第126話目次第128話
「どうしてわかってくれないのよ!」
「光こそなんでわかんないんだよ!」

校門前

いつもは腕を組んで歩いているこの夫婦が大声でいがみ合っている。

「だから私の言うことでいいんだって!」
「俺のほうが正しいって!」

人目も気にせず大声でいがみ合う2人を周りは避けて歩いている。

「どうしてそんなに頑固なのよ!」
「光こそ頑固だよ!」

この2人、最近急にこんな風に言い合いながら登校していることが多くなっていた。

ところが、なんでこんなに喧嘩しているのかその理由が誰もわかっていなかった。

太陽の恵み、光の恵

第23部 梅雨時の学校編 その3

Written by B
「最近どうしたのかしら?」

先に教室に来ていた花桜梨が窓から今日も言い合いながら登校する2人を見ていた。
花桜梨の席は窓側なので椅子に座ったまま外を見ている。

「喧嘩していると言っても、あのときみたいにひどい関係には見えないし……」

2人のいがみ合いがどうも気になる。

「でも、そんな勇気ないし……もし下手にこじれさせたら……」

以前、自分を巡って2人を大げんかさせてしまった経験があるだけに怖くて首を突っ込めない花桜梨。

「大丈夫かしら?」

でも心配でしょうがない。



「あら?」

再び窓から校門を見ていた花桜梨はあることに気が付いた。

「白雪さん?間に入ってる……」

どうやら美帆が2人に事情を聞いているのを見つけたようだ。

「すごい……私もあんなふうにできたら……」

美帆の行動に花桜梨は感心していた。



花桜梨はそのまま2階の窓から状況を眺めていた。

「えっ?白雪さん、鞄からなに取り出すのかしら?」


「何か手を動かしている仕草……えっ?カード?トランプかしら?」


「ええっ!し、白雪さん。道路の上にカードを置いている……」


「ああ、3人とも道路に座っちゃってる……」


「あら?何か解決した様子……」

何がどうなったか知らないが、どうやら問題は解決したようだ。
2人は喧嘩をやめたようだ。

「いったい何が?……」



「あっ、八重さん。おはようございます」
「白雪さん、おはよう」

花桜梨は廊下を歩いている美帆を呼び止めた。
そして耳元でそっとささやく。

「ねぇ……さっきのなんだったの?」
「あっ、主人さんと光さんのことですか?」
「そうそう、なにが問題だったの?」
「あのですね……くすくす」
「?」

花桜梨の質問に美帆がくすっと笑った。
花桜梨は意味がわからない。

「あれですね、恵ちゃんの似合う靴下の色は赤か黄色かで揉めてたんですよ」
「はぁ?」

「デパートでいいのを見つけたみたいなんですね。それでどっちがいいかであのような……」
「はぁ……」

まったく予想外の喧嘩の原因に花桜梨は脱力してしまう。

「それで私が占ってあげたんですよ」
「け、結果は……」
「『両方買うと吉』と出ましたので教えましたら、納得したようです」
「そ、そうなんだ……」
「ええ、よかったですね……」

いい事をしたという表情でニコニコ顔の美帆。

(りょ、両方買うお金がないから揉めてたんじゃないのかしら……)

