第141話目次第143話
もえぎの高校の武道場。

武道系の部活が練習に使う場所、場所に限りがあるので持ち回りで使っている。

今日は合気道部が使う日だ。

「てやぁ!」
「とぉ!」
「おりゃぁ!」

気合いの入った声が武道場の中から聞こえてくる。

「ふうっ……ちょっと、疲れましたね……」

その武道場の外で、袴姿の少女が汗をタオルで拭いていた。
その少女に制服姿の少女が声を掛ける。

「よぉっ、恵美。部活をさぼるなんて珍しいな」
「何言ってるんですか、芹華。今は休んでいるところですよ」
「あはは、冗談だよ。ところで部活の後って暇か?」
「え〜と……大丈夫ですよ」
「じゃあ、部活のあとで喫茶店に寄らないか?恵美とじっくり話がしたいし」
「ええ、よろしいですよ」
「じゃあ、例の場所で先に待ってるからな」
「はい、わかりました」

制服姿の少女は校門へと向かい、袴姿の少女は再び武道場の中に入っていった。

太陽の恵み、光の恵

第24部 インターハイ編 その8

Written by B
もえぎの市の駅前にある和風喫茶。
橘 恵美はこの喫茶店がお気に入りだ。
今は先ほどの袴姿から制服姿に戻っている。



がらがらっ!



引き戸になっている喫茶店の扉を入ると、窓際で先ほどの女の子が一人コーヒーを飲みながら待っていた。
恵美は申し訳なさそうに、その女の子の座っている反対側のシートに座る。

「おそくなりました」
「いやぁ、待つのはもう慣れたよ」
「ごめんなさい。今日も1年生がもっと稽古をつけてくださいって頼むものですから……」
「しかし、恵美は本当に後輩に頼りにされてるな」
「頼りにされているというほどではありませんよ」

にこにこ笑う恵美に対して、もう一人の少女は静かに笑っていた。
着物姿のウェイトレスが注文をとりにやってきた。

「ご注文は何にしましょうか?」
「生八ツ橋とあんみつのセットを」
「あたしはコーヒーのおかわり」
「はい、かしこまりました」

ウェイトレスは深々と頭を下げて戻っていく。

「しかし恵美は生八ッ橋が好きだよなぁ」
「そういう芹華こそコーヒーばかりじゃないですか」
「あたしはこれが好きだからしょうがないだろ?」
「それだったら私も同じことじゃないですか?」
「まあ、そうだな……」

苦笑する少女の名は神条 芹華。恵美とは大親友である。



注文をしてもすぐにくるわけではないので、話を始める。

「ところで今日は何の用事ですか?」
「ああ、たいしたことじゃないんだけど……」
「はっ!……もしかして、入部希望ですか!」
「違うよ」
「よかったぁ、何度も勧誘した私の努力が遂に報われたのですね」
「だから違うって!」
「芹華なら今から入部しても絶対に一流になれますよ」
「だから入らないって!」
「これで合気道部もにぎやかになりますね。早く袴の調達をしないと」
「恵美!人の話を聞けぇ!」

一人で大喜びする恵美を必死に押さえようとする恵美。
恵美が勘違いだということに気がつくのに5分もかかってしまった。

「そうですか、違うのですか。それは残念です」
「だから、あたしは最初から入るっていってないだろ」
「そんなに意地張らなくてもいいじゃないですか?」
「あたしは意地張ってない!」



怒鳴って少し疲れた芹華はコーヒーを一口飲む。
恵美はいつもの笑顔で話を続ける。

「ところで用件ってなんですか?」
「用件ってもんじゃないよ。前々から聞いてみたかったことがあってな」
「何ですか?」


「なぁ、部活ってそんなに楽しいのか?」


「えっ?」
「いや、恵美っていつも楽しそうにやってるからさ」
「そうですか、とうとう芹華も合気道部に興味を……」
「入るとかいう意味じゃな〜く〜て〜。部活の何が楽しいのかなって」
「芹華は部活に入ったことがないんですか?」
「前にも話しただろ?あたしは転校つづきだったから、部活なんて入れなかったんだよ」
「興味は?」
「部活なんてものを知る前から転校続きだから、どうせ入れないって思って気にもしなかったよ」
「そうだったんですか」



