第114話目次第116話
体育祭の一日目が終了したその夜。

「お〜い」
「……」

公二は自分のベッドに向かって仁王立ち。

「お〜い、ひかり〜」
「……す〜、す〜……」

ベッドには光が大の字になって寝ていた。

「起きろ〜」
「……あっ、あなた……おはよぅ……」

光がようやく気が付いたらしく、目をこすりながら起きあがる。

「『おはよう』じゃないよ。もうすぐ晩御飯だぞ」
「……いつ帰ってきたの?」
「30分前ぐらいに帰ってきたよ。まったく、少し寝ようかと思ったのに大の字に寝られちゃ無理だよ」
「ごめん……」

公二はバスケの練習につき合って、帰りが遅くなっていた。
一方、光は恵を連れて早めに家に戻っていた。
そしてそのままベッドにバタンキューといういきさつだ。

「まあ、疲れたんだろ?御飯食べて体力付けなきゃ」
「そうだね、明日もあるからね」
「まあ、お互い綱引きしか残ってないけどな」
「えへへ、そうなんだけどね♪」

太陽の恵み、光の恵

第21部 体育祭編 その9

Written by B
「ああ、気持ちいいなぁ〜」
「これいいでしょ?中学の時に教わったんだけど、これって効き目あるんだよね」
「確かにそうだな、何度やっても気持ちいいんだよ。たしか陸上部の先輩からだっけ?」
「うん。疲労回復に気を付けている先輩だったなぁ。おかげで助かってるよ」
「感謝しないとな」
「うん、でもあの先輩今頃どうしてるのかなぁ……」

夜8時

晩御飯が終わって、公二と光は自分たちの部屋でくつろいでいる。
恵はかなり疲れていたのか、すでにぐっすりと眠っている。

いまは公二がベッドでうつぶせになっている。
光はベッドの上に座って公二の背中のツボを押しているところだ。

「ねぇ、あなた。今日の私の作ったお弁当どうだった?」
「ああ、スタミナたっぷりで美味しかったよ」
「ありがとう♪」
「あれ?光も同じだろ?食べなかったのか?」
「ううん、実は……」



光のお昼は、2Eの教室で恵とほむらと一緒にたべていた。

『おおっ、陽ノ下のお弁当はうまそうだなぁ?』
『えへっ!今日はスタミナと愛情たっぷりの体育祭仕様、光お手製の特別弁当だよ!』
『いただきま〜す!』

光は自分のお弁当を目の前にとても笑顔だ。
恵も自分用の小さなお弁当箱を手に、いまはタコの形に切ったウィンナーをフォークで刺しているところだ。

『おおっ!これはおまそうだなぁ、いただきっ!』

ほむらがいきなり光のお弁当から豚の生姜焼きを箸で奪って食べてしまった。
あまりの素早さに光は防ぎようがない。

『あ、ひっど〜い!じゃあ、私も食べちゃお♪』
『しまった!あたしの今日一番の好物が〜』

今度は光がほむらのお弁当からシュウマイを奪って食べてしまった。
ほむらは食べているのに夢中で防げなかった。

『へへ〜んだ。油断する方が悪いんだよ〜』
『くっそ〜!そっちがその気なら、こっちも容赦しないからな』
『そっちこそ!空腹で競技することになっても知らないからね〜』

こうなるとどちらも視線が相手のお弁当にしかない。

『こらっ!肉ばっかり奪うなよ!』
『ほむらこそ、肉ばっかりじゃない!』
『だってうまそうだから……こら!恵ちゃんまであたしのお弁当を取るな!』
『きゃはは!』

気が付くと恵がほむらのお弁当からトマトをフォークで刺して食べようとしていた。

『こらっ、恵!人のお弁当の中身を取っちゃダメだよ!』
『人のこと言えるかよ!』
『それとこれとは別!』



「……結局、赤井さんのお弁当ばかり食べていたということか」
「そうなの。ほむらったら、私のスペシャル弁当ほとんど食べちゃったのよ」
「光だって、赤井さんのお弁当をかなり食べたんだろ?」
「そうなんだけどね♪お互い様ってところかな」
「しかし、赤井さんのお弁当か。ちょっと想像つかないな。うまかったのか?」
「結構美味しかったよ。たぶんほむらが作ったんじゃないね」
「あははは、それは失礼だって!」
「あははは!」



「へっくしゅん!……誰かがアタシの噂してるのかな……」

ちょうど同じ時間のほむらの部屋。
ほむらはもう明日に備えて寝ようとしていた。
意外と疲れてしまったこともあるようだ。

「明日はいよいよ恵ちゃんの応援……いやぁ、張り切っちゃうなぁ」

ようやく、自分の活躍が恵に見てもらえると思うとワクワクしてしまうほむら。
思わずベッドでもだえてしまう。

「それに、最後はコテンパンに負けちまったからな……その分もお返ししないと気が済まないからな」

やはり八重との試合がよほど悔しかったみたいだ。
そんな悪いことは忘れて、ほむらはベッドに潜り込んだ。

「さてと、寝坊しないように寝ようっと……おやすみ〜……ぐが〜……」

そしてほむらは某漫画の某眼鏡の男の子に負けず劣らずの電光石火の早業で寝てしまった。



「姉さん。なんで試合前に占いなんてやっちゃったの?」
「やっぱり、不安だったんです……」

場所は変わって真帆の部屋。
美帆と真帆は今日のお互いの体育祭の様子を語っていた。
話題は試合前に美帆が試合結果を占って後悔した事になっていた。
それを聞いた真帆が呆れたところだ。

