第142話目次第144話
「インターハイの時期だから盛り上がってるね……」

はばたき学園の手芸部室。
光の従兄弟の東雲 輝美は誰もいない部室でだら〜としていた。
今日は部活はお休み。
しかし、今から家に帰ってもおもしろくないので、輝美は部室にいたのだが、誰もいないのでやっぱりおもしろくない。

「他の部でも見学してみようかな……」

輝美は部室から出て、あちこちの部活を見て回ることにした。


別に他の部に入部するわけではない。
普段ではめったに見られない他の部活の光景を見たかっただけである。

太陽の恵み、光の恵

第24部 インターハイ編 その9

Written by B
「まずは体育館に行ってみるかなぁ……」

輝美は体育館へ向かうべく廊下を歩く。
はばたき学園は部活棟があり、部室がそこに集まっており、場所も体育館から近い場所になる。
手芸部室も部活棟にあるので、体育館へはそれほど遠くはない。


「お〜い、テ〜ルちゃん!」

「あれ?……わ、わ、わぁぁぁ!」


そんな輝美の背後から声が聞こえたかと思うと、いきなり視界が真っ暗になった。
輝美はパニックになってしまう。



「あははは!あの慌てようったら!」
「ひっど〜い!本当にびっくりしたんだから!」

すねる輝美。謝るチアリーダー姿の女の子。
彼女の名は藤井 奈津実。輝美の親友でもあり、バイト仲間でもある。
さっきはチアリーダーのポンポンで輝美の顔を隠したのだ。

「ところで何のようなの?……はは〜ん、このアタシのピッチピチのチアリーダー姿をみたいわけね?」
「そんなわけないじゃない。ただ他の部活ってどうなのかなって思っただけ」
「あっそう。じゃあ、アタシの部の練習でもみない?」
「えっ?」
「今日は市民体育館で練習なの♪」

青が映えるユニフォームに身をまとった奈津実が右手をあげ、左手を腰にあて、左足を軽く上げてポーズをとる。
これから練習にいくところなのだろう。

ちなみに市民体育館は学校からは歩くには遠い。
部員はバスかなにかで行くのだろうが、輝美は歩きでないとだめなのだろう。



「ちょっと遠いから遠慮しておくね」
「な〜んだ、残念。まっ、しょうがないか」
「ごめんね。ところでもうすぐインターハイだから出番が多いんじゃないの?」
「もっちろんよ!アタシ達チアリーディング部はそのためにあるんだから!」
「じゃあ、あちこちに?」
「そうそう!サッカーにバスケにバレーに……いろいろ見られるのって楽しいよね♪」
「そうだね」

はばたき学園には近辺の高校にはないチアリーディング部がある。
そのため、チアリーダーにあこがれてはばたき学園を希望する生徒もいる。
ただ、奈津実はそういうことでなく、「いろんなスポーツをみられるから」という理由で入ったらしい。

「でも、チアリーディングの大会だったあるんだからね。知ってた?」
「知ってたもなにも、去年教えてもらって見に行ったわよ」
「あっ?そうだっけ?あははは。まっ、でもそれは夏だから、今は応援に全力投球!って感じよね」
「ふ〜ん、そうなんだ。じゃあ、応援がんばってね」
「ありがとう!あっ、私急いでたんだ、じゃあね!」

奈津江は走っていってしまった。

「チアリーダーって結構たいへんなんだよね……」

チアリーダーは華やかだけど動きがとてもハードだ。
普通の運動系部活よりも大変かもしれない。

「すごいよなぁ。私じゃとてもむりだなぁ……」

輝美は廊下を出て、部活棟から体育館へと足を運んだ。



「うわぁ、ここからでも声が聞こえてるよ……」

体育館では男子バスケ部が練習をしていた。
大会が近づいているためか、試合形式の練習をしている。
お互いに大きな声を出し合っているせいか、活気がある。
体育館からはまだ遠いが、開いた扉からは声が聞こえているのだから相当だろう。

そんな体育館の前に輝美がよく知った顔がいた。

「あ〜、テルちゃん!」
「あっ、タマちゃん!」

タマちゃんと呼ぶその女の子の名は紺野 珠美。輝美のとなりのクラスで、仲のいい女の子だ。
彼女は大きなクーラーボックスを重そうに持って歩いていた。
肩に担いで歩いているのだが右にふらふら左にふらふら、どうも危なっかしい。

