臨海公園やショッピングモールが話題のスポットとして最近注目を集めているはばたき市。
そのショッピングモールを歩いている2人の男性。
「ちょっと、一鶴。今日はどこに連れて行くつもりなのよ?」
「まあまあ、花椿。そう、あわてるな」
一人は茶色のスーツをビシッときめており、髭を生やし、ダンディにきめている。
それとは正反対にもう一人は全身紫っぽいピンク。それも上着はヘソ出しで胸元も開いているという普通の男性では絶対に着ない独特な衣装。
一人は私立はばたき学園の理事長の天之橋一鶴。
もう一人は世界的はファッションデザイナーの花椿吾朗。
ちなみに2人はまだ30代だ。
学生時代からの親友である2人はこうしてたまに一緒に遊びに出かけることがある。
そうしているうちに、2人は目的地に着いたようだ。
「さあ、花椿。今日はここで楽しもうではないか」
「えっ?ここはマンガ喫茶じゃない!」
2人の目の前の建物の2階にはマンガ喫茶の看板が大きく掲げられていた。
太陽の恵み、光の恵
第22部 ASTRO BOY編 その4
第124話〜懐古談義〜
Written by B
「しかし、一鶴も珍しいわね。こんな場所に行くなんて」
「あははは、ちょっと昔読んだ漫画を読みたくなってね」
2人は漫画喫茶の隅のテーブルの隣同士の席に座っている。
天之橋はアイスティ、花椿はオレンジジュースを頼み、それぞれ読みたい漫画を選び終わったところだ。
「一鶴とは似合わない気もするけど」
「でも、最近は大人や女性も来ているらしいから、私でも大丈夫だろう」
「確かにね……」
花椿は振り返って店内を見回す。
確かに女子高生のグループや仕事帰りのサラリーマン、それに主婦と思われる人も来て漫画を読んでいる。
「ふ〜ん……」
花椿はもう一度店内を見回す。
今度は店内の一人一人を丁寧に見る。
「……」
花椿の表情が少しずつ険しくなっていく。
その様子に天之橋が気づいたようで吾朗をなだめる。
「こら。花椿、やめないか」
「イライライライラ……」
「関係ない人のファッションなんか気にするな。花椿の悪い癖だ」
「許せないのよ!あの人なんか見てよ。あのセンスの悪い服!あれは服が泣くわよ!」
花椿の趣味はファッションチェック。
通りすがりの人のファッションを細かくチェックするということを楽しみとしている。
ファッションデザイナーとして必要なことかもしれないが、花椿の場合はやりすぎる場合もたまにある。
「まあまあ……」
「まったく、ここに来てる人はなんてセンスがないの?もう嫌になっちゃう!」
「落ち着きなさい!」
「まあ、仕方ないわね……」
天之橋にたしなめられて渋々漫画がずらっと並んでいる棚の方に向きを変える。
「とにかく、ここは漫画を楽しもうではないか。時間がもったいない」
「そうね、そうするわね」
2人はようやく漫画を読み始めた。
1時間後。
2人は何冊か本を変えながら漫画を読んでいた。
テーブルには読んだ漫画本が何冊か積んだ状態になっている。
2人とも話もせずに熱心に読んでいたが、ふと天之橋が花椿に話しかける。
「花椿は今はなにを読んでいるのかな?」
「アタシはこれをよんでいるのよ」
花椿は今読んでいる本を天之橋に渡す。
渡された本は繊細なタッチの女の子の絵が表紙の漫画。
「少女漫画?ほう、花椿らしいな」
「やはりファッションのヒントが浮かんできそうでいろんな作品を見てるのよ」
天之橋は花椿の席に積んである漫画の背表紙を見てみる。
