第128話目次第130話
中庭の時計台のすぐ下に匠がたたずんでいた。

「伝説の……鐘か……」

匠が見上げるとそこには伝説の鐘と呼ばれている大きな3つの鐘。

「……」

卒業式の日に鐘の祝福を受けると永遠に幸せになれる伝説。

「卒業式かぁ……長いなぁ……」

学校設立時からずっと生徒達を見守り続けている鐘。

「それに、鳴らないんだよな……」

ちょっと前までは普通に鐘が鳴ったのだが。
それが、四年前に突然鳴らなくなったという。
原因は不明。修復方法もわからないらしい。

「卒業式でなくても……鳴らなくても……助けてくれるのかな……」

匠の問いには誰も答えない。
目の前の時計台は静かに建っているだけ。

「自分の力でやれ……ってことかな……」

匠は何か納得したかの表情で時計台から離れていった。

太陽の恵み、光の恵

第23部 梅雨時の学校編 その5

Written by B
「何やってたんだろうね?」
「さあな、伝説にあやかりたいのかな?」

そんな匠を教室から見ていた人がいた。

「坂城君って、意外と神経質なのかなぁ?」
「そうだろうな。確かに神経図太いように見えるけど、実際そうでもないんだよな」

珍しく一緒にお昼を食べていた公二と光だった。
2Aの教室で外を眺めながら光お手製のお弁当を食べている。

「でも伝説を気にしてるってことは、そろそろ?」
「そうだろうな。今は気持ちの整理をつけてるんだろう」
「成功するといいね」
「大丈夫だろう。あとは匠の決断次第だな」



2人の視線はもう目の前のお弁当に移っている。
同じお弁当を美味しく食べながら話が変わる。

「しかし、俺達が一緒にお昼を食べたのって2年になって何度目だ?」
「う〜ん、3回か4回ぐらいじゃない?」
「そのぐらいかぁ。確かに匠とか純とかクラスメイトとかと一緒だからな」
「私は琴子やほむらとかと一緒」
「そうだったな。だからこうして一緒に食べてるとなんか違和感を感じるんだよ」
「私も。家で一緒に食べてるから、あれ?って感じるよ」
「なんか、おかしいよな」
「そうだね」

1年の頃と2年の今では家と学校での心構えが違うということか。
学校ではそれほど接触のない2人が違和感を感じるのは無理もない。



放課後。

匠は一人ショッピング街をぶらぶらと歩いていた。

「はぁ〜あ」

5歩歩かないうちにため息一つ。

匠の表情は街の雰囲気とは正反対に暗い。

「ユウウツだなぁ……あれ?」

暗い表情で歩く匠はよく知った2人組を見つけた。

「あっ!坂城く〜ん!」
「あれ?佐倉さんに純じゃないか」

反対側から楓子と純一郎が一緒にやってきていた。
楓子の後にたくさんの荷物を抱えた純一郎がついてきている格好だ。

「なんだ、匠か。一人でどうしたんだ?」
「い、いや、別に……それはそうと、何をしていたんだ?」
「あのね。野球部の備品を買うのに付き添ってもらってたの」
「純に?」
「うん。荷物が結構多いから力のある人が必要だったの」
「部員は?」
「みんな練習でへばっちゃって誰も動けないの……」
「なるほどね……」

確かに純一郎はたくさんの荷物を持っている。
大きな箱を2つ重ねて持ち、さらに両手には大きな袋がぶら下げてある。
ちなみに楓子は小さな袋を1個だけ持っている。

「まったく、佐倉さんも人使いが荒いよ。こんなにたくさんだとは思わなかったぞ」
「ごめ〜ん」
「こんなに買うんだったら、こまめに買えばいいと思うけどな」
「う〜ん、でも包帯とか絆創膏とか、すぐになくなっちゃうの」
「そういうことね……」

匠も純もどうしてそうなるのか、わかってはいるがあえて言わないでいる。



「ところで匠は暇なのか?よかったら一緒に荷物を持ってくれよ」
「えっ?僕は無理だよ。そんなに力もないし」
「本当かぁ?」
「本当だって!」

純一郎の頼みに、首をぶんぶん横に振って断る匠。
純一郎は不思議そうな顔をするが、すぐに納得したようで普通の表情に戻る。

「まあいいか……佐倉さん、早く行かないとまずいんじゃないの?」
「あっ、いっけな〜い!それじゃあ、坂城くん、またね♪」
「じゃあ、また明日な」
「じゃあ……」

楓子と純一郎は匠が来た道を学校に向かって歩いていった。

(なんか、いい雰囲気だなぁ……いいなぁ……僕も……)

