第124話目次第126話
梅雨時の間の天気のいい朝。

「はぁ……」

しかし、学校に登校する匠は梅雨時のようなどんより暗い。
足取りも重い。

「ふぅ……」

顔は前を向いておらず、うつむいたまま、地面のアスファルトだけを見つめていた。

「どうしよう……」

体育祭が終わった頃から匠の様子がおかしい。
どうも元気がないのだ。
いや、なにか悩んでいるという感じがある。

そう匠の近くにいる人は感じていた。

「ユウウツだなぁ……」

そんな匠の心境とは裏腹に、匠の鞄についているケロちゃんのキーホルダーは元気に揺れている。

太陽の恵み、光の恵

第23部 梅雨時の学校編 その1

Written by B
暗い表情のまま、2年C組の教室の前に立つ匠。

「もう来てるのかなぁ……」

愚痴りながら扉を掴む匠。

ガラガラッ!

「あっ……おはよう……」
「おっ、おはようございます……」

やはり美帆は来ていた。
その美帆の座っている机には、見慣れない顔の女の子が集まっていた。
どうやら別のクラスの女の子らしい。

「あっ、あれ?み、美帆ちゃん何しているの?」
「あ……。みんなに頼まれて占いをしているんですよ」
「そ、そうなんだ……」

よく見ると美帆の机いっぱいにトランプのカードが並べられている。

「知らないの!美帆の占いチョー当たるって有名ジャン」
「そんな事も知らないって、チョーダサって感じ」

そんな匠に美帆の周りの女の子が冷たい視線を突きつける。

「し、知らないことはないけど……」
「って言うか〜、男は邪魔、あっちいって!」
「あっ、な、何を……」
「邪魔邪魔!ほらほら、行った行った!」
「わ、わ、わ、あわわわ……」
「あっ、匠さん……」

匠は周りの女の子に押し出されてしまった。

(しょうがないか……ふぅ……)

匠は何も反論せず、自分の机に戻った。
美帆と机が離れていたので、再び女の子に因縁を付けられる心配はなかった。



1時間目が終わって休み時間。

美帆が匠の机にやってきた。

「匠さん、今朝はごめんなさい……」
「い、いや、そんなことはないよ」

頭を下げる美帆。
匠は慌てて右手を横に振り否定する。

「なにか占って欲しいことがあったんですか?」
「いや、なにもないんだけど……」
「そうですか、なにかあったら占ってほしいことがあったらいってくださいね」
「ああ、そうするよ……」

美帆は自分の席に帰っていった。

(聞けないよな……美帆ちゃんには……ふぅ)

匠は大きなため息を一つついた。



お昼休み。
匠と公二は屋上でお弁当を食べていた。
匠が公二を屋上に誘ったのだ。
ちなみに純一郎は誘おうとしたがクラスメイトと食べるところだったので誘わなかった。

お弁当とはいっても、2人とも売店で買ったパンと紙パックの牛乳だ。
2人とも右手に牛乳、左手にパンを持ち、階段のある建物に背中を預けながらそらを眺めている。

「匠、そういえば最近元気がないな。どうしたんだ?」
「えっ?」
「純も言ってたぞ、『最近の匠はおかしい』って」
「……」
「何か悩み事でもあるのか?俺でよかったら相談に乗るぞ」
「ふぅ……」

自分が言う前に公二に言われてしまった匠は、ひとつため息をついた。

「いや、今日屋上に誘ったのは相談したいことがあってさ……」
「なんだ、そうだったら先に言ってくれれば……」
「まあな……」

再び2人とも沈黙する。
すぐに公二がパンを食べながら匠に尋ねる。

「それで、相談って?」
「それは……」
「白雪さんのことか?」
「ぶっ!な、なんでそれを……」

匠は口に含んでいた牛乳を吹き出しそうになったがなんとか抑えた。

「匠の悩みなんて、それしかないだろ?」
「……」



匠は口いっぱいになった牛乳を飲み込み、一息入れた後また話し出した。

「実はな、昨日の放課後3年生の女の子とデートしたんだよ……」
「お、おまえ、美帆ちゃんが……」
「そうなんだけど、強引に誘われちゃって、今までもOKしていたから……」
「仕方なしにデートしたわけだ」

すこし呆れた表情で牛乳を飲む公二。
それに対して、匠は両手にパンと牛乳を持ったまま話し続ける。

「そうなんだよ。で、そのデートで俺、言われちゃったんだよ」
「何を?」

「『最近、デートしてくれないけどどうしたの?』って」
「確かにしてないよな。で、どう返事したんだ?」

「それが、先に言われちゃって……」
「何だって?」
「『もしかして、好きな子ができたのかな〜?』って」

「それが正解なんだろ?」
「ああ……デートが終わって別れる直前だったから、うやむやにして終わらせたけど……」

暗い表情の匠の様子を見て、公二にもそのときの気まずい雰囲気がわかるような気がした。



「それで?」
「俺、最近、部屋で美帆ちゃんの事ばっかり考えるようになってさ……」
「ほうほう」

「授業中も美帆ちゃんばかり見ていて、黒板に眼がいかないし……」
「ふむふむ」

「気が付くと美帆ちゃんを目で追ってるんだよ……」
「……」

「俺、今、なにも手に着かないんだよ……」
「……」
「なぁ、俺、どうしたらいいと思う?どうすれば楽になれる?」

すがるような目で公二を見つめる匠。
公二はそれをみて少し考える。

「匠、白雪さんの事が好きなんだよな」
「ああ……」


「告白しちゃえば?」


「えっ?」

公二の一言に匠が固まる。

「どうせ告白しなきゃだろ?」
「ま、まあ……」
「匠が迷ってて、白雪さん以外の人に迷惑かけたら、白雪さんにも迷惑だろ?」
「そ、そうなんだけど……」

「それに気づいてるのか?匠が白雪さんに興味があるって、何人か気づいてるぞ」
「えっ?」
「匠の言うとおり、ずっと白雪さんばかり見ていたのに気づいたんだろうな。確か体育祭の後ぐらいからだったぞ」
「……」

匠は体育祭にクラスメイトにも同じようなことを言われたのを思い出した。
公二の指摘も自分ではわかっているつもりだった。

「噂になったらやっかいだぞ。そうなるまえに告白しちゃったら?」
「……」
「まあ、急いでやれ、っていうわけではないけど。腹をくくったらどうだ?」
「……」



キーンコーンカーンコーン!



