第144話目次第146話
真帆の部屋。

「姉さん。いったいどうしちゃったんだろう?」

真帆はベッドに横になり、天井を見つめばがら、美帆のことを心配していた。

先週の月曜日。
美帆に初めての彼氏ができた。

その日の美帆は幸せボケいっぱいだった。


しかし、最近どうもおかしい。

美帆がちっとも幸せそうじゃないのだ。
幸せどころか、彼氏ができる前よりも心配そうな表情をしている。

なぜかは真帆はわからない。
美帆が妖精さんに相談しているようにも見えない。
だから心配になる。

「私が力になることがあればいいんだけど……あれ?」

どうやら美帆が帰ってきたようだ。
そして美帆の大声が壁越しに聞こえてきた。


「もういや!学校になんて行きたくない!」

太陽の恵み、光の恵

第25部 白雪Exchange編 その1

Written by B
「姉さん!いったいどうしたの?」
「どうしてもこうもないですよ!」

隣の絶叫に驚いて真帆は美帆の部屋に飛び込んできた。
美帆はベッドに横になってふてくされていた。

「とにかくどうしたの?」
「匠さんが……匠さんが……」
「匠さん?……坂城さんがどうしたの?」

「全然かまってくれないの!」

「えっ?」

(かまってくれない?この前の今日でしょ?そんな馬鹿な)

真帆が驚くのも無理はない。
恋人になってすぐにかまってくれないとはどういう事か?
普通恋人になったばかりだと、べたべたしているものだ。
事実、真帆のできたての恋人二人がが学校でべたべたしているのを何組も見ている。

だからこそ、美帆の言っていることがよくわかっていなかった。



「かまってくれないってどういうことなの?」

「あのね、私と一緒にいてくれないんです」
「はぁ?」


「私が誘っても『ごめん、後にしてくれないか』って言ってかまってくれないんです」
「うそぉ」


「さらに、匠さんの周りに3年生の女の子がたくさん集まるようになったんです」
「えっ?」


「それどころか、放課後の匠さん。いつもその3年生と一緒に帰ってるんですよ!」
「えええっ!」


「これってひどいとおもいませんか?」
「ひどいよそれって!」


「匠さん……私に視線すら合わせてくれないし……もう耐えられないんです!」
「なるほどね……」

真帆は美帆の言い分でなんとなく事情がつかめた。
要は『匠は浮気している』と思っているのだろう。

美帆が怒るのもよくわかる。
妖精さんを使っておしおきしてないのが信じられないぐらいだ。



しかし、ふと真帆は思った。

(でも……どうしてなんだろう?)

つきあって1ヶ月後に浮気しているというのなら、考えられなくもない。

(普通ないわよね……そんなこと……)

しかし、恋人になってすぐというのはいくらなんでもおかしい。
何か事情があるはずだ。
しかし、どんな事情かはわからない。

(でも、坂城さんってモテてたらしいしね……)

でもなにかあることだけは間違いない。

しかし、今の真帆ではどうしようもない。



真帆が少し思案しているときも美帆のぼやきは続く。

「あんな辛い日はもう耐えられない……」
「わかるなぁ……」

「でも学校に行かないわけにはいかないし……」
「そうだよね……」

「ああ、だれか代わりに行ってくれる人がいたら……」
「いればねぇ……」

「あっ?」
「えっ?」



「いたぁ!」



美帆がいきなり自分を指さして大声だした。

「わ、わたし?…………ええっ!」

真帆も一瞬遅れて美帆が言いたいことがわかった。

(私がかわりって言いたいの?一度姉さんの格好で行ったことがあるけど無理だって!)



「ちょ、ちょっと!私が姉さんの代わりなんて無理だって!」
「私たち双子ですよ」

「いくら双子っていったって、私たち性格も言葉遣いも違うし……」
「大丈夫ですって。黙っていればわかりませんよ」

「そんなこと行っても、わたしひびきの高校の事全然知らないよ」
「美幸ちゃんがいるから大丈夫ですよ」

「じゃあ姉さんはどうするのよ!」
「わたしは真帆のかわりにきらめき高校に行きますよ」

「ちょっと!それはもっと無理だって」
「どうしてですか?」

「じ、自慢するわけじゃないけど、私、あっちでは顔が広いから黙っているっていうレベルじゃすまないわよ」
「それだったら、妖精さんがなんとかしますよ」
「妖精さんでも無理だって!」


真帆が慌てて理由をつけて思いとどまらせようとするが、美帆はそれをことごとく跳ね返す。



(はぁ……姉さん頑固だからなぁ……)

真帆は半ば諦めてしまっていた。

(でも、私がひびきの高校だなんんて……)

ここで自分がひびきの高校の制服を着て登校するところを想像してみる。

(……おもしろそうかも……)

好奇心旺盛な真帆は思わずそう思った。



それが顔にでてしまったのだろうか。
美帆がそれに気がつかれてしまった。


「真帆、いまおもしろそうだとか思っていませんでしたか?」
「ぎくっ……」


「ほぉら、行きたくなってきたでしょう……」
「うっ……」


「真帆はひびきのに行きたくなぁる、行きたくなぁる……」
「……」


美帆が真帆の目の前で人差し指をぐるぐる回し始めた。
催眠術をかける真似をしているのだろうか。

(負けた……姉さんに負けたわよ……)

