第129話目次第131話
土曜日。
休日の朝9時。

「ふぁ〜あ……眠いなぁ……」
「ほ〜んと、眠いねぇ……」

公二と光はまだベッドの中にいた。
2人とも布団の下でもぞもぞとしている。

「もうちょっと寝よう……」
「うん、わたしも……」

目が覚めたがまだ眠いらしく布団に潜り込んでもう一眠りしようとしていた。


「公二。光さん。もう起きたらどうなの?」

そんな2人の願いは公二の母の声にあっさりと打ち崩される。
扉の向こうからの声に公二が反論する。

「え〜、もうすこしいいだろ?」
「何言ってるの?今日ははばたきの輝美ちゃんとこに行くんじゃないの?」
「あっ、そうだ……しょうがないかぁ」
「そうだな」

2人とも渋々布団から出る。


「昨日夜遅くまでイチャイチャしてて、寝坊したなんて知られたら笑われちゃうわよ」

「!」
「!」

「じゃあ、御飯の準備をしておくから、早くするのよ」


2人ともしばし硬直していたのは言うまでもない。

太陽の恵み、光の恵

第23部 梅雨時の学校編 その6

Written by B
ガタンゴトンガタンゴトン



はばたき市に向かう急行電車に公二、光、恵の3人が座席に座っていた。

「しかし、輝美ちゃんかぁ……3年ぶりだなぁ……」
「そんなになるんだ」
「うん、私が去年、一昨年といろいろあったから、なかなか行く機会がなかったんだ」
「確かにそうだったよな」

輝美とは光の従姉妹で年齢は同じ。
今は地元のはばたき学園に通っている高校生だ。



ガタンゴトンガタンゴトン



「しかし、なんでいきなり呼ばれたんだ?」
「久しぶりに電話が来たの。そこで『こっちも落ち着いたから遊びに来て』って言われて」
「恵とは初対面なのか?」
「そうなるね。私が恵を産んだのはもちろん知ってるけどね」
「まあ、そうだろうな」



ガタンゴトンガタンゴトン



公二の膝に恵を乗せ、光と並んで座っている。

「ところで、光ははばたき市って初めてか?」
「う〜ん、小さいときに行った事があるよ」
「それっきり?」
「うん。輝美ちゃんはその後、長野に引っ越したから行く機会がなかったんだ」
「じゃあ、はばたきに戻ってきたってこと?」
「そうみたい、高校入学の時に戻ってきたんだって」



ガタンゴトンガタンゴトン



「しかし、電車の旅っていいよね」
「そうだな、なんかのんびりできるよな」

恵はずっと流れる景色をはしゃぎながら見ている。
公二と光も、時折後ろを振り返り、恵と同じ景色を眺めている。



ガタンゴトンガタンゴトン



「確かはばたきにいい海水浴場があるんだよな」
「うん、最近整備されたみたいで、一昨年ぐらいから人気がでてるんだって」
「俺達も夏休みになったら3人で行かないか?」
「やったぁ!」
「去年は行けなかったからな。去年の分も楽しもうか!」
「わん!」

光は子犬の鳴き真似をしながら、頭を公二の肩に寄りかからせた。

「こら、人前で犬真似はやめろって!」
「えへへ、だってうれしいんだもん♪」

夏休みはまだまだ先の話だが、あまりに嬉しくなってしまう光だった。



「え〜と、確かこっちに行くと待ち合わせの北口だったよね……」
「頼むぞ、俺は初めての場所なんだからな」
「大丈夫だって!ちゃんと教えてもらったんだから!」
「でも光も久しぶりなんだろ?」
「ま、まあそうなんだけど……でも、駅が大きくて迷っちゃうよぉ」

ホームから降りて指定された出口を探す光達。
はばたき市駅は、ひびきの駅よりも大きく、下手をすると迷子になりそうだ。
光も慣れていないので右往左往している。
公二は助けたいのは山々だが、教えてもらったのは光だから、ここは光に任せるしかない。



しかし、ようやく行きたい場所にたどり着いたようだ。
ようやく駅の北口に出てきた3人。

「あっ!見つかった!ここだここだ!」
「なんだよ。上の看板をみれば簡単だったじゃないか」
「ごめん、見逃してた……」

光が周りをよく見ずに、教えてもらった道を適当に見当を付けて先にどんどんと歩いてしまったため、少し迷ってしまったのだ。

「ところでお目当ての従姉妹はどこだ?」
「え〜と、あの人かも?」
「かも?って従姉妹だろ?顔ぐらい覚えてるだろ?」
「でも〜、この年って結構顔が変わっちゃうから……」

