第146話目次第148話
(あ〜、バレないようにしないと……)

授業が始まるまで、美帆に変装した真帆は机に突っ伏せていた。

幸い、美帆の席は窓際の前側。
教師から見て、意外と見えにくい場所にある。

下手なことをすればばれないだろう。

(姉さん!聞いてないよ〜)

聞いてないというのは、問題の匠が美帆の隣の隣の席にいること。

(顔を見られてバレないようにしないと……)

真帆は窓から外をみてなるべく匠を見ないようにした。

(美幸ちゃんは隣のクラスだし、あ〜あ、不安だなぁ)



キーン コーン カーン コーン



そんな真帆の不安のまっただ中、授業が始まろうとしていた。

太陽の恵み、光の恵

第25部 白雪Exchange編 その3

Written by B
1時間目は英語の文法。

英語の教師と思われる先生が、淡々と授業を進めていく。

(ノートを取るふり、ノートを取るふり……)

真帆は教師に顔を見られるとバレてはたまらないので下を向いてなるべく顔を合わさないようにしている。

(でも、一応姉さんのためにやっておかないとね……)

それでも、黒板に書いてあることは書いておこうとする真帆。
ちらちらと黒板と教科書をみながらノートに写す真帆。

(……あれ?)

ここで真帆があることに気がついた。

(これ、先週やったところだ……)

そのときは軽く聞き流していたところだが、確かに先週勉強した記憶がある。
教科書をちらりと見る。
このときようやく真帆が気がついた。

(あれ……これ、うちの教科書と同じじゃない!)

最初はろくに見ていなかったので気がつかなかったが、自分が使っている教科書と同じだ。

(なぁんだ、なんかほっとしちゃった。後で自分のノートを見せればいいんだ)

安心した真帆は机に突っ伏せて寝始めてしまった。



しかし、タイミングが悪かった。

「おい、白雪」
「は、はい?」
「今、寝ようとしていただろ?」

(や、やばっ!)

教師に寝ようとしていたのが見つかってしまった。
慌てて取り繕う真帆。

「い、いえ、とんでもありません……」
「じゃあ、この23行目を訳してみろ」
「は?」

(え、え?23行目だって……え〜と……)

慌てて教科書を見る真帆。

(あれ?たしか覚えがあるぞ、え〜と……)

先週の記憶を頼りに思い出す真帆。

「今の日本は、払うべきものを払っていない人が多すぎて……」

(よしよし!思いだしてきた!確かこうだったんだよね……)

訳しながら真帆は心の中でガッツポーズをとっていた。



「うむ。完璧だ。さすが白雪だな」

(ふぅ……姉さんのメンツをつぶさなくてよかった……)

ほめられて、嬉しいどころではなく、安心感でいっぱいの真帆。

(坂城さんは……どう見てるんだろう……)

ここで匠の様子が気になり横をちらりと見る。
匠は心配そうに真帆を見ていた。
それを確認すると、すぐに顔を背ける。

(なんか、心配そうな顔をしてたね……まあ、自業自得ね)

安心した真帆は今度こそ机に寝てしまった。



一方の美帆。
こちらは線形代数の授業を受けている。

(う〜ん、さすがは進学校ですねぇ……なんか難しいです……)

真帆は寝てていいと言ってくれたのだが、真面目な性格かいつものように授業を受けていた。
教科書は同じだったので、安心したが、それだけ。
説明は丁寧だが、ところどころに高度な内容が混じっていた。
こんなことは、ひびきのの授業ではなかった。

美帆は文系とはいえども、これには参った。

(真帆は、『勉強ができなくてねぇ』って言ってたけど、私のほうができないかも……)

美帆は隣の夕子の席をちらりとみる。

(夕子さんはすごいですね……私にはとてもできません……)

夕子は机に突っ伏せてぐっすりと寝ている。
教師も注意しない。
毎日この調子で教師も諦めているのだろう。

(う〜ん、真帆にはどう説明すればよいのでしょうか……)

なんとかノートだけは取っているが、ついて行くのが精一杯の美帆だった。



キーン コーン カーン コーン


(ふぅ……終わりました……疲れた……)

