第131話目次第133話
『なぁ、琴子……もう終わりにしないか?』

「えっ?」


深夜。

琴子は文月との電話で突然表情が変わった。

『これ以上琴子とはつきあってられないよ……』

「なんてこと言うのよ」

『俺達区切りをつけないといけないと思うんだ』

「どうして?どうしてなの?」



『あたりまえだろ!こんな時間に電話かけてくるなんて。俺はもう寝たくてしょうがないんだよ』



「……」

『いきなり電話を掛けてきてビックリしたよ』

「……」

『何事かと思ったら「ただ話がしたい」って。まあ、俺も世間話は嫌いじゃないけどさ』

「……」

『話ならいつでもつきあってやるけど、今日は寝るぞ』

「そうね……ごめんなさい」

『おや、琴子にしては素直だな』

「一言余計よ」

『あはは、ごめんごめん。それじゃあ、また明日な』

ツー……ツー……ツー……

電話が切れる音を確認すると、琴子は自分の携帯を切った。


「『誠の声が無性に聞きたくなった』なんて……言えるわけないじゃない……」

琴子はそう携帯につぶやくと、布団に潜り込んで寝てしまった。

太陽の恵み、光の恵

第23部 梅雨時の学校編 その8

Written by B
「……どうしたんですか?」

美帆はベッドで横たわりながら妖精さん達とお話ししていた。

「今日はずっと変でしたよ?なんか私の顔を見てニヤニヤしていて?」

今日はずっと妖精さんの様子が変だった。
妖精さんは何かを知っている様子で美帆を見てこそこそ話し合っているのを美帆は何度も目撃した。

「私がどうかしたんですか?」

そのたびに理由を聞くが妖精さんはニヤニヤしているばかり。

「……どうしても答えないんですか?」

にっこりと微笑む美帆。

それを見た妖精さんの顔が引きつる。

「それだったら、火あぶりがいいですか?水攻めがいいですか?」

美帆の笑顔とその言葉を合図に妖精さんが一斉にバラバラに散ってしまう。

「……逃げるのですね?明日の夜はお仕置きですよ……それではおやすみなさい」

美帆はそう言って寝てしまった。

明日美帆に何があるかある程度わかっている妖精さん達は美帆の今の態度が可笑しくてしょうがないみたいで、寝てしまった後もくすくす笑っていた。



「……よし!これで完成っと!」

茜は台所で明日の準備をしていた。
普段は自分のお弁当の下ごしらえだけなのでそれほど時間がかからないが、今日は違った。

「お兄ちゃん、どうしたんだろう?『明日はお弁当がいる!』なんて言ってさ」

いきなり言われて戸惑ったものの、やはり兄に頼まれてなんか嬉しくなってしまう茜。
テーブルの上には下味をつけた唐揚げ用の鶏肉。
すぐに準備ができるように切って用意した野菜。
果物はすでに皮を切ってラップにくるんでいる。
海苔や漬け物などはお皿に盛って準備してある。
そして横にはいつもより多めにお米が入っている炊飯ジャー。

はりきって色々作ったために夜遅くになってしまった。



「普段は遊んでばっかりなのに、いきなりお弁当なんてどういう風の吹く回しなんだろう?」

冷蔵庫に下ごしらえしたものを丁寧にしまいながら茜は考えていた。


「もしかして……それだったら、舞佳さんにつくってもらうか……」

冷蔵庫に全て入れたのを確認した茜は台所の明かりを消して自分の部屋に戻るべく歩き出す。

「いい加減、お兄ちゃんも真面目になって欲しいなぁ……ボクも大変だよ」

薫の部屋を横切るときに茜はつい愚痴を吐いてしまう。
それは薫のいびきが聞こえたからかもしれない。

「お兄ちゃんはもう呑気に寝ちゃってるみたいだし……いい気なもんだよ……」

そして自分の部屋に戻ってた茜は明日の学校の準備を始める。

「ボクもお兄ちゃんみたいにのんびり寝てみたいよ……」

教科書を鞄にしまい、すぐに布団に潜り込む。

「いったい、お兄ちゃん……何してるんだろう?ボクに全然教えてくれないし……」

茜は最近そればかり気にしている。
最近薫は朝早く出かけることが多くなった。
夜も遅くなることが多くなった。
家の貯金を勝手に下ろしてないことから、お金は使っていないことだけはわかってる。