「おっまちどうさま〜!」

しばらくして着物姿のウェイトレスが注文の品を持ってきた。
注文を取った人とは違い、とても明るそうな人だ。
着物姿にポニーテイルが少し妙な雰囲気をかもしだしている。

「え〜と、あなたがコーヒーのおかわりね」
「は、はい……」
「それで、お嬢さんが生八つ橋とあんみつのセットね」
「そ、そうです……」

少しハイテンションなウェイトレスに芹華も恵美も押され気味。
それに気づいていないのか、ウェイトレスは注文の品を置いていく。
芹華の前にはコーヒーのおかわりが入ったカップを。
恵美の前には生八つ橋とあんみつに抹茶がセットになったこの店独自のセットが並べられたトレイが置かれる。

「あら?その制服はあそこの高校?」

そのウェイトレスはもえぎの高校のある丘の方向を指す。

「はい、そうですよ」
「いやぁ、あそこの学校は美人揃いって評判だけど、お嬢さん達も美人よねぇ」
「い、いや、そんなことないだろ……」
「照れない照れない。これの一人や二人はいるんでしょ?」
「な、な、な!そ、そんな、あ、あいつは……」
「???」

ウェイトレスが親指を突き立てる。
芹華は顔を紅くしてあわてる。
恵美はなにがなんだかわからずきょとんとしている。

「いやぁ、青春っていいねぇ。じゃあ、勉強にスポーツに遊びに恋愛に頑張ってねん♪」
「は、はぁ……」
「あっ、それサービス。それじゃあね♪」
「はぁ……」

ウェイトレスは嵐のように去っていった。

そして気がつくと芹華の前には抹茶が、恵美の前には生八つ橋の皿がおいてあった。

「あら、まあ」
「い、いらない……」

二人の反応は正反対だった。



お望みの品が来たところで、それをいただきながら話を続ける。

「え〜と、部活の話でしたね」
「ああ」
「私は合気道は部活というよりも、たしなみとしてやってきましたから普通の方とは違うのかもしれませんが」
「それは気にしないよ。恵美の考えが聞きたくてさ」
「そうですね。やっぱり仲間や友達や後輩や先輩と一緒にされることが一番だと思います」
「友達と?」
「はい、道場でも友達はいますけど、学校とは違いますね」
「どういうこと?」
「道場の友達はそこだけの友達が多いんです。それと違って部活は朝から夕方まで一緒じゃないですか」
「同じ学校という意味で?」
「はい。ずっと一緒ということではないのですが、部活と関係なくつきあえるじゃないですか」
「まあな」
「部活とは違った面が見られるから、部活ではなんと言えばよろしいのでしょうか、団結力みたいなのがあるんですよ」
「ふ〜ん」
「みんなでやっているというのが伝わってきて、とても楽しいんです」
「なるほどね……」

話ばかりしていたので、ここで二人はそれぞれコーヒーとあんみつを口にして一息入れる。



「でも、部活っていえば大会とあるんだろ?」
「はい」
「でも、合気道ってインターハイはないんだっけ?」
「ええ、夏に連盟が主催する大会があるだけですね」
「でも、インターハイに出てみたいとは思わないのか?」
「去年は少し思いましたね。でもその大会が私にとってインターハイですから」
「まあ、そうだな。そういうことなんだよな。じゃあ、今は普通に練習かい?」
「そうですね。でも大会前とか関係ないですよ。練習は毎日続けることが大事なんですから」
「ふ〜ん」

(しかし、恵美はいきいきとしてるなぁ……)

部活について語る恵美は輝いているように芹華は感じていた。

(そんなにいいのかなぁ……でも、恵美が言うんだからいいんだろうな)

芹華はそんな恵美をうらやましく思っていた。

(でも、あたしは今の自由な生活のほうがいいかな……)