従姉妹を捜す公二と光。
すると、光がかも、と行っていた女の子がこっちにやってきた。


「ねぇ、光ちゃん?」


「じゃあ、輝ちゃん?」


その会話だけで相手が誰であるかがわかる。

「久しぶり!」
「久しぶりだね!」

2人とも手に手をとって喜ぶ。
この女の子こそが、光の従姉妹の東雲 輝美だった。



「輝ちゃんもすっかり大人っぽくなっちゃったね!」
「何言ってるの!光ちゃんこそ、色っぽくなっちゃって!」
「い、色っぽく?」
「うん。なんか人妻って感じがする」
「そ、そう?」
「そうよ、特に旦那様が隣にいると、え〜と公二さんだっけ?」
「はい。はじめまして主人 公二と言います」

話がようやく自分に振られて輝美に挨拶をする公二。

「そして恵ちゃんだっけ?」
「うん。ほら!恵、輝美お姉ちゃんにご挨拶は?」
「お姉ちゃんこんにちは!」

光にせかされて元気よく挨拶する恵。
ちゃんと頭を深々と下げて挨拶をするのは、親と祖父母のしつけの成果だろう。

「恵ちゃんこんにちは」
「こんにちは!」
「光ちゃん。恵ちゃんって礼儀がいいね。これは母親のしつけのおかげかな?」
「そ、そんなぁ……私だけじゃないよね?」

光は照れて顔を真っ赤にしてしまう。

「もう、照れちゃって〜。じゃあ、家に案内しますから」
「うん、お願いね」

ようやく輝美の家に行くことにした。



歩くこと15分。
閑静な住宅街の中に輝美の家があった。

「へぇ〜、結構オシャレな家だね」
「う〜ん、そうか?俺には普通にみえるけど」
「もぅ〜、そういうセンスのないこと言わないでよ」

目の前の家を見上げる公二と光。
それにつられて恵はわけもわからず見上げる。

そして公二は視線を落とす。
そこには表札があった。

「しかし『東雲』って、どう読むんだ?」
「『しののめ』って読むんだよ」
「『とうくも』じゃないんだ。へぇ〜、珍しい名字だなぁ」
「あなた……人のこと言える?」
「いえ……まったく言えません」

人の家の前であれこれいってもしょうがないので家に入ることにする。



家に入って、リビングで光と輝美は高校に入ってからのそれぞれの出来事を話し合っていた。
公二は恵と一緒に横で遊びながら時折2人の話に入っていた。

「でも、いきなりの転校でよく入学できたね」
「うん、理事長さんが理解のある人で試験無しで入れさせてくれたんだ」
「私のところで言えば校長かぁ……ふ〜ん」
「どうしたの?変な顔をして?そんなに光ちゃんところの校長って変なの?」
「い、いや、そんな事はないんだけど……」



「出産って大変だったんでしょ?」
「そうだね。何もかもが初めてだし、周りに知ってる人も少ないし大変だったなぁ」
「辛かった?」
「そんなことはないよ。恵を産んだ直後なんか嬉しくて泣いちゃった」
「光ちゃん、今でも泣き虫だったんだ」
「違うって!感動で泣いたんだって!」
「いや、確かに今でも泣き虫だよ」
「あなた!」
「ふ〜ん、旦那さんが言ってるから確かね」
「ぶぅ〜」



「えっ?あのファーストフードのLでバイトしてるの?」
「うん、平日が多いんだけど、結構おもしろいよ」
「部活とかは入ってないの?」
「一応手芸部に入ってる。バイトのない日は休まずでているかな?」
「手芸部ってなにしてるの?」
「裁縫の勉強とかしてる。ぬいぐるみとか服とか作ってるよ」
「なんか同好会みたいだね」
「そうそう。でも活気があって面白いよ」
「光も教わった方がいいんじゃないか?」
「そうね。よかったら教えて上げようか?」
「ありがとう。でも今度来たときにするね」



「へぇ〜、そんなに大変だったんだ……ごめんね、お見舞いにも行けなくて」
「いいよいいよ。下手に心配かけたくなかったから」
「でも新聞見て、お母さん達は大騒ぎだったんだよ」
「私のとこも、おかんもおとんも大騒ぎだったらしくて、おばあちゃん達は毎日電話してくれたみたい」
「そんなに大騒ぎだったんだ」
「ホントにみんなに迷惑かけちゃって……」
「元気出して。今はもう元気なんだし、ねっ?」
「うん、ごめんね……」

それぞれ色々な出来事があったようで、話がとぎれることが無かった。
楽しい話の時にはお茶もお菓子も美味しく食べられる。



「あれ?お菓子が切れちゃったみたい」
「あっ!ごめん、食べ過ぎちゃった!」
「俺もだけど、光も恵も食べ過ぎたかもしれないな」
「なにお客さんが言ってるの。すぐに持ってくるから」
「ごめんね」

