第139話目次第141話
「せんぱ〜い、まだですかぁ〜」
「ごめん。もうちょっと待っててね。今、味の微調整してるから」
「でも結構時間かかってますよ」
「ダメよ。ここが肝心なんだから」

金曜日の深夜。
場所はきらめき高校に併設されている合宿所の台所。

明日は男子サッカー部のインターハイ。
試合に備えてミニ合宿を行っている。

すでに試合に備えて、眠っているイレブンを尻目に、女子マネージャーの先輩後輩である、虹野 沙希と秋穂みのりは明日のお弁当作りに精を出していた。

へばり気味のみのりに大して沙希は至って元気だ。

「こんなにお弁当を作るのが大変だとは思ってもいなかった……」
「大丈夫。根性よ、根性!」
「がんばりま〜す」

先輩の励ましにがんばるしかないみのりだった。

太陽の恵み、光の恵

第24部 インターハイ編 その6

Written by B
きらめき高校のサッカー部にはインターハイに伝統的にマネージャーがおにぎりを作ることになっていた。
ところが去年、部内でたった一人のマネージャーだった沙希がおにぎりではなく部員全員分のお弁当を作ったのだ。
それが大好評だったため、インターハイにお弁当作ることが早くも伝統?になりかけている。

そして今晩はその下準備をやり終えたところだ。

「ご苦労様」
「ふぅ〜、疲れました……」
「じゃあ、明日も早いから寝ましょう」
「そうしましょう。ところで明日は何時ですか?」
「え〜と、6時起床ね」
「ろ、ろ、6時ですか?」
「うん、準備の時間を考えると6時に起きないと間に合わないの」
「そうなんですか……仕方ないですね」
「じゃあ、すぐに寝ましょうね」
「は〜い」

仕事を終えた2人は自分たちの部屋に戻る。



サッカー部の女子マネージャーは2人だけなので、2人部屋に一緒に寝泊まりする。

二人ともすでにベッドで横になっている。
部屋はすでに暗くしており、もう寝るだけと言う状態だ。

「先輩」
「なに、みのりちゃん」
「先輩はどうして部員にお弁当なんて作ろうと思ったんですか?」
「えっ?」
「確か、今まではおにぎりだったんですよね?」

みのりが寝たまま話しかける。
沙希がみのりのベッドをみるとみのりがこちらに顔を向けていた。

「ええ、でもそれじゃ、なんか物足りなくて」
「物足りない?」
「うん、おにぎりだと男子だったら足りないでしょ?」
「まあ、そうですよね。男子って結構食い意地が張ってますからね」
「うふふ、そうね。それに私は料理が大好き。特に自分が作った料理をみんなが喜んで食べてくれるのが一番嬉しい」
「へぇ〜」

去年、沙希がお弁当を作ったときに、男子から理由を聞かれたときに「私料理が大好き」と答えた。
これはみのりも知っている。
しかし、沙希はここから本音を語り始めた。

「みんな頑張って欲しいというのは当然あるわ。でも本当はただ自分の料理の腕を確かめたかった、というのがあるんだよね」
「……」
「中学だと自分が料理しても食べてくれるのがお父さんお母さんと友達ぐらいしかいなかったから。友達だとほめてくれるだけでしょ?」
「……」
「時間があれば、もっとこだわりたかったのよね。ご飯だって本当はパスタのほうが試合直前にはいいはずだし……あれ?」
「……」
「みのりちゃん?」

いつの間にかみのりの声が聞こえなくなっていた。

「す〜……す〜……」

よく見るとみのりは寝息を立てて眠っていた。

「寝ちゃったんだ。よほど疲れちゃったのね」
「す〜……す〜……」
「私も寝なくちゃね。それじゃあおやすみぃ……」

沙希も目をつぶりしばらくして眠ってしまった。
ちなみに、みのりは沙希の本音の部分を聞く前に眠ってしまったらしい。



そして、翌朝。
沙希は6時前に起き、まだ眠っているみのりを起こしてからお弁当の仕上げを始める。

「業務用って便利ね。たくさんのご飯がいっぺんに炊けるからね」
「本当に業務用のすごさがわかりました。いや本当に」

昨晩タイマーでセットしておいたご飯をそれぞれのお弁当につめこむ。


「先輩とお弁当屋巡りをしたときも思ったんですけど、なんでのり弁当って人気があるんでしょうね」
「ご飯とのりがよく合うのよね。それに醤油もご飯もよくあうからじゃないかしら」
「確かにおにぎりはのり付きだし、お寿司も醤油かぁ」

