第135話目次第137話
「がんばって〜!」

ここはテニスのインターハイ地区大会の会場。
美幸は今は団体戦のコートのベンチでメガホン片手に応援していた。

「いいよいいよ〜!その調子、その調子!」

美幸は選手でもなく控えでもない。
つまり今年は出場できない。

それでも美幸は仲間や先輩のために懸命に応援している。

「あとひとつ、あとひとつ!」

美幸の声はコート中に響き渡っていた。

太陽の恵み、光の恵

第24部 インターハイ編 その2

Written by B
ひびきの高校女子テニス部は団体戦の2回戦の第3試合の真っ最中。

1回戦の相手はこの地域では弱小と言われている部類の学校だったので、2試合連取で難なく勝ち進んだ。
ひびきのとしてはここからが本番。

地域では中堅クラスと言われているひびきのの実力の場合、2回戦以降にぶつかる相手は自分たちと同等、
あるいは自分たちよりも上の実力の学校とぶつかる。
従って、ここからが自分たちの実力が試される。

2回戦の相手はひびきのとほぼ同等の実力高。
これまでの練習試合も五分五分といった成績。
しかし、過去の実績がどうであろうと、この試合に勝てばすべてよし。
それだけに、応援にも熱が入る。


そして今は第3試合。
お互いシングルスを一勝一敗とし、最後のダブルス。

一進一退だったが、ひびきののマッチポイント。

「あと一息だよぉ〜」

美幸は第1試合開始から懸命に応援してた。
メガホンを握りしめる手が疲れてきた。
張り上げてきた声も疲れがでてきた。
それでも美幸はがんばっている。



(あと一息だからがんばって……)

美幸はがんばって応援するには少しだけ訳がある。

それは1週間前にすみれに送った手紙が発端。

『すみれちゃんへ。

 今度インターハイの大会があるんだ。
 でも、美幸は選手じゃないから試合にでられないの。

 それでも美幸はがんばって応援するんだ。
 声を張り上げて、選手を励まして。
 美幸ができることをできる限りやるんだ。

 本当のことを言うとね、すごく悔しい。

 本番に向けてがんばってる先輩や仲間をみてると、美幸はなにやってるんだろう?って。
 練習しても練習しても、今度のインターハイではまったく役に立たない。
 練習が嫌になったことも何度もあった。

 でもね。

 美幸には来年がある。
 来年の今頃は選手として練習したい。
 本当に出られるかわからないけど、今から諦めたくない。
 だから、先輩達と同じように練習して、
 本番では先輩達に負けないくらい、応援をがんばって、
 それが次につながると思う。

 そう思って、嫌になりそうなところをがんばってる。
 もしかして自分に無理に言い聞かせて納得させているって感じかもしれない。
 
 すみれちゃんはそんなことってあるの?』


(こんなこと書いちゃってすみれちゃん。どう思うんだろう?)

正直に自分の気持ちを手紙につづってすみれ宛に送った。
美幸はどんな返事がくるのか心配だった。



それから3日後。
すみれから返事が来た。

「えっ……」

みゆきは手紙をみて驚いた。
手紙にはこう書いてあった。

『美幸さんへ。

 お手紙読みました。

 正直な気持ちを言うと安心しました。

 私の中の美幸さんはいつもめげないで、
 弱気になることなんてない人だと思っていました。
 美幸さんも私と同じなんですね。ほっとしました。

 私もサーカスが嫌になることがありますよ。
 今はそうでもなかったけど、小さい頃はしょっちゅう。

 なんで私だけ転校ばかりしなくちゃいけないんだろう?
 なんで他の子のように遊べないんだろう?
 サーカスという職業を恨めしく思ったこともありました。

 でも今はそうではありません。
 ブランコが大好きになった、というのもあるんですけど、
 今日のステージをがんばればきっと明日はいいことがある。
 お客さんが喜んでくれれば、それが次につながる。
 そう自分を励ましてがんばってます。

 でも、なかなかお客さんも来ないし、未だ楽にはなれませんけどね。
 それでもきっとまたテントにお客さんがいっぱいになることを信じてます。

 応援がんばってくださいね。』



「すみれちゃんも……同じだったんだ……」

美幸はすみれも弱気になることを知って少し安心した。

「ごめんね……すみれちゃんの方が大変なんだね……」

それと同時に今まで秘めていたものを表に出させてしまったことを後悔していた。

「美幸がんばるよ……すみれちゃんに堂々とできるような応援をするよ……」

美幸はいつの間にか泣いていた。



そしてインターハイ当日。
美幸は懸命に応援していた。

パコーン!