一方、脱力したままの花桜梨はそう心の中で突っ込む力しか残っていなかった。



次の日の朝。

「はぁ……昨日は心配しすぎて損しちゃった……」

バレー部の朝練で花桜梨は早めに学校に来ていた。
花桜梨はまた生徒が登校する様子を眺めていた。

「もうあんな喧嘩は……またやってる……」

花桜梨はまた大声でいがみ合っている2人を見て呆れていた。

「今度はどんな問題なのかしら……」

昨日の美帆の話で心配するような問題では無いことがわかっているので安心してはいるものの、やっぱり気になる花桜梨。



花桜梨はまた校門での異変に気が付いた。
花桜梨はじっと様子を見つめる。

「あら?赤井さんかしら?もう学校に来てたんだ……」

「赤井さん、さすがね……喧嘩を止めちゃった」

「赤井さん腕を組んでうなずいてる……光さんから話を聞いてるみたいね……」

「あら?赤井さん、何か語ってるみたい。それもかなり熱中してる様子……」

「なんか、光さんも主人さんも押されてるみたい……」

「でも、喧嘩は解決したみたい……なんだったのかしら?」

今日もあっさりと問題が解決したようだ。
あまりにあっさり過ぎて余計に気になってしまった花桜梨だった。



「よぉ!いつも早ぇなぁ!」
「今日はバレー部の朝練があったから」
「そうなんだ、生徒会は朝練がないから楽だなぁ」
「うふふふ!それもそうね」

隣の教室のほむらの席にやってきた花桜梨。
ほむらは教室の隅の席で機嫌がいい。
昨日の美帆と同様にいいことをした、ということなのだろうか。

「ところで今朝なにかあったの?」
「ああ。陽ノ下と主人が喧嘩してたから取り持ってやったのさ!」

「どんな喧嘩だったの?」
「なんか、近くのビデオ屋で中古ビデオのバーゲンがあって、そこで何を買うかで揉めてたみてぇだぞ」
「は、はぁ……」

「陽ノ下はアニメ、主人は動物ものがいいって譲らなくて。2人とも頑固なんだよなぁ」
「へぇ……」

「そこであたしは間をとって戦隊ものを勧めてやった」
「……」

「いやぁ、戦隊物はいいよなぁ、思わず語っているうちに熱くなっちゃって……」

(赤井さん……それ、間じゃない……)

花桜梨は心のなかで突っ込むのが精一杯だった。



またその次の日。

「どうしてあんなことで喧嘩するのかしら……」

昨日の事を思い出しながら、花桜梨はまた外を眺めていた。
たくさんの人が校門を通り抜ける。

歩いている人。
走っている人。
友達となにか話ながら歩いている人。
本を読みながら歩いている人。

色々な人を見ることができて飽きないからだ。

「今日はさすがに……あら?………また………」

花桜梨は思わず机に突っ伏せてしまった。
2人がまた大声で喧嘩しているのを見つけたからだ。



「今度は……あれ?」

花桜梨は昨日とは違うことに気が付いた。

今までは、2人の周りを走って通り過ぎる人は結構いた。

しかし、今日は2人の周りが完全にスペースができている。
誰も近くに行きたがらないようだ。

「どうしたのかしら?そんなにひどいのかしら?」

花桜梨はまた心配になってしまう。
昨日おとといと心配して損しているにもかかわらず。



その喧嘩もまた誰かが止めたようだ。

「あら?こんどは誰が?……あれは琴子さん?」

「あれ?怒ってるみたい」

「あぁぁぁ。琴子さん、2人を道路に正座させちゃった……」

「琴子さん仁王立ちで怒ってる……そうとう怒ってるみたいね……」

「えっ!あの、赤井さんが恐る恐る琴子さんを止めてる!」

「琴子さん。ようやく収まったみたい……」

今日は一悶着あったようだが、問題は解決したようだ。



「琴子さん?」
「あっ……花桜梨さん。おはよう……」

花桜梨は琴子を見つけてすこしだけ驚いた。
琴子は額に手を当て、嫌そうな顔をして歩いていた。
なにか「頭痛い……」とでも言いたそうな格好だ。

「どうしたの?」
「……あの馬鹿夫婦……」
「馬鹿夫婦?」

馬鹿夫婦、とはもちろん公二と光の事である。

「花桜梨さん。訳を聞きたいの?」
「ええ」
「本当?聞いて後悔しない?」
「えっ?……ええ……」

変な念の押しをされて戸惑うものの了承する花桜梨。
仕方ないわね、とでも言いたそうな表情の花桜梨に耳元でささやく。

「ごにょごにょ……」
「えっ……」

それを聞いた花桜梨の顔があっというまに真っ赤になってしまう。

「そ、そんなことで……」
「でしょ?あまりに呆れて怒っちゃったわよ」
「ま、まあそうね……」
「『昨日求めたのはあなたでしょ!』とか『積極的だったのは光の方だろ!』とか人前でよく言えるわよ」
「はぁ……」
「もう頭に来て『2人とも好きモノ』ってことで強引に仲裁したわよ」
「……」
「それに、人前で喧嘩するなんて、他人が嫌な気分になるでしょ?それについてもお説教してあげたわ」
「……」
「まったく……まあ、もう人前で喧嘩はしないそうだから安心できるけど……」