「重そうだね、何運んでるの?」
「あのね。冷たいスポーツドリンクを食堂から持ってきたの」
「食堂?」
「うん、食堂のおばさんに頼んで冷蔵庫に入れておいてもらったの」

クーラーボックスはふたがされており中身は見えない。
しかし、中からがちゃがちゃ軽い金属がぶつかる音がする。
それにひんやりとした冷気が足元に来ているのを感じた。

「重そうだね。持ってあげようか?」
「えっ?いいよ。そんなこと」
「いいからいいから。結構距離はあるよ」
「じゃあ、お願いしちゃおうかな」

輝美はクーラーボックスの持ち手を片方もって歩き始めた。
珠美は嬉しそうに一緒に持って歩き始めた。

(う、う……重い……ちょっと、タマちゃん、こんなの一人で持ってきたの……)

笑顔の輝美だったが、その重さに心で泣いていた。



「おおっ、東雲も手伝ってくれたのか、サンキュー」
「いやぁ、ちょっとの距離を手伝っただけだって」

バスケ部の休憩時間。
珠美が持ってきたスポーツドリンクを飲みながら身体を休ませる。
輝美も「お礼だから」ということで、珠美から余ったドリンクをいただいている。

「だって、こいつに任せたらちゃんと運べるか不安でさぁ」
「ひどいなぁ、タマちゃんだってしっかりと運んでたよね?」
「ひどいよぉ、もう……」

輝美と話しているのは同じ学年でバスケ部の鈴鹿 和馬。
1年生からレギュラーで頑張っている。
彼と輝美とは直接的な接点はない。
珠美の紹介で会ったのだが、そのときから話があうため、こうしてたまに会うと話が弾んでいる。

「そんなこと言ったって、ここに来るまでに何度も転んだんじゃないのか?」
「えっ?」
「その証拠にその膝見てみろ。すりむいたばっかりなのがバレバレだぞ」
「……」

和馬が珠美の膝を指さす
輝美が見てみると確かにすりむいたような感じで、少し血がにじんでいるようだ。

(あんな重いの持ったら無理ないか……)

言われた当の本人はうつむいて黙ってしまう。

「で、どうなんだ?」
「ごめんなさい……」
「だから何度も言ってるだろ?無理すんなって」
「うん……」

「まっ、でもおかげで冷たいのがこうして飲めるんだからな」
「うん……」
「ありがとう、マネージャー」
「えっ……」

和馬は珠美の肩をポンと叩く。
和馬の一言とその刺激にに珠美はうつむいた顔を上げた。
顔はほんのり赤いようにも見える。

「おっ、監督からお呼びだ!じゃあこれ片づけといて!」
「OK!」
「それじゃあな!」
「がんばってね〜」

和馬は輝美に半分ほど残ったドリンクを渡してコートの中に再び入っていった。



「じゃあ、これ片づけておいて」
「……」

輝美は珠美に預かったドリンクを珠美に渡す。
珠美は依然ぼ〜っとしている。

「……タマちゃん?」
「……ゴクッ」
「えっ?」

珠美は受け取ったドリンクをじっと見つめたかと思うと、そのドリンクを飲み始めた。

「……えへへ……間接キスしちゃった……えへへ……」
「……」

(だめだ、手がつけられないわ、こりゃ)

珠美はどうやらトリップ状態になってしまったようだった。
その危うい雰囲気に引いてしまった輝美はそそくさと体育館を後にした。



輝美は校舎から離れて外を歩き始めた。

(活気がある部活って外から見ていても楽しいよね……)

外でもいろいろな部が練習に励んでいる。


活気のある声が響く。

そのなかで目立つボールの音。

躍動的な部員達の動き。

どの人も真剣な表情で汗を流す。

そして部全体の熱気が外に伝わってくる。


(う〜ん、運動系のほうがよかったかなぁ?)

