第143話目次第145話
インターハイのあった翌日。

「じゃあ、八重さん。これからよろしくね」
「はい……」

女子バレー部室。
先ほど3年生の引退式と引き継ぎを終えた花桜梨はキャプテンと二人きりで話していた。

表向きは仕事の引き継ぎ。
花桜梨はゲームキャプテンを任命された。
部長は別の人が担当する。

花桜梨に任されたのは試合でのキャプテンの役目と同時に、部長と一緒にチームを引き締める役目。
試合中のチームの引き締め、簡単な打ち合わせはすべて花桜梨が中心となる。

この役目を決めたのはキャプテン。

「八重さんは全体を引っ張るのは苦手だとおもう。でも試合ではきっと中心になってがんばってくれるはず」

という理由でだ。
花桜梨は「私は人の上にたつ人間じゃない」と否定したが、部員全員が納得したため、花桜梨は渋々引き受けざるおえなかったのもある。

そして、今は二人きりでゲームでのキャプテンとしての心得を伝授していた。

「これで私はもうキャプテンじゃないわ。ただの3年生よ」
「そんなことないです。キャプテンはキャプテンです」


しかし、それは表向きの理由。単なるきっかけにしか過ぎない。


「そんなこと言わないで。ただの3年生になりたいの」
「えっ?」


本当は別のことにあることは花桜梨も重々承知している。


それはキャプテンの一言から始まった。

「やっと、同じ立場でつきあえるんだね。花桜梨さん」
「えっ?」

太陽の恵み、光の恵

第24部 インターハイ編 その10

Written by B
花桜梨は昨日の試合中のキャプテンからの伝言のことをずっと気にしていた。


『私たちの死に様を目に焼き付けておくんだよ。ボス』


あんな言い方は普通の人は絶対にしない。
もしするとすればそれは……

(キャプテン……もしかしたら、最初から私のことを……)

それが気になってしょうがなかった。

そして今、花桜梨は本当のことを聞こうと思っていた。
しかし、今もキャプテンの予想外の一言に驚いてしまう。



「あの、キャプテン。もしかして……」

それでも花桜梨は聞こうとするが、キャプテンが遮ってしまう。

「なにも言わなくていいわ。私知ってる。あなたが私と同じ年だということ」

「……」


「そして……昔、あなたが5年前にどんな事をしていたのかも……」

「……」





「もうわかるよね。私があなたにとってどういう存在だったか……あなたの手下だったのよ」

「!!!」





「たぶん、覚えてないのよね……だって、たくさんいた手下の一人だからね……」

「……」

キャプテンの告白に花桜梨は何も言えない。
驚いたまま表情が固まっている。

予想していた答えとはいうもののショックは隠せない。



そんな花桜梨を見ながら、キャプテンの話が続く。

「花桜梨さんが私に何を聞きたいのかわかる。でも先に言わせて」
「……」

「私もあなたが入学したときは驚いたわ。最初は疑ったけど、あなたの顔を見て確信したわ」
「……」

「入学したときの花桜梨さん。本当に暗かった……生きてるとは思えなかった」
「……」

「これがあのときの花桜梨さんと同じだなんて、信じられなかった……」
「……」

「ショックで顔が見られなかった」
「……」

「秋だったよね。あなたがバレー部に入部してきたときは本当に嬉しかった。だって、あなたと一緒に部活ができるなんて夢のようだったから」
「……」

「本当は早々にあなたに言いたかったけど、あなたが昔のことと決別しているようだったから私も言えなかった」
「……」

「でも、もう私は引退。あなたとは上下関係がなくなって、やっと対等になれる。今はそれが嬉しいの」
「……」

キャプテンは花桜梨をじっと見つめながら優しい表情で語っていた。
花桜梨はだまって聞いていた。



そしてようやく花桜梨が口を開く。

「聞いていいですか?」
「ええ、いいですよ」


「なんで、そんなに私のことを気に掛けてくれたんですか?」
「えっ?」


「あのころの私……周りは敵だらけ……手下と言っても、元々敵って言う人がほとんどだった」
「そうね……」
「それなのにキャプテンはなぜ、そんなに私のことを……」

そこまで花桜梨が言ったときにキャプテンは大きなためいきをついた。

「ふぅ……やっぱり覚えていなかったんだね」
「えっ?」
「ちょっとショックだな。でも仕方ないかもね……」
「えっ?」


「私……昔、あなたに助けてもらったの」


「えっ?」
「中1の春すぎかな。不良の高校生達に襲われそうになったときに、あなたに助けてもらったの」
「そんなこと……」

「あのときの、花桜梨さん……かっこよかった……」
「えっ?」

「私、いっぺんにあなたにあごがれちゃった」
「……」

「すぐにあなたの事を調べて……すぐにあなたと同じように……」
「ええっ?」
「変だよね。あなたにあごがれて、あの道に入るなんてさ……」
「……」

花桜梨は声がでない。
それほど予想外だった。
キャプテンが昔の自分にあこがれていたなんて。
もうまともが返事ができなくなっていた。



「いつか、そのときのお礼がしたかったけど、あなたは遠い存在で、私はなにもできなくて」
「……」
「それに突然花桜梨さんは消えちゃって。私はショックだったな」
「……」
「でもいいの。こうしてあのときのお礼がこうして今できるのだから」
「……」