1時間目の授業が終わる。

「ふぁ〜あ、あれ、真帆。終わったのぉ?」

鐘が目覚まし代わりかのように夕子がのっそりと起きてきた。
両手をあげ、思いっきりのびをする。

「え、ええ、終わりました」
「お疲れ〜。さぁ〜て、次は頑張らないとね」
「頑張るって?」
「次は体育だよん」
「ええっ!」

いきなり元気が出てきた夕子に大して、美帆は焦っていた。

「えっ?えっ?真帆からそんなこと聞いてないですよ」
「聞いても聞かなくても参加できないでしょ?」
「あっ……」
「胸ん中にあんパンいれて体育するつもり?」

夕子の言うとおり。
体操着は胸の大きさがわかりやすい。
さすがに、それではバレてしまう。

「い、いや、私もあまり体育は得意じゃないので……」
「こういうときは『体調が悪いから』と言うことで休んじゃえばいいのよ」
「そうですね。そうします」
「女の子はそういうのが便利なのよねぇ〜」
「そうですね」
「じゃあ、私は着替えに行くから、先に体育館で待ってて」

夕子は走って教室から飛び出してしまう。



同じ頃、ひびきのでは。

「もう、姉さんったら、体育があるなんて聞いてないわよ!」
「えへへ、でも無理じゃないの?」
「ま、まあ、そうなんだけど……」

美帆も体育があることを真帆に言っていなかった。
焦った真帆だったが、美幸に言われて無理なことに気がついた。

「美帆ぴょんって、体育が苦手だから、真帆ぴょんがやったらバレちゃうよ」

といって。
ちなみに、体育はABC組合同なので美幸とは体育で一緒になる。

「『妖精さんが力を貸してくれた』というのはダメ?」
「無理だよぉ〜。それに妖精さんなんて言ったら、周りが引いちゃうよ〜?」
「ま、まぁ、そうね……」

そういわれて渋々諦めた。
真帆としては体育は好きなのだが、これはしょうがない。

「美幸は今日は体調が悪いから見学しながらお話でもしよう?」
「そうね。しばらくお話できなかったからね」
「うんうん。美幸も楽しみ〜」

体育は出られないが別の楽しみが増えたようだ。



(夕子さんは遅いですねぇ。どうしたんでしょうか?)

体育館の入り口で待っていた美帆。
しばらくまっていたが、ようやく夕子がやってくる。
体操着の夕子の隣に制服姿で三つ編みの女の子が一緒に歩いてくる。

「あっ、夕子さん」
「ごめ〜ん。ゆかりと話をしてたら遅くなって〜」
「ゆかり?」
「あっ、紹介するね。あたしの友達の古式ゆかり。隣のクラスで体育が一緒なんだけど、今日は見学なんだって」

夕子の右にはゆかりと呼ばれた女の子がニコニコしていた。

「こんにちは、真帆さんも見学ですか?」
「え、ええ……」

ニコニコと天使のような笑みを浮かべて、語りかけるゆかりに美帆は少しとまどう。

「ゆかり、さっきも言ったけど、真帆じゃなくて、真帆のお姉さんだからね」
「真帆さんはお姉さんになったのですか?」
「違うって言ってるでしょ?」
「そうですか。それで弟ですか?妹ですか?」
「だから、真帆がお姉さんになったんじゃないって!誰も産まれてないって」
「真帆さんがお姉さんを産んだんですか?」
「だ〜か〜ら〜」

(な、なんなのでしょうか……)

相変わらずニコニコしているゆかりに、必死に説明する夕子。
周りの人は何も気にせずに横を通り過ぎていく。

(これが普段の光景なのでしょうか?……妖精さんもとまどってますねぇ……)

結局、授業の開始直前になってようやくゆかりも事情を把握したようだ。



ひびきの高校の体育館。
女子はバレーの授業を受けていた。
元気なかけ声が体育館中に響く。

体育館の上にある観客席から美幸と真帆は見学している。
真面目に見学をしているように見えるが、実は雑談しかしていない。

「ねぇ、坂城くんって、最近どうなの?」
「う〜ん、美幸はあまり話してないからわからないなぁ〜」
「そっか……でも、何で姉さんにかまってないんだろうね」
「美幸もわからないよぉ〜。でも先週は匠くん、いつも困ったような顔をしてたよ」
「困った顔?」
「なんでだかよくわからないけどね」
「ふ〜ん」

