第127話目次第129話
「修学旅行のことで用事があるって言ってたけど、どこ行っちゃったんだろう?」

お昼休み

お弁当を食べ終わった光は、ほむらを探して学校中を探していた。
そして今は中庭を探していた。

「まったく、どこにいるんだろう……あっ、いた!」

光は時計台の下にほむらを見つけた。
しかし、ほむらは一人ではなかった。

「こ、こら、やめろよサービスエース!」
「ワンッ!ワンッ!」
「じゃあ、こっちもお返しだ!えいっ、こらっ!」
(ほむら、あの犬とよくじゃれあってるよねぇ……)

ほむらは一匹の子犬と一緒にじゃれあっていた。
光も時計台の下に向かう。

「よ、よせったら!スカートにじゃれつくなよ!」
「ほむら」
「あっ!……な、なんか用かよ」
「呼んだのはほむらのほうでしょ?」
「あっ、そうか!あたしが呼んだんだっけ?」
「そうだよ、まったく……あちこちさがしたよ」
「すまんすまん。いや、あたしもここをただ通りかかっただけなのに、サービスエースの奴ったらよぉ」

わざとふくれっ面をする光に対して、ほむらは謝りながらもまだ子犬とじゃれ合っている。

「そう?とても楽しそうにみえたけど」
「そ、そんなわけないだろ?」
「意外とほむらのほうがなついているように見えたんだけど」
「そ、それは言い過ぎだろ」
「でもさぁ、サービスエースだっけ?その犬と一緒にいるね」
「ああ、ここに入ったときからのつきあいだからなぁ?」
「へぇ、どういう経緯なの?」

太陽の恵み、光の恵

第23部 梅雨時の学校編 その4

Written by B
光はほむらの横に座る。
時計台の下のコンクリートの土台があり、そこに2人が並んで座っている。
ほむらは子犬を胸に抱えて座っている。

「昔から犬が好きだったんだよなぁ、家でもずっと飼ってるんだ」
「へぇ〜」
「家にはロボって犬がいるんだ。もう10歳は越えてるけど、元気な犬だよ」
「じゃあ、その犬は?」
「……話すと長くなるけどいいか?」
「いいよ」
「じゃあ、話すかな……こいつとの出会いを……」
(あれ?表情が変わった……)

光は子犬を見つめるほむらの表情が変わっているのに気づいた。
それは体育祭の時、恵を見つめる顔と同じ優しい顔だった。



「昔のあたしって、本当に男と同じ格好だったんだ。半袖半ズボンだし、髪の毛もあんたと同じぐらい短かったかな」
「そうなの?」
「髪の毛が長いと、走り回るのに邪魔になるだろ?それにそんなにこだわりはなかったからな」
「そうなんだ」
「友達も茜を除くと男の子ばっかりだったかもしれないな」
「私は、小さい頃は男子の友達って公二ぐらいだったなぁ」


「たしか小2の頃だったかな?そのときたまたま一人で遊んでたんだ」
「たまたま?」
「ああ、大抵ロボを連れているか、友達と遊んでたからな」
「ふ〜ん」
「そんな時だったなぁ……あんなことが起こったのは」
「?」

ほむらの視線の先は9年前の自分の姿を見ていた。



「あれは夕方だったかなぁ、一人で確か伊集院大橋だっけ?橋の上を歩いてたんだ。」
「橋の上でなにがあったの?」
「川に流されてる子犬を見つけたんだよ」



『あっ、子犬が流されてる!』
『キャンキャン!キャンキャン!』
『なんとかしなきゃ!』



「なんとかしなきゃって?」
「当然、子犬を助けるつもりだったよ」
「どうやって?」
「もちろん泳いで」
「えっ、あの川を!あの川って、川幅も深さも結構あるでしょ?」
「ああ、でもガキだとそこまで考えないだろ?」
「確かに……」
「でも、あのころのあたしでもさすがに考えちゃったのがあるんだよ」
「何?」


「橋からの高さだよ」
「あっ……」



『うわぁ……高い……こりゃ無理だなぁ……』
『……キャン……キャン……』
『でも……どうしよう……』



「さすがに飛び込めなかったなぁ、でもどんどん子犬は流されていくし……」
「それでどうしたの?」
「急いで橋を渡ってから、川の横から飛び込んだんだけど……」
「けど……」


