第130話目次第132話
「あなた……眠れないの?」

「ああ……光もか?」

「うん……」

深夜、公二と光は眠れずにいた。
理由は特にない。
暑いわけでもないし、昼間寝過ぎたわけでもない。

2人はいつものようにお揃いのパジャマで抱き合いながら寝ようとしていた。
琴子達にはなんだかんだ言い訳しながらも、2人ともこの格好で寝るのが一番好き。

愛する人が横にいる。
それは幻ではなく、目の前の事実。
それを肌で感じるのがたまらなく嬉しい。


「なんか眠れないね……」
「俺も、まあ、こういう夜もあるさ」

今日はまだ眠れない2人。

「なんでだろうね。こうやって抱かれるとなんか落ち着くんだよね」
「俺もこう抱いていると安心するんだよ」

「幸せだね」
「幸せだな」

特段の大きな出来事もない。
ただ平凡な生活。
でもこれが2人が望んでいた生活。


「……綺麗な星空だね……」
「都会の窓から、こんな星空が見えるなんてね……」

2人はベッドの中から窓からの星空を眺めていた。


今晩は満天の星空だ。

太陽の恵み、光の恵

第23部 梅雨時の学校編 その7

Written by B
「えいっ!えいっ!」



ぶんっ!ぶんっ!



「えいっ!えいっ!」



ぶんっ!ぶんっ!



「えいっ!えいっ!」



ぶんっ!ぶんっ!



「ふぅ……」

純一郎は家の庭で竹刀の素振りをしていた。
なかなか寝付けなかった純一郎は気分転換に庭に出て素振りをしたのだ。


「だめだなぁ……いまいちイメージがつかめない……」

純一郎は剣道の試合をイメージしながら素振りをしていた。
しかし、最近はどうもおかしい。
いままでは、相手に面が決まるイメージ等が描けたのだが、今はさっぱり描けない。
イメージでは面が決まっているのだが、自分の腕の振りとどうもずれている感じをしている。

「やっぱり考えすぎなのかなぁ……」

部活でもいまだ不振のまま。
監督からは『頭を冷やせ』と言われているのだが、真面目な純一郎には難題だった。
あれこれ余計に考えてしまい、悪循環に陥っている。
自分でもわかってはいるのだが、どうも抜けきれない。