輝美はそう思ってはみるものの、輝美自身は運動は苦手だ。

(やっぱり、私は見ている方がいいな。それに今の部活も楽しいからね♪)

そう思い直して活気ある部活風景を見て廻っている。



そしてたどり着いたところはグラウンド。
野球部やサッカー部等が練習しているが、輝美の目の前では野球部が練習していた。

(甲子園ってまだ先だよね?でもすごいなぁ……)

県内で上位クラスのはばたき学園の野球部だけあって、練習も結構ハードだ。
今はノックを行っている。

どの部員もユニフォームが土まみれになっており、そのハードさが伺える。

(なんだかんだ言っても、野球部って部活の華なんだよね……)

今でこそ野球はサッカーやバスケ等、他の球技の人気に押されている。
高校生の競技人口も減っているらしい。
新設校には野球部がないところさえ出てきている。

それでも野球部が部活の華になっているのは、なにも日本の野球人気だけではないだろう。
やはり甲子園という晴れ舞台があるからなのかもしれない。
もちろんサッカーなら国立、ラグビーなら花園があるが、これらは冬の大会。
やはり夏に盛り上がる甲子園の影響は大きいのだろう。



「せんぱ〜い!」

そんな事を考えていたら、グラウンド側から声が掛けられた。

「せんぱ〜い!何してるッスか?」
「あっ、日比谷くん。今日は部活が休みだから、お散歩」
「へぇ〜、そうなんッスか。じゃあ、練習でも見ててくださいよ」
「もう、そうしてるわよ」

金網越しから話しかけて来たのは、日比谷 渉。1年生の野球部員だ。
新学年になってしばらくして彼から声をかけられたのがきっかけで知り合いになっている。

どうやら自分目当てよりも、なぜか弟の尽目当ての感もあるが、そんなことは別に気にしていない。

「で、今は何しているの?」
「球拾いっス。ジブンまだ1年ですから球拾いで修行ッス」
「球拾いも大変だね」
「いや、これをこなさないとレギュラーになれませんから」
「がんばってね」
「はい!頑張ります!」

輝美の励ましに渉は直立不動で答える。

「こら、日比谷!油売ってないで仕事しろ!」

すると渉のさらに後ろのほうから太い声が聞こえてきた。
たぶん野球部の監督なのだろう。

「すいません!じゃあ、先輩この辺で!」
「うん!またね!」
「はい!……すいません!今行きま〜す!」

渉は慌ててグラウンドに戻っていった。

「まったく、声かけてくれるのは嬉しいんだけど、場所を考えないとね……」

輝美の視線の先には監督に怒られている渉の姿があった。



(さて、そろそろ戻ろうかな)

輝美は野球部の練習を堪能したところで、校舎に戻ることにする。
途中でテニス部の練習風景をみてみることにする。

(しかしここは人気あるんだよね……)

はばたき学園はテニスが盛んだ。
テニス部のためのテニスコートも4面ほどあることからその力の入れようが伺える。

実際、テニス部は県でもトップクラスの成績を毎年残している。

(ふ〜ん、強いのもわかるような気がするな……)

輝美は練習風景を眺めてそう思っていた。
とにかく真剣なのだ。
笑い声とか、笑顔とかが見られない。
とにかく、ボールを追いかける。
ラケットを力強く振り抜く。
顔に光る汗がまぶしい。

(うんうん。青春って感じだねぇ……)

輝美はなぜか一人で納得していた。



そうしているうちに、金網越しからまた声がかかった。

「あら?輝美さん。Bonjour!」
「あっ、瑞希さん。こんにちは!」
「今日はどうしたの?もしかしてミズキの華麗なプレー姿でも見たくて?」
「い、いや、ただ散歩がてら練習風景を見学に……」
「あら?失礼しちゃうわね!」

いきなりのフランス語の挨拶と、高飛車な口調で話しかけてきたスコート姿の女の子は須藤 瑞希。
彼女は大財閥である須藤グループの一人娘である。
典型的なわがままお嬢様であるが、輝美とはとく会う機会も多く、それにつれて親しくなっている。

「しかし、テニス部ってみんな真剣なんだね」
「そうかしら?あんなに泥臭いテニスなんてミズキにはできませんわ」
「瑞希さんはどんなテニスをするの?」

「ミズキのテニスはそれは華麗なパリィ仕込みのテニスよ!」
(確かに全仏とかあるけど、パリィ仕込みのテニスって……)

