第125話目次第127話
平日の放課後。

「真帆さん、本当にいいの?」
「はい!平日も暇なのでしたほうがいいかなって思って」

ここはきらめき駅まえのファーストフードL。

真帆は普段は土曜日だけバイトをしていたのだが、
土曜日に変わって平日の夕方にしてほしいと頼んだのだ。
バイト主任の舞佳はOKしたものの、もう一度確認しているところだ。

「自分で遊ぶお金が欲しくてバイトしてるのに、その時間がなければ意味じゃないですか」
「あははは!真帆さんのいうとおりね。じゃあ頑張ってね」
「はい!」

こうして真帆の初めての平日アルバイトが始まった。

太陽の恵み、光の恵

第23部 梅雨時の学校編 その2

Written by B
「いらっしゃいませ!」

真帆の元気のいい声が店内に響く。

「てりやきバーガーのポテトセットをひとつ」
「てりやきバーガーのポテトセットがおひとつですね?」
「はい」

バイトを初めてもう2ヶ月。
仕事にも慣れ、失敗もほとんど無くなった。

「お持ち帰りですか?」
「そうです」

バイト初日には注文の品と違う品を渡してしまう、というミスもあったが、
今はそんなことは全くない。

「お飲物はコーラとオレンジジュース、それにウーロン茶がございますが」
「コーラで」
「コーラですね?かしこまりました。少々お待ち下さい」

様々なお客とも出会い、どんなお客にも対処できるようにもなった。
注文の品を袋に詰める作業も手際よくなった。

「お待たせしました。てりやきバーガーのポテトセットですね?お会計が515円になります」
「じゃあ、1000円で」
「1000円ですね?485円のお返しになります」

お客は真帆の渡した袋を大事そうに抱えて店をでる。

「ありがとうございました!」

真帆の声が再び店内に響く。



平日の放課後。
さらに人の多い駅前となると、知った人が来店する可能性も当然高い。
もしかしたら土日よりも高いかもしれない。

今日も例外ではなかった。

「いらっしゃいませ!……あれっ?藤崎さん!」
「あら?白雪さん!ここでバイトしてたの?」

店にやってきたのは、真帆と同じきらめき高校の同じ学年の藤崎詩織。
高校内では知らぬものがいない『きら高のアイドル』とも呼ばれたこともある美少女だ。
当然真帆とは知り合いだ。

「平日は今日が初めてなんだけどね。ところで注文は?」
「あっ、そうね。え〜と……えびバーガーに……」

レジのテーブルにあるメニューを見ながら注文する詩織。

(あれ?藤崎さん、一人なんだ)



詩織の注文を聞いて厨房に入った真帆だったがすぐに戻ってきた。

「ごめん、今、作ってる途中なんだ。ちょっとだけ待っててくれない?」
「ええ、わかったわ」

真帆は両手をあわせて詩織に謝る。
詩織は怒らずに笑顔で答える。

「ところで、藤崎さん一人なの?」
「えっ?ええ……」
「いや、藤崎さんが一人で来るなんて想像してなかったから」
「そんな……私だって、一人で来るわよ」

詩織は怒り半分落ち込み半分表情になる。
それをみて必死にフォローする真帆。

「ごめんごめん。そういうイメージだけで言うのは嫌いだったよね」
「うん……」
「本当にごめん。別にそういう積もりで言ったわけじゃないから……」
「うん、わかってる……」

気まずい雰囲気の時に、厨房から呼び出しが来たので、真帆は急いで厨房に入った。



真帆が厨房から戻ってきた。
詩織の表情は普段の表情に戻っていた。

「藤崎さん!お待たせ!」
「あっ、ありがとう。それでお金は?」
「え〜と、420円になります」
「ちょっと待ってね。細かいのがあるから、え〜と……」

そう言って詩織が財布を取り出し、小銭を探しているとき、

「詩織!」
「えっ?」
「あっ、公人!」

店に飛び込んできた一人の男子。
それは詩織の幼馴染みでサッカー部のエースストライカーの高見公人だ。
この2人は1年次の卒業式の日に恋人同士になっており、そのことは学校中に知れ渡っている。
ちなみに真帆は彼とも顔見知りだ。

