美帆が家に帰ってきた。
先に家に帰っていた真帆が出迎える。
「ただいまぁ〜……」
「おかえり姉さん……あれ?」
真帆は美帆の異変に気がついた。
顔がほのかに赤い。
いつもにも増してぼぉ〜っとしている。
何よりもいつもよりも幸せそうだった。
「姉さん、何かいいことがあったの?」
俗に言う幸せボケの兆候を感じ取った真帆が聞いてみる。
すると美帆はとっておきの笑顔を見せるのだが。
「えへ、えへへへ……」
「……」
やはり幸せボケ。それも重症。
真帆はただ呆然とするばかり。
太陽の恵み、光の恵
第23部 梅雨時の学校編 その10
第134話〜告白余韻〜
Written by B
不気味なぐらいニコニコとしている美帆。
それを見て少しおびえている真帆。
(この表情……妖精さんに邪悪な事を考えてる顔だ……)
以前は毎日のように見た顔。
最近はめっきり見せなくなったが、たまに見せる表情。
こういうときは、その後の美帆の台詞からして妖精さんはろくな目にあってない。
(どうしたんだろう、姉さん……)
依然としてニコニコ顔の美帆の後ろをこっそりとつけていく。
そして、美帆の部屋の扉に耳をつけ、美帆の話を聞く。
「よ・う・せ・い・さ・ん♪」
(やばっ、かな〜り怒ってる)
自分の部屋に入り、鞄を机においた美帆は、開口一番目の前の妖精さんにほほえむ。
にこにこにこ
「こういうことだったんですね♪」
(えっ、どういうこと?)
にこにこにこ
「昨日はもう知ってたんですね、告白のこと♪」
(えっ、告白だって!)
にこにこにこ
「私が好きなのは知ってたでしょ?匠さんのこと♪」
(匠さんって、え〜と坂城くんのことだっけ?……えっ?もしかして!)
にこにこにこ
「私、今日ずっと不安だったんですよ。放課後何言われるのかって」
(もしかして、姉さん、放課後に告白され……)
にこにこにこ
「乙女心をかき乱した罰は大きいですよ♪覚悟してくださいね♪」
(で、結局どうだったのよ、姉さん!)
こっそり聞いているから、当然真帆の問いに美帆が答えるわけがない。
しばらく、美帆の部屋でなにやらガタガタ物音がした。
ガチャ。
美帆が自分の部屋から出てきた。
美帆の右手には空の大きなビニール袋が。
「ね、姉さん?その袋は?」
「あっ、これですか?聞かないほうがいいですよ♪」
「……じゃあ聞かない……」
「ではこれから水攻めの刑です♪」
そういって美帆は風呂場に向かって行ってしまった。
右手のビニール袋は何も入っていないのにこころなしかゴソゴソ動いているようだった。
(妖精さん……あそこに何十匹入ってるんだろう……)
真帆はそう考えたが、それを想像し、かつ、これから行われることを想像すると恐ろしくなったので、考えるのをやめた。
「はぁ〜、つかれた〜」
一方の匠は、ベッドでぐったりと寝ていた。
家に帰って部屋に入るとどっと疲れが出てしまい、ベッドにバタンキューと言った具合だ。
「なんで、こんなに疲れちゃったんだろう……」
それは今日1日中緊張しっぱなしで、精神的に疲労しきっていたからだ。
「今日はご飯食べたら早めに寝ようかな……いや、今すぐに寝たい……」
そう思い、まぶたを閉じる匠。
トゥルルル!
トゥルルル!
そのとき、部屋の電話が鳴った。
「うわ〜、なんでこんなときに電話が……」
匠は不満な表情を浮かべながら受話器を取る。
「はい、坂城ですが」
「あっ、私、白雪と申しますが……」
その言葉を聞いて、匠の表情が一変した。
「えっ!美帆ちゃんなの!」
「ごめんね。坂城くんのお姫様じゃなくて」
「えっ……じゃあ?」
「姉さんじゃなくて、真帆で〜す!」
「……」
「あれ?どうしたの?」
匠は力がどっと抜けて、床にへたり込んでしまっていた。
「頼む……紛らわしいことはやめてくれ」
「あははは!ごめんね。ちょっと悪戯したかったから」
「勘弁してくれ……ところで何の用なんだ?」
あきれて力が抜けてしまっている匠。
一方の真帆は口調が変わった。
「姉さんから聞いたの……姉さんの王子様になったんだって?」
「えっ、ま、まあね……」
「姉さん、本当にうれしそうだった……」
「そ、そうなんだ……」
「姉さん、家に帰ってからずっとニコニコしてるんだよ」
「ふ、ふ〜ん……」
「あまりに幸せ過ぎて、私が事情を聞くのに一苦労したんだから」
「へ、へぇ〜」
いつもの明るい口調ではなく、どことなく真面目な口調。
それを聞いた匠も真面目な口調になっていく。
「あのね、姉さんって、いつも妖精さんとばかり話してたりしてるけど、本当にいい姉さんなんだよ」
「?……なんだい、いきなり?」
「姉さんって、優しくて、おしとやかで、頭もよくて……」
「お、おい。いったい何を……」
「私と違って本当にいい人なんだよ……」