「蝶のように舞い、蜂のように刺す!これがミズキのテニスよ!」
(瑞希さん、それテニスじゃない……)

自分の世界に入って語る瑞希。
瑞希の言葉に心の中で丁寧につっこむ輝美。

「とにかく!ミズキは華麗なテニスで世界を制覇するのよ!」
(ちょっと、それはおおげさのような……)



それでもしばらくして瑞希の一人語りは終わる。

「まっ、とにかくミズキはミズキのテニスをするの」
「なるほどね。それはいいんじゃないの」
「そうでしょ?……ねぇ、輝美さんもテニスをなさらない?」
「えっ?」

瑞希の突然の勧誘に驚く輝美

「ミズキがパリィ仕込みの華麗なテニスを教えてあげるわ!」
「私は運動が苦手だって、何度も言ってるような……」
「大丈夫!ミズキに不可能はないわ!」
「それは大げさだよぉ……」

実は輝美は瑞希に何度もテニス部に勧誘されている。
その度に丁重に断っている輝美だが、相手が相手だけに断るのにも一苦労。

「ねぇ、ミズキのお願いがきけないの?」
「聞くもなにも、無理だって」
「そう……残念ね……」

今回も瑞希は諦めてくれたようだ。
あまりに残念そうな顔をするので輝美が話しをそらす。

「今度インターハイでしょ?頑張ってね」
「Merci. 頑張るわね」
「もうこんな時間だから、私は帰るね。それじゃあまたね」
「ええ。それじゃあ a bientot!」

輝美は瑞希に手を振って、テニスコートを後にした。



そして翌日。

「へぇ〜。そんなことがあったの」
「ええ。みんな頑張ってて、それが羨ましくて……」

はばたき市の駅前のファーストフード店Lのはばたき市駅前店。
輝美は週2回ここでバイトをしている。

今は休憩中で裏の控え室で話をしている。
話し相手は今日、接客指導ということできらめき市駅前店から来た女性。
妙に明るく、親しみやすい女性だったので、輝美もすぐに仲良くなれた。
今は世間話の中で昨日の部活巡りのことを話していた。

「でも、あなたも部活に入ってるんでしょ?」
「ええ……手芸部ですけど」
「だったらいいじゃない。今は運動系が頑張る時期で、文化系は秋が頑張る季節でしょ?」
「そうですね」
「今は他の人が輝いているのを見ている立場だけど、秋は逆転するのよ」
「そうなんですか?」
「そうよ。たぶんあなたが見て感じたことを、きっと誰かがあなたを見て感じるのよ」
「そうなれればいいですね」
「大丈夫よ。きっとそうなれるわよ」
「ありがとうございます。秋は絶対に頑張りますね」
「そうそう。それでいいのよ」

運動系の人たちが輝いているのが羨ましかった輝美。
しかし、目の前の女性に励まされた。
自分は自分の輝く場所がどこかにあるはずだ。
それがたまたまインターハイではないということだ。
そんなことを感じていた。

「なんか気持ちがすっきりした気がします。じゃあ、これからレジに戻ります」
「うん。頑張ってね」
「はい!」

輝美はいつもの笑顔に戻って控え室を後にした。



「ふぅ……」

控え室には先ほどの女性が一人きり。

「あたしも部活に入ればよかったのかなぁ……」

女性は一人ため息をつく。

「でも私はバイトで輝けばいいのよね……あの子が部活で頑張るようにね」

女性は立ち上がり、仕事場に戻る準備をする。

「あはは、あたしらしくないな……あたしは明るく元気よく!これでなくっちゃね」

そして女性もいつもの表情に戻り仕事場に戻った。
To be continued
後書き 兼 言い訳

インターハイの様子GS編です。
予告通りの総花的なお話と相成りました。

「文化系キャラからみたインターハイ」というテーマは明らかに大げさです(笑)

GS主人公格の輝美ちゃんですが、従姉妹の光とは正反対の文化系です。
そんな人からみたインターハイってこんな感じもあるのかな?って思います。
文化系と運動系では1年で盛り上がる時期が明らかに違いますからね。

奈津実以外の4人が実質的な初登場になります。

さて、次回は24部最終話
うって変わって、インターハイ後のお話。
おもいっきりネタふりしたあの方のお話です(笑)

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