しかし、すでに真帆は美帆の頑固さに負けてしまっていた。



真帆はやれやれといった表情で、両手を腰に当てて経っていた。

「わかったわよ……行ってあげるわよ、姉さん」
「ほんとうですか!」

「ついでに坂城さんの行動も調べてあげるわよ」
「ありがとう!嬉しい!」

「まったく……なるべくバレないようにやってみるけど、期待しないでね」
「ええ、贅沢は言いません!」

「1週間だけだよ」
「わかりました!」

美帆はベッドから起きあがって喜んだ。

「じゃあ、来週1週間お願いしますね」
「はいはい、わかったわよ。じゃあ、その話はあとね」
「はい♪」

真帆は美帆の部屋から出て行った。

「よかったぁ、これならなんとかなるかもしれませんね、妖精さん♪」

美帆は部屋にもどってきた時とはうってかわって、上機嫌だった。



「はぁぁぁぁ……」

一方の真帆はぐったりと疲れてしまい、真帆のほうがベッドに横になってしまった。

「とんでもないことを引き受けちゃった……」

姉の頼み、それに自分も興味があったとはいうものの真帆は自分が引き受けたことに少しとまどっていた。

「大丈夫かなぁ……」

おもしろそうなのは確か、しかし不安だらけ。
期待よりも不安のほうが大部分を占めていた。

「でも、やるしかないよね……」

真帆はベッドから起きあがり、廊下に出た。
そして電話機の前に立つ。

「え〜と、番号は確か……」

真帆は手帳に書かれた電話番号を押していく。



「でないなぁ……遊びに行ったのかなぁ?」

発信音が何度も鳴るがいっこうに受話器をとってくれない。

「もしもしぃ?」

寝起きのような気だるそうな女の子の声が聞こえてきた。

「あっ、ヒナ?私、真帆」
「えっ?真帆?」
「そうだよ。いったいどうしてたの?寝てたの?」
「う、うん……まあ、そんなところ」

電話の相手は親友の朝日奈夕子だった。

「いったいどうしたの?」
「実は来週なんけど……」
「来週がどうしたの?」


「実は……ごにょごにょ……なの」
「ええっ!ちょっと真帆マジなの?」

電話の向こうで聞こえてくる大声に耳がツーンとなりそうだが話を続ける。

「本当よ。姉さんに頼まれて断れなくなっちゃの」
「そうなんだ、真帆って姉想いだからねぇ。で、私に用事って?」

「だから姉さんって……ごにょごにょ……だから……ごにょごにょ……なの」

「ふ〜ん、つまり、真帆のお姉さんの面倒を見て欲しいってことね」
「そうなの?お願いできる?」
「できるもなにも、しなくちゃしょうがないんでしょ?やってあげるわよ」
「ありがとう!本当に助かる!」

「お礼はしてくれるんっしょ?」
「現金なんだから……こんどなにかおごってあげるわよ」
「約束だよ!それじゃあ、また連絡するね」

電話の向こうはそれで電話を切ってしまった。

「ヒナらしいよね……でも、ヒナちゃんだから大丈夫だと思うけどなぁ」

真帆はとりあえず一安心したようすで、自分の部屋に戻った。



そのころ夕子の部屋では。

「なあ、今の電話、白雪からだったんだろ?何の用事なんだ?」
「いや、実はね……なんだ」
「へぇ〜」
「珍しいわね。新しい女の子にあえるって言うのに、興味を示さないなんて」
「他の学校の子の情報なんてそれほど需要がないからな」
「ふ〜ん」
「それに俺はこんな場所で他の女の子のことを考えるほど浮気性じゃないよ。俺は夕子だけだし」
「……馬鹿……(あたしもだよ)……」

夕子の部屋にはもう一人いた。
夕子の恋人の早乙女好雄だった。
なぜ、夕子が真帆に好雄の存在を隠していたかは推して知るべし。

「しかし、来週は大丈夫か?俺もフォローしきれないぞ」
「もう、やってみなくちゃわからないでしょ?」
「まあそうだけどな。でも不安だなぁ」
「でも、なんとかなるんじゃないの?」
「……確かにそうかもな」

夕子も好雄もなんとかなるだろうという結論に収まったようだ。


こうして来週へ向けて、準備は着々とすすんでいくのであった。
To be continued
後書き 兼 言い訳

第25部はお待ちかね?美帆真帆入れ替わりです。
美帆真帆の入れ替わりSSの王道と言えば以下のような感じでしょうか?

・美帆が男の子とデートの約束したがその日は別の用事がある(もしくは占いで悪い日)ので美帆が真帆に代役を頼む。
・真帆は興味本位で受ける。そして真帆とばれずにデートを済ます。
・同じ事が何回も繰り返していくうちに真帆もその男の子を好きになってしまう。
・「本当の自分を知って欲しい」と思う反面、美帆のことが気になって言えない。

最初に言っておきます。

こんな展開、絶対に書くもんか

だって、同じようなの書いてもつまんないもん(笑)

それに真帆はこんな恋愛しかできないのか?とも思うので、書きません。

じゃあ、今回はどうなるの?
それはお楽しみということで。

今部は定番の真帆サイドだけでなく、あまり見かけない美帆サイドの話も書いてみようと思います。

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