第117話目次第119話
バレー会場の体育館。

「いよいよだね」
「いよいよッス」

茜と夏海が試合前のコートで話し合っている。

「こうしてみると体育館って広かったんだね」
「会場独り占めだからね」

決勝戦は各会場で1試合だけ。
他の試合は行われない。
従って、会場を独り占めということになる。

両クラスの応援団がそろって、コートの回りを陣取っている。
試合に負けて暇な他のクラスもギャラリーで体育館の上から観戦しようと集まっている。

「でも、思い切ってやるだけだよね!」
「そういうことッス!」

「がんばろうね!」
「やるぞー!」

太陽の恵み、光の恵

第21部 体育祭編 その12

Written by B
バスケ会場。
決勝戦の2F−3Fが始まろうとしている。
こちらも大一番を前にして緊張感が漂う。

「が、頑張りなさいよ」
「あのなぁ、琴子さんが緊張してどうするんだよ?」
「き、緊張なんかしてないわよ」
「それが緊張してるっていう奴だよ。まったく、どうしたものやら」
「……」

ところが、2Fのエースの文月は緊張していない。
逆に応援の琴子が緊張しているぐらいだ。
文月は琴子を気遣う余裕すらある。

「まあ、最後だから思い切って行くから応援よろしくな!」
「え、ええ……」

文月はそう一言言うと、コートに走っていった。

「……」

琴子は文月の背中をただ見つめているだけだった。



バレー会場。

最初は3Cのサーブから。


「「ソ〜レッ!」」


3Cの息のあったかけ声で試合が始まった。
白いボールは大きな弧を描いて2Dのコートに落ちていく。



ボンッ!



後衛の選手が難なくレシーブ。
ボールはネット近くにボールが飛ぶ。

「頼むよ!」



ポンッ!



セッター役がむかって右側にトスする。


コートの右サイドには茜が待ちかまえていた。

茜は助走をつけて、高く飛ぶ。

それに合わせるように相手も2人ブロックすべく飛ぶ。

しかし茜はそれに関係なく、ボールをスパイクする。


「でやぁぁぁぁ!」



バシッ!



パシッ!



「えっ!」


茜のスパイクは軽くブロックされてしまう。

しかし、ボールはコートの外へ。



ピピーッ!



サーブ権移動の笛がなる。

「ナイススパイク!」
「でも、危なかった……」
「確かに、タイミングバッチリッすね……」

幸先の良い出だし、でもなかった。



(……完全にタイミングがあってる……偶然じゃない……)

ベンチの花桜梨は焦っていた。

2Dはとにかく茜と夏海のパワーで勝ち進んできたチーム。
そういうチームと相手に知られても、パワーで跳ね返してきたチーム。
「2人にあわせればなんとかなる」
守備陣はそれを頼りに懸命に守ってきたチーム。


(まずい……このままだと……)

このチームの根底にあるのは「2人が確実に決める」というものだ。
多少のブロックでもはねのける2人がいたからチームが成り立ってきた。

その2人が封じられると……


(……早く対策を考えないと……)

花桜梨は相手を観察してなんとか打開策を練っていた。

時間と共に、相手のポイントが増えていく。

花桜梨の正念場だ。



ガシュッ!



「よっしゃぁ!これでまた5点差だ」
「次を守って、点差を縮めるぞ!」
「まだまだ!これからこれから!」

バスケ会場も盛り上がっている。

スコアは15−20
2Fが負けている。
負けているが、まだまだ前半の途中。

十分追いつく時間はある。

「がんばってぇ〜」
「気合い入れろ!」
「それいけ〜!」

応援団も盛んに声援を送っている。

そのなかで琴子は黙っていた。
それに隣の女の子が気づく。

「琴子さん!黙ってないで応援したら?」
「あ、ああ……そ、そうね……」
「どうしたの?体の調子が悪いの?」
「そ、そんなことないわ」
「無理はしないでよ」

女の子は納得いってないみたいだが、再び応援に戻った。

(文月くん……)