匠はその2人の背中をじっと眺めていた。

(あれ?純、部活はどうしたんだ?……まあ、いいか……)



再びぶらぶらと歩く匠。

またよく知った顔が向かい側からやってくる。

「あれ〜?匠くんだぁ〜」
「あれ?美幸ちゃん。買物なの?」
「うん!部活が休みだから、久しぶりの買物なんだぁ〜」

両手にいくつものブティックの袋を抱えた美幸だった。
制服のままからみるに、放課後そのままここに直行したらしい。

「久しぶり?普段は行かないの?」
「行けないよぉ〜、だって部活があるでしょ?」
「去年は平日でもいたような……」
「今の美幸は違うよ〜、今の美幸は真面目に部活にでてるんだぁ」
「へぇ〜、すごいねぇ」
「すごくないよぉ、普通のこと普通のこと。せっかくの部活だからでないとね」
「……」

そういえば、最近平日にショッピング街で美幸を見かけなくなったことを思い出す匠。

(みんな、がんばってるんだよなぁ……)



しばしいろんなことを考える匠。
思考中のところを、美幸の声が中断させる。

「ところで今は暇?」
「あ、ああ、暇だけど」
「ちょうど行きたい店があるんだぁ。匠くんにちょうどいいから一緒に行こう!」

最後まで言い出さないうちに、匠の腕を掴んで引っ張る美幸。

「ちょ、ちょっと!僕はなにも……」
「いいから、いいから」
「で、でも……」
「美帆ぴょんには内緒にしてあげるから!」
「な、なんで美帆ちゃんが?」
「照れない照れない!」

美帆の名前を聞いて顔を紅くする匠をぐいぐいと引っ張る美幸だった。



そして2人は1軒の店の前に止まる。

「は〜い、とうちゃ〜く!」
「到着って、ここは……」
「そう、占いの道具を売ってるお店だよ〜」

ファンシーショップにも見えるが、どことなくイスラムの雰囲気が漂うお店。
確かによく見ると、タロットや水晶球、それに店の雰囲気にまったく馴染まない筮竹や風水盤などもある。

「美帆ぴょんがよく使ってるお店なんだけど、美帆ぴょん以外の人と一緒に来るのは初めてなんだ〜」
「へぇ〜。でも、美幸ちゃんは占いなんてするの?」
「しないよ〜、美幸のお目当てはこっちこっち!」
「えっ?」

匠は美幸に連れられて店の奥に入っていく。

「ここが今日のお目当てで〜す!」
「……これは?」
「あのね、お守りとか水晶とか、幸運グッズを売っているコーナーだよ〜」

確かに美幸のいう通りである。
水晶のグッズが中心だが、世界中のお守りや幸運グッズが陳列されている。
ただ見ていても飽きないぐらい種類は豊富だ。



「……で、僕はなんでここに?」

匠は我に返ったように美幸に聞いてみる。

「またまたぁ〜。匠くんはこんなのが欲しいんじゃないの?」
「えっ?」

美幸は陳列棚から一つ小さなお人形のようなものを手に取り匠に見せる。

「これは?」
「え〜と、例えばこれなんかなんとかスタンって国のもので、恋に効果があるんだって」
「あ゛っ……」

にまぁと笑う美幸。
美幸の答えを聞いて顔を紅くする匠。

「そ、そんな、こ、恋だなんて……」
「美幸も知ってるよ〜、匠くんが美帆ぴょんが好きだってこと」
「な、なっ、なんで……」

美幸のストレートな発言に匠は狼狽してしまう。

そんな匠をまったく無視して美幸の話は続く。

「なんか、最近の匠くんって暗いからもしかしてこの事かなぁ?って思ってつれてきたんだけどぉ」
「そ、そうなんだ。あ、ありがとう……」
「折角だから、なんか買ってみたら?きっといいことあるよ!」
「そ、そうかもな……」

匠はそう言うと陳列棚の商品を真剣に見始める。
あまりに真剣な表情に変わったので美幸は驚く。

「……」
「ね、ねぇ……そんなに真剣にならなくても……」
「……」
「う〜ん、聞こえてないみたい……美幸も自分のを探そう……」

問いかけてもまったく反応がないため、美幸も自分の買いたい物を探すことにした。



それから15分後。
2人とも見つけたようだ。

「ねぇねぇ、見つかった?」
「ああ、おかげで見つかったよ」

そう言うと匠は小さなお守り袋のような物を美幸に見せた。

「な〜にこれ?」
「中に水晶のカエルが入ってるんだけど、これを持つと願いが叶うんだって」
「へぇ〜、それだったらきっといいことがあるよ!」
「そうだね、美幸ちゃん、ありがとう」
「ううん、美幸は何もしてないよ〜」

2人とも個別に会計を済ませると、店の前で別れた。
そのときの匠は何か吹っ切れたような表情をしていた。



そしてその夜。

お風呂から上がった公二と光は部屋で古文の宿題と明日の予習をやっていた。
たまたま、教科担任が同じだったので、宿題の出し方も同じだから楽だ。
明日の予習は2人で違うので自分でやらなくては行けないが、ある程度お互いにアドバイスをしていたりする。



トゥルルル!
トゥルルル!