でも、何をしていたか聞いても黙って何も教えてくれない。
何度聞いても教えてくれないので、もう聞いてないが、気になることは確かだ。

たまに舞佳に聞いても適当にはぐらかされるだけ。


「ボクに教えてくれたっていいじゃない……ボクはお兄ちゃんの妹だよ……ふぅっ……」

結局布団の中でため息をつく量が多くなるばかり。

「なんか、寂しいなぁ……」

茜の今日の夜は寂しいだけだったようだ。



「はぁ〜あ、明日から学校かぁ……」

美幸は机で明日の準備をしながらぼやいていた。
なぜこんな遅くに準備をしているかというと、ついさっきまで宿題をしていたから。

宿題をしようとしたら、ノートがどっかにいってしまったり、
シャープペンシルの芯や消しゴムが無くなっていたり、
最後は折角した宿題のノートを飼い猫のミーちゃんがぐちゃぐちゃにして書き直しをしたり、
とにかくいつもの出来事が起きていつものように遅れてしまったのだ。

「明日も……なんだろうな……」

部活も真面目に出ていたら楽しくなってきた。
勉強も難しいが頑張ってやっている。
クラス委員も自分では上出来だと思っている。

でも、明日が待ち遠しくない。

「また、ドキドキしちゃうのかな……また、胸がキュンってしちゃうのかなぁ……」

最近クラスの一人の男子にときめいているのを感じている。
二枚目じゃないけど、勉強はできるし、性格はいい。

2年になってからクラスが一緒になったのだが、そのときから段々と惹かれていくのがわかっていた。

この気持ちがなんなのかは美幸はよくわかっている。

でも認めたくない。

もし自分で認めてしまったら……。

「ぬしりん……どうしてそんなに美幸に優しいの?……なんでひかりんだけじゃないの?」

全ての準備を終えた美幸は机でほおづえをつき、悩んでいた。
そして美幸はそのまま眠ってしまったのは言うまでもない。



「姉さんはもう寝ちゃったんだ……」

真帆は廊下から美帆の部屋をこっそり覗いていた。
さっきは妖精さんと話をしていたようだが、今はベッドのなかで寝ている様子だ。

「姉さんは寝られない夜ってあるのかな……」

自分の部屋に戻った真帆は机に座って引き出しから日記を取り出した。
部屋の中は机の明かり一つだけ点っている。

「みんな楽しい生活を送ってるんだよね……」

そうつぶやきながら真帆は日記を書き始めた。

『昼間はバイトで溜めたお金でお買い物。
 思い切って大人っぽい服を買ってみた。
 自分でも大胆かな?って思うぐらいのデザインでちょっと買うのに迷った。
 でも前に舞佳さんから
  「若いときは思い切ってみるのが一番よ!」
 と言われたのを思い出して買ってみた。

 でも、買ってから気が付いた。
 これ、いつ着るんだろう?

 買物途中で紐緒さんと出会ったが、なぜがご機嫌だった。
 理由を聞いたら「今夜は満天の星空だから、あの実験ができるわ……ふふふ」だって。
 なんの実験なんだろう?