「勝負事の結果を占ってはいけないって言ったの姉さんだよ?」
「わかってます……わかってたんですけど……」
「姉さんの気持ちもわかるけどね……誰でも不安になるからね……」
「……」

よほど後悔しているのか、美帆は元気がなさそうだ。
それを見るに見かねた真帆が励ます。

「元気出してよ、姉さん。失敗なんて誰でもあることだからさ」
「ありがとう……」

ちなみに2人とも既にお風呂に入っておりパジャマ姿だ。
心も体もリラックスした2人の話は止まらない。

「ところで、真帆はフォークダンスはどうでした?」
「まったく収穫なし。お相手の男の子って、私の好みじゃないか、彼女持ちのどちらかしかいなかったのよ」
「へぇ〜、よくご存じですね」
「だって、その男の子の彼女と友達だもん。そもそもその男の子と友達だからね」
「それはそれは残念でしたね」
「ほんと、せっかくのチャンスだったのになぁ……」

残念そうな表情の真帆はベッドで横になる。
美帆は床に座って真帆を見つめている。

「それで本番はどうだったんですか?」
「まあまあってところかな。それなりに頑張ったし、1等賞も取ったしね♪」
「それはすごいですね!」
「ありがと。でもうちの高校は今日だけなんだよねぇ。あ〜あ姉さんとこ見たいに2日あればなぁ」
「でも真帆は明日は学校は休みなんでしょ?いいじゃないですか」
「そんなことないよ。楽しい学校行事が多い方が休みが多いよりもいいと思うけどなぁ」

2人の話はまだまだ尽きないようだ。



「……こんなに効果があるお守り。生まれて初めてかも……」

美幸は小さなお守りをじっと見つめていた。

それはすみれから送ってもらったお守り。
効果は抜群だった。現に組合せ抽選は良かったし、なにより2つも試合で勝ったのだから。

美幸にとってお守りは単なる慰め程度でしかなかった。
買った時点で関係ない効果のお守りを持たされたこともしばしば。
しかしこれはとても御利益があった。

「お礼の手紙を書かないとね……」

美幸は机に座って葉書に手紙を書き始めた。

「すみれちゃんへ

 お守りありがとう!
 とっても効果があったよ!

 くじ引きは良かったし、試合も勝ったんだよ!
 こんなの生まれて初めて。
 美幸嬉しくて思わず泣いちゃった。

 でも、このお守りのおかげで美幸は思いきってプレーしたことがよかったのかな?
 このお守りは美幸に勇気を与えてくれたんだよ、きっと。

 すみれちゃんも、そんなお客さんに勇気を与えてくれるブランコを見せているのかな?
 美幸はいつでも応援しているからね♪

 明日も試合があるので今日はこの辺にしておきます。
 また手紙を書くから待っててね♪」


本文を書き終えた美幸は、葉書の隅に小さな絵を描き始めた。

「すみれちゃん、頑張ってるかなぁ……」

絵を描きながら、美幸は遠い空の下のすみれのことを思っていた。



「……最近メールが増えてきたわね……」

ひびきのから離れたとある場所。

ネットで「月夜見」と名乗る女の子の部屋。
パソコンを立ち上げ、毎日の習慣となっているメールチェックを始める。
受信トレイの中の差出人の名前を一つ一つチェックする。

「あの人のメールは今日は来ていないみたい……」

お目当てのメールが見つからず、ちょっとがっかりする月夜見。

「ひとつづつ読んでいきましょう……あら?」

今日もらったメールの一番上の差出人を見る。
そこには「木星人」と表示されている。

「この人も久しぶりね……」

さっそく月夜見はメールを開く。


「月夜見さま

 今日はなんかメールをしたい気分だったので送りました。

 今日は私の学校では体育祭がありました。
 しかし、私は練習で捻挫をしてしまい出られませんでした。

 今日は一日応援だけでした。
 みんなの頑張ってるのを応援するのは楽しいのですが、
 なにかクラスメイトから取り残された気持ちがしました。

 家に帰ってから、とても寂しい思いをしました。
 こんな事初めてです。

 体が丈夫って、素晴らしいとちょっと思いました。


 こんな気持ちになったことありませんか?
 教えて下さい。                  」



「……」

月夜見はメールを黙ってみる。
そして黙って返事を書く。

「木星人様

 月夜見です。

 木星人さんのお気持ち、よくわかります。

 健康なのは素晴らしいことです。
 怪我をしないことは素晴らしいことです。
 生きているって素晴らしいことです。

 私は純粋にそう思うあなたを羨ましく思います。

 また何かあったら、メールを下さいね。」


「……」

そして月夜見は黙って送信ボタンを押す。

「……」

月夜見はパソコンの隣に置いてあるフォトスタンドの写真を見る。

「ねぇ……私は生きててよかったの?……」

月夜見は写真に一言話しかけると、視線をパソコンに戻し、メールチェックを再開した。



こうしてそれぞれの夜が更ける。
そして、ひびきの高校の体育祭は2日目の朝を迎えることになる
To be continued
後書き 兼 言い訳

1日目の夜です。

いやぁ今回は短いなぁ(汗

今回のメインはなんだろう?
お弁当イベントかな?
今回はそんな程度です。
まあちょっと休憩という感じでしょうか。

次回はさっそく2日目です。

(下表の見方)
左が本戦で、右が敗者戦です。

午前が準決勝と敗者戦2試合。
午後の最初が敗者戦3試合。
その次が決勝戦1試合のみです。

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