第119話目次第121話
「す〜……す〜……」

恵は光の腕の中でぐっすり眠っている。

「……ぐっすり寝てるね……」
「2日連続の大騒ぎだからな、疲れて当然だろう……」

光と公二は恵の寝顔を優しい表情で見ている。

「結局、綱引きが始まるころには寝てたんだってな。どうりで勝てなかったわけだ」
「校長先生も恵を起こさないように気を遣ってくれたらしいよ」
「それで閉会式の挨拶は小声だったんだ!」
「ある意味、おかげで助かったけどね」

閉会式の後、校長から恵を引き取って今は2Aの教室にいた。
公二の席の隣の席に光が座っており、恵は光の膝の上で眠っている。

「ところで、光達はこれからどうするんだ?」
「うん、カラオケボックスで反省会だって」
「赤井さんらしいや。しかし、今日は暴れそうだな」
「そうだね、結局学年で最下位になっちゃったからね……」

苦笑する光。
公二もカラオケボックスで荒れるほむらを想像して苦笑する。

「俺達はファミレスで打ち上げだから、こっちで引き取ろうか?」
「そうだね。カラオケボックスは、恵にはうるさすぎるからね」
「なんか話だと、夜までそこにいるみたいだから、恵もそこで晩御飯にするよ」
「お願いね。じゃあ、私がお母さんに連絡しておくから」
「恵が本気で眠くならないうちに家に帰るから」

体育祭が終わって始まる楽しいひととき。
昨日と今日の戦いを肴に楽しむ打ち上げ会である。

太陽の恵み、光の恵

第21部 体育祭編 その14

Written by B
場所は変わって『響野食堂』

「では、学年優勝を祝って、かんぱ〜い!」
「「「かんぱ〜い!」」」

学年優勝をとった2Dは響野食堂で祝勝会を始めていた。
打ち上げ会の場所として茜が事前に用意してくれたのだ。
お店は貸し切り。料理は当然お店の料理。

最初はクラス全員で割り勘で払う積もりだったが、
バレーの準優勝と学年優勝で賞金が入ったので、その一部を使って払うことにした。
払うと言ってもお店側でだいぶサービスしてくれてはいる。

ちなみに、乾杯しているコップの中は当然お酒ではない。
健全にオレンジジュースである。
お酒を飲もうとした男子もいるが、花桜梨と茜の猛反対により、お酒は無しになっている。

「ぷは〜!いやぁ、ジュースは美味しいなぁ〜」
「もう夏海さんったら、どこかのおじさんじゃない」
「うん、お店にもそんな人がよく来るよ」

カウンターに一番近いテーブルにはクラスの功労者である花桜梨、茜、夏海が楽しくジュースを飲んでいる。
テーブルにある唐揚げやサラダなどをつまみながら体育祭の話で盛り上がる。

「しかし、今年の体育祭は楽しかったね」
「本当にそう。私もいろんな経験ができて本当によかったと思う」
「でも、あんなに勝てると思わなかったな」
「それボクも同じ。ホント、花桜梨さんのおかげだよ」
「そんな……私は何もしてないのに……」
「またぁ、そんなに謙遜しなくてもいいっすよ」
「そう……ありがとう……」

まだまだ楽しい話は続きそうだ。



場所は変わって駅前のファミレス。

「え〜っ、みんなのおかげでバスケが準優勝、綱引きで優勝することができました」



パチパチパチパチ!



文月の挨拶に周りから拍手が湧きあがる。
今はファミレスの隅のところで陣取った2Fの祝勝会の乾杯の挨拶だ。
窓側のテーブルで文月が立ったまま挨拶している。

「学年2位という成績も賞金がなかったことを除けばとても満足です」



パチパチパチパチ!



今度の拍手には笑い声が混じっている。


「俺はこんなクラスの一員になれて本当によかったと思ってます」



パチパチパチパチ!



少し大げさな感想だが、みんなも同じ気持ちらしい。



そんな打ち上げに参加したクラスメイトはあることを感づき始めた。

琴子が静かだ。

琴子が文月の隣に座って、うつむいたまま。
ちょっと顔も紅いように思われる。



そんなクラスメイトの雰囲気に気が付いたのかそうでは無いのか、文月が話を変えた。

「え〜と、乾杯の前に、ひとつ重大発表があります」



シーン



文月の言葉に少し静かになる。


「琴子」
「えっ?」

文月はいきなり隣の琴子の腕を掴んで立ち上がらせる。
そしてすかさず、横から琴子の肩を抱く。



そして一言。





「俺と琴子は今日から正式につき合うことになったから」





「「「おおっ〜〜〜〜〜!!!」」」



パチパチパチパチパチパチパチパチ!