「真帆ちゃん!いったいどうしたんだい?」
突然の真帆のつぶやき。
それもどことなく悲壮感が漂ってそうな声。
匠でなくとも驚くだろう。
「とにかく……姉さんを幸せにしてあげて……お願い……」
「真帆ちゃん……」
「私、ずっと姉さんのつらいところ見てきたから……だから……」
「大丈夫だって、美帆ちゃんのいいところは一番知ってるでしょ?」
匠は何かを察したらしく、真帆の言葉を返した。
「えっ?」
「それに美帆ちゃんがどんな性格でも、僕はそれを含めて美帆ちゃんが好きなんだから」
「そっか……安心した……それじゃあね」
「ああ、美帆ちゃんによろしく」
「うん……じゃあね……」
二人はほぼ同時に電話を切ったようだ。
「真帆ちゃん。よほど姉想いなんだな……」
電話を切った匠には今の真帆の電話はそうとらえた。
「美帆ちゃんとつきあうとなると、真帆ちゃんにもお世話になるんだろうなぁ……」
再びベッドに寝転がった匠はこれからの事を考えていた。
「でも、今度のデートはどこに誘えばいいのかな?う〜ん迷うなぁ……あれ?」
ちょうど部屋の外から晩御飯を呼ぶ匠の母の声が聞こえてきた。
「まあいいか。ご飯食べてから考えようっと!」
ベッドから飛び起きた匠は勢いよく部屋から飛び出した。
しかし、部屋から戻った匠はベッドで考えてたのはよかったが、そのまま寝てしまったのだった。
「……これで……いいんだよね?……」
一方、電話を切った真帆は受話器を持ったままじっと立ちすくんでいた。
「祝福しなくちゃいけないのに……」
ようやく受話器を置くと、とぼとぼと自分の部屋に戻る。
「なんだろう……このもやもやした気持ち……嫌……」
姉ののろけ話を聞いた後、匠に電話をしたはいいものの、どうもすっきりしない。
「姉さんに彼氏ができて、嬉しいはずなのに……なぜ?」
自問自答しても答えが見つからない。
「……あっ、ごはんの時間だ……まっ、いいか。別のこと考えて忘れよ……」
嬉しいはずなのだが、ちょっとだけ嬉しくない真帆だった。
「あ〜あ、美帆ぴょんはいいなぁ〜……」
夜中。
美幸は明日の準備をしながら今日の出来事を思い起こしていた。
「幸せそうだったなぁ……」
午後、偶然匠が美帆に告白しているところに出くわした。
そこで見た匠と手をつないだ美帆の幸せそうな顔。
中学の頃から仲良しだったが、あんな顔は美幸は初めて見た。
「彼氏か……美幸も欲しいなぁ……」
美幸は今日の美帆のように彼氏と手をつないだところを想像してみた。
しかし、想像したところで美幸ははっとした。
「!!!」
美幸が想像の中の美幸の彼氏の顔。それは……、
「違う、違う!ぬしりんを思い出したらだめだって!」
美幸は頭をぶんぶんと横に振って考えを振り払おうとした。
「だから、ぬしりんはだめだって……」
美幸のトーンは徐々に落ちていく。
「どうしよう……美幸、はまってる……もう寝よう」
これ以上考えると深みにはまりそうだったので美幸はすぐに寝てしまった。
「なぁ、光。今日はえらく甘えてなかったか?」
「いいじゃない……たまには甘えたって」
公二と光はいつものように二人一緒にベッドの中。
光は公二の胸板を枕代わりにして横たわっている。
公二は光の髪をやさしくなでている。
「別に悪いとは言ってないよ。でも、今日はなんでかな?って」
「そんなのいいでしょ?無性に甘えたい日があったって」
「嘘つけ。どうせ、匠たちを見て甘えたくなったんだろ?」
「うっ……」
公二の指摘に光はだまってしまう。
どうやら図星らしい。
「やっぱりな。光は対抗心がすぐにメラメラ沸くからな」
「……」
「なあ光。他の奴のことは気にするなって。俺たちは俺たちの愛し方があるだろ?」
「うん……」
「まあ、甘えたいときは好きなだけ甘えさせてやるから、気にするなよ」
「わかってる、でも美帆さん達がうらやましくて……」
「まあ、俺も昔を思いだしたけどな……」
二人の会話はまだまだ続きそうだ。
こうして普通の1日が終わった。
しかし、この1日が特別な日となった匠と美帆は明日からどういう生活になるのだろうか?
それは二人の心がけしだい。
「……ぐ〜……ぐ〜……」
「……す〜……す〜……」
とりあえず、今はぐっすりと眠っている二人の夢の中は幸せな日々なのだろう。
To be continued
後書き 兼 言い訳
ようやく、23部が終わりました。
いやぁ、最後をどうまとめるかずいぶん悩んだ悩んだ。
結局、こういう終わり方になりましたがいかがでしょうか?
当然、この後も二人の様子は書く予定です。
今後、どういう展開になるかはお楽しみということで。
さて、次部はインターハイについて書く予定です。
美幸、花桜梨、純の3人を中心にする予定ですが、
楓子や12GSキャラも(作者が気が向けば)書くかもしれません。