キャプテンは相変わらずの優しい表情で花桜梨に告白している。
一方花桜梨はいつのまにかうつむいてしまっている。



「花桜梨さん」

黙ったままの花桜梨に対してキャプテンの話は続く。

「あのころの私たち……決してほめられたのではないわ」
「……」


「でもね……私は後悔してないよ」
「えっ?」


「そりゃあ、失敗したことも、やりなおしたかったこともあるわよ……でもね」
「でも?」

「あのころの私があるから、今の私があると思ってる。だから後悔してないの」
「それって?」

「私は今の自分に満足してる。だから昔の自分に感謝しないとね」
「……」

キャプテンの話を聞いても花桜梨はうつむいて黙ったままだった。



キャプテンはすっと立ち上がる。

「花桜梨さん。あなたには昔のことを後悔して欲しくないの」
「……」



「入部したときから見ていたけど……花桜梨さん……本当に笑ってない……」


「!!!」




キャプテンの言葉に驚きの表情をみせ、顔を上げる。

「確かに笑ってるけど、私には本当に笑ってるように見えなかった。なんか遠慮しているような……」
「えっ?……」

「それとも……何かを引きずっているような……確かに昔のことと関係ないように見えたんだけど……まだ引きずってるような気がしたの」
「……」

「私と同じ年の花桜梨さんがなぜ1学年下で入学した理由は聞かないし、聞きたいとも思わない」
「……」

「でも、もしそれを気にしていたらやめて欲しい。わたしはそんなので人を見ないわ」
「……」

「そうでなくて、もしあのころの事だったら……もっとやめて欲しい」
「……」

「何を気にしているのかはわからないけど、たぶん気にすることではないと思うわ」
「……」

キャプテンは相変わらずの優しい表情で話している。
花桜梨はそれを黙って聞いているだけ。



キャプテンは扉のところに歩いていく。

「もし、困ったときがあったら、私に連絡して。いつでも相談に乗ってあげるから」
「キャプテン……」

「大丈夫。後輩もついてきてくれるし。なにより、花桜梨さんの力は昔から知ってるわ」
「……」

「じゃあ、明日から頑張ってね……」
「はい……」



「いつか……あのころの話……楽しくできればいいな……」


「えっ?」



バタン!


キャプテンは部室から出て行ってしまった。



部室には花桜梨一人きり。

「キャプテン……私は振りきれるのでしょうか……」

「私にはできない……だって私はもう……」

「キャプテン……私は本当に笑える日がくるのでしょうか……」

「……」

花桜梨は一人問いかける。
しかし、それに答える人は誰もいない。


「でも……ここにいてもしょうがないわね……」

花桜梨はようやく立ち上がる。

「一歩でも歩いて行かないと……いけないんだよね」

花桜梨は部室から外に出た。



「キャプテ〜ン!」

「えっ?」

花桜梨の前から制服姿の女の子が3人ほどこちらに向かってきた。
バレー部の後輩達だ。

「キャプテン。部室でなにしてたんですか?」
「う、うん……前キャプテンといろいろ話を……」
「そうだったんですか」

3人が花桜梨を囲む。
キャプテン、キャプテンと声をかけてくれて花桜梨はちょっと恥ずかしかった。

「でも、キャプテンだなんて……なんか恥ずかしいな……」
「そんなことないですよ。私たちみんな頼りにしてますからね」
「そ、そんなこと言われても、私じゃあ……」
「大丈夫ですよ。この前の試合もしっかりまとめてたじゃないですか」
「そ、そう?」
「ええ、私、あの試合をみて、キャプテンってすごいなあ、って思いました」
「……」
「自信持ってくださいよ。キャプテン!」
「う、うん……」

後輩達がヨイショ?してくれて、花桜梨もなにか自信がわいてきそうな気がしていた。

(とにかく、キャプテンの期待に応えなくちゃいけないね……)


今の花桜梨にはこれから1年間キャプテンとしての責任感をひしひしと感じ始めていた。
そして頑張ってみようという意欲もわき始めていた。

花桜梨に突きつけられた『過去』への思いをしばし忘れて。
To be continued
後書き 兼 言い訳

え〜と、ネタ振り以外になにがある?
というツッコミはしないでください(笑)

作者の自分が下手だなぁ、だと思うほどバレバレのネタ振りをしてるので、
かおりんの正体はある程度おわかりになられたかとおもってます(苦笑)
これについてはもうじき明らかにされる予定です。

そういうわけで(なにが?)
花桜梨は主将に任命されました。
花桜梨さんには部長は重すぎると思ってますので。(少なくともこの話では)

で、美幸と純一郎はどうなったかって?
それは当然しばらく後で書く予定です。

第24部はこれにて終了です。
「2のメイン話+1,3,GS」という形式は今後も増えそうな気がします。

さて、次部は美帆真帆のお話。
美帆真帆と言えば当然アレをしてもらいます。

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