第115話目次第117話
「えっ?本当なの?」

2日目の2Cのバスケの試合開始直前。
匠は驚いていた。

「俺が先発でもいいの?」
「いいよ。決めただろ?敗者戦は初日出ていない人を出そうって」
「確かにそうだけど……いいのか?」
「なぁに、疲れたらいつでも変えてやるから思い切ってやりな」
「サンキュー、頑張るよ」

どうやら匠は先発で登場することになった。

「先発で活躍できればキャーキャー言われるんじゃないか?」
「いいよ、そんなの。自分が満足して試合に勝てればいいから」
「おっ?匠にしては珍しいな」
「そうか?俺はいつもそうだぞ」
「本当かなぁ?」

(美帆ちゃん……来てるかなぁ……あっ、来てる……頑張らないと)

匠はある一人だけ応援してくれればそれで十分だから。

まだ勝ち残っているソフトの応援に行っていると思ったが、
こちらの応援に来てくれたことが匠にとってはとても嬉しかった。

太陽の恵み、光の恵

第21部 体育祭編 その10

Written by B
学校行事の体育祭でトーナメントの場合、初戦敗退のクラスにはもう1回試合をする機会がよく与えられる。
勝負重視ではなく、クラスの親睦を深めるのが目的なのだから。
ひび高の体育祭でも同様に2回戦までに負けたクラスには負けたクラス同士で、2日目に試合が組まれる。
「敗者戦」と呼ばれているものだ。

試合に勝てば勝ち点が2点入るので馬鹿にはできない。

そう言うわけで、この試合を真剣にやっているクラスがある。
初日に3種目も初戦敗退し、さらに勝ち残っている種目がなくなってしまった2Bである。

そんな気迫がソフト会場のグラウンドでも進んでいる。
一番気合いが入っているのはベンチの中央に座っている楓子だった。

「今日は誰がなんと言おうとも私は最後までベンチにいるからね!」
「だから、そこまで意地を張らなくても……」
「意地なんて張ってない!私がただ応援したいの!」

クラスのみんなは「俺達はいいからバレーの応援に行ったら?」と勧めた。
もちろん何も意図もない。
しかし、昨日それを受けいれたことを後悔している楓子が受け入れるわけがなかった。

「それじゃあ、アドバイスお願いするね」
「まかせて♪」

そう言うわけで、楓子はベンチで応援することとなった。



「ねぇ……美幸が出ていいの?」
「いいよ。美幸ちゃん、最初の試合の第1セットしか出てないでしょ?」
「そうだけど……」
「どうせ敗者戦だもん。試合結果なんて気にしなくていいよ。折角だから楽しもうよ!」

そして場所は変わってバレー会場の体育館。
2Aの敗者戦のスタメン発表で美幸が驚いている。
無理もない。美幸は最初のセットを除いてずっとベンチで応援していたから。
そもそも自分が「美幸の不幸で迷惑かけたくない」と言っては納得してもらっているのだが、それでも「スタメンででない?」と言われれば驚いてしまう。

「じゃあ、お言葉に甘えて出るね……美幸が迷惑かけたらごめんね……」
「誰も迷惑なんて思ってないよ。それをフォローしあうのが団体競技でしょ?」
「うん、ありがとう……美幸頑張るね……」

美幸はクラスメイトに感謝しながらコート内に練習しに入っていった。



「ほら、もっと頑張るのだ!」

「それでいいのだ!その調子なのだ!」

「少々のことは気にしなくていいのだ!」

テニスコートではメイのクラスである1Cの敗者戦1C−1Dが行われている。
そのベンチではメイがメガホン片手に声を張り上げている。

「伊集院さん。コートは近くなんだから、そこまで大声上げなくても……」
「いや、相手の応援が聞こえなくなるぐらいに声を出すのだ!」
「でもがんばり過ぎじゃあ……」
「メイはこんな事しかできないのだ!」

あまりの熱中ぶりに隣に座っていたクラスメイトが止めようとするがメイはやめようとしない。

「でも、昨日はあんなに応援しなかったのに今頃なんで?」
「今頃……と言われると痛いのだが、メイの気が変わったのだ。とにかく応援したくなったのだ」
「気が変わった?」
「そうなのだ!……と、とにかく、そういうことなのだ!」
「???」



(寂しかったから……なんて絶対に言えないのだ……)

昨日のメイは応援はするのだが、それほど熱中していなかった。
1日目が終わって、メイは孤独感を感じていた。

なんかクラスの輪から外れてしまったような感じがした。
普段はクラスの輪からすこし離れている感じのメイだが、昨日はすこしどころかかなり離れているのを感じた。
これにはさすがのメイも耐えきれなかった。