のり弁当なので、醤油に少しだけ浸したのりをご飯の間に敷く。


「下準備って大事でしょ?」
「はい、こんなの今朝やってたら死んじゃいますよ」
「何事もスケジュールを立ててやらないとあとが大変なのよね」

昨晩詰める状態にして冷蔵庫にしまっておいた、果物や野菜をお弁当に詰め込む。


「さて、メインディッシュだから根性でいきましょ!」
「はい!」

そして、お弁当のメインである、鳥の唐揚げと一口カツの準備に取りかかる。


「熱いですね。なんか夏みたい」
「そうね、私たちが運動してるみたいでしょ?」
「料理も楽じゃないですね」

昨晩念入りに下味を付けておいた肉を丁寧に揚げていく


「おわったぁ!」
「まだよ、お弁当に詰めてふたをしなきゃ」
「あっ、そうか。でももうすぐ終わりだから元気がでますよ」
「うふふ、そうね」

すべての料理を作り終え、料理を全部お弁当に詰め込んでふたをする。
お弁当の数が結構あるのでこれだけでも結構時間がかかる。



そしてお弁当は完成した。

「ふぅ〜、つかれたぁ」
「さてと、数を確認しなくちゃ、え〜と、いち、にぃ、さん、しぃ……」

みのりはお弁当の数を確認する。
ところがどうもおかしい。

「あれ?先輩。お弁当の数が2個少なくないですか?」
「ううん、これでいいのよ」
「だって、うちの部員は……ですよ。どう考えても足りない……」

確かにお弁当の数が少ない。
みのりが沙希を見ると、どうも沙希は何か隠している。
みのりは沙希をじ〜っと見つめて本音を言わせようとする。
やはり沙希は正直に告白した。

「……いいの、足りないのは高見くんの分だから」
「えっ?作らないんですか?」
「高見くんのは藤崎さんにつくってもらうから」
「ええっ!藤崎さんって、あの藤崎 詩織で、確か高見くんの彼女……いいんですか?」

高見とはフルネーム高見 公人。
2年生ながら、レギュラーのフォワードとして背番号11を背負っている。
彼の彼女の藤崎 詩織は同じクラスでしかも家も隣の幼馴染み、彼女自身は美人で勉強も学年トップクラスと才色兼備の言葉が似合いすぎることで学校のマドンナ格になっている。

「大丈夫、もう先週から頼んでおいたから」
「えっ?」
「電話しておいたの」



『はい藤崎です』
『もしもし?私、詩織さんの友達で虹野といいますが……』
『あっ、虹野さん?詩織ですけど』
『あっ、詩織さんだったんだ』
『うん、そうよ。ところでどうしたの?』


『あのね。今度のインターハイ当日に部員全員にお弁当を作ろうと思ってるの』
『去年も確かそうしてたんだって?すごいね』


『そうなの。去年もみんなよろこんでくれて、今年も張り切ってる……でも』
『でも?』


『私のお弁当だと喜んでくれない人が一人いるの』
『ええっ?そうなの?信じられない』


『そういってくれるの?嬉しいな。でも本当にそうなんだ』
『へぇ〜』


『その彼の場合、身も心も愛し合った人のお弁当でないとダメみたいなの』
『えっ?』


『確かに私の愛情よりも、本当の愛のこもったお弁当の方がいいと思うの』
『???』


『そういうわけで、高見くんのお弁当は藤崎さんが作ってあげて♪』
『???……えええっ!』


『お願いね♪』
『ちょ、ちょっと!私、料理は得意じゃ……』


『大丈夫、愛情と根性よ!それじゃあねぇ♪』
『だ、だから、虹野さ』



プツッ!ツー、ツー、ツー………



「それって、嫌がらせじゃないんですか?」
「……いいじゃない……1回ぐらい意地悪したって……ねっ♪」
「……」

笑顔でみのりにほほえむ沙希。
しかし、みのりはその笑顔を正直に受け止められない。

実は沙希が1年の頃高見が好きだったことは情報通の兄を持つ友達から情報を頼んで聞いていた。

しかし、沙希が高見に遊びに誘うところまではよかったが、告白まではできなかった。
それは1年の卒業式の日に、高見と藤崎が恋人になったからである。
藤崎が伝説の樹の下で高見に告白したことが学校中に広まり、当然沙希の耳にも入っている。
その後、沙希は相変わらず変わらない態度でそれぞれに接している。