輝美が立ち上がってドアから出て行った。
すると扉の向こうからなにやら口論が聞こえてきた。

『こら!なに覗いてたのよ!』
『い、いや……なんでもないよ』
『どこが?……ふ〜ん、さては光ちゃんに会いたいのかなぁ?』
『ね、姉ちゃん!』

その口論を聞いて公二が尋ねる。

「なぁ、誰と話してるんだ?」
「たぶん尽くんだと思う」
「尽?」
「うん、輝ちゃんの弟。たしか小5だったはずだよ」
「そうすると。前にあったときは?」
「確か小1か小2とかだったはずだけど……」

そうしているうちに扉の向こうの口論も佳境に入っているようだ。

『なに照れてるのよ!ほら、入った入った』
『お、オレはいいって!』
『いいからいいから!』
『うわぁ!』



バタン!



扉が開くと輝美に背中を押された少年が飛び出して転んでしまう。



「ほら、尽。光ちゃんと恵ちゃんと旦那さんが来てるんだから挨拶したら?」

後からお盆にお菓子をたくさん持ってきた輝美がニヤリと微笑んでいた。
転んだ少年はゆっくりと起きあがり、照れくさそうに挨拶をする。

「こ、こんにちは……」

この少年が輝美の弟の尽だった。
まだまだ子供だけあって、容姿は幼いが、ルックスは女の子っぽく、学校でもモテそうなのは容易に検討がつく。

「こんにちは」
「こんにちは。ほら恵、尽お兄ちゃんに挨拶は?」
「お兄ちゃんこんにちは!」
「こ、こんにちは……」

尽は照れくさそうにして真正面を向かずに若干横向きにうつむいている。

「ほら、愛しの光ちゃんに会えて嬉しくないの!」
「ね、姉ちゃん!」

輝美の茶々に尽が過剰に反応する。すこし怒っているようだ。
その茶々に光も公二も反応した。

「愛しの?」
「光?」
「?」
「どういうこと?」



「知ってる?尽の初恋って光ちゃんなんだよ」


「えっ?」


「ね、姉ちゃんのバカ〜〜〜!」


ニヤニヤする輝美。
顔を真っ赤っかにして姉を止めようとする尽。
初めて知る事実に驚く光と公二。
みんなの反応をきょとんとして見ている恵。

リビングでは様々な表情が見られている。



「で、光ちゃんが遊びに来るといつも大喜びしてたでしょ?」
「確かにそうだったような……」
「……」
「私もそのときは気づかなかったんだけど、今思えば絶対に好きだったって」
「……」

輝美は昔の様子を楽しそうに話している。
その横では無理矢理座らされた尽が顔を真っ赤にしてうつむいて黙っている。
針のむしろに座らされているとはこのことだろうか。

「公二さん。知ってる?光ちゃんが泊まりに来たときなんか、一緒にお風呂に入ろうとしたんだよ」
「何だって?」
「私と一緒に入ることにしたから、強引にやめさせたんだけど。ませてたよねぇ」
「……」
「そんなことあったね。確か小2の頃だったかな?」



「でも、そのころって……」
「あなたとは一緒に入ってたよね」
「へぇ〜、そのころからラブラブだったんだぁ」
「ち、違うよ!ただ、そのころはあの、その、え〜と……」
「……」

墓穴を掘ってしまった公二と光も照れくさくて黙ってしまった。
輝美の話はまだまだ続く。

「決定的だったのは、光ちゃんが妊娠したときかな?」
「えっ?私が?」
「私も尽もお母さんから聞いたんだけど、そのときの尽のショックったらすごかったのよ」
「どのぐらい?」
「2日は寝込んじゃったからね」
「ええっ!そんなに?」
「……」
「妊娠の意味がわかってただけでもませてるんだけど。それでショックになるなんてねぇ、小2でだよ?」
「う〜ん、オレが小2の頃といえば、ただのガキだったなぁ」
「そうでしょ?それだけ光ちゃんが好きだったのよ」

ニコニコニヤニヤしながら得意げに話す輝美。
一方隣の尽は若干怒っているようだ。



そして尽の堪忍袋の緒が切れた。

「姉ちゃんひどいよ。オレのことをそんなに……」
「よく言うわよ。尽だって、私の事あちこちで言いふらしてるんじゃないの」
「それは話のタネとして……」
「よくないわよ!結構まわりまわって私の耳に入ってくるのよ!こないだだってタマちゃんからも……」