離れたクラスの輪に入るべく、必死に応援しているのはそういう理由からだ。

(一人は嫌なのだ……メイもみんなと楽しくやりたいのだ……)

メイはそんな思いを表に出すことは絶対にせず、とにかく声を張り上げる。

「こらこら!もっとしっかりするのだ!」

「まだまだ余裕なのだ。慌てる必要はないのだ!」

「この勢いで頑張るのだ!」

それでも最初はメイ一人だけ浮いていた感じだが、
徐々にメイもクラスの中で一体で応援できるようになっていた。

(みんなと楽しくやるのはやっぱりいいのだ……)

メイは応援しながらもクラスの中にいることの楽しさを実感していた。

メイの応援が効いたかはわからないが、1Cのテニスは敗者戦に勝利。
見事初めての勝ち点を手に入れた。



ガシュ!



ピピーッ!



「ナイス!匠」
「サンキュー」
「なんか絶好調だな」
「そんなことないよ」

匠の3ポイントシュートがまたもや決まった。
この試合3本目。
今日も匠のシュートが面白いように決まる。

今回は普通にシュートを狙うことがあるので、昨日みたいに何本も打てるわけではない。
しかし、狙ったシュートは確実に決めていた。
昨日みたいに3点ばかり狙っている状況でもないので、マークも緩いこともある。

「「キャー!たくみく〜ん!」」

3年生と思われる黄色い声が匠に集まる。

匠は笑顔を振りまき、手を振る。

……一人の女の子だけに向かって。



(あっ……私の方をむいて……手を振ってる……)

相手の女の子もそれに気づいたようだ。

(匠さん……私を見ててくれた……嬉しい……)

美帆は匠の笑顔を見て、とても嬉しくなってしまう。

(今日は占ってよかった……)

今日の朝、美帆は今日はどういう行動をすればいいか占った。
占った結果は「自分に正直に行動すれば、吉」

確かに占い通りになっている。

クラスの大半は勝ち残っているソフトの応援に行っている。
しかし、美帆は匠の出場するバスケの応援に行った。

「匠さ〜ん、がんばって〜!」

美帆は嬉しさの余り、大声で匠に声援を送っていた。

試合は2Cの完勝。
匠は前半で張り切りすぎて疲れてしまい、後半は出場しなかったがそれでも3ポイント5本は好成績だ。



ピッチャーが振りかぶる


腕を回転させボールを投げる。


バッターがバットを振る。


カキーン!


ボールがバットに当たり勢いよく飛ぶ。
金属バットが気持ちのいい音を立てる。


バシッ!


しかし、すぐにボールはピッチャーのグローブに収まる。


「アウト!」


「あ〜あ、またか……」


バッターの純一郎はベンチにとぼとぼと戻る。



そこでは残念そうな楓子が待っていた。

「残念だったね、またいい当たりだったのに……」
「まあこういう事もあるさ」

純一郎は3打数ノーヒット。
しかも強烈なライナーだった。

「今日は一番当たりが良かったのに……」
「それがソフトだろ?仕方ないよ」

確かに3打席とも全てボールにジャストミートさせた。
打球の勢いも先発陣の中では一番強かった。

「でも、次はきっと打てるよ!」
「でも、次はないだろうな」
「えっ?」
「だってもう1点とればコールドだろ?たぶん回ってこないよ」
「……」

2Bは昨日の最初の試合で負けたので、休養十分、気合い十分。
2E相手にコールド寸前までいっている。

喜ばしいことだが、純一郎にもう一打席回ってこないことを楓子が非常に残念がる。



「でも、試合には貢献しただろ?」
「そうだよね。プレッシャーはかけられたと思うよ」


「でも楓子ちゃんの前でヒットを打ちたかったなぁ」

「もう……恥ずかしいよぉ……」


顔を紅くして照れる楓子。

(俺だって……カッコぐらいつけたかったんだけどなぁ……)

それを見て余計に残念がる純一郎。

そうこうしているうちに、試合のほうはコールド勝ちになった。
勝ったはいいけど、なんとなく物足りない純一郎と楓子だった。



バレーの試合会場。
2Aの試合は2セット終了後のインターバル。
美幸はベンチでタオルで汗を拭いている。

「楽しい?」
「うん!やっぱり楽しいね!」
「試合にでてよかったでしょ?」
「うん!みんなのおかげで美幸でも試合にでられたんだから」
「もう……美幸ちゃん、謙虚すぎだよ」

お互い1セットずつ取ってこれから第3セット。

美幸は2セットフル出場していた。
顔にボールがぶつかったり、勢い余って壁にぶつかったり、相変わらずだが、美幸はいつも笑顔だ。
美幸だけでなく、選手全員が笑顔でプレーしている。
準決勝ほど真剣勝負ではないので、みんなリラックスして試合を楽しんでいる。



