第140話目次第142話
ある日の深夜。
もえぎの市のとある家にて、電話が鳴る。



トゥルルル


「はい、牧原です」
「あっ、ゆっこ?私」
「あっ、友梨ちゃん!元気だった?」
「うん。ゆっこはどう?」
「そうだね。甲子園はまだだけど、今ってインターハイでしょ?それにつられてうちも練習に熱が入って」
「へぇ、そうなんだ。私のところもそうなの」
「そうなんだ。どこも同じなんだね」
「そうかもしれないね」

お互いに野球部のマネージャーの牧原友梨子と牧原優紀子。
電話では部活の話題で盛り上がる事が多い。

「でも、そういうときって、私たちが大変なんだよね」
「そうそう。身体張る仕事なんだよね、マネージャーって」
「ねぇ、友梨ちゃん。身体張るって?」
「えっ?私の場合はね……」

太陽の恵み、光の恵

第24部 インターハイ編 その7

Written by B
「あのね。ノックの時は本当に大変なんだよ」
「前にも電話でいってたよね。『殺されるかも』って」
「ゆっこ……本当に心配してたの?」
「もう、心配してたんだよ〜」
「まったく、本当にひどかったんだから」



『友梨ちゃ〜ん、今日もノックだよ〜♪』
『は、は〜い』
『声出していこうね♪』

「「お〜っす!」」



カキーン!



『うぐっ……』



バタッ



「「……」」


『声が小さいよ〜♪』

「「お〜っす!!!」」



ガキーン!



『うっ……』



バタッ



「「……」」


『声が小さいったらぁ〜♪』

「「おお〜〜〜〜〜っす!!!」」



カキーン!カキーン!



『まだ小さいよぉ〜♪』



「結局、そのまま皆殺しに……」
「なにかその先輩にあったの?」
「佐倉先輩、昨日ド○フのDVD見たらしいんです……それで……」
「……」

黙ってしまう優紀子。
当然だろう。



これではどうしようもないので話を変える。

「ゆっこはノックの手伝いとかしないの?」
「え〜っ、そんなことしないよ〜」
「じゃあどんなことしてるの?」
「用具の補充とか、ユニフォームの洗濯とか、やることは結構あるよ」
「洗濯かぁ、洗濯って大変だよね」
「そうそう、でも部室の外に洗濯機があってそこに入れるだけだからね」
「そうなんだ、私のところと同じだね」
「私が洗濯しているときがちょうど練習の休憩時間なんだよ」



『ふぅ〜、これであとは待つだけかな?』
『いやあ、優紀子さん。今日も大変だね』
『あっ、白鳥君。お疲れ様』
『なに、俺は疲れてないよ。しかし、毎日毎日きれいなユニフォームを着られて俺は嬉しいよ』
『えへへ、ありがと』



「ねぇ、そのキザ男は誰なの?」
「あのね、白鳥くんって言って、わたしとおなじクラスなの」
「ポジションは?」
「ピッチャー。変化球が得意なの」
「へぇ〜」
「それで話は続きがあるの」



『アイツみたいに、毎日泥だらけにすると後が大変だろ?』
『そんなことないよ。それだけ頑張ってくれてるんだから?』
『ふ〜ん、俺にはよくわからないな』

『おい!白鳥!なんか俺の悪口を言ったか?』
『何も言ってないよ。ただそんなに汚して後で優紀子くんが大変だろうといっただけだ』
『おまえこそ。全然汚してないって、やる気あるのか?』
『おれは綺麗なプレーをするのが信条でね』
『なにいってるんだよ!全力でプレーしなきゃ勝てないんだよ!』
『わからないなぁ』
『なにぃ!』
『ねぇ〜、お願いだから喧嘩はやめてよぉ〜』



「その熱血くんは誰なの?」
「あのね、前にも言ったと思うけど、中学からの一緒の人で……」
「ああっ、思いだした!ゆっこの彼ね!」
「ち、ち、ち、違うよぉ〜。ただの友達だよぉ〜……」
「たしか速球が信条のピッチャーなんだよね。うんうん、エースとマネージャーかぁ〜」
「友梨ちゃ〜ん……」
「またまたぁ。照れない照れない。もうラブラブなんでしょ?」
「だから違うって……」

自分のからかいに優紀子は顔を真っ赤にして抗議しているに違いない。
友梨子はそう思っている



「あの二人、普段は普通の友達みたいなんだけど、部活となると対立して困っちゃって……」
「部員をまとめるのも大変だね」
「友梨ちゃんはどうなの?」
「う〜ん、まずはノックと止めることが部員をまとめる近道なんだよね」
「へっ?」
「あの佐倉先輩がノックでハイになっているところを狙うんだよ……でも」



カキーン!カキーン!

『そんなのお年寄りでも捕れるよぉ〜♪』

(そぉ〜と、そぉ〜っと)


カキーン!ガギーン!

『昨日の事も忘れちゃったのぉ?』

(もう少し近づいて、このスタンガンで……)


カキーン!

『そんなんじゃ、小学生に勝てない……あれ?牧原さん?』

(やばっ!見つかった!)


『何を持ってるのかなぁ?』

(だから、先輩がくれた米国製スタンガンですよ……)


『……どうして私を止めるのですか?……私の願いを邪魔するのですか?』

(???)


『私の邪魔を……しないでください』


カキーン!カキーン!カキーン!