あまりの話題に2人とも頭を抱えてしまったようだ。
そして、この話題についてはその日はそれ以上考えないことにした琴子と花桜梨だった。



次の日の放課後。

「さて、今日はどうしようかしら……あら?」

教室を出て廊下を歩こうとした花桜梨は光の姿を見つけた。

「何やってるのかしら?」

光は廊下から2Fの教室の中をじっと見つめているようだった。
花桜梨は少し気になって、光に近づく。

「光さん」
「あっ、花桜梨さん」
「何見てるの?」
「あれ……」
「あれって?……あっ……」



光と花桜梨の視線の先から聞こえてくる声とは。

「なんでファーストフードなのよ!」
「そっちこそ何でいつも和風喫茶なんだよ!」
「いいじゃない、好きなんだから」
「俺だってハンバーガーが好きなんだからしょうがないだろ」

「あなた、和風喫茶の良さがわからないの?」
「ハンバーガーも和風のモノだってあるんだぞ」

「よく言うわよ。最初にピリ辛味を勧めたのは誰よ!」
「だって俺、辛党だから」
「私が辛いのダメだって何度言ったらわかるの?」
「何度も言わなくてもわかってるよ」
「なら、なぜ勧めるのよ!」
「俺の好みだからだ!」

琴子と文月の毎度の口論である。
どうやら放課後どこに出かけるかの話のようだが、好みが逢わない2人はやっぱり口論になったようだ。



花桜梨と光は2人の口論を廊下から眺めていた。

「いつものことね……」

花桜梨はちょっと呆れたようにつぶやく。



「うらやましいな……」



「えっ?」

花桜梨は光の言葉に驚いて横にいる光の顔を見る。
光は確かに羨ましそうな顔で眺めていた。

「あの2人、あんなに喧嘩しても仲良しでしょ」
「そうね、今はつきあってるからね」
「あれだけ本音を言い合っても、仲良くできるのってうらやましいな、って……」
「どうして?」
「うん、私と公二もお互いに心の中もさらけ出すようにはしてるけど、あそこまではできなくて……」
「そうなの?」
「うん、どうしてもどこかで遠慮しちゃうんだよ」
「へぇ〜……」
「だから、何も隠さない2人が羨ましくて真似してみたんだけど……」
「それで最近……」
「やっぱり無理だった。問題が解決しても後引いちゃって……」

花桜梨は相変わらず口論をしている2人を一瞥してあと、光に話しかける。

「でもあの2人だって隠してることはあると思う」
「そうなの?」
「そうよ。それが普通の人間だと思うな」
「そうなんだ」
「だから、いくら夫婦でも言えないことだってあると思うし、それでもいいと思う」
「……」

花桜梨と光は合図をすることなく、口論の2人を見つめる。
まだ口論は続いている。

「それに、あれだけ何度も言い合っても仲良くできるのは珍しいわよ」
「確かに……」
「あの2人はそれでも好きになれる何かがあるのよ」
「趣味が正反対なのに?」
「う〜ん、趣味が合わなくても性格が合ってるんじゃないかしら」
「確かに、お似合いなんだよね……」
「琴子さんは琴子さんなりのつき合い方があるのだし、光さんには光さんのつき合い方があるんじゃないかしら」
「そっかぁ……そうだよね。なんかほっとしたよ」
「そう、それならよかった……」

光の表情がようやく元に戻ったようだ。
それをみて花桜梨も安心した。



「ねぇ、これからどこか喫茶店にでも行かない?」
「えっ?部活は?」
「今日はお休み。だからちょうどいいの、光さんは?」
「私もバイトは無いんだ、だから琴子を誘おうと思ったんだけど……」
「あれにつきあってたらたまらないわよ。馬に蹴られるだけよ」
「そうだね。じゃあ行こうか?」
「ええ、行きましょう」

話をつけた2人は廊下を歩き出した。

「ハックション!」
「ハックション!」

そのとき口論の2人が同時にくしゃみをしたのは2人は知るよしもなかった。
To be continued
後書き 兼 言い訳

こういうのは夫婦喧嘩というより痴話喧嘩と言った方が正しいかもしれませんね(笑)

今回は変に琴子達のカップルに刺激されちゃった公二と光のお話です。

でもメインは花桜梨さんだなぁ(汗
まあ、第三者からみた2人と言うことで(笑)

さて、次回はまだ検討中です。

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