でも、芹華は自分を通すことにした。



時間もたったので、喫茶店を出た二人。
芹華と恵美はここでお別れすることにする。

「芹華はこれからどうするのですか?」
「あたしはちょっとバイクでも」
「またバイクですか?危ないことはしないようがよろしいですよ」
「だいじょうぶだって」
「でも、芹華のことだから心配です……」
「だから、大丈夫だって……あれ?」

「せんぱ〜い!」

芹華の指す方向からもえぎの高校の制服を着た女の子が4人ほどこちらに向かってきた。

「恵美、部活の後輩じゃないか?」
「あら?本当ですね」

恵美の後輩達はあっという間に恵美の周りを囲んでしまった。

「ねぇ、先輩。これから用事はありますか?」
「そうですね……」
「あっ、恵美ならな〜んにも用事がないから」
「本当ですか?」
「え、ええ……」

恵美が答える前に芹華が勝手に答えてしまってとまどう恵美。
実際、これから家に帰るだけだったので問題はないのだが。

「じゃあ、ちょっと喫茶店でお話ししませんか?」
「ええ、いいですよ」
「やったぁ!」

後輩の誘いに笑顔で答える恵美。

「じゃあ、さっそく行きましょう」
「はい……それじゃあ、芹華。また明日」
「ああ、また明日な」

恵美は後輩に連れられて喫茶店の中に入っていった。


さっき出てきたばっかりの和風喫茶に。


(また、あのウェイトレスにからかわれるんだろうな……)

芹華は呆れながらもその場を立ち去った。



その夜。



ブロロロロロロ……



芹華は山道を一人でバイクを走られていた。

(……)

芹華の表情は暗い。

(仲間に後輩に先輩……か……)

芹華のまぶたの裏には後輩に囲まれて笑顔な恵美の姿が映っていた。

(友達……ね……)

芹華は何も言わない。
しかし、芹華の心の中は様々な想いが入り組んで絡まっていた。

そうしているうちに、待ち合わせの場所でもある山の頂上付近にある公園にたどり着く。



「今日は芹華さん、どうしたんですか?」
「……いや、なんでもない……」

山から見下ろす綺麗な夜景をみながら二人の少女がベンチに並んで座っていた。

一人は芹華。もう一人は花桜梨だった。

「なあ、八重……友達っているか?」
「ええ、いるわよ」
「そうか……」
「芹華さんは?」
「いるにはいるけど……」

花桜梨は芹華の表情をみて、芹華が暗い表情の理由をなんとなく察知した。

「私も友達少ないわよ。最近になって増えてきただけよ」
「そうなんだ……」
「友達なんて何百人もいなくてもいいと思う。たった一人でも本当の友達がいればそれで十分だと思う」
「……」
「私、もし去年友達がいなかったら……この世にいなかったかもしれない」
「!!!」
「だからね、その友達は大事にしたほうがいいよ。きっといいことがあるから」
「そうか……ありがとう」

芹華の表情が少しだけ和らいだように花桜梨には見えた。
芹華がベンチから立ち上がる。

「さて、気が楽になったことだし、もうひとっ走りでもするかい?」
「ええ、お供するわ」
「あはは!じゃあいくぞ!」

二人は後ろのバイクに乗り込んでまた走り始める。

芹華にとって、今日の恵美との話は何か芹華を変えるのか、そうでないのか?
それがわかるのは当分先になるのかもしれない。
しかし、芹華の心に何かインパクトを与えたのは間違いない。
To be continued
後書き 兼 言い訳

今回は3より芹華と恵美のお話です。
恵美さんが初登場です。
あと、名前は書いていませんが森さんも(笑)
芹華の比重がかなり高めですけど、それは気にしないように(笑)

部活って楽しいですよね。運動系でもそうでなくても。
中学、高校ってやってそう思いました。
でも、大学のサークルって、部活とはちょっと違いましたね。
なんとなく雰囲気が。

どちらもそれぞれ良さはあるんですけどね。

さて、次回はGSです。
たぶん、総花的な話になるとおもわれます。

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