その公人は息をぜいぜい吐いて、ゆっくりと呼吸を落ち着かせている。

「ごめん、遅れちゃって……はぁはぁ……」
「そんなに急がなくてもよかったのに……」
「いや、待たせちゃまずいと思ってさ……はぁ……」

(ふ〜ん、やっぱりデートだったんだ……)

真帆は2人をみて羨ましく思っていた。

「あっ、白雪さん。バイトしてたんだ」
「そうなの。ふ〜ん、これからデートなんだ……」
「い、いや、これから2人で夕食の材料の買物に……あっ!」
「こ、こら。詩織!」

顔を真っ赤にする詩織。
同じく顔を真っ赤にする公人。
それを見た真帆はなにかを察した。

「ふ〜ん、二人っきりでの夕食か、いいなぁ……」
「い、いや、そんなこと……」
「そういうわけでは……」

どうやら図星だったらしい。

「はいはい。それで、これはど・う・す・る・の?」

真帆はわざと冷めた目と冷めた言い方でトレイに置かれたえびバーガーとオレンジジュースとポテトを指差す。

「あっ。これにリブサンドとコーラを追加して!代金は一緒でいいかな?」
「いいよ。ちょっと待っててね」
「公人!」
「遅れたお詫びに奢るからさ、なっ?」
「もう、強引なんだから……」

結局代金は公人が払ったあと、2人は2階でしばらくくつろいでいたようだ。
その後、2人が手をつないで出て行くのを真帆は羨ましそうに見ているだけだった。

(ほんと、あの2人はお似合いだよね……羨ましいなぁ……)



時間が経つに連れて、段々と客が増えていく。
当然それと比例してカウンターは忙しくなる。

「しかし、こんなに混んでるとは思わなかったな」
「そうでしょ?意外と人がくるのよ」
「でも、やってることは同じだから大丈夫ですよ」
「そう、それならよかった。まだ忙しい時間は続くからがんばってね」
「はい!」

舞佳の激励に真帆は再び気合いを入れ直した。



夕方の6時。

「いらっしゃいませ!」

相変わらず真帆の元気な声が響く

(やっぱり、お休みの時と人が違うんだなぁ……)

土日だとお客は家族連れが結構多い。
しかし、平日だと学生のお客がたくさん来ていた。

友達らしき女子中学生が3人。
時間があるので暇つぶしに来た感じの大学生。
ちょっと休憩、といった感じの高校生のカップル。
塾に行く前の腹ごしらえ、と言った感じの小学生。

(こっちはこっちでおもしろいなぁ……)

土日とは違った客層を相手に真帆はそんなことを感じていた。



そんなとき、2人の女の子が店に入った。

「せんぱ〜い!今日もですか〜?」
「そうよ!何事も研究が大事なのよ!」
「もうかんべんしてくださいよぉ〜」
「うまくなりたいなら根性よ!」

元気いっぱいの表情の女の子と、呆れた表情の女の子。
2人の女の子の表情は正反対だ。

真帆はその元気な方の女の子とは友達だった。

「あれ?沙希ちゃんじゃない!」
「あっ?真帆ちゃん!ここでバイトしてたんだ!」

彼女はサッカー部のマネージャーの2年生虹野沙希。
料理が得意で献身的なマネージャーとして運動部の間では人気が高いそうだ。

「いつもは土曜なんだけど、今日から平日もやってみようかと思って」
「へぇ、がんばりやさんなのね」
「沙希ちゃんほどじゃないよ」
「うふふ、ありがと」

楽しく話している2人。
沙希の後では連れの女の子がどうしていいのかわからずにただ立っていた。
真帆がそれに気が付いた。

「あれ?その子は確かサッカー部の後輩だっけ?」
「うん、秋穂みのりちゃん。私の可愛い後輩なの」
「は、はじめまして……」
「はじめまして、私は2年G組の白雪真帆。よろしくね♪」
「よ、よろしく……」

おどおどしながらも頭を下げるみのり。

背が小さく、表情から察するにちょっと気が強そうな印象を真帆は受けた。
それと、彼女の頭の両側についているバッテンの髪飾りが印象的だった。



「へぇ、可愛い後輩じゃない」
「でしょ?食べちゃいたいくらい可愛いの♪」
「な、なんて……」

ウィンクしながら語る沙希の言葉を聞いてみのりは動揺を隠さない。

「こら、そんなアブナイ事ばかり言ってると本当に疑われるよ」
「えへへ、そうかな?」
「そうよ。それにここに来たのはその後輩を食べるんじゃなくて、ハンバーガーを食べに来たんでしょ?」

「そうそう!え〜と、チーズバーガーに……」
「えっ……」
「せ、せんぱい……」

4種類のハンバーガーを注文する沙希に、真帆は驚き、みのりは呆れていた。

「ちょ、ちょっとお待ち下さい……」

(う、うそぉ、そんなに頼むのぉ?)

