状況を確認していた。

「なんだ、バレーは負けちまったのかぁ」
「そうなると、うちのクラスはテニスしか残ってないのかぁ」
「……じゃあ、明日は恵ちゃんが応援してくれるんだな」

「負けて泣きつかないでね」
「わかったから言わないでくれ……今度は恵ちゃんにいいところ見せるからさ」
「頑張ってね♪」
「まかせとけ!」

廊下にはほむらの威勢のいい声が響いていた。



その隣の2Dのクラスでは花桜梨、茜、夏海が花桜梨の机を囲んでいた。
花桜梨が教室にいるのを、茜たちが探しに来たところだ。

「花桜梨さん、残念だったね」
「うん、折角赤井さんに勝てたのに……」
「勢いが続かなかったっすね」
「うん、もったいなかった……」

逆に花桜梨は元気がなかった。
第1試合を圧勝し、波に乗るかと思われたが、
その後が続かず、第2、第3試合を落として負けてしまったのだから。

「でもこれが勝負なのよ。悔しいけど、全力は尽したからある意味満足してる」
「ねぇ、まだ満足しないでよ。ボクたちがまだ残ってるんだから」
「そうっす!バレーのコーチをお願いしますよ」
「あっ、ごめん……」

茜たちバレーのチームは3年生相手に完勝。見事準決勝に進んだ。

「体育館で練習しているからつき合ってよ」
「いいわよ」
「じゃあさっそくいきましょう!」
「ええ、でも明日があるんだから無理はしないでね」
「は〜い!」

3人は荷物をまとめて教室を出て体育館に向かった。



それぞれの体育祭は第1日目が終了。
明日はまた今日とは違った体育祭が待っている。
To be continued
後書き 兼 言い訳
1日目の終了です。

今回が一番ごった煮です(汗
残っている人全てを書かなければいけないのですから(汗

結果はこの下にありますが、かなり負けちゃってます。
2、3年生の実力ならこのぐらいが適度じゃないかなと。
もう書くのが大変というわけではありません(こら
最初からこのつもりでしたから

次回は2日目に入る前に1日目の夜の話です。

目次へ
第113話へ戻る  < ページ先頭に戻る  > 第115話へ進む