さっきの挨拶よりも盛大な拍手が湧きあがった。


「おめでと〜!」
「この色男!」
「お幸せに〜!」

からかい半分の祝福の言葉が飛び交う。

「ちょっ、ちょっと!な、何でこんな場所で!」

ようやく琴子が文月に反論する。
しかし小声で顔を真っ赤にしては説得力がない。
文月は平然と答える。

「いいじゃん。どうせバレるんだし」
「それにいきなり『琴子』ってなによ」
「いいだろ?俺の事も『誠』って呼んでくれれば」
「……わかったわよ……もう、強引なんだから……」

渋々納得した琴子は顔を真っ赤にしたまま席に座る。



「それじゃあ、体育祭の好成績と我らがクラス委員の幸せを祝ってかんぱ〜い!」

「「「かんぱ〜い!」」」

2人が話し終わったのとタイミングがあったのか、
クラスの一人がいきなり乾杯の挨拶をしてしまった。

「おっ、おい!俺の挨拶なのに乾杯するなよ!」

「「「アハハハハ!」」」

慌てる文月。大笑いのクラスメイト。
2Fの祝勝会はお祝い事も加わり大いに盛り上がりそうだ。



場所はまたもや変わってひびきの高校の2Bの教室。

「お疲れさま〜」
「こちらこそお疲れさま」

2Bは教室で打ち上げ会を開いている。
近くのコンビニからジュースとお菓子を買ってきて、机をならべて長テーブルをつくり、
みんなで楽しく談笑している。

とは言うものの、参加人数は1/3ぐらい。
残りは塾やバイトだったり、少人数の仲間で遊びに帰ってしまったりしている。

参加人数の少なさは体育祭の成績が悪いのも、無理はないと思えるような状況だった。
それでも打ち上げ会に参加している人は全員楽しんでいるからそれは問題ないのだが。

純一郎は楓子の横でコーラを飲みながら談笑している。

「でも綱引きは残念だったね」
「そうだな。2Fの粘り勝ちって感じだったからな」
「うんうん。でも、2Fってチームワークあったよね」
「水無月さん達がクラスを引っ張ってたよな」
「悔しいけど、クラスのまとまりの差かなって思ってる」

「う〜ん、でもこのクラスもいいクラスだよ」
「それは私も同感」
「まあ、クラス単位の行事はまだまだあるから、そのときに頑張ろうよ」
「そうだね!」

こちらもそれなりに楽しい打ち上げ会。
いい成績でも悪い成績でもクラスでやる打ち上げ会というのはとても楽しいものだ。



場所は戻って駅前のファミレス

「おいおい。部外者の俺にいったい何の用だよ?」
「いいからいいから」
「ちょうどいいところだったんだよ」

2Fの祝勝会のところに無理矢理連れて来られたのは公二。
たまたま同じファミレスで2Aの打ち上げ会をやっていたところを連れられたのだ。

打ち上げ会が同じ場所になるということは珍しくない。
こういう場合、クラス関係なくごちゃごちゃで盛り上がるのが定番だ。
現に、2Fの人が2Aのクラスメイトに混じって談笑していたり、現にこちらにも2Aの人が何人か混じっている。

「実はうちのクラス委員の文月と水無月がつき合うことになったんだ」
「えっ?ようやく?」
「あははは!正直言うと俺も同じ気持ちだよ」
「さっき、発表があったんだけど、そこで……ごにょごにょ……」
「ふむふむ……それだったらいいよ……」
「おおっ!折角だから盛り上げてよ!」
「できるだけやってみるよ」

2Fの男子2人とこっそり話し合ってなにかまとまったようだ。



パチパチパチパチ!
パチパチパチパチ!

その男子2人の突然の拍手につられて、周りが一斉に拍手をする。
宴会だとなにかイベント(中締めの挨拶を含む)があるという合図なので、みんな静かになる。

「え〜っ、今日晴れて恋人となったお二人に、恋愛の先輩である2Aの主人さんより祝辞を頂きます」

「「「おおっ〜〜!!!」」」

男子の挨拶に周りが一斉に盛り上がる。

「えっ?えっ?えっ?祝辞?」
「えっ?主人くん!何で来てるのよ!」

突然のことに驚く2人。
2人には何も知らせていなかったから無理もない。



驚く2人をよそに公二は勝手にスピーチを始める。

「えっ〜、この度披露宴に招待されました、2Aの主人公二です」



パチパチパチパチ!



