「なんて事言うのよ!」
「なによ、当然のことを言ったまでよ」
「どこが当然なのよ!」
「愚民にはわからない話よ」
「そんな非常識許されると思うの?」
「常識、非常識関係ないわ。正解か正解で無いかよ」
いまにも殴りかからんばかりに強い口調で語るショートカットの女の子。
クールな表情で腕組みをしてその女の子を見つめる、片目が隠れるロングヘアが特徴の女の子。
和泉恭子と紐緒結奈の2人である。
正義の味方を目指す恭子と、世界征服を目指すと公言する結奈。
仲がいいわけがない。
どこかの学校のどこかのカップルの口論みたいにほほえましいものではなく、
この2人の口論は周りにとっては至極迷惑。
そんな口論が今日も続いている。
太陽の恵み、光の恵
第22部 ASTRO BOY編 その1
第121話〜英雄談義〜
Written by B
少なくても週に一度はこんな口論が起こる。
片方が他の人と話していると、もう片方が割り込んで口論になるというパターンがよくある。
今日もそんな展開。
「だから、ここで決着つけましょ!」
「するまでもないわ。するだけ無駄よ」
「……」
一つの机を挟んでお互いに言い合っている。
「私は納得いかないわ!」
「納得して頂かなくても結構よ」
「……」
「いつもそう言ってごまかすじゃない!」
「ごまかしてないわよ。無駄な時間を省いているだけよ」
言い合っているのはいいのだが、問題はその口論している机である。
「……こらぁ!お前らいい加減にしろ!」
問題は、口論がその机の持ち主の睡眠を邪魔している事だ。
案の定、その持ち主の男子が顔を上げて叫んだ。
「あら、起きてたの?」
「芹沢君。ごめんね、ちょっと机借りてたの」
「借りてた、じゃない!頼むから俺の昼寝の邪魔をするなよ」
「しょうがないじゃない。一番いい場所だから我慢しなさいよ」
「寝ちゃえば大丈夫でしょ?」
「大丈夫じゃない!うるさくて寝たくても寝られないんだよ!」
机の主は芹沢勝馬。とあることで学年で有名だがここでは書かない。
ただ、このクラスでは「2人の口論のとばっちりを一番受けている人」として有名である。
彼の机は恭子と結奈の机の間に位置しているからだ。
おかげで毎昼のお昼寝ができずに困っている。
「……とにかく、他の場所でやってくれ」
「仕方ないわね……場所を変えるわよ」
「望むところよ!」
珍しく凄む勝馬に渋々2人は2Dの教室を後にした。
「……で、またここなの?」
2年G組の教室。
真帆は困惑していた。
「仕方ないでしょ、私たち共通の知人なんてあなた以外にいないのよ」
「まあ、この人の愚論につきあってよ」
「愚論ってなによ!」
真帆の机を挟んで恭子と結奈が対峙していた。
その間に挟まれて座っている真帆は困っている様子。
たしかに2人に共通の知人は真帆しかいない。
だから、真帆が2人の口論の聞き手にされてしまうことがしばしばある。
そのため、2Dでは真帆は「2人の口論のとばっちりを2番目に受けている人」として有名になっている。
「ところで今日は何の話なの?」
真帆はしかたなしに2人に聞く。
先に口を開いたのは結奈だ。
「白雪さん。正義の味方ってよくいるわよね?」
「うん、テレビでよく見るよ」
「あれって非効率だと思わない?」
「えっ?」
「倒しても倒しても次の敵が出てくるのよ」
「確かに敵がいっぱい出てくるよね」
「でも、周りは何もしてくれずに、自分だけで倒してるのよ……効率悪いと思わない?」