美幸から匠の情報を聞こうとしたが美幸はよくわからないらしい。
早々に聞くのを諦めた真帆は話を変える。

「姉さんから聞いたけど、クラス委員をやってるって本当?」
「うん。あみだくじで当たっちゃっただけなんだけどね」
「あ、あみだ……で、どうなの?」
「美幸もびっくりするぐらい頑張ってるよ。クラスメイトも頼ってくれるし」
「た、頼って?」
「そうだよ〜。美幸がクラス会議を仕切ったりもしてるんだよ」
(し、信じられない……美幸ちゃんが議長なんて……)

「美幸は昔の遊んでるだけの美幸じゃないんだよ。勉強も部活も頑張る美幸なんだよ」
(でも……美幸ちゃん。なんか前に比べてしっかりしているような……)

相変わらずの高音ボイスの美幸だが、話している内容はとてもしっかりしている。
昔の美幸はただおちゃらけているだけだった記憶がある真帆にとってはびっくりしていた。

(美幸ちゃんも頑張ってるんだ……私も頑張らないとね……)

楽しそうにクラス委員の仕事について話す美幸を真帆は尊敬の目で見つめていた。



一方の美帆も体育の見学。

「そうなんですか、美帆さんの旦那様が浮気ですか」
「だ、旦那様だなんて……」
「そういえば、御父様がよく『殿方はみんな食虫植物』とおっしゃってました」
「それってどういう意味なんですか?」
「さぁ〜、どういう意味なんでしょうか?」
「はぁ」

美帆は夕子の親友のゆかりと話をしていたのだが、かなりとまどっている。
それもそのはず、ゆかりはものすごくマイペースだったのだ。

話はかなりスローテンポ。
内容も自分の世界を作り上げていてなかなか初対面の美帆では入り込めない。

いつしか、彼女のスローテンポに自分もつきあってしまっている。

時間はかなり経っているはずなのだが、話の内容はそれほど中身はない状態だったりする。

「でも、旦那様を信じることが大切だと思いますよ」
「信じる?」
「ええ、若い衆が心配しててもお母様は『あの人の事だから大丈夫よ』と平然としてましたから」
「そうですか……」
「お母様はお父様の事をとても信頼していますよ。私もお母様みたいになりたいものです」
「……」

かなりスローテンポなのだが、含蓄のある?話に美帆は黙って聞き入っていた。



こうして、それぞれ有意義?な体育の見学が終わり、別の授業に入る。

(なぁんだ、どれもこれもウチんとこと同じ教科書なんだ。なんか安心しちゃった)

現代文の授業の真帆はすっかり余裕になっていた。

(こっちは進み具合も遅いみたいだし、1週間ならなんとかなりそうね)

心配していた授業のほうは問題なさそうだ。

(周りにも誰にもばれてないし……)

真帆は周りをきょろきょろ見ている。
だれも自分を疑いの目で見ていない。
入れ替わりはうまくいっているようだ。

(あっ、坂城くんに見られないようにしないと)

しかし匠の顔だけはなるべく見ないようにした。
横はなるべく見ないようにしていた。

(ふぅ、坂城くんにばれたらおしまいだからね……)

これからは本来の目的に集中できそうだ。
真帆は結構ひびきのに慣れてきたようだ。



一方の美帆は苦戦中。

(真帆の嘘つき……『姉さんより勉強ができないわよ』なんて絶対に嘘です……)

美帆が得意な部類の古文の授業なのだが、意外と難しい。
授業はキビキビしていて、緊張感がある。
内容も難しいところが結構ある。

美帆でも悩んでしまうところがある。

(帰ったら妖精さんでおしおきですね……)

いくらなんと言っても、きらめきの偏差値はひびきのの偏差値よりも結構上だ。
思い起こせば高校受験直前の真帆は寝る間も惜しんで必死に勉強していたはず。

そんなことをすっかり忘れて美帆は真帆のことを逆恨みしていた。

(勉強になりますけど……この雰囲気にはなれません……)

そんな美帆のとなりでは夕子はまたもや机に突っ伏せて眠っていた。


こうして、二人の入れ替わり初日はすぎていった。
To be continued
後書き 兼 言い訳

さて、授業に突入しました。
きらめきとひびきの。
学校のレベルを考えるとこんな感じになるのではないでしょうか。
(ちなみに過去にこんなのを書いてたりする)

さて、ゆかり御嬢様が初登場です。
たいしたことはしていませんが、徐々に出せればと思ってます。

次回もそれぞれの学校の様子でも書こうと思ってますがどういう展開にするからはこれから考えます。

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