第122話目次第124話
日差しがまぶしくなってきた校舎。

ここはひびきのから少し離れたもえぎの市にある私立高校であるもえぎの高校。

そしてここは2年1組の教室。

「ぐすっ……ぐすっ……」

お昼休みに一人の女の子が泣いていた。

(あら?河合さん。どうしたのかしら?)

それに気づいた子は同じクラスの和泉穂多琉。
ロングヘアだが、髪の一部を白いハンカチのようなもので結んでいるのが特徴的だ。

「かわいそうだよぉ……」

女の子は人目もはばからず泣いている。

(文庫本を読んで泣いているのね、いったいどんな本かしら?)

女の子は文庫本をみて泣いているようだ。
文庫本は本屋の店名が書かれた茶色のブックカバーが掛けられており、どんな本かはわからない。

穂多琉は女の子の机の横に立つ。

「河合さん。どうしたの?」
「あっ、和泉さん。あのね……」

泣いていた女の子は泣きやんだようだ。
女の子は持っていた文庫本を穂多琉に渡す。

「この本がねぇ、とってもかなしいんだよぉ」

穂多琉は文庫本をパラパラとめくる。

「この本がねぇ……えっ?……漫画?」
「そうだよぉ、これって悲しいんだよぉ」

女の子が読んでいたのは「○腕ア○ム」だった。

太陽の恵み、光の恵

第22部 ASTRO BOY編 その3

Written by B
泣いていた女の子の名は河合理佳。
眼鏡と三つ編みを頭の下で丸く形作っている髪型が特徴的だ。
彼女は科学部に入っていて、ロボットの制作をやっているが、穂多琉は詳しいことは知らない。

「これって漫画でしょ?どうして……」
「和泉さん。これって悲しいんだよ」

話が長くなりそうだったので、穂多琉は理佳の隣の席の椅子に座った。
そして、文庫本の漫画をパラパラと見ていた。

「えっ?これってロボット漫画でしょ?」
「それが悲しいんだよぉ」
「えっ?」

あまり漫画には興味がない優等生の穂多琉には理佳の言っていることがよくわからない。
それでも理佳はハンカチで涙を拭きながら熱く語り出す。

「ア○ムって、敵のロボットと戦うんだよね」
「確かそうよね……」
「でもね、アト○はいつも悩んでるんだよ」
「悩み?」
「うん、『人間とロボットはどうして仲良くできないんだろう?』って」
「……」
「それにアト○は同じロボットとも戦いたくないんだよ。それでも戦ってるんだよ?」
「……」
「そんなの何度も見てるとかわいそうでかわいそうで……」
「そうなのかしら……」

穂多琉はもうすこしゆっくりと漫画を読んでみる。
確かに苦悩する主人公の姿が随所に見られている。



「和泉さん。人間とロボットは共存できるよね?」
「えっ?」

漫画を読んでいたときに、突然理佳から尋ねられて穂多琉は一瞬慌てる。

「人間とロボットは仲良くできるよね?」
「……わ、私は仲良くできると思うわ」

穂多琉は素直な感想を理佳に告げた。
すると理佳は突然立ち上がり、右手を強く握りしめ、顔を上げ、天を向いていた。

「そっかぁ……そうだよね!うん、絶対そうだよ!」
「か、河合さん……」
「ア○ムの願いは絶対に叶うんだよ!ねっ、そうだよね!」
「そうだと思うわ……」

突然の行動に穂多琉も簡単な相づちしかできない。



「人間とロボットは仲良くできるんだよ!そして、私だって……」
「河合さん?」
「ねぇ、和泉さん。人間とロボットの共存に協力しない?」
「えっ?」

驚く穂多琉。
それに対して、表情に熱が入ってきた理佳。

「ねぇ、和泉さんも協力してくれるよね?」
「え、ええ……」

顔を近づけ、強引に頼む理佳。
特段の拒否する理由もなく、さらに勢いに押されて返事をしてしまう穂多琉。

「やったぁ、じゃあ明日からよろしくね♪」
「えっ?えっ?ええ……」

大喜びで教室から出て行く理佳。

(これで、よかったのかしら?)

結局穂多琉はなにがなんだか、という感じしか残らなかった。



その日の夕方。

「ただいま……さて、鞄の整理と……あれ?」

自分の部屋に帰ってきた穂多琉は鞄の整理をしたらあるものを見つけた。
見つけたものは1冊の文庫本。

「あっ……返してなかったわ」

それはお昼休み、理佳から渡されたままの「鉄○ア○ム」の漫画本だった。

「しょうがないわね、明日返しましょう」

穂多琉は机に座って漫画本の最初のページから読んでみる。

「……」

いつの間にか穂多琉はその本に夢中になっていた。



パタ!