「う〜ん……確かに一人よりもたくさんいたほうがいいような……」
「一番いい方法ってわかる?」
「……」
「自分が世界征服すればいいのよ」
「ええっ?」
「そうすれば、周りは全て自分の下僕よ。敵なんて大量の下僕に任せればいいのよ」
腕を組んだまま、冷静に語る結奈。
真帆はご親切にその語りにつきあっている。
「そんな暴論にだまされてはいけないわ!」
一通り話が終わったところで恭子が反論を始める。
「世界征服する正義の味方なんて聞いたこと無いわ!」
「確かに……」
「正義の味方はみんなの平和を守るためにあるのよ!下僕にしてどうするのよ」
「まあねぇ……」
「世界征服なんてした時点で正義の味方じゃないわよ!」
「なるほどね……」
猛烈な勢いで語る恭子に真帆も思わずふむふむ頷いてしまう。
「それが愚論っていうものよ」
「なによ!」
今度は結奈が口を挟む。
その一言に恭子が反応する。
「正義って、世界征服したらそれが正義になるのよ」
「そんなの正義じゃない!」
「何言ってるの?世界を自分の思想で征服したらその思想が正義なのよ」
「どんな思想でも?」
「そうよ。世界の頂点なのよ。何をやってもそれが正しいのよ」
「いいわけないじゃない!」
恭子の口調にがぜん熱を帯びてくる。
「大体そういう思想が、悪者の思想なのよ!」
恭子がびしっと結奈を指差す。
しかし、結奈はまったく反応しない。
「何言ってるの?悪者なんて誰が決めるの?あなたが決める訳じゃないでしょ?」
「私が決めなくても他の人だってそう思うわよ。ねぇ、真帆?」
「えっ?」
「白雪さん。やっぱり、この人の考えは愚論だと思わない?」
「えっ?」
2人から同意を求められた真帆は言葉に詰まる。
(どうしよう……両方同意するわけにはいかないし……)
真帆は困ってしまった。
どう考えても両方YESといえる質問ではない。
かといって両方NOと言えそうな答えが思いつかない。
片方だけYESとしか言えない状況になっている。
しかし、どちらにしても、真帆にとってはいいことではない。
2人ともかなり武闘派なので、後で何をされるのかたまったものではない。
真帆はそういう状況に何度もなっている。
そういう場合、真帆はどうするか?。
「ねぇ……そもそも、なんでこういう話になったの?」
それは、無理矢理話を変えてしまうことである。
これが意外と効果がある。
特にヒートアップした恭子には効果がある。
案の定、恭子が反応した。
「これよ!」
バンッ!
真帆の机に1冊の文庫サイズのマンガ本が叩き付けられる。
真帆はそれを取り上げて読んでみる。
「えっ?……鉄○ア○ム?」
「そうよ。これを私が楽しく読んでいたら、紐緒さんが余計な口出しをしたのよ!」
本の中ではロボット少年が敵のロボット相手に大活躍しているシーンがあちこちに描かれている。
「馬鹿な話よね。こんな子供ロボットに助けを求めるなんて……」
「子供って馬鹿にしないでよ!これでもと〜っても強いんだから!」
「……」
「なんだかんだ言っても子供よ。やっぱり無駄に時間を使っただけよ」
「無駄じゃないわ!世界のために有意義な時間なのよ」
「……」
(どうしてこれでこんなに口論ができるの?信じられない……)
真帆は呆れていた。
新聞記事や学校の行事とか、色々な原因の口論を聞いたがマンガというのは初めてだった。
こんなので喧嘩を売る方も売る方だが、買う方も買う方だ。
(はぁ〜、どうしてこんな口論につきあっちゃったんだろう?)