ちょうどお昼休み終了のチャイムがなった。

「まあ、今晩考えてみたら?」
「……そうするよ……」
「それじゃあ、俺は先にいくぞ」
「ああ、公二、ありがとな……」
「なぁに、気にするなって。それじゃあ」

公二は先に屋上から消えていった。

「あっ……まだ、食べていない……」

一人残された匠はまだパンも牛乳も食べ終わっていないことに気づいた。

「俺もいそがなきゃ……」

匠はパンと牛乳を慌てて口に押し込んで自分の教室に戻っていった。



「えっ?そんなこと言っちゃったの?」
「ああ、言い過ぎかな?って思ったけど……」

その日の夜。
寝る前の2人がベッドの中で今日のお昼休みのことについて話し合っていた。

「俺もどうしていいかわからなくて、でも匠の様子を見ていたらそれしか解決策が思い浮かばなかったんだよ」
「そうなんだ。でもそんなに悩んでたとはね……」
「……」
「……」

2人ともなぜか黙ってしまう。

「ねぇ、あなた」
「どうした、光」
「あなたも悩んでたときってどうだったの?」

光の言葉に公二は天井を見つめながら昔を思い出してた。

「そうだなぁ……苦しかったなぁ……」
「苦しかった?」
「ああ、好きな気持ちはあるんだけど、相手は遙か遠くで、どうしていいかわからなくて……」
「そういうことね。私も同じだなぁ……」
「光もか?」
「うん。頭の中は昔のあなたの姿ばかり。でも、あなたは側にいなくて……」

「……」
「……」

2人は再び黙ってしまう。

2人の頭の中には、4年前のつらい日々が駆けめぐっていた。
つらくてどうしようもなかったが、今では懐かしい思い出だ。



「そういう状況で、いつも近くにいる人に告白するとなると……俺でも迷うかもしれないな」
「そんな気がする……どんな感じ?と言われるとわからないけど」

公二は光をすこしだけ強めに抱きしめる。
光もすこしだけ抱きしめ返す。

特に理由はない、ただ今の幸せをすこし強めに感じたかっただけ。
あえて言えば、昔の辛い日々を思い出したら、今の幸せを体で感じたくなったのだ。

「俺、匠に無責任なこと言っちゃったのかなぁ?」
「わからない。でもちょっとストレートだったかもね」
「告白って色々な事を考えるんだよな」
「そういえば。琴子も言ってた。『告白すべきか悩んだ』って」
「普通そうなんだよな」

2人の頭の中は3年前の再会の日を思い出していた。
あの日の事は強烈に2人の中に刻み込まれているから、すんなり思い出せる。

「そう考えると、普通じゃないのかなぁ?再会したあの日にすんなり告白できたのは」
「う〜ん、それにこの日にしか告白するチャンスがないと思ってたのもあるけどね」
「そもそも、好きだって告白するためだけに会ったものだからな」
「そうなんだよね」

ベッドに横になっていたら2人とも眠くなってしまったのか、
2人とも目をつぶって話をしている。

「しかし、匠もこのままでは駄目だって思ってるから、あとは匠次第だよね」
「無理矢理告白させるわけにはいかないよね」
「白雪さんも好きなはずだから、大丈夫なんだけど……言うわけにはいかないんだよな」
「それが辛いところだよね」
「ここは見守るしかないか……」
「我慢だね……」

2人とも不安な気持ちのまま、そのまま眠ってしまった。



「告白か……」

公二と光が寝てしまった時間。
匠は自分の部屋のベッドに寝転がりながら悩んでいた。

「わかってるんだよ……言わなくちゃってことは……」

匠は天井をじっと見つめている。
匠の見ている天井には美帆の顔が映っているのだろうか。

「でも……でも……怖い……」
「しちゃえば楽だってことはわかってるんだけど……」

匠は右にごろごろ、左にごろごろ。
落ち着き無くごろごろしている。
そして再び天井を向く。

「どう言ったらいいんだろう?なんて言えば美帆ちゃんはわかってくれるだろう?」

実は女の子に告白をしたことがない匠。
だから、告白の仕方はわからない。
近くに公二がいるが、告白の言葉は聞いたことがない、恥ずかしくて聞いたこともない。

「ああっ、どうしよう……」

匠の寝られない日々はいつまで続くのだろうか。
少なくとも匠が告白するまではこの状態が続くに違いない。
To be continued
後書き 兼 言い訳

ようやく、気力をSSをUPできるところまで持ち直しました。

いやぁ、仕事であれ他の理由であれ、一度気が抜けるとなかなか元に戻すのが大変。
それだけエネルギーがいるものだということなんですけど。

作者の愚痴はさておき、23部は普通の学校にスポットをあてます。
メインはこの話からわかるように匠と美帆が中心になるのかな?いや、どうだろう?う〜ん、微妙。というかんじです(ぉぃ

とにかく、匠と美帆は今部の最後になにかあるかも。
途中に何かあるのか?という質問はしないでください(笑)

次回は真帆のハンバーガーショップの2回目です。

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