「ふぅ……」

それから30分後。
穂多琉は一気に読み終えた。

「久しぶりね、漫画を読むなんて……」

漫画をほとんど読まない穂多琉だったが、読み終えたその表情は満足していた。

「たまにはこういうのもいいわね……」

読書が好きな穂多琉でも面白かったようだ。
穂多琉は本を再び鞄の中にしまった。



「さてと……」

穂多琉は机に置いてあるパソコンの電源を付けた。
そして、いつものようにブラウザを立ち上げる。

「確かア○ムって……」

穂多琉はブックマークから検索サイトを開き「鉄○ア○ム」のキーワードで検索してみる。
検索結果のページがすぐに現れる。

「結構あるわね……ふむふむ……」

穂多琉はその結果を上から見てみる。
結果だけでもどういう事が書いてあるのか少しだけわかる。

「なるほどね……今年誕生日なんだ……」

検索の結果わかったこと。

それはア○ムの漫画上の誕生日が今年だということ。
そのため、誕生日には住民票を発行する自治体があるなど、結構ニュースであったらしい。

「へぇ〜、もうそんな時代になったんだ……」

漫画だけでなく、映画や小説でもそうだが、SFものの時代設定は近未来だ。
当然原作者は自分の想像するその時代の未来を想像している。
昔、未来として設定した時代がもう現実になってしまっている

「『2○○1年宇宙の旅』ってあったけど、もう過去なのね……今はもう未来か……」
「なんか不思議な気分ね……うふふ……」

自分の想像する近未来は今の世界にはない。
しかし、昔の人は今はもう自分の想像するような世界になっていると思っている。
その差が穂多琉にとってはすこしおかしかった。



そして、次の日の朝
学校に登校した穂多琉は先に学校に来ていた理佳に本を返しに行った。
理佳は別の文庫本を読んでいた。

「あっ、和泉さ〜ん!おはよう!」
「おはようございます。そうそう、昨日はごめんなさい」
「えっ?なにが?」
「これを返すのを忘れてました」

穂多琉は鞄から取り出した本を理佳に返す。
理佳は何か気が付いたような表情をしながら本を受け取る。

「あっ?わたしも忘れてた〜。ありがとう!」
「そんなお礼を言われることはしてないわ」
「そんなことないよ。いやぁ、ありがとう〜」

理佳はニコニコ顔で穂多琉から受け取った本を鞄の中にしまう。



「ねぇねぇ。ところで放課後時間ある?」
「う〜ん……すこしぐらいならあるわ」
「それじゃあ、さっそく人間とロボットの共存のために協力してくれないかなぁ?」
「えっ?」

突然言われて驚く穂多琉。
理佳はかまわず話を続ける。

「ちょっとだけでいいから実験につきあって欲しいんだけど」
「わたしでいいの?」
「うん!」
「それだったら……少しだけなら……」
「じゃあ放課後、科学部室に来てね!」
「え、ええ……」

すこし強引な押しに穂多琉は簡単にOKの返事をしてしまう。

「じゃあ、よろしくね♪……いやぁ、助かったぁ……」
「???」

(こ、これでいいのかしら?)

穂多琉は依然不安なままだった。



そして放課後。
2年1組の教室。

「さぁてと、部活に行かなくちゃなぁ……」

そう言っている、太っていて眼鏡の男子生徒の名前は矢部卓男。
卓男は机の中を整理し終え、所属する天文部の部活動に行こうとしていた。



ガラガラ!



「……」

そのとき教室の扉が開いた。
廊下から一人の女の子がフラフラになって入ってきた。

「ほ、穂多琉ちゃん!どうしたの?」

入ってきたのは穂多琉だった。
卓男はあまりのフラフラぶりに驚いて穂多琉のところに走っていく。

「お、おい!いったい何があったんだ?」
「い、いや、今河合さんに頼まれて、科学部に行ったんだけど……」
「えっ?あ、あの科学部に……」

卓男の背筋に寒気が走った。
彼の情報では科学部、特に理佳はいつもなにか怪しい実験をしているらしい。
ただ、どういう実験かまでは調べていないが普通ではないことは確かだ。

「もしかして、実験台に?」
「う、う〜ん……大丈夫だから……」
「ホントなのか?どう見ても大丈夫とは思えないぞ!」
「大丈夫……頑張るから……」
「はぁ?」

穂多琉の言っている意味がよくわからない卓男をよそに穂多琉は自分の机に戻り、鞄を持ってまた扉に戻ってきた。



「共存って……大変なのね……」
「えっ?」
「それじゃあ……」



ガラガラ!



穂多琉は教室からフラフラと出て行ってしまった。

「な、何があったんだ?」

卓男は穂多琉の行動に対してチンプンカンプンになってしまっていた。
結局、卓男は穂多琉が科学部室で何をされたか知ることはなかった。



その科学部室。
理佳はニコニコ顔で液晶ディスプレイと対峙していた。

「和泉さんのおかげで助かっちゃったぁ」

理佳はキーボードを叩いてなにやらデータの整理をしている。

「こんなにいいデータが取れるなんて思わなかったなぁ」



カタカタカタカタ……



「そら〜をこ〜えて〜、ラララ、ほ〜し〜のか〜なた〜♪」

歌も飛び出すほどご機嫌な理佳。

「また、いつか頼もうっと♪」

何も事情を知らずにつきあっている、意外とお人好しの穂多琉の苦難はまだまだ続きそうだ。
To be continued
後書き 兼 言い訳

最近「手塚○虫はアニメのア○ムが嫌いだった」という説が広まっていますな。
「あまりに正義の塊で反発を覚える」とかなんとかで。

というわけで(何が?)、今回は3です。

なんかごく普通?の学校風景という感じになってます。
珍しく登場人物も3人だけだし。

しかも、今回初めて2キャラが誰も出ていない!いいのか?(いいんです!)

初登場は河合理佳と矢部卓男の2人。
理佳たんはあまり人気がありませんが、ここでは何故かいきなりこんなにセリフがある。
ゆっこたんなど、まだ酔いどれでちょこっとしかでてないのに(汗

矢部は前々話の勝馬と同様にだれでもよかったのですが(ぉ
運良く?(作者の気まぐれにより)同じクラスだったので登場しました(ぉ

穂多琉ですが、穂多琉としては初登場なんですよね(汗

さて、次はGSキャラです。

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