真帆は驚きを隠さないまま、厨房に向かった。



真帆はトレイに4個のハンバーガーと2杯のジュースを載せ終わった。

「はい、お待たせしました……」
「うわぁ、ありがとう」
「ところで、なんでこんなに頼んだの?」

常識的な質問だ。
それに対して沙希はなにも表情を変えずに答える。

「あのね。今度の練習試合にイレブンにハンバーガーを作ろうかと思ってるんだけど……」
「先輩が突然『徹底的にプロの味を研究するわ!』って言って、それから毎日ファーストフード通いで……」

それまで後で立っていただけのみのりが口を挟む。

「へぇ、ここで何件目なの?」
「駅前と商店街を回って、ここが10件目かなぁ?」
「じゅ、じゅっけんめぇ!」
「その全部で、4個とか5個とか頼むから、私ハンバーガーみるだけでもうお腹いっぱいになっちゃって……」
「みのりちゃん。料理を極めるには根性が大切なのよ!」
「そうはいっても……」

(この子の言うことが正しいとおもうな……)

みのりに説教する沙希を真帆は呆れてみていた。

「とにかく、私の奢りなんだから、つきあってね♪」
「は〜い……」
「さぁて、研究、研究っと♪」

トレイを持って笑顔で2階にあがる沙希の後をみのりはとぼとぼとついて行ってしまった。

(でも、あの後輩。結構沙希ちゃんを慕ってるんだ……)



夜8時。
真帆のバイトの時間がようやく終わった。

控え室で着替える真帆。
ちょうど主任の舞佳も上がりの時間らしく、一緒に着替えていた。

「ねぇ、真帆さん。これから帰るんでしょ?」
「はい、まっすぐ家に帰ります」
「電車で?」
「いえ、歩きで帰ります。電車よりもそのほうが近いので」
「そうなの?こんな時間に一人は危険よ?お姉さんが送ってあげようか?」
「いいんですか?」
「遠慮はしないしない!お姉さんにど〜んと任せなさい!」

着替え終わった舞佳が胸を叩くポーズを取る。

「じゃあ、お願いしていいですか?」
「ええ、いいわよ」
「ありがとうございます!」

笑顔で頭を下げる真帆。
笑顔がまだ営業スマイルが残ってるのはご愛敬。

「あっ、折角だから、晩御飯を一緒に食べない?」
「えっ?」
「あまり知られてない穴場のお店があるのよ!どう?お姉さんが奢るから」
「でも、家で晩御飯つくってくれてると思うから……」

せっかく舞佳のお誘いだが、家で待っててくれていると思うとスンナリとOKと言えない真帆。
その表情を見た舞佳は事情をなんとなく察知した。

「そっかぁ、仕方ないわね。じゃあ来週はどう?」
「来週?」
「それだったらお母さんも説得できるでしょ?」
「じゃあ、そうしてみます」
「よかったぁ!じゃあ、来週楽しみにしてるわね!」
「はい、私も楽しみです」
「じゃあ、さっそく帰りますか!」
「はい!」

バイトをする上で、大切なことの一つに親しい先輩を見つけることがあるだろう。
舞佳と仲良くなった真帆はバイトよりも一回り広い交友の幅が広がりそうな予感がしていた。
To be continued
後書き 兼 言い訳

真帆のハンバーガーショップの2回目です。

おわかりの通り、このシリーズのコンセプトははっきりしています。
「カウンターの真帆を通じてきら高生を描く」
今後も何回も書いて、いろんな人を書いていければと思ってます。

今回はみのり嬢が初登場です。
まあ、今後も沙希ちゃんとセットの登場になりそうです。

さて、次回はどうしようかな?

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