「溺れちゃったんだよ」



『わ!わ!わぁ……』
『だ、だれか!たすけてー!』



「走って、息をぜいぜい吐いてる状態で飛び込んだし、それに服がまとわりついて泳ぎにくかったんだよ」
「確かに服着て泳ぐのって大変だってテレビでみたことあるよ」
「それに、先に流されてる子犬に追いつこうと焦ってたかもしれないな」


「それでその後ほむらはどうなったの?」
「どこかの新聞配達の姉ちゃんに助けてもらったんだけど……」
「けど?」



『ふんふんふ〜ん、ん、なに?』

『たすけてー!だれかー!』

『あっ、大変!……坊や、待ってな!』



ザッパーン!



「助けられたとき、あたし柄にもなく泣いちゃってさ……」
「なんで?」
「なんでだろうなあ?たぶん、溺れて助けられたのが情けないのと、子犬を助けられなかったのもあるんだろうなぁ」
「……」



『ふぅ……大丈夫?』

『うっ……うっ……』

『泣く元気があれば大丈夫ね。じゃあね、坊や、気をつけなよ!』

『あっ……』



「その姉ちゃんはあっという間に消えちゃったな」
「へぇ〜」
「長い髪が記憶に残ってるんだけど、顔は覚えてないなぁ」
「……」


「でも、あたしはあれから結構悩んでな……」
「えっ?」
「子犬が流される夢を何度も見て、何度目をさましたことがあるか……」
「……」


「それに、姉ちゃんの『坊や』って言葉がどうも耳に残っちゃって……」
「えっ?……」
「そんなにあたしって女に見えないのかなぁって……そんなことは関係ないか」
「?」

光は気が付かなかった。
ほむらが自分の長い髪の毛をいじっていることに。




「でも、いつの間にかそれも忘れちゃって、思い出したのが入学式の日だったんだよ」
「どうして?」
「実は学校に向かうとき……伊集院大橋の上を歩いてたんだ」
「……もしかして……」


「そう……こいつが川に流されてたんだ」



『やべぇなぁ、もう少し早起きしようと思ったのに……』

『キャンキャン!』

『あれ?なんだ?』

『キャンキャン!』

『あれ?犬が溺れてる!……あっ!……あっ……』



「思い出したときの衝撃は今でも忘れられないな……」
「そんなにショックだったの?」
「ああ、あのときの思いが、走馬燈だっけ?そんなののように駆けめぐって……」
「……」
「あのときの情けない想い、悔しい想い……もうたまらなくなって……」
「どうしたの?」


「気が付いたら、橋の上から川に飛び込んでたよ」


「!!!、あそこって高さが結構あるよ!」
「わかってる……でもまた後悔したくなかったから……」



『くぅ〜ん……くぅ〜ん……』

『安心しろ!もう大丈夫だぞ!』

『……くぅ〜ん……』

『やばい!弱ってる!なんとかしないと……』



「でも、衰弱してたんだよ。でも学校に遅れるわけにはいかなくて、学校まで連れて行ったんだよ」
「それで、学校に……」
「学校で看病をしてもらって、それから住み着いたんだよ」
「……」

ほむらと子犬の馴れ初め。
それはほむらの子供の頃の思い出が影響していた。



ところがふと光はあることに気が付いた。

「あれ?もしかして、そのときって制服って濡れてたんでしょ?どうしたの?」
「学校に予備があったから、それに着替えさせてもらったよ」
「そうなんだ」
「でもそのときが大変でさぁ、先生達が何人もあたしを待ってたみたいで」



『遅いですね……』
『家には連絡したのか?』
『はい、もう出かけたそうです』
『うむ、しかし、どうしたものか……』


『校長!あの子がそうじゃないですか?』
『そうかもしれないな。しかしなぜ濡れてるんだ?』
『さあ?わかりません』
『緊急用の制服があるじゃろ?それを用意しておきなさい』
『わかりました』


『君!いったいどうしたんだね!』
『それよりもこいつをベッドに連れてやってくれないか』
『えっ?この犬を?』
『ああ、川に流されてたんだ。それで衰弱してたらしく……』



「えっ?校長に頼んだの?」
「ああ、あのころは校長だとは思わなかったし、犬のことしか考えてなかったから」
「怖いもの知らずだよね」
「あたしもビックリだよ。それで訳を聞かれて答えたんだけど、そうしたら……」
「そうしたら?」
「和美ちゃんが感動しちゃって……」
「???」