「新婦の水無月さんには妻の光共々とてもお世話になっております」

「「「あははははは!」」」

「ちょ、ちょっと!『新婦』って何よ!」
「そ、そうだよ。俺達別に婚約したわけじゃ……」

2人とも顔を真っ赤にして抗議するが、公二は見て見ぬふりをする。


「今回は一緒に道を歩む2人に先輩から一言ということなので、一言言いたいと思います」

「「「おおっ〜〜!」」」

これは打ち合わせ通り。
「2人になにかアドバイスしてくれ」というのが先程のお願いだったからだ。


「もう婚約して3年になりますが、その経験から得た大切なことが3つあります
 『長所短所含めた全体を好きになること』
 『どんな状況でも相手を信じること』
 『近すぎず、遠すぎず。2人の間の適度な距離をみつけること』
 これが俺達が感じたことなので、お二人に当てはまるかわかりませんが、
 これからの参考にしていただければと思います」


「「「おおっ〜〜!」」」

「……」
「……」

予想外?の真面目なスピーチに一同感嘆の声をあげる。
一方、祝辞を受けた2人は恥ずかしさ半分驚き半分の表情で公二のスピーチをだまって聴いていた。

公二のスピーチが終わっても打ち上げはまだ続いた。
結局2Aも2Fも夜7時ぐらいまでファミレスで騒いでいた。



夜8時過ぎ。

「ただいまぁ〜」

光が家に帰ってきた。
かなり疲れた表情をしている。
玄関に公二がやってきて出迎えてくれる。

「おかえり。早く帰るとか言った割には遅かったな」
「うん、ほむらに2次会に連れられちゃって……」
「赤井さんのことだから、強引につれられたんだろ?」
「まあ、そんなところ。2次会って言っても友達と5人ぐらいなんだけどね」
「ここで立ち話してもしょうがないから、お風呂に入ったら?俺は恵ともう入ったけど」
「うん、話はお風呂で疲れを取ってからにするね」

光は部屋に戻り、荷物を片づけるとすぐにお風呂に入った。



風呂から戻ってきた光は今日の打ち上げの話を公二にした。
ちなみに恵はもう眠ってしまっている。

「……へぇ、もう来年の構想を考えていたとはな」
「2次会は駅前の吉○屋だったんだけど、そこでほむらが語っちゃって語っちゃって」
「赤井さん。来年もクラス替えがあるのをわかってるのかな?」
「そうなんだけど、あまりの勢いでだれも突っ込めなくて……」

2次会でほむらは来年の体育祭の総合優勝へ向けてプランを考えていた。
プランは体育祭の2ヶ月前から練習にとりかかるという壮大なもの。
でも、ほむらの練習嫌いを考えると現実味は非常に薄いものだ。

「それに、みんなノリでいろいろアイデアを出して楽しんだんだよね」
「例えば?」
「クラスのユニフォームとか、練習の強化ポイントとか」
「しかし1年後だぞ?気の長い話だなぁ」
「まあ、文化祭とか修学旅行とかやってるうちに忘れちゃうよ、たぶん」
「そんな気がする。赤井さんには失礼だけど」
「あはははは!」
「あはははは!」

今年の体育祭はこうして幕を閉じた。
でも、学校の楽しい行事はこれだけではない、まだまだたくさん残っている。

そしていよいよ夏が近づいてくる。
To be continued
後書き 兼 言い訳

やっとおわったぁ!

これで体育祭は終わりです。
個人的には最後もう少し盛り上げようかな?と思ったけど、長くなりすぎるのも嫌なのでやめました。
そもそも、全体14話も使って、長すぎかな?と少し反省しています。

え〜、琴子と文月がとうとうつき合うことになりました。
どうしてつき合うことになったのか?
琴子の「なんでもしてあげる」約束に対して文月はなにを頼んだのか
今回あえて書きませんでした。
後日そこの経緯をちょっとだけ詳しく書ければなと思ってます。

こういうのを『後回し』といいます(笑

これでようやくストーリーが進行しそうです。

しかし、次の22部ではストーリーが進行しません(こら
1、2、3、GSの4話オムニバス形式の話を予定しています。
テーマは秘密です。

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