その心の奥でどういう葛藤があったか。
みのりはそれを考えるとうかつに返事ができなかった。



みのりは沙希を直視できずに視線を横にそらした。
そこにある物を見つけた。

「……あれ?」
「なに?」
「あそこのお弁当は?」

作ったお弁当を重ねている場所とは別に同じ箱のお弁当が一つだけポツンとおいてあった。

「あ、あ、あれは関係ないの……」
「だって同じお弁当だから、一緒にしておかないと……」
「ダメ!別にしておいていいの!」

沙希はあきらかに動揺している。
それをみてみのりはあることを察知した。

「ふ〜ん……もしかして……」
「みのりちゃん!開けちゃだめぇ!」

みのりは沙希の制止を無視してお弁当のふたを開ける。



パカッ



「あっ……」
「……」

一見他のお弁当と同じ中身。
しかし、少しずつ違う。

のりの数が2枚ほど多い。
揚げ物が明らかに他のに比べて大きい。
果物の数が1個だけ多い。

極めつけはお弁当の上に添えられたメッセージカード。
ラップにくるまれたそのカードには「頑張って」の隣にハートマークが。
誰が誰にどういう気持ちが入ったお弁当なのかよ〜くわかるお弁当だ。



みのりもそこのところは十二分にわかっている。

「ふ〜ん……へぇ〜……ほぉ〜……」
「……」

わざとらしい口調で沙希を見るみのり。
沙希は顔を真っ赤にしてうつむいてしまう。

「先輩らしくないですね。部活で公私混同するなんて……」
「……だってぇ……」

みのりのわざと冷たくした口調に沙希はもじもじしている。
それをみて思わず苦笑するみのり。

「わかってますよ……がんばって欲しいんでしょ?」
「うん……」

「誰にもいわないから大丈夫ですよ」
「ありがと……」

(まったく、あの先輩のどこがいいんだか……)

みのりは沙希の「特別な」お弁当の送り先はわかっていた。
もちろん、沙希の彼氏である。
沙希の彼はレギュラーではなく、控えのMF。
来年は中盤での活躍が期待されているが、今はただの控え。
そんな彼と沙希は2年になったあたりからつきあっているらしい。

ただ、他の選手に影響を与えるといけないと思ったのか、公然とはしていない。
放課後とか休みとかにこっそりとつきあっている。
ちなみに、みのりは沙希からこの事を聞いている。

(なんで好きな人ができると先輩でもああなっちゃうのかなぁ?……わたしはわからないや)

未だ顔を真っ赤にしてもじもじしている沙希を見て見ぬふりをしながら、みのりはたくさんのお弁当を箱に詰め込む作業に取りかかっていた。



そしてインターハイ当日のお昼。

「なんだ、公人もここで食べるのか?」
「しかたないだろ?一緒に食べたらからかわれるだけだよ。おまえこそどうなんだよ」
「こんなの見られたら沙希とつきあってるのがバレちまうよ」
「……なるほどな」

マネージャーの心のこもった?お弁当を堪能しているサッカー部員達から少し離れた場所でお弁当を食べている二人。
高見 公人と沙希の彼氏である。

高見は自分のお弁当をじっと見て、沙希の彼は弁当に入っていたの2枚のメッセージカードを見て、見られたらまずいと思って離れた場所でお弁当を食べていた。

「公人もいいよな。藤崎さんの手作りお弁当なんて」
「俺、今朝まで知らなかったんだよ。てっきり俺もマネージャーのお弁当だと思ってたら」
「それで?」
「玄関で詩織が待ってたんだよ。それで……」