『えらい!』
『えっ?』
『儂は感動した!子犬のために橋から飛び込む勇気!いやあ、最近の若者にはないぞ!』
『えっ、あっ、その……』
『儂はこういう骨のある生徒を待っていたのだ!』
『はぁ……』




『今日から君をひびきの高校の生徒会長に任命しよう!』




『えっ?それって3年生が……』
『我が高は生徒の有志が運営することになっておる。まあ部活と同じじゃ』
『でも、それでも3年が……』
『ちょうど2,3年がいなくて困ってたんじゃよ。生徒会長の任命も儂ができることになっておる』
『でも、あたしにそんなの……』
『大丈夫!君ならできる!』



「結局、和美ちゃんに押されちゃって……」
「あれ?確か生徒会長って『遅刻した罰』って聞いてたんだけど……」
「あれ、ウソ。和美ちゃんに頼んで罰にしてもらったんだ」
「どうして?」
「だって……恥ずかしいじゃんか……犬を助けて生徒会長なんて、照れくさくて……」
「……」

(ふ〜ん、本当はそうだったんだ……)

光はほむらの顔をちらりと見る。
ほむらは確かに照れくさそうな顔をしていた。

「なぁ、このことは誰にも言うなよ」
「いいよ。でも誰にも言ってないの?」
「ば、馬鹿!茜にも恥ずかしくて言えないんだから」
(遅刻した、という方が恥ずかしいと思うけどなぁ……)



「それでサービスエースって名前は?」
「ああ、こいつの体調が戻ったときに、校内を連れ回してたんだ、そのときに体育館で……」



『あそこが体育館だぞ』
『ワンワン!』
『そうかそうか……あれ?誰だ?』



「誰かが体育館の中を眺めてたんだよ。誰だか忘れたけど、背が高いのは覚えてるんだよ」
「ふ〜ん」



『おい、なにやってるんだ?』
『……』
『あれ?……あたし何かしたか?』



「その女の子は黙って消えちゃうし……それでそいつが見ていたところから中をみたら」
「見たら?」
「バレー部が練習していたんだよ」



『おおっ!すげぇ、サーブだなぁ』
『ワン!』
『ん?そういえばこいつに名前がなかったなぁ』
『?』
『決めた!こいつの名前は「サービスエース」だ!』



「そんな決め方だったの?」
「ああ、ふと思いついた割にはいい名前だろ?」
「ま、まあねぇ……」


「とまあ、あたしとサービスエースはこんな感じかな」
「サービスエースはどこで寝てるの?」
「用務員室の隣に犬小屋をつくってもらって、そこに住ませてる」
「そうだったんだ、私、用務員室にはあまり行かないから気づかなかった」
「鎖は付けてないから、勝手に歩き回ってるけど、不思議と学校から外には行ってないみたいだな」
「学校が気に入ったのかな?」
「そういう意味では、あたし達と同じかもしれないな」

「あはははは!」
「あはははは!」


思わず笑い出す2人。
自分たちもこの犬と同様、この学校が好きなのだ。
色々な出来事が自分達に降り掛かったけど、この学校が好き。
ひびきの高校に入ってよかったと、サービスエースをみて心から思う2人だった。


ちなみに、2人の頭には当初の用件のことはすっかりなくなっており、翌日思い出すのであった。
To be continued
後書き 兼 言い訳

いやぁ、遅くなりました。

最初は琴子カップルのバカップルぶりを書こうかと思ったのですが、
今部の展開上、浮いてしまいそうだったので、後回しにすることにしました。

そこで、その空いた間をどうするか悩んでいたのですが、
らちが空かないので、今部のとっておきを予告無しで出しました(爆)

ということで、今回はあちこちのSSで「常識」として書かれている設定
「ほむらは入学式の日に遅刻した罰として生徒会長にされた」
というところにスポットを当ててみました。

要は「本当なのか?」ということなんですよね。
そこで、「実はこれはウソ」ということで考えていたら、幼年期のイベントがいくつか繋がってうまい話ができました。

自分としてはなかなかの出来だと自画自賛したくなるのですがどうでしょうか?(聞くなそんなもん

さて、次回はまだ検討中です。
さて、どうしようかな?

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