琴子はコートの中央で声を張り上げる一人の男子に黙って視線を向けていた。



(いつからだろう……彼のことばかり考えるようになったのは……)

琴子は文月の姿を追い続けていた。



(最初はただの体育会系のお調子者だと思ってた……)

コート内ではゴール下で文月がパスを受ける。



(クラス委員になる理由が『水無月さんと友達になりたかったから』って、馬鹿じゃないかって思った)

文月は味方にパスを送ると、自分も前に走り出す。



(でも、孤独だった私を見守ってくれたのは彼だった……)

ボールは相手ゴールのすぐ近く。
ゴール下では相手がフォーメーションを組んで守っている。



(私を孤独から救ってくれたのは彼のおかげ……馬鹿な私を戒めてくれた……)

文月たちはパス回しでチャンスをうかがう。
全員が3ポイントを狙う仕草で相手を誘い出したりしている。



(それからね……彼と一緒にいるようになったのは……)

フリーの文月がなかに突っ込む。
それをみたボールを持った味方がパスを送る。



(彼とはどうしても趣味が合わない……でもなんか気が合うのよね……)

相手をすり抜けたパスが通る。



(ただ気が合うだけじゃない……彼の前だと本当の自分になれる……そんな気がする……)

文月がボールを持ったまま高くジャンプする。



(趣味が合わない、下手なナンパばかりしてる、口が悪い、口げんかばかりしてる……でも)

そしてそのままダンクシュート!



(ダメ……やっぱり、私……)



ガツン!



「よおぉし!これで3点差!」
「前半までに追いつこうぜ!」
「もちろん!」

(……)

じっと文月を見つめる琴子。
琴子に見つめられているとは知らず、にやけている文月。

「こらぁ!ニタニタしてないで、とっとと守ったらどうなのよ!」



琴子が突然大声を張り上げる。


「言われなくてもわかってるよ!」
「わかってないじゃない!負けたら承知しないわよ!」

いつも通りの口論。

(ふぅ……やっぱり駄目ね……どうして素直に応援できないのかしら……)

しかし琴子はその口論のあとで深いため息をついていた。。



「大変っすね……」
「気合いも段違いだね……」
「……」

バレー決勝、第1セット終了後の休憩時間。
2Dの選手がベンチで休んでいる。

第1セットは9−15で落とした。
夏海と茜のスパイクが半分以上ブロックされていた。

戦況を見つめながら、花桜梨は対策を考えたが結局思いつかなかった。
バレー部の試合なら色々な対策が打てるのだが、これは素人の試合。
対策はあってもそれが実行できる能力がない。

しかしあと後がない。そして時間がない。

「……」

花桜梨はまだ考えていた。


「ねぇ、花桜梨。もう開き直ったら?」
「えっ?」


そんな花桜梨の思考をクラスメイトの一人が遮った。

「どうせうちらは、夏海と茜に合わせるしかできないんだから」
「そ、そうだけど……」

「今更、新しいこと言われてもできないわよ」
「う〜ん……」

「今まで、これで勝ってきたんだから、最後までいこうよ」
「でも……」

「ほら、花桜梨!コーチは覚悟を決める!」
「……」

(考えすぎだったのかしら……)

花桜梨は改めて自分を見つめ直していた。

そして決断した。



試合前、選手を集めて花桜梨がアドバイスをした。

「1点1点取ることを考えましょ。勝つことはこの際考えるのやめましょ」

「負けたって、準優勝。負けて失うものなんてなんにもないと思う」

「大丈夫、自信をもってやればきっといいことがあると思う」

クラスメイトの選手に向かっていっているが、半分花桜梨自身にも言っていた言葉だった。


それを聞いていたクラスメイトは笑顔だった。
もしかしたら、もう既に開き直っていたのかもしれない。

第2セットは結局16−18で落として、優勝は逃してしまった。

(コーチ役なのに自分も教えられたな……)