 夕方に望ちゃんから、電話で相談を受けた。
 「来週の日曜にやってるお勧めの映画ってあるかい?」だって。
 色々言ってごまかしてたけど、どう考えても、アノ彼とのデートなのがバレバレ。
 なんか悔しくてホラー映画を紹介しちゃったけど大丈夫かな?
 メグが面白かった、って言ってたから大丈夫だとは思うけど。

 明日からまた学校。
 やっぱり勉強は嫌だなぁ。
 それでも最近、現代文や古典の授業がわかってきた。
 やっぱり姉さんの影響かな?
 今度は図書館に行ってみようかな?』


「……人のことより自分のことを考えたら?って言われそうだな、あたしの日記。」

自分の日記の内容に思わず苦笑してしまう真帆。

「……自分のことかぁ……でもなぁ……」

机の明かりを消し、真帆はベッドに潜った。

「あたしも相談する立場になりたいけど……」

しばらく真帆は眠れそうもない。




カタカタカタカタ……



「ふぅ……メールも意外と疲れるのだ」



カタカタカタカタ……



メイは自室のパソコンでメールを打っていた。
最近、ようやく自分が納得するネット環境が整い、自宅でパソコン画面と向き合う時間が多くなった。
自然と夜遅くなることが多くなる。

「『最近は私もパソコンで日記をつけてます』と……」



カタカタカタカタ……



今日は電脳部に来たメールの返事を自宅から書いている。
学校のパソコンはちょうどメンテナンス中だったので、使えなかったのが一つ目の理由。

もう一つは、

「しかし、あの山猿もひどいのだ。『相手が待ってるんだ!いい加減に今週中に送れ!』なんて無茶なのだ」

とはいいながらも律儀にほむらのコメントも折り込んで返事を送るメイ。

「『知り合いのゴットリラーさんは、日記を3日以上つけられる人はスゴイなどと言っていました』と……」



カタカタカタカタ……



メイは文章を考え、入力ミスを直しながらメールを打っていく。
考えていると意外とメールが長くなる、当然時間もかかる。


「これでいいかな……さて、送信と……」

ようやくメールを打ち終わったメイはさっそく送信する。
伊集院グループの最新鋭の技術を導入した高速ネット通信によりすぐに送信が完了する。

「送ったはいいけど、最近月夜見殿のホームページの更新が止まっているのが妙に気になるのだ……」

パソコンの電源を切り、ベッドに潜り込むメイ。

「まあ、すぐに返事がくればいいのだが……ではおやすみ……」

心配はしているもののメイはすぐに熟睡してしまう。
今日も十分遊んで満足したようだ。



「眠れないなぁ……」

匠は深夜遅くになっても眠れなかった。
ベッドに潜って目をつぶってはみたもののどうしても眠れない。

「いよいよ明日か……」

明日はいよいよ美帆に告白する。
決めたはいいのだが、いよいよだと思うと緊張してどうしても眠れない。

「こんなこと前々から決めなければよかったかなぁ……」

匠はベッドから出て窓に向かう。
カーテンを開けると満天の星空が見渡せる。

「これでいいとは思うけど……」

告白の言葉を幾つも考えた。
恥ずかしいのを我慢しながらも一人で練習してみた。
やればやるほど、美帆はどんな言葉を待っているのかわからなくなっている。

「不安だなぁ……あれ?」


ふと見上げると空には一筋の光の線が。


「流れ星だ!」


すぐに匠は手を組んで必死に祈る。


(美帆ちゃんと恋人になれますように!)
(美帆ちゃんと恋人になれますように!)
(美帆ちゃんと恋人になれますように!)


匠は空を見ると光の筋がまだ残っていた。


「3回言えた……」

不安だった顔に笑顔が少し戻ってきた。

「明日は成功するかも……」

そうつぶやくと匠はすぐにベッドに潜り込んだ。
そしてすぐに眠ってしまったのは言うまでもない。
To be continued
後書き 兼 言い訳

今回はいわば後半です。

そもそもこんなのを書いたのには理由があるわけで、
作者が某K社のRPGをやっていたときのこと、
そのRPGではイベントの間のときに主人公を歩き回らせると、たくさんのキャラがうろうろしているのが見られます。
時間は昼。天気は晴れ。
そこでふと作者は考えた
「こいつら夜はどうしてるんだろう?」

もちろん、作者にはそのRPGの2次創作を書く気力もなく、キャラがメモキャラに置き換わったというわけです。

普段とはちょっっっっっとだけ違う雰囲気が読みとれれば嬉しいです。

さて、次回はいよいよかな?

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