今更ながらに口論につきあった事を後悔してしまっている。
「あれ〜っ?またやってるの?2人とも暇ねぇ」
そんな状況で一人の明るい声が割り込んできた。
「ヒナ!」
「あっ?朝日奈さん」
「あら?また来たの?」
「またもどうも、あたしのクラスだもん。しょうがないでしょ」
やってきたのは真帆の大親友のヒナこと朝日奈夕子。
たまに2人の口論におもしろ半分で入るときがある。
夕子は真帆が持っていたマンガ本を横から割り込んで中身をみてみた。
「へぇ〜、鉄○アト○かぁ、これって結構面白いんだよねぇ」
「ヒナ、これ持ってるの?」
「そんなわけないじゃん。暇つぶしのマンガ喫茶で読んだことあるのよ」
「やっぱりそうなんだ」
夕子は真帆からマンガ本を取り上げると立ったままパラパラと読み始めた。
「でも、○トムが一番強いロボットに見えないんだよねぇ、これって」
「えっ?」
「えっ?」
夕子のひとりごとになぜか恭子も結奈も反応する。
「これよりも強いロボットなんてたくさんいるのにねぇ……」
「……」
「……」
恭子も結奈も夕子の方をじっと見つめている。
「あたしが天才科学者だったら、これより強いロボットを作るんだけどなぁ」
「それよ!」
「そうだ!」
「えっ?」
「えっ?」
ドタドタドタドタ……
突然恭子と結奈は教室を飛び出してどこかに行ってしまった。
「ねぇ……なんなの?あれ?」
「わからない……と、とにかく助かったぁ……」
呆然と扉を見つめる夕子。
ほっと安心した表情を見せる真帆。
「結局口論は決着ついたの?」
「全然」
「ふ〜ん、じゃあいつも通りってところだね」
「そういうこと」
実は2人の口論で決着がついたことがない。
いつもうやむやのままに終わってしまうことが多い。
「真帆もお人好しねぇ。あんなのにいつもつきあうなんて。あたしじゃ無理よ」
「2人ともいい人なんだけどねぇ……」
「まあ、そういう真帆だから、こうなるんだろうけど」
「……」
とりあえず、嵐が過ぎ去ったことで一安心の真帆だった。
放課後。
ウィーン!ウィーン!
校舎のの地下にある科学部部室。
部室の主である結奈はなにやら機械を操作していた。
「不覚だったわ……なんで、この私があんなロボットを強いと思ったのかしら……」
ドン!ガン!ドン!ガン!
「一番強いロボットを作るのはこの天才の私以外にあり得ないわ!」
結奈の目の前にはなにやらロボットの部品が所狭しと置いてある。
「この世界征服ロボが完成すればどんなロボットも目じゃないわよ……」
ズシャン!ガシャン!ドシャン!
「この私を惑わせるなんて、あの女は許せないわ……」
「絶対に世界征服ロボのサンドバッグにしてあげるわ……覚悟しなさい」
意外にヒートアップしてしまった結奈は夜の8時までロボ製作に明け暮れたそうだ。
そしてもう一人ヒートアップしている女の子が体育館裏に。
「てやぁ!」
バシッ!
「とりゃぁ!」
バシッ!
恭子は剣道部から譲り受けたいらなくなった竹刀で近くの木に打ち込みをしていた。
ただ、恭子は剣道などしたことはなく、ただ持った棒で木を叩いているという表現のほうがしっくりいく。
「あの女のことだわ……どんなロボットにもハッキングして操作してしまう可能性があるわ!」
バシッ!
木には恭子の殴り書きの結奈の似顔絵が貼り付けてある。
「ア○ムが紐緒さんに操られて悪の下僕に……そうなったら私が止めるのよ!」
バシッ!
「いや、その前に紐緒さんの計画を暴いて、正義を守るのよ!」
バシッ!
「そしてアト○を紐緒さんから取り返して、一緒に平和を守ってみせるわ!」
バシッ!
何か、現実とマンガを混同してしまっている。
そこまで恭子はなぜかヒートアップしてしまっていた。
結局2人の間で決着がつくどころか、余計に対立させてしまった。
真帆の苦悩は終わることはない。
To be continued
後書き 兼 言い訳
皆様のおかげで10万HITも達成してあらためて頑張りたいと思います。
第22部は10万HIT記念っぽいシリーズです。
今回は1、2、3、GSの4話オムニバス形式の話です。
テーマは読んで時の如しです(笑)
ア○ムをきっかけにした簡単なお話が続きます。
今回初登場はセリフ付きでは初登場の紐緒閣下とちょい役のドラマCD組の芹沢勝馬。
勝馬は今回の話には関係ないのですが(ぉ、運悪く(作者のきまぐれにより)この2人と同じ組になったので登場してます(ぉぃ
次は当然2キャラです。