『うわぁぁぁぁぁぁ!』



「大丈夫だったの?」
「全然、結局1時間ほど気を失ってたの」
「それって、何度もあったの?」
「最初は毎回ノック直撃で……」
「痣だらけじゃない?」
「運良くそれはなかったけど……」
「けど?」
「マジでやばかった。思い出すだけでぞっとする……」
「どうやばかったの?」
「ハマるところだった……『もっとぶつけて欲しい!』って一瞬思っちゃった」
「???」
「もう少し、止め方を覚えるのが遅かったら私変態になってたかも……」
「変態って?」
「えっ?」
「なにが変態なの?」
「あっ、な、なんでもないの、忘れて忘れて?」
「???」

(ダメだ、ゆっこはこういうの苦手なだった……)



「ところでノックを友梨ちゃんにぶつけるときのその先輩は怖かったの?」
「う〜ん、それが怖くなかったんだ」
「えっ?」
「なんか、悲しそうな表情だった、それに声も違っているようで……」
「声?」
「うん、気のせいかもしれないけど、なんか大人の声だったような?」
「大人?う〜ん、わたしにはよくわからないなぁ」

(思い切ってゆっこに聞いてみようかな……)

「ところで、ゆっこ」
「なに?」
「霊とかに詳しい人って知らない?」
「れい?れいって幽霊のれい?」
「そう、それ」
「う〜ん、ちょっとわからないなぁ」
「わかった、それじゃあいいや。ありがとう」

(だめか、やっぱりなぁ……もういいか、他の話題にしよう)



「ところで、ゆっこは部活で失敗したことってある?」
「あるよ。最初はとにかく失敗ばかりで……」
「たとえば?」
「用具の片づけなんか、最初はうまくいかなくて、かえって散らかしちゃったこともあったんだよ」



ガラガラドサドサバタバタ!

『あっ……やっちゃった……』
『あれ?牧原さん。どうしたの?』
『あっ、いや、あのね。バットを片づけようとしたら倒れちゃってそれで将棋倒しになって……』
『あ〜あ、こりゃひどいなぁ』
『……ごめんね……』
『俺も手伝うよ』
『えっ?いいよ、私がやるんだから、それに疲れてるでしょ?』
『軽い練習だと思えばわけないよ。ほら、手伝って』
『う、うん……ありがとう……』



「結構手伝ってもらったことが多くて……」
「で、熱血な彼氏に手伝ってもらったと」
「だから彼氏じゃないって……」
「そして、片づけの後、二人きりの部室でそれはそれはラブラブなひとときを……」
「友梨ちゃ〜ん、お願いだから戻ってきてよぉ〜」



「あっ、ごめんごめん。それで他には?」
「やっぱり備品の管理の失敗かな?」
「あ〜、よくあるよね。包帯が切れてたとか、テープが足りないとか」
「最初は買うタイミングを間違えて、急いで買いに行ったこともあって」
「あそこから?ゆっこの学校って丘の上でしょ?」
「そう、だからお店まで行くのに大変で……」
「疲れそう……」
「おかげで入部したときはやせちゃって……」
「そうだったんだ」



「友梨ちゃんもそれで間違えたことはあったんでしょ?」
「うん、佐倉先輩もよく失敗しちゃうから……」



『いっけな〜い。今日はテーピングのテープを買わないといけなかったんだ!』
『えっ?そうだったんですか?』
『そうなの。どうしよう……』
『買いに行きますか?』
『でもまだ練習中だし……』
『大丈夫ですよ。私が一人行けばいいですから』
『そんな!友梨ちゃんにそんなことさせられない!私が原因だから私が行くね』
『そんな先輩が行かなくても』
『いいの。私の失敗で牧原さんに迷惑は掛けられないから』



「結局佐倉先輩が自転車で汗だくで用具を買いに出かけたの」
「やさしい先輩なんだね」
「うん、ノックのときは鬼だけど、それ以外は本当に優しい先輩なの」
「いい先輩……って言っていいのかなぁ?」
「微妙……」



優紀子と友梨子の電話はこうして盛り上がり気がつくと2時間ぐらいは軽く経過してしまう。

「あっ、こんな時間。もう寝なきゃ」
「そうだね、じゃあ、また今度ね」
「うん、また楽しみにしているね」
「それじゃあ、おやすみ〜」
「おやすみ〜」

今日の電話はこれで終わった。



翌朝。

「ふぁ〜あ、ちょっと長電話しちゃったかな……」

寝惚けまなこで登校する優紀子。

「あっ、牧原さん。おはよう!」
「あっ……」

声がしたので振り向くと、そこには昨日の話にも出てきた、優紀子の友達の男子。

「どうしたの?眠そうな顔をして?」
「う、ううん。な、何でもないの!」
「???」
「じゃ、じゃあ、先に行くね!」

優紀子は走って校舎に向かっていった。
取り残された男子はなにがなんだかわからない。


(もう、友梨ちゃんの馬鹿……ドキドキしちゃったじゃない……)

走りながら優紀子はそんな事を考えていた。

(彼氏、彼氏って……なんでもない……のかなぁ?)

そうしているうちに、下駄箱にたどり着く。

(私……どう思ってるんだろう)

どうやら友梨子のからかいが優紀子の何かを変えてしまったのかもしれない。
To be continued
後書き 兼 言い訳

今回は3よりゆっこたんの登場です。

今回はゆっこたんのマネージャーぶり?と、前々から書きたかった「楓子と友梨子」のマネージャーぶり?を書いてみました。
さて、ゆっこの彼?と白鳥が初登場です。
ゆっこたんのマネージャーぶりも今後書けるだけ書ければと思ってます。
誰がなんと言おうと3のヒロインですからねぇ(その言い方はないだろ)

電話での会話なので情景描写がほとんどありませんが、雰囲気はつかめてるのかなぁ?

さて、次回も3を書きます。
誰を書くかは2択ですね(笑)それもかなりわかりやすい2択です(苦笑)

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