確かにどれも少女漫画だが、同じ作品、作者のものはない。
「それで、新作のヒントになりそうなのはあったのかね?」
「う〜ん、どれもイマイチね。どうもアタシにひらめきを与えてくれないのよね」
「ほう、そうなのか」
「最近どうも新作のアイデアが浮かばずに困ってるのよ」
「それは大変だな」
花椿は両手を上にあげ、お手上げのポーズを取る。
「ところで、一鶴は何を読んでいたのよ」
「あははは、私はこれだよ」
天之橋は自分が読んでいた本を花椿に渡す。
「鉄○ア○ムねぇ……」
「そうだよ。これが読みたくて今日はここに来たからね」
花椿は鉄○ア○ムの漫画本をパラパラとめくる。
「漫画は読んだことはないけど、小さい頃テレビで見たわね、これ」
「私もそうだよ。それでもなにか懐かしい気がしてね」
「最近話題よね」
「そう、でも昔も見ているから、私にとっては最新の話題というよりも、懐かしいものという印象が強くてね」
「確かにアタシも見て不思議な気分なのよ」
再びパラパラと漫画をめくる花椿。
天之橋はその様子を見ながら話をしている。
「花椿もそうだろうけど、昔の漫画を見ると昔を思い出すんだよ」
「アタシもそんな経験があるわ。昔のアタシのファッション記事を見てもそう思うわよ」
「でもそれは最近の話ではないか?学生の頃は思い出さないのかい?」
「思い出すわ。アタシは最近は漫画は読んでないけど、テレビでちらっと見つけると思い出すわよね」
花椿も漫画を見るのをやめて、天之橋と話すことだけに集中している。
「昔の漫画を見たとき、話自体は憶えてないんだけど、それを読んでいた自分の状況を先に思い出すんだ」
「それはアタシも同じ。意外と話は憶えてないのよね」
「一度思い出すと、結構憶えているんだけど、思い出すまでが大変なんだよ」
「アタシは記憶力は悪くないはずだけどどうしてなのかしら?」
「それだけ他のことをたくさん経験したということだろうね」
「あら?一鶴ったら、格好良く決め過ぎよ」
「あははは、そのつもりはないんだがね」
天之橋は積んである漫画をパラパラとめくって読む。
「でも、こういう昔の漫画を読んで、昔を振り返るっていいものだね」
「ふ〜ん」
「この漫画を純粋に読んでいた、純粋な少年の頃というのかね……」
「少年の心ねぇ……」
「純粋な心って、大切だが時を経てばそれが消えてしまう……」
「ほうほう」
「昔を思い出すことで、その純粋な心の一部を取り戻せば……まあ、難しいけどね」
「もうっ、一鶴ったらカッコつけすぎよ!」
「あははは、昔に戻ったから、ノスタルジックになっちゃったかな?」
天之橋は低い声で落ち着いた表情で笑っていた。
花椿は一人だけで語る天之橋に対してふくれっ面を見せたが本気の表情ではない。
花椿は鉄○○トムの本をパラパラと、それでも先程よりはゆっくりと漫画の絵だけをみるぐらいの早さで読み始めた。
「しかし、少年漫画も衣装って大切よ」
「まあ、少女漫画よりはそれほど気にする必要はないと思うぞ」
「そうね……あら?」
「ん?どうしたんだ、花椿?」
花椿の表情がすこしだけ変わった。
少しだけ真剣な表情になっている。
漫画をめくるスピードが少しだけ速くなる。
「むむむ……アタシになにかひらめきてきたわよ!」
「ほうほう」
「ふむふむ……段々ひらめいてきたわよ!」
「……」
真剣な表情で鉄○アト○の漫画を見る花椿。
天之橋は花椿のひらめきの邪魔をするわけにはいかず、じっと見守っている。
パタッ!