負けたものの、選手や花桜梨は満足した表情をみせていた。
満足したからこそ、「できれば勝ちたかった」と誰もが思っていたのも事実なのだが。



ピピーッ



バスケットの試合終了の笛が鳴った。

勝者は拳を突き上げ、お互いに抱き合い、大はしゃぎする。
応援団も雄叫びを上げんばかりの騒ぎよう。

敗者はがっくりと頭を下げ、地面に座り込み、床を見つめている
応援団は静かに選手達を見つめている。
声に出したくても声に出せない。

得るものが大きければ大きいほど差がおおきくなるもの。
体育祭の決勝も例外ではない。
勝者と敗者の差が一番大きいのが決勝戦だ。



「……」

結果は3Fの勝利。
点差は最終的には12点差もついてしまった。

後半最初までは3点差前後で動いていたのだが、2Fの疲れが見え始めた後半途中から一気に流れが傾いた。

「やっぱり無理だったか……」

後半の終わりはなんとかプレーしてはいるものの半分諦めの雰囲気が漂っていた。
こうなると残り時間が苦痛になってしまう。

「やっと終わった……そんな気がする……」

悔しいものの、なんかほっとしている文月。
文月は床にへたり込んで息をぜいぜい吐いている。



「ん?」



パサッ!



そんな文月の視界が突然暗くなった。
文月は目の前の物体を取り払う。

「あれ?……」

文月が掴んだのは白いタオルだった。

「そんなところでくたばってないで、汗でも拭いたらどうなのよ」

見上げると、両手を腰に置いて仁王立ちしている琴子がいた。

「琴子さん?これは……」

「とにかく、汗拭いて休みなさいよ!もうすぐ綱引きがあるんだから!」

「あっ、そうだよな……」

「じゃあ、私は先にグラウンドに行くから!時間までに来てよ!」

「わ、わかった……」

琴子は文月をおいて体育館から出て行ってしまった。



「ん?」

それからして汗を拭きながら教室に戻る文月。
その途中でなにか気がついた。

「あれ?この柄……」

文月がみたのはさっき琴子が渡してくれたタオルの柄。
そのタオルに見覚えがあった。

「これって、確か琴子さんがいつも使ってるやつ……」

体育の授業の後、琴子と会ったときによくみるタオルの柄だった。

「あとで洗って返さないとな……」

文月はタオルに向かって思わず笑みがこぼれてしまう。

「……汗拭く前に、臭い嗅いどきゃよかったかなぁ……」



結局どの種目も優勝したのは3年生だった。
順当といえば順当だろう。
そう簡単に2年生が優勝できるものではない。
しかし、決勝で2年生が2クラスでたのは、それだけでも十分健闘といえるかもしれない。

種目が終わり、いよいよ総合優勝、学年トップを賭けた綱引きで体育祭はクライマックスを迎える。
To be continued
後書き 兼 言い訳

決勝が終わりました。
結局2年は勝てませんでした。
何度も書いてますがそう簡単に3年に勝てるものではありません(邪笑)
でも、負けても収穫は大きかったのではないでしょうか。

しかし、競技の一場面を書くってやっぱり難しいな(汗

なんか、今回は琴子の心境変化がメインになってしまった(汗
説明くさい気もしますがわかっていただけたでしょうか?

次回は最後の綱引きです。


下表は現時点の順位です

順位 クラス 勝ち点 優勝 準優勝 ベスト4 ベスト8 1回戦
勝利
敗者戦
勝利
勝ち点0
1↑ 3B 44
2↓ 3A 44
3C 40
4↑ 3F 34
5↓ 3E 34
6↓ 2D 32
3D 28
2A 28
2C 24
10 2F 22
11 2E 20
12 1A 16
13 1D 14
14 2B 14
15 1B 12
16 1F
17 1C
18 1E
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