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第138話目次第140話
静かに揺れる水面。

プールのスタート台に少女が立つ。

遠くの獲物を狙うかのような鋭い視線。
少女はスタート台で飛び込む体勢をとる。

そして、少女は空に舞う。

見る人にとってはその姿はスローモーションのように見えるほどきれいなフォーム。


ザッパーン!


少女は水の中に飛び込む。
飛び込む音もなぜか心地よい。

少女は何メートルか潜水すると水の上に顔を見せる。


カシャ!


その少女にフラッシュが光る。

「グレイトね。プールでのノンちゃんの表情はいつでもいい表情しているのよね」

プールサイドでは制服姿の別の少女が大きなカメラを片手に立っていた。

太陽の恵み、光の恵

第24部 インターハイ編 その5

Written by B
きらめき高校の屋内プール。
冬は温水プールとしても使える、水泳部にとってはありがたいプールだ。

放課後、清川 望は一人で練習していた。

「しかし、彩子も暇だな。ここに来たってあたししかいないのに」
「それは私も同じよ。ノンちゃんこそ、一人で楽しいの?」
「楽しい、楽しくないの問題じゃないよ。練習しないと身体がなまっちゃうんだよ」
「大変ねぇ」

水泳部のインターハイの都大会は昨日行われた。
そこで終わった3年生は今日付で引退。
今日は引き継ぎだけ行って練習はなし。

しかし、校内でただ一人、全国大会に進んだ望は別だった。
他の人が休んでいるときも、一人で練習に励んでいた。

望の全国大会進出は当然の結果だ。
彼女はオリンピックのメダル候補なのだから。

彼女は女子自由形の日本記録も持っている。
そのため、インターハイでは圧倒的に勝つことが期待されている。

そんな周りの雰囲気を敏感に感じ取っている望は練習せずにはいられないのだ。



それを知ってか知らずか、友達の彩子はカメラを持参してプールに無断にやってきた。
以前もこういう事が何度もあった。
そのたびに注意はしているのだが、まったく聞く耳を持たないので、今は注意していない。

「でも、プールサイドでカメラもって水に落としても知らないぞ」
「No problem. 大丈夫よ。このカメラは魔法のカメラで、手から離れないの」
「あははは、そりゃ便利だな」

彩子の冗談も軽く流す望。
それを見て、彩子も思わずほほえむ。

「しかし、ノンちゃんも大変ね。優勝候補、優勝候補って辛くない?」
「確かにプレッシャーはあるよ。でも、気にしてたらやってられないよ」
「慣れてるのね」
「でも、何度もやるもんじゃないよ」
「私はちょっとNo thank you ね」

望がプールから上がってきた。
彩子は近くにおいてあったタオルを渡す。
それを受け取った望は身体を軽く拭き、頭を拭き始める。

「あら?もう練習終わりなの?」
「そんなわけないだろ。スタートのフォームの確認をしてたから、ちょっと休憩」
「ふ~ん、じゃあちょっとつきあって」
「なんだい?」
「ノンちゃんの水着姿を撮りたいの」
「あたしの水着姿なんて撮ってどうするんだ?」
「ノンちゃんにお熱の1年生達に売って、お小遣いにするの」
「こら!」
「冗談よ。私はだたノンちゃんのナイスなプロポーションを撮りたいだけよ」
「な~に言ってるんだよ。それだったら彩子の方がスタイルいいじゃないか?」
「私は当然ナイスバディよ。それは関係ないわ……ちょ、ちょっと!」
「じゃあ、そのナイスバディはあたしが撮ってやるよ」

望は彩子からカメラを奪って、彩子を撮る構えを撮る。
大事なカメラをいきなり撮られてあわてる彩子。
今にも泣きそうな表情で望に懇願する。

「Please. お願い、そのカメラ返して」
「だ~め、あたしが彩子のナイスバディを撮ったら返してやる」
「私は撮る専門よ」
「たまには撮られるのもいいんじゃないか?あたしも一度撮ってみたいし」
「わかったわよ……もうしょうがないわね」