美幸は応援のクラスメイトに尋ねる。

「ねぇ、他の試合はどうなってるの?」
「バスケは断然リードしている。相手が1年だからね。テニスは第3試合になってるわ」
「そっかぁ……」

美幸は心配そうな表情を浮かべる。
やはり自分がコーチをしてきたテニスの結果が気になるようだ。
なにせこちらは準決勝だ。

「大丈夫だって!美幸ちゃんはこっちに集中すればいいって、テニスのみんなが言ってたよ」
「そうだよね……頑張るね……」
「とりあえず、応援をみんなテニスに連れて行くけどいい?」
「いいよ。みんなでテニスを応援して!」
「わかった、それじゃあさっそく行くわね」

そういうと2Aの応援団はすべてテニスの応援に行ってしまった。

「あ〜あ、応援団はなしかぁ、でもみんなで頑張ろう!」
「そうだね。私たちは私たちのできることをしましょう!」

「ファイト〜!」
「「おお〜っ!」」

美幸のかけ声で勢いづく2A。
第3セットは2Aが完勝して、試合に勝利することができた。



「匠、お疲れ。ほれ、ご希望のスポーツドリンクだ」
「サンキュー。お金はあとで払うね」

体育館の外。
試合を終えた匠は建物の影で休んでいた。
クラスメイトにスポーツドリンクを頼んでちょうど来たところだ。

コンクリートに座って、スポーツドリンクを飲み始める。

「いやぁ、美味しいなぁ」
「確かに、スポーツの後ってうまいよなぁ」

スポーツの後、それも勝利の後はなんでもオイシイものだ。



「ところで匠、せっかくだから一つ聞いていいか?」
「なんだい?何でも答えるよ」


「匠、白雪さんの事が好きなのか?」


ブブッーーーー!


思いがけない質問に匠は思わず口の中のスポーツドリンクを拭きだしてしまう。

「ゲホッ、ゲホッ……いきなりなんだよ……」
「いや、試合中、匠、白雪さんばっかりに手を振ってたんだよ」
「あっ……」

確かにそのとおり。
匠がシュートを決めるたびに美帆に微笑んで手を振ってたのだ。
何度かは狙ってやってたのだが、ほかの何回かは自然に手を振っていた。

「お前のファンらしい子も気づいてたみたいで、白雪さんをみてヒソヒソ話したのを見たぞ」
「……」
「あれだけ、一人だけにしてたら気づく奴も多いって」
「……」

匠はプレーに集中していて美帆以外のギャラリーをみていなかった。
クラスメイトに言われると、そのギャラリーの様子が思い浮かんでしまう匠。

「最近、鞄に白雪さんとおなじキーホルダーつけてるし……どうなんだ?」

「……そのとおりだよ……」

クラスメイトの指摘に匠はとうとう正直に答えてしまった。

「へぇ〜、そうなんだ〜、意外だなぁ〜」
「……」

クラスメイトの軽い冷やかしに匠は顔を真っ赤にしてしまう。

「な〜に、俺は言いふらさないから安心しな……でも」
「でも?」

「俺が言いふらさなくても、誰かが言いそうな気がするぞ」
「……」

「白雪さんの耳に入る前に、コクっちゃったら?そうしないと気まずくなるぞ」
「……そうだよな……」


「な〜に、お前なら大丈夫だって!」

バシッ!


クラスメイトは匠の背中を思いっきり叩く。

「いたたた……な、なにするんだよ!」
「ごめんごめん。でも考えた方がいいんじゃないか?……じゃあ先にソフトの応援にいくぜ」

そう言うとクラスメイトは匠を残してグラウンドに行ってしまった。



「……」

一人の残された匠は、じっと動かない。

「バレちゃった……どうしよう……」

匠はクラスのことより自分のことで頭がいっぱいになってしまっていた。
To be continued
後書き 兼 言い訳

2日目スタートです。
メインに入る前におまけの敗者戦の様子です。
今回は試合に出る人が少ないので書きやすかったです。

しかし、匠の周辺が慌ただしくなりそうです。
体育祭が終わるといよいよかな?
まだ考えてないですけど(笑)

次回はいよいよ準決勝です。



下表は現時点の順位です

順位 クラス 勝ち点 ベスト4 ベスト8 1回戦
勝利
敗者戦
勝利
勝ち点0
1→ 3A 40
2→ 3E 34
3→ 3C 32
4↑ 3B 28
5↓ 2D 28
6↑ 2A 28
7↓ 3F 26
8↓ 3D 24
9→ 2C 24
10↓ 2E 20
11↑ 2F 18
12↓ 1A 16
13↓ 1D 14
14→ 2B 14
15↓ 1B 12
16↓ 1F
17→ 1C
18↓ 1E

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