「……」

純一郎はふと空を見上げる。

「綺麗だな……」

星空は静かに純一郎を見守っていた。
星空は何も言わない。何も示さない。
しかし、多くの事を教えてくれる。

「……」

純一郎は星空をしばらく眺めていた。

「……少しは冷やせたかな……」

純一郎は納得したような表情を浮かべながら家の中に入っていった。



「……綺麗な星空ね……」

花桜梨はベランダから星空を見つめていた。

「こう綺麗だと、なんか気持ちが安らぐ……」

一通り、星空を堪能した花桜梨は自分の部屋に戻り、机に座る。
机の上には使い古されたバレーボールが1個。

「もうすぐインターハイ……」

花桜梨は両肘を机につき、顔を両手の上に置いてボールを見つめる。

「なんか夢のよう……」

去年の今頃は、インターハイなど夢のまた夢だと思っていた花桜梨。
それが今ではもうすぐその舞台に立てるかもしれない。

花桜梨は控えのセッターとしてインターハイの県予選に臨む。
途中出場できるかは微妙だが、状況によってはないわけではない。

「本当は今年で最後……だからそのつもりでやらないと先輩達に申し訳ない……」

1年の秋に入部した花桜梨を先輩達は暖かく迎えてくれた。
人付き合いが苦手な花桜梨だったが、先輩達は花桜梨に積極的に声を掛けてくれた。

実は、そんな先輩達と花桜梨は同じ年。

自分は1年余計にできるというのが、花桜梨にとって先輩達に対して負い目になっている。

「頑張らないとね……」

花桜梨は少し緊張した面持ちで机のバレーボールを見つめていた。



「うわぁ!綺麗!」

楓子は窓を開け、綺麗な星空を見上げていた。

「なんかロマンティック……素敵……」

空は満天の星空。
なにか神秘的なものを感じる。

「お星様ってなんか、不思議だよね」

じっと空を見つめる楓子。

「お星様にお願いしたら、かなえてくれるかな……」

空に向かって手を組み、楓子は祈りはじめる。


「お星様、お星様、お願いがあります……」

「……」

「お願いです……」

視線を一番綺麗に光っている星に向け、じっと祈った。


「かなうといいな……」

楓子はすこしだけ満足したようだ。


「……」

楓子はチラリと机に視線を向ける。
視線の先には小さな写真立てがある。
そこには楓子ではない男女の写真が。

「ねぇ……いつまで私はこうなの?……教えて?」

楓子はつぶやく。
しかし写真の男女は微笑んだままなにも答えない。

「いい加減にしてよ……私も辛いよ……」

楓子はなにかを振り払うように視線をそらした。
楓子はそのまま布団に潜り込んでしまった。




「ふぁ〜あ、夜なのに腹減ってしょうがねぇ……」

ほむらは自分の部屋でパンにかじりついていた。

「昼間ゲーセンで動き回ったからかぁ?でも夜もたくさん食べたんだけどなぁ?」

夜TVゲームでかなりはしゃいでいて、はしゃぎ疲れたというのが本当のところだ。

「しかし、夜中に食べてもうまくないものもあるんだよな、不思議だなぁ」

ほむらは冷蔵庫からこっそり持ち出した大きめのパンと牛乳を両手に持っている。

「ん?」

ほむらはふと窓を見る。

「へぇ、星空かぁ……」

窓から見える綺麗な星空をしばらく見つめるほむら。

「……」

そしておもむろに右手のパンを見つめる。

「あたしは『花より団子』だな」

そしてほむらは再びパンにかじりつく。
もうほむらの視線には星空にはなく、目の前のパンに集中していた。



「ねぇ、デイジー」
「キキッ?」

「ほら見て!今日は綺麗な星空ですね!」
「キキーッ」

ひびきのから遠く離れた東北のとある街。
タケヒロサーカスはここで公演をしていた。

広いイベントスペースにテントを張っており。すみれはそこで生活をしていた。

薄い水色のパジャマ姿のすみれは右肩にデイジーを乗せて星空を眺めていた。

「ひびきのの空も星空だといいですね」
「キーッ?」

「あのね、今日も美幸さんから手紙が来たんですよ」
「?」

すみれはポケットから手紙を取り出して、手紙を読み直す。
星明かりでじっと見ているわけではない、星明かりで暗くて見にくい手紙をみつめながら、先程部屋で読んだ手紙の文章を思い出していた。


『ねぇ、すみれちゃん。

 星空って綺麗だよね。
 美幸は大好きだよ。

 美幸はたまに星空を見ることがあるんだ。

 どんなに嫌なことがあっても、
 どんなに辛いことがあっても、
 どんなに苦しくても。

 星空をじっと眺めていたら、それが和らぐんだよね。

 もしかしたら、明日はいいことあるかも。
 なんかそんな気分にしてくれるんだ。

 すみれちゃんは星空を見てますか?
 綺麗だし、心は落ち着くし。美幸はお勧めするよ!』


すみれは手紙を丁寧に畳んでポケットにしまった。
そして再び星空を眺めていた。

「明日も頑張れそうですね……」

すみれはそうつぶやいた。

「キキッ?」
「あっ、デイジーごめんね。眠かった?じゃあ寝ましょうね」

すみれはテントの中に戻った。
すみれの表情からすれば、今夜のすみれの夢はきっといい夢に違いないだろう。
To be continued
後書き 兼 言い訳

ようやく続きだぁ!
やっと書く時間というものができて、書くことができました。

何度もやってる全キャラ登場ものです。
テーマは「それぞれの夜」とでもいいましょうか。

彼らは夜、どんな過ごし方をしているのかちょこっと書いてみました。
キャラが多いので2話分使ってしまいました。

そう言うわけで次回は残りのキャラです。

目次へ
第130話へ戻る  < ページ先頭に戻る  > 第132話へ進む