そんな2人の携帯が同時に鳴った。

宿題を中止し携帯を持つ2人。
まずはディスプレイで発信元を確かめる。
どちらも番号登録しており、発信元が漢字で表示されている。

「おや?……匠か」
「こっちは琴子からだ」

怪しいところでは無いことを確認した2人はボタンを押す。
声を聞きながらそれぞれ部屋の反対側に移動し、話の邪魔にならないようにする。

「おっ、匠か?どうした?」
「琴子?どうしたの?」


「そうかそうか。決めたか」
「えっ?そんなの気にしてたの?」


「それで、どうやるつもりだ?」
「お似合いだと思うよ。公二もそう言ってたし」


「ほうほう。それでそれで?」
「堂々としてたら?別に悪いことじゃないよ」


「なるほどな。それでいいと思うぞ」
「何かあったら相談して?私も経験少ないけど、できるだけ答えるからさぁ」


「変に凝らない方がいいって。自分の気持ちを素直に伝えることが一番だと思うぞ」
「で、どこまで進んでるの?……ちぇっ、教えてくれないんだ。私は全部教えたのになぁ」


「頑張れよ、きっといい結果になるって!」
「本当?約束だよ!」


「今から緊張するなって!それじゃあおやすみ」
「今から楽しみだなぁ〜♪それじゃあおやすみ〜」



ピッ!
ピッ!



2人ともほぼ同時に会話が終わった。



2人とも携帯をベッドの隣の小さなテーブルに置くと宿題が置いてあるテーブルに戻った。
宿題に再び取りかかる2人。
ノートに視線を向けながら話は先程の電話の事になる。

「ねぇ、坂城くんと何話してたの?」
「ああ、あいつ今度の月曜にとうとう告白するって」
「おお〜、すごいじゃない!」
「ご丁寧にわざわざ俺に報告してくれたよ」
「自分のことなんだからわざわざ言わなくてもいいのにね」
「まあな、でも誰かに言わないと決断が揺らぐと思ったんじゃないか?」
「う〜ん、なるほどね」

公二も光も想像でしかないが、受話器を持ちながらガチガチに固まっている匠の姿が想像ついた。
そんな姿に少しだけ笑った2人はまた宿題に取りかかった。
これ以上は自分たちでは関われない領域だから、あれこれ考えてもしょうがないという考えからだろう。



「……言っちゃった……」

匠は2人の想像通りに緊張していた。

「もう引き下がれない……」

部屋に戻った匠はベッドに寝転がり天井を眺めていた。

「夕方4時に時計台の下……」

公二には告白の時刻も場所も告げた。
ここまで言ってやめたら、どれだけ馬鹿にされるかわからない。

「あとは美帆ちゃんに時間をいうだけ……」

美帆には月曜の朝、用件を伝えるつもりだ。

「言えるかな……言わなきゃ駄目なんだよな……」

匠は告白よりもこの方が勇気がいるような気がしていた。
ある意味、放課後に告白する、と言っているのに近いからだ。

「今から考えてもしょうがないや、当たって砕けろだよな……」

匠は隣の机に置いてあった、今日買ったお守り袋を持ち、じっと見つめる。

「鐘がならなくても、これがきっと……なぁ、頼むよ」

匠はお守りを机に丁寧に置き直すと、再び天井を見つめていた。

「……ぐ〜……」

いつのまにか匠はそのまま眠ってしまった。
色々考えて精神的に疲れてしまったのだろう。

考えすぎて眠れなくなるよりはマシなのかもしれない。


来週の月曜は匠にとって一番長い日になりそうだから。
To be continued
後書き 兼 言い訳

いやぁ、久しぶりになってしまいました。
とにかく書いていきたいと思います。

さて、追いつめられた?匠ですが、とうとう決めたようです。
彼の悩みに悩んだ姿が読みとれれば幸いですが、ちと文章が足りないので無理かも(ぉぃ

さて、来週の月曜に告白です。なぜ月曜かって?
ただ土日を挟みたかっただけですから(こら
土日の様子を2,3話挟んでいよいよ告白となりそうです。

そういうわけで、次回は話がそれて、公二と光の話になります。
甘くない予定ですが、どうなるやら(汗

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