「いいよ〜!」



パコン!



「おしいおしい!」



スパン!



「やったぁ〜!」


そして。



パン!



ピピー!



「勝ったぁ!」

マッチポイントを取り、ひびきのの勝利。
これで団体は3回戦に進んだ。

(自分がプレーしたわけじゃないけど、なんか嬉しいな……)

美幸は喜ぶ選手達を見て自分も静かに喜んでいた。



結局、団体はベスト8まで勝ち上がったが、準々決勝でその後優勝することになる学校とぶつかり1−2で負けてしまった。

(あ〜あ、負けちゃった……あれ?)

敗戦を見届け、片づけを始める美幸だがコートでなにかを見つけた。

(先輩……)

先輩達がうつむいたままラケットなどの片づけをしていた、
美幸のところからははっきりと見えなかったが、悔しそうな表情を浮かべ泣いているのがわかった。

(……)

それを見た美幸もなにか悲しくなってしまう。

(……悔しいな……)

美幸は何ともいえない気持ちで会場を後にした。



そして美幸はすみれに手紙を書いた。

『すみれちゃんへ。

 今日はインターハイでした。
 美幸はがんばって応援したよ。
 美幸の応援のせいかな?美幸の学校はいつもよりも勝てたんだよ!
 勝ったときは美幸、応援してよかったな、っておもった。


 でも。


 負けたとき、先輩の表情を見たとき、美幸思った。

 やっぱり試合に出たい。

 本当の嬉しさ、悲しさはやっぱり試合に出ないとわからないと感じた。

 悔しい。本当に悔しい。

 優勝できなかったのも悔しい。
 あれだけ応援したのに、最後の最後でそんなことを思った事も悔しい。
 とにかく悔しかった。
 美幸が家に帰ってきた時にはそれだけしか感じなかった。

 来年、いや、明日から部活がんばる。
 来年同じ悔しさを感じないように。


 なんか嫌な事書いてごめんね。
 でも、こんなこと他の友達には言えない。
 すみれちゃんだから、正直に言えると思う。

 それでは。すみれちゃんも体には気をつけてね。』



「……」

美幸は無言で書いた便せんを封筒の中にしまう。

「最近、すみれちゃんに正直に書いてるなぁ……」

美幸はそうつぶやきながら、切手の裏をなめて封筒に貼り付ける。

「どうしてなんだろう?すみれちゃんだからかなぁ?」

美幸はすみれ宛の住所を書いて大切に机の上に置く。

「でも、正直に言える人がいるっていいなぁ……」

手紙を書き終えた美幸はとても満足そうな表情を見せていた。



翌日。

「お゛ばよぉ゛〜……」
「み、美幸ちゃん。どうしたの?」
「ごえ゛ががれ゛ぢゃっだよお゛……」

公二は美幸の声に驚いていた。
いつもの超音波ボイスではなく、かなりのガラガラ声。
どうやら、懸命の応援の影響が次の日になって現れたらしい。

「大丈夫?」
「だい゛じょう゛び、だい゛じょう゛び〜」
「全然大丈夫じゃないよ!保健室にのど飴でももらったら?」
「も゛うも゛らっでるがらだいじょうぶだよ〜」
「そ、そう?でも声を出さない方がいいとおもうよ」
「あ゛りがどう゛〜」

心配そうな公二を尻目に美幸は自分の席に座る。

(さて、今日からなんだよね……今日からがんばらなくっちゃ)

美幸は心の中で再スタートを誓っていた。

(でも、声がつらいよぉ〜……いつになったら元に戻るんだろう?)
To be continued
後書き 兼 言い訳

第24部は今回からが本番です。

まずは美幸の登場です。
前に書きましたが、美幸は今年も応援専門でした。
そんな美幸の心境が中心に書いてみました。

美幸の心の底が読みとれれば嬉しいです。

次回は花桜梨さんの予定です。

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