『公人、おはよう』
『おはよう、詩織。今日はなんか早いな』
『これ……受け取って』
『えっ?これって……ん?……お弁当?』
『虹野さんが公人につくってくれって……』
『?……じゃあ、これって詩織の……』
『が、頑張って作ったんだからね!負けたら承知しないわよ!』
『わかってるよ。頑張るよ』
『2回戦とかで負けたら竹刀でぶつからね!』



「な、なんかすごいこといってないか?」
「な〜に、詩織の照れ隠しだよ」
「そうなのか?」
「ああ。それに詩織の手をちらっと見たら絆創膏がたくさん貼ってあったよ」
「切り傷とか火傷とか?」
「たぶんそうだろうな。詩織、料理は苦手なんだよ。それだから詩織の頑張ってる姿を想像しちゃってさ」
「その割になんだ?最初の試合のあのへなちょこシュートは?」
「うわぁぁ!それを言うなって。勝てたからいいだろ?」
「まあな」

好きな人の愛情のこもったお弁当を食べながら言い合っている二人。

「おまえこそ何だよ。そのメッセージカードは?」
「俺も知らなかったんだよ。まさか沙希がこんな事してくれるなんて」
「俺も意外だったな。まさかえこひいきするなんてさ」
「それだけ、思ってくれるのは嬉しいけど、試合に出れなくちゃな……」
「な〜に、今に出番が廻ってくるよ」
「そうだな。出たら活躍しないといけないな」

「ほんと、そう思うぜ……ところで、もう1つのカードは?」
「とりあえず見ろよ。おまえでも書いてる人がだれだかわかるよ」
「どれどれ……あははは!わかりすぎだよ」
「だろ?」

彼が公人に渡したカードには、一言だけ。

「この色男!」

とだけ書いてあった。


結局、男子サッカー部は決勝まで進んだものの、惜しくも決勝では1点差で負けてしまった。
公人も途中出場した沙希の彼もそれなりに活躍したのだが、点には結びつかなかった。

マネージャーの沙希もみのりも、準優勝の結果に頑張ってお弁当をつくってよかったと感慨ひとしおだった。



しかし、あの大量のお弁当作りはかなり疲れる作業だった。

「あ〜あ、なんか当分お弁当は見たくない……」

みのりは運動はしてないものの、お弁当づくりで疲れてしまった。
選手の試合の時は何も感じなかったが、終わった後でどっと疲れが沸いてきたようだ。
試合後、合宿所に戻り荷物を整理して帰ろうとしたときに、元気な声がみのりの耳に直撃した。

「お〜い!みのりちゃ〜〜〜ん!」
「あっ、優美ちゃん……」

ポニーテイルをなびかせ、子供っぽいルックスの女の子が制服姿でみのりに近づいてきた。

「インターハイ今日だったの?」
「うん、いいところまではいったんだけどね。優美ちゃんは?」
「あさって。あ〜あ、緊張しちゃうなぁ」
「大丈夫だって!普段どおりにやればいいから」
「そうだといいけどなぁ?」

彼女の名は早乙女優美。みのりのクラスメイトで女子バスケ部に所属している。
1年生ながら、ベンチ入りを果たしており、来るインターハイに向けて緊張しているみたいだ。



「ところでみのりちゃんにお願いがあるんだけど」
「なに?」
「あのね、インターハイが終わったら自分でお弁当つくろうかと思ってるんだ」
「えっ?」
「男子のバスケ部にあこがれの先輩がいてね。先輩に手作りお弁当を作りたいなぁって」
「……」
「みのりちゃんならお弁当の作り方を知ってるかな?って……あれ?」
「……もうたくさん……」
「えっ?」


「もうお弁当はたくさんなの!」


みのりは逆ギレしてしまった。
なぜみのりがこうなった理由を全く知らない優美は何がなんだかわからずチンプンカンプン。
みのりが平常心を取り戻すには一晩時間が必要なのかもしれない。
To be continued
後書き 兼 言い訳

今回は1より沙希ちゃんとみのりちゃんのお話です。

1はなかなかプレーしていないので、雰囲気をつかむのに手間取っていますが、
こんな感じもありなのではないでしょうか?

さて、次回は3を書こうかと。
誰を書くかはとりあえず秘密にしておきます(笑)

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