姉と弟の口論が始まった。

「なんだよ!姉ちゃんはなんにもないような顔をして。あのこと言ってもいいのか?」
「あのことって?」


「先週、葉月とデートしてたこと!」


「えっ……」

今まで得意げだった輝美の口が止まった。

「先週だけじゃないだろ?葉月とは7回か8回ぐらいデートしてるんじゃないのか?」
「こ、こら!そんなこと言うんじゃないの!」
「うるさい!オレの恥ずかしい過去をいいやがって!」



2人の会話にイマイチついていってない2人は恐る恐る尋ねる。


「あの〜、『葉月』って?」


「あの葉月珪だよ!」


ぶっきらぼうに答える尽し。
その名前を聞いて光が驚く。

「えっ?モデルで最近人気急上昇の?」
「そう!姉ちゃんと同じクラスで学校でも人気なんだけど、姉ちゃんったらそいつとラブラブでさぁ」
「ちょっと、珪くんとはなんでもないって!」

必死に押さえようとする輝美。
それを振り切ってまくし立てる尽。
さっきとは立場が完全に逆になっている。

「嘘つけ!葉月とのデートのときは2時間も衣装選びしてたくせに!」
「そんなこと言わなくたっていいじゃない!」
「この前なんかお弁当作ってただろ!」
「うわぁ〜、それ言っちゃだめぇ〜」

大声で喧嘩する2人を公二も光も呆然と眺めているしかなかった。



「へぇ〜、輝ちゃんもやるじゃない」
「……そんなことないよ……」

あれから尽は遊びに行く(輝美曰くデートらしい)といって出て行ってしまって、ようやく落ち着きを取り戻した。

「葉月珪ってどんな人なの?」
「あのね、勉強もスポーツもできて2枚目ってイメージがあるんだけど、結構3枚目なんだよ」
「そうなのか?意外だな?」
「うん。それに寝ることが趣味で。テストでずっと寝ていて0点を取ったこともあるんだよ」
「ええっ?テストで寝て?ほむらでも一度も寝てないのに?」
「それは大物といった方がいいかもな……」
「それに意外と寂しがり屋なんだよね」

さっきは大人げなく小学生と言い争っていた輝美も今は恋する乙女の顔になっていた。
公二と光は輝美の話を聞いて、いまの輝美の状況をなんとなく推測することができた。

「そこまで知ってるってことは結構いい感じじゃないの?」
「……」
「頑張ってね♪」
「ありがとう……」



そして夕方。
さんざん話をした3人は、家に帰る電車の中。
恵は疲れて公二の膝の上でぐっすりと眠っている。

「しかし、光に似て可愛くて明るい人だね」
「そうなの。よく『姉妹じゃないの?』って昔は言われてたんだ」
「納得……」

電車の窓から夕焼けが差し込んでくる。
夕焼けの赤が窓の景色を紅く染めている。

「しかし、姉弟か……」
「喧嘩しているけど、いい姉弟って感じだね」
「俺達一人っ子だったから、兄弟がいるっていうのがよくわかってなかったけど……」
「なんか羨ましいよね」
「ああ……」

しばらく黙ってしまう2人。

「ねぇ、あなた……」
「ああ、光の言いたいことはわかる。俺も同じ気持ちだ……」
「そっかぁ……」
「でも、今は無理だな。早くても高校卒業して、落ち着いてからな」
「うん、わかってるけど。あなたが欲しいか知りたくて……」
「俺も欲しいと思ってる。恵も欲しいと思うかもな」
「うん、じゃあ卒業後ね……」
「ああ……」

2人はすやすやと眠っている恵の寝顔を優しい表情で見つめている。



「恵、弟か妹はもうちょっと待っててね……」

「いい子にしていたら、お姉ちゃんにしてあげるからな……」
To be continued
後書き 兼 言い訳

いやぁ、年内になんとかUPできました。

今回はGSキャラを書く上でどうしても必要な通称「GS主人公ちゃん」登場の回です。
名字はGS版「主人」姓こと「東雲」姓を採用しました。
これって小説版がこれだったことから、ネットではこれがスタンダートみたいになっているようですね。
「主人」姓とは由来がぜ〜んぜん違うのですが、名字をプレイヤーが決めるときメモでこういうのが決まるのってなんか不思議ですよね。

ここではGS主人公ちゃんこと輝美ちゃんですが、光の親戚ということにしました。
いや、そうしないと2と繋がりにくくて(汗

これでGSキャラも書きやすいというものです、いつ書くかは不明ですが(汗

次回もまだ日曜日です。
ストーリーとはほんの少しだけ離れて、前編後編チックなものでもUPしようと思ってます。

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