花椿が突然本を閉じる。
「ひらめいたわ!」
「えっ?」
「新作の素晴らしいアイデアが浮かんだわ!」
「そうなのか、それはよかった」
「さっそく、アイデアを具体化する必要があるわ。一鶴!今日は帰るわよ」
「わかった、じゃあさっそく帰ろう。その前に漫画の片づけだ」
突然花椿は立ち上がり帰ろうとしたが、天之橋が花椿の腕を掴んでそれを止める。
「ちょっと何するのよ!アタシは急いでいるのよ」
「急ぐはいいが、やることはやってからにしてくれ」
「わかったわよ……まったく……」
渋々漫画の片づけをする花椿。
天之橋も漫画を片づける。
しかし、急いでいた花椿が先に片づけ終わったようだ。
「じゃあ、先に帰るわね」
「気を付けなさいよ」
「それじゃあ、できたら試着ヨロシクね。それじゃあ、アデュー!」
花椿は走ってマンガ喫茶から出て行ってしまった。
「しかし、試着って?……それに鉄○ア○ムで何をひらめいたんだ?」
天之橋は花椿の最後の言葉が少々気になった。
「しかし、花椿はお金も払わずに……仕方ない、いつものことだ……」
それよりも天之橋はマンガ喫茶の料金を払うことを先に考えることにした。
それから一週間後。
私立はばたき学園の生徒玄関。
「さて、今日もミズキの素晴らしい学園生活が始まるんだわ!」
ブロンドのロングヘアが綺麗なこの女の子は2年4組の須藤瑞希。
大財閥須藤グループの一人娘だ。
今日もご機嫌で学校にやってきた。
ドタドタドタ……
「あら?どうしたのかしら?」
突然瑞希の耳になにやら走る音が聞こえてきた。
すると、瑞希の目の前には天之橋が来ていた。
「理事長。Bon Jour!」
「や、やあ、須藤君。おはよう……」
走ってきたらしく、息づかいが荒い。
挨拶もちょっとままならない。
「どうしたのですか?」
「須藤君。私はここには来ていないからね。いいね?」
「えっ、えっ?いいですけど……」
「あれは私にはとても……それじゃあ!」
ドタドタドタ……
そう言うと天之橋は走ってどこかに行ってしまった。
「???」
一人残された瑞希は呆然と立っていた。
ドタドタドタ……
すぐに別の足音が聞こえてきた。
やってきたのは花椿。
瑞希はとりあえず挨拶する。
「あ、花椿せんせい。Bon Jour!」
「あら、おはよう。ところでアナタ、一鶴を見なかった?」
「一鶴?……理事長の事ですか?」
「そうよ。一鶴ったら、新作の試作品を着ないで逃げたのよ!」
「新作?」
「そうなのよ。これなんだけど」
「え゛……」
花椿が瑞希に見せた試作品に瑞希は絶句してしまう。
花椿が持っていたのは半ズボン、それも男用だ。
黄色のラメが入っており、妙にきらきらしている。
「アタシの作った初めてのメンズよ。テーマは『大人の男の半ズボン』♪」
「……」
「やっぱり半ズボンは少年の心なのよ」
「……」
「これをはいて、少年時代の純粋な心に戻ってもらおうと思ったのに……一鶴はどこにいったのかしら?」
いつもの口調で熱く語る花椿。
瑞希は絶句したまま。
ふと花椿を見ると、天之橋が走ってどこかに逃げていくのが見えた。
それに気づいて、ようやく口を開く。
「り、理事長は、こ、こっちには来てませんけど……」
「あら、そうなの?わかったわ。それじゃあ、アデュー!」
ドタドタドタ……
花椿も走り去ってしまった。
「……なんか疲れたわ……」
残された瑞希は頭を抱えたのは言うまでもない。
花椿はどうやら、マンガでのアト○の格好をみて半ズボンを思いついたらしい。
天之橋と花椿のはばたき学園内の追いかけっこは、花椿が諦めるまで1日中続くこととなる。
To be continued
後書き 兼 言い訳
初めてのGSキャラメインのお話です。
しかしなんだこりゃ(笑)
初めてなのに主役がおじさん2人(笑
もっとまともなの書けよ、と突っ込まれそうですが、まともなの書けたら、こんな長編SSなんて書いてません(笑)
いやぁ、なんか最後のシーンのイベントが思いついちゃって、折角なので書いてみました。
全員初登場です。
須藤瑞希ですが、お察しの通り、今部のちょい役3号です(こら
本当はGS主人公ちゃんと使いたかったけど、まだ登場させていないので彼女の登場となりました。
本格的な登場は次以降ですね。
私としては天之橋のダンディさと、花椿の怪しさがもう少し表現できればと思ったのですが(汗
これで22部は終わりです。
次は梅雨時の学校編となります。
体育祭編でネタを振っておいたので、それの後始末でもしようかと(笑)
あと、思いつきでいくつかと、温めておいたお話を一つ書く予定です。