意地悪な表情を浮かべる望。
それをみて彩子は諦めてしまう。



それをみて望がニヤリと笑う。

「じゃあ、さっそくここで脱げ」
「えっ?」


「彩子のナイスバディがわかるには裸が一番だろ?それに今は誰もいないし」
「……」
「さっ?どうなんだ?」
「……」

彩子は黙って胸のリボンをほどく。
そしてそのリボンを足下に置く。
そして上着を脱ごうと手を掛ける。

「こらっ!彩子、冗談だよ!」
「えっ……」

それをみて望がおおあわてで彩子を止める。

「あたしはそんな趣味はない!部室に予備の水着があるから着替えてこいよ」
「そうなんだ、よかった……じゃあ着替えてくるね」
「早く来いよ」

彩子はいつもの表情に戻って、そのまま部室に向かっていった。


「まったく、彩子はカメラの事となると冗談も通じなくなるから困るよ……」


そんな彩子の背中を見つめながら、望は先ほどの行動を思い起こして呆れていた。



「おまたせぇ♪」

彩子が競泳用水着姿で戻ってきた。
戻ってくるなり、軽くポーズを撮る彩子。

「しかし似合ってるな。水嫌いなのが信じられないよ」
「それは言わないで……ささっ、早く撮りましょ」
「わかったよ。ポーズはよくわからないから、彩子の好きなようでいいよ」
「わかったわ。きれいに撮ってね」
「あっ、その前に」
「どうしたの?」
「このカメラの使い方教えてくれ」
「えっ?」
「あたし、こんなカメラの使い方知らないんだ」
「……」

そういうわけで、しばらくは彩子は望にカメラの使い方をレクチャーしていた。



「じゃあ、お願いね」

彩子はスタート台に腰掛ける。
そして足を組み、両手を頭の後ろに回しポーズを撮る。
「ああ、いくぞ」



カシャ!



「ちゃんととれてるかしら?」
「わからん、ぼけてたらそれまでだ」
「いい加減ね」
「彩子には言われたくない」



カシャ!



なんだかんだ言いながらも望はシャッターを切る。




「じゃあ、今度はプールサイドね」

彩子はそういうなり、プールサイドに寝転がる。

「ノンちゃんは、こっちから撮ってね」

彩子は自分の足元を指さす。
望は彩子の足元に立つ。

「下からかい。こっちからって結構いやらしくないか」
「それが男にはたまらないのよ」
「そういうものかい。あたしはよくわからないな」



カシャ!



望は軽くピントを合わせて次々にシャッターを切る。
彩子も手や足の位置を動かし、少しずつポーズを変えていく。

「なあ、彩子」
「なぁに?」
「結構、ノリノリじゃないのか?」
「そうかもしれないわね」
「カメラマンよりモデルの方がいいんじゃないか?」
「ノンノン。私はやっぱり撮る方がいいわよ」
「そうかなぁ?」



カシャ!



こうして、二人きりの撮影会はしばらく続いた。


彩子が色々なポーズをとって、それを望が撮る。
さんざん撮って満足した望を今度は彩子が撮る。

スタート台で、真剣な表情の望。

一心不乱に泳ぐ望。

ゴールにタッチし、満足そうな表情を浮かべる望。

望の練習姿を彩子は真剣な表情で撮り続けた。



「しかし、ノンちゃんはカメラの音も気にしないのね」
「大会だと、シャッター音がすごいんだよ。気にしたらやってられないよ」
「すごいのね」
「別にすごくないよ」

望は再び休憩に入る。
望はベンチに腰掛けている。
彩子もその横に座っている。

「じゃあ、私はこれで失礼するわね」
「ああ、あたしはもうちょっと練習するよ」
「無理しないでね」
「ああ、そのぐらいわかってるよ」
「それじゃあ、また明日ね。Bye!」

彩子はプールから出て行った。

「……さてと、もういっちょいくか!」

望は気合いを入れ直してスタート台に向かう。
その日の練習は久々に好調だったようだ。



芸術部の部室。
屋内プールから戻ってきた彩子となぜか真帆が話をしている。

「どうだった?」
「うん、ノンちゃんいつもの表情だったわよ」
「ごめんね、無理にお願いしちゃって」
「いいのいいの。私もいい写真が撮れたし」
「でもよかった。最近の望ちゃん、なんかピリピリしてたから」
「Too me.私もちょっと心配だったの」

実は真帆が彩子に「望ちゃんをリラックスさせて欲しい」と頼んだのだ。
インターハイが近づいてくるにつれて、望が神経質になってピリピリしていたのを心配してのことだ。
たぶん、プレッシャーが重くのしかかっていたのだと、真帆は思っている

「私相手だと、望ちゃんが変に気を遣っちゃうからね。頼んでよかったぁ」
「私だといいわけ?」
「うん。彩ちゃんなら望ちゃんもリラックスしてくれそうだと思ったからね」

望にリラックスして欲しい。
でも自分ではどうしようもない。そこで一番の親友であり、プレッシャーなどまったく気にしなさそうな彩子に頼んだのだ。
どうやらその真帆の考えは正しかったようだ。



「今日は彩ちゃんのおかげだよ」
「そういわれると嬉しいわ……じゃあ、約束は守ってくれるよね?」
「仕方ないわよ。約束だもん……水着の写真10枚でしょ?」

彩子は成功報酬として真帆の水着の写真10枚を要求してきた。
真帆はあまり乗り気じゃなかったが、渋々受け入れていた。

「ううん、20枚で」

しかし、彩子はそれ以上の数を言ってきた。



当然真帆は怒る。

「ちょっと!約束が違うわよ!この前、彩ちゃんは10枚って言ったじゃない!」
「それはそれ。もう10枚はこれの口止め料よ♪」

彩子は一冊の雑誌を広げて真帆に見せつける。

「あ゛……」

それを見た真帆は固まってしまう。
それも当然。
その雑誌とはモータースポーツ専門誌。
そして写っている写真は、真帆のレースクィーン姿。
満面の笑顔でポーズを決めている写真が掲載されていた。

「マホったら、私のカメラマンの心をくすぐるのよねぇ……特にこの写真は」
「ど、どうして彩ちゃんがこんな雑誌を……」
「芸術ってね、どこにでも隠れているものなのよ」
「……」

真帆がちらっと周りを見ると芸術部の本棚には芸術とは関係ない雑誌がおいてあった。
こういうまったく別のジャンルの雑誌からヒントを得ているものもあるのだろう。

「お願いだから、秘密にして?その格好って恥ずかしくて……」
「プラス10枚で黙ってあげるわよ。どう?」
「わかったわよ!10枚でも20枚でも撮らせてあげるわよ!」
「Thank you!ありがとう」
「む~……」

真帆は彩子の水着モデルとして合計20枚分撮られる約束をするのであった。

結局一番得をしたのは他でもない、彩子だったりするのであった。
To be continued
後書き 兼 言い訳

今回は予告通りインターハイ優勝候補の望ちゃんのお話です。

ん?彩子さんが一番目立ってるって?
気のせい気のせい(笑)

自分の周りにオリンピック候補だって人なんていませんので、どういう状況になるのかわかりませんが、
一人孤独に練習するしかないのかもしれません。
こういうときは友達ってありがたい存在なのでは?と思って書いてみました。

あと、プールで一人きりで練習って安全上あり得なさそうですが、まあ別室で監視員が常時見ている、ということで(笑)

さて、次回も1です。
運動系と言